ChapterⅤ:命、燃やす刻(とき)②
ワイルド様のところから逃げた私は急いでテントへ駆け込んだ。
万全の準備を整え再びテントを出る。
空の向こうから眩しい太陽が昇り出て、私を明るく照らし出す。
その眩しい陽光は私へ更なる力を与え、活力を漲らせた。
すると、太陽を背に誰かが私へゆっくりと歩み寄ってくるのが見えた。
ワイルド様だった。
「ワイルド様……?」
「もう行くのか?」
「はい」
「そうか……ハーパーさっきは……」
なんとなくワイルド様がさっきのことを謝ろうとしてるのだと思った私は彼へ背を向けた。
「お気になさらないでくださいワイルド様!貴方は何も悪くありません!」
「……」
「私はこれから貴方のためにできることを精一杯成してきます!それが私のすべきこと、いえ、したいことなのですから!」
「ハーパー、お前……」
「これまでありがとうございましたワイルド様!ご武運をお祈りしております!陽動はお任せ下さい!!」
一方的にそう告げて私は、彼に背を向けたまま走りだした。
瞳から涙が次々と零れ落ちようとしている。
だけど私はそれを必死に堪えて走り続けた。
本当はもっと話をしたかった。
ちゃんとお別れの言葉を告げたかった。
でも、それを口にしてしまえば、優しい彼は私を引き止めるのが分かった。
何よりもそうしてしまうと私自身の決意が揺らいでしまうと思った。
だから言葉は短くまとめた。
―――これが別れ。もう二度とワイルド様にお会いすることはない。
きっと彼の顔をみてしまえば決意が崩れてしまう。
どうしても彼のお側にいたくなってしまう。
でも、それは今の私がするべきことではない。
それは彼に迷惑をかけること。
彼を困らせ、願いを妨げること。
そんなことは絶対にしたくない。
私は彼の願いを叶えるためにこの命を捧げると決めた。
その決断に後悔はない。
―――あとは全力で事を成すのみ!
「ゴォールドゥッ!」
ゴールドクロスを装着し、快傑ゴールドとなった私はガレキの上へ飛び乗った。
ガレキの下にはジムさん、竹鶴姫達、ドン・ローヤルと彼に率いられたサント・リーの生き残りたちが勇敢な表情を浮かべながら私へ視線を寄せている。
―――さぁ、最後の戦いの始まりです!
「グッ(G)っと踏み込み、ガッ(G)っと解決!人呼んでさすらいのヒィーロォー!快傑ゴォールドゥッ!!」
私はレイピアを鞘から抜き放ち、天高く掲げた。
「アンダルシアンを焼き、あまつさえ無差別に破壊を行う邪神プラチナローゼズとその一派!奴らをこのまま放置する訳には参りません!この母なる大地を、この大地に暮らす生きとし生けるもの全てのために戦いましょう!天が見逃したとしても、皆様とこの快傑ゴールドは決して奴らの非道を見逃しませんっ!!」
私の宣言に呼応して、目の前にいる誰もが勇気の籠った叫びを上げた。
壮大な熱気が辺りを包み込み、気分が今まで以上に高揚する。
「目指すは首都マドリッド!私たちの大地は私達の手で取り戻すのです!」
私は皆に先んじて飛んだ。
「お前ら、気合入れろ!サント・リーの最後の戦いだ!奴らに骨の髄まで俺らの恐ろしさを思い知らせてやれ!」
「「「うおおおっーーー!!」」」
ローヤルにサント・リーの大軍団が続き、
「参るぞ!響、山崎、白州!妾達の全力を思い知らせるのじゃあ!」
「「「ははっ!!」」」
竹鶴姫と響、山崎、白州も馬へ拍車をかける。
「全軍北上です!目の前に現れる敵は片っ端から撃破するです!!」
ジムさんはライフルを数回空中へ撃ち、戦意鼓舞の号砲とする。
巨大な一つの軍になった私たちは、同じ目的を達成するために、
心を一つにして動き出す。
私達、決死隊はアンダルシアンの荒野を勢いに満ちたまま突き進んだ。
―――さようならワイルド様!どうかお元気で!
私は心の中で、愛しい彼へ最後の言葉を告げたのだった。