ChapterⅣ:再臨の黒⑦
「お前は……!?」
「無様だな少年。この程度の力でプラチナを殺そうと言うのか?」
赤目赤髪の女マッカランは少し振り返りながら、呆れたようにそう言う。
「どうしてお前がここ……?」
「マッカラン!また邪魔しやがって!!やれっ!」
ブラックは上空に停滞していた銀兵士へ指示を出す。
銀兵士は猛スピードで急降下射撃をマッカランへ開始する。
するとマッカランは素早く懐へオートマチックピストルをしまうと拳を構えた。
白手袋の甲を突き破り、まるで虎を思わせる五本の鉄の爪が現れる。
マッカランはそれを縦横無尽に振り回し、銀兵士の銃弾を弾く。
そして気がついた時にはもう、マッカランは銀兵士へ最接近し、バグナグ(虎の爪)を装甲の間へ突き刺していた。
バグナグは銀兵士の装甲を剥ぎ、内部の引き釣り出して爆発させる。
マッカランの目にも止まらぬ速さでバグナグを銀兵士へ突きたて撃破してゆく。
そんなマッカランの奥では既にブラックローゼズが五指で銃の撃鉄を撫でていた。
「何!?」
しかしブラックの放った弾は別方向から鋭く飛来した豆に全て弾かれ、四方へ散ってゆく。
「油断しない!」
マッカランの隣にボロボロのローブを纏った誰かが降り立つ。
ローブが投げ捨てられ見えたのはマッカランと同じ長い赤い髪だった。
赤髪をポニーテールに結った赤目の女。
「気づいていたさ。そしてローゼズがきっとブラックをなんとかしてくれるのもね」
マッカランは剽げた風にそう言う。
「こんな時にふざけない!マッカラン!」
ローゼズはそう叫ぶと、ビーンズメーカーへハミルトンのナイフを着剣して地を蹴った。
一瞬でブラックの懐へ潜り込み、着剣したナイフを突き出す。
「フォア・ローゼズ!てめぇッ!」
ブラックは辛うじて左腕のクロコダルスキンでローゼズの突きを受け流す。
だが、ナイフを振るローゼズの動きは止まらない。
その度にブラックは銃やクロコダイルスキンでローゼズの斬撃を防ぐが、それだけ。
ブラックは完全にローゼズへ釘付けにされた。
「や、やっちまえ!みんなまとめてやっちまえ!!」
ブラックが叫び、銀兵士が更に飛来する。
「やれやれ、敵の物量は圧倒的。骨が折れます」
マッカランはそういってがバグナグを構えた。
「少年、ここは私とローゼズは引き受けよう。君は勝手にしたまえ。ちなみにだ、ドン・ローヤルは撤退を決断したようだぞ。今頃北門で退路の確保に手間取っているのだろうな」
そう言って、マッカランは銀兵士へ向かって行った。
―――このままここで戦い続けてもアーリィの仇は取れない。
そう判断した俺はマッカランとローゼズに背を向けた。
「逃げんじゃねぇ!」
すると、ローゼズと交戦していたブラックが飛ぶ。
「行かせない!」
「うぐっ!?」
だが飛び上がったローゼズがブラックを蹴り飛ばす。
ブラックはそのまま思い切り突き飛ばされ、近くにあったガレキの山の中に埋もれた。
「早く!ワイルドッ!」
ローゼズが強く叫ぶ。
俺はローゼズの声に押されるようにして、南門から撤退した。
俺は既に大半がガレキの山になってしまったサント・リーの街を駆け抜けてゆく。
「そこをどけぇッ!」
残っていた暴徒と銀兵士を蹴散らしながら俺は先を急ぐ。
やがて、道の向こうに逃げまどう人を追う銀兵士の姿が見えた。
「グッ……や、やらせませんッ!」
