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ChapterⅣ:再臨の黒⑤



「すぅー……すぅ……」

俺の背中でジムさんは安らかな寝息を上げていた。

結局、あのあと俺とジムさんは一人一本ずつウィスキーを飲んでしまった。

しかもその大半はジムさんの方だ。さすがにそれだけ飲めば、こうして潰れてしまうのも当たり前だ。


「ワイルド、お姉ちゃんと……すぅー……アリたんだめでぇすぅ~、ロゼたん、ハーたんやっちまうですぅ…………」


どうやらジムさんは懐かしい風景を夢の中で見ているらしい。

酔いつぶれれてはいるが、これはかなりいい方の潰れ方だ思う。


―――今のところ吐きそうな気配もないしな。


 俺は酔いつぶれたジムさんを背負ってサント・リーの街を巡っていた。

さすがのサント・リーも夜半を過ぎれば人通りはそれなりに少なくなっている。

だけど相変わらずのこの街には昼夜を問わず、人の活気に満ちた声が響き渡っていた。

やがて道の向こうに今、ジムさんが暮らしているローヤルの館が見えてきた。

そして立派な門扉から少し離れたところにあるベンチに、肩を落としたハーパーが一人で座り込んでいた。


「なんだまだ宿に行ってなかったのか?」


ベンチに近づき声を声を掛けるとハーパーが恨めしそうな視線を上げてきた。


「私だけ置いて行くなんて酷いです……」


ハーパーは頬を膨らませて、そっぽを向いている。

怒っている、というよりもすねているよう俺には見えた。

だから俺はそっとハーパーの頭の上へ手を置く。


「えっ……?」


途端、ハーパーが体をビクリと震わせた。

俺はそのままハーパーの髪を撫でる。


「あ、あ、あのワイルド様!?」

「悪かったな一人ぼっちにして。でもこれは考えがあってのことだったんだ」

「お、お、お考えがあっての?」

「ああ。済まないがベンチ開けてくれないか?」

「はいぃ!喜んで!!」


ハーパーは顔を真っ赤に染めながら、飛び上がるようにベンチから立ち上がる。

俺は空いたベンチへ背中で安らかな寝息を立てていたジムさんを寝かせた。

幾らジムさんが小柄とはいえ、ずっと負ぶっていたのは疲れた。

俺は肩を回し、コリを解す。


「それでお考えとは?」


改めてハーパーが聞いてきた。


「たぶん、ジムさんはプラチナの何かしらの情報を持っていると思ったんだ。ジムさんは昔から場の空気が悪くなると、変えようとしてただろ?」

「確かに、良くそんなことがありましたね。もしかして……?」

「ああ。ローヤルと俺が会話してた時、ジムさんが割って入ってきて、話題を飲みにすり替えただろ?その時ピンと来たんだ。きっとジムさんは情報を隠してるってな。だから酔わせて少しでも情報を引き出そうと思ったんだ」

「でしたら私も……」

「別にハーパーのことを邪険にしたわけじゃない。ただ二人きりの方が話を引き出しやすいと思ってな。それにジムさんも何となく俺とサシで飲みたがってたような気がしたんだ」

「なら、そうならそうと何かしらサインを送って下さい。てっきり私は邪魔ものかと……」

「悪かったな」


またハーパーの髪を撫でてやる。

ハーパーはくすぐったそうな表情を浮かべ、顔の緊張を解いてゆく。


―――とりあえずフォローはこれぐらいで良いだろう。


「ま、まぁ、お考えがあったことなら理解します。で、情報は引き出せたのですか?」

「それがさっぱり。ジムさんは見ての通りだしな」

「そうでしたか……」

「だからこれから強行手段に出るよ」

「強行手段?」


ハーパーは首を傾げる。


「ジムさんから情報は引き出せなかった。でもきっとジムさんの部屋なら何かある筈だ。幸い部屋がどこかは聞き出せたからな。そういう訳だから、暫くジムさんのことを頼む」

「頼むって……ワイルド様!?」


 俺はハーパーに背を向けた。膝に力を込め、高く飛ぶ。

闇夜に紛れて塀を飛び越え、ローヤルの邸の庭へ音を殺して降り立った。

すぐさまは近くの植え込みに飛び込んで息を殺す。

芝生が敷き詰められた庭には黒服をきた、屈強そうな男が二人ドラムマガジンを装着したマシンガンを手に警戒に当たっている。

だが神経を全て警備の事へ向けているようには見えない。


―――緊急時以外はきっとルーティンワークのような感覚でいるんだろう。


俺は意識を集中させ、神経を研ぎ澄ませる。

そして近くにあった石ころを投げた。

石ころは丁度警備に当たっている男たちの視線とは反対方向に落ちた。


「ん?」


マシンガンを持った男たちは石ころの方へ向かってゆく。

その隙に俺は植え込みから飛び出した。


 音を殺し、闇に紛れ、素早く警備の男たちの背中を通り過ぎ、館の影に身を潜める。

警備の男たちが俺に気づいている素振りは見られない。

俺はそのまま壁伝いで裏口の扉へ向かってゆく。

ドアノブに手を掛け、そっと回してみるが開く気配はない。

コートの内側からピッキング器具を取り出