再度、ゴールドクロスを装着し直した快傑ゴールドは懸命にレイピアで銀兵士を引き裂く。
「「「どぉぉりやぁぁぁ!!」」」
響、山崎、白州の三侍も竹鶴姫を守りながら刀剣を振り、
「ローヤル!まだですか!?」
ジムさんは冷や汗を浮かべながらも、ライフルで正確に上空の銀兵士を撃ち落としながら叫ぶ。
「まもなくだ!間もなくで住民の避難は完了する!もう少し持ちこたえてくれ!」
ローヤルはサント・リーの構成員と共に住民の避難誘導をしながら、銀兵士に応戦していた。
「きゃっ!」
ゴールドが上空の銀兵士に空中で弾かれる。
「ハーパーッ!!」
俺は勢い任せに飛んだ。
近くにいた銀兵士を足蹴にし、重力に引かれて無防備に落下を続けているゴールドとの距離を詰め、彼女を抱き止め、そのまま地面へ背中から落ちる。
「ワ、ワイルド様!?」
俺の腕の中からゴールドが飛び起きる。
「無茶すんな。装着二回目だろ?」
「ワイルド様こそ無茶しすぎです!私などを守って大切なお体になにかあっては……ッ!?」
俺とゴールドは同時に飛び退く。
上空から銀兵士が接近し、容赦ない銃弾の雨を降らせる。
「肩を使え!」
「はい!」
ゴールドは俺の肩を踏み台にし飛んだ。
もう片方のレイピアを抜き、二刀一刃と化す。
「ハァっ!」
裂帛の気合と共にレイピアが鮮やかに空中へ軌跡を描いた。
ゴールドのレイピアは群がる銀兵士を爆発させ、その爆発は連鎖して更に多くの銀兵士を撃破する。
「撤退だ!総員速やかに撤退せよ!」
ローヤルが叫ぶ。
響達やサント・リーの構成員は銀兵士へ銃撃を繰り出しながら、脱出路の北門へ向け後退を開始する。
だがジムさんだけは後退をせずにライフルの射撃をやめない。
ジムさんは懸命にライフルでの射撃を繰り返す。
辛うじて北門へ接近しようとしている銀兵士を各個撃破はできているが、その間隔は非常に短く、ジムさんに休む間はない。
時折、銀兵士の銃弾がジムさんの体を掠める。
しかし彼女は怯まず射撃を繰り返している。
「ジムさん!撤退しましょう!」
ジムさんの元へ降り立ったゴールドが叫ぶ。
「私が殿を務めるです!みんなは早く逃げるです!!」
「ハーパーッ!」
「はい!」
俺が叫ぶと、ゴールドはジムさんを小脇に抱えた。
「ややっ!?何するですか!?離すです!!」
ジムさんは身をよじって逃れようとする。
「ここはワイルド様にお任せしましょう!」
「ハーたん!!」
ゴールドは俺を一瞥して、ジムさんを抱えたまま北門を目指して飛んだ。
サント・リーに残ったのは俺だけ。
俺は空中の銀兵士軍団へビーンズメーカーと実銃を放つ。
感覚で取らえられる限りの銀兵士へ弾を撃ち込んでゆく。
やがて北門へ向かっていた銀兵士の注意が狙い通り俺へ集中する。
―――やってみるか!ブラックローゼズと同じことを!
無数のマシンガンの銃口が俺へ狙いを定め、容赦ない銃弾の雨が降り注ぐ。
「うおぉぉぉっ!」
俺は意識を全身へ拡散させ、クロコダイルスキンを体のあらゆるところに発動させた。
俺へ降り注いできた銃弾はクロコダイルスキンに弾かれ、縦横無尽に跳弾する。
跳弾は次々と銀兵士を撃ち抜き、次々と爆発させる。
爆発は煙を呼び、その煙はまるで曇り空のように周囲を覆い尽くす。
銀兵士は煙のために視界を奪われ、進行を止める。
狙いは当たった。
その隙に俺は地を蹴って北門から飛び出し、撤退するのだった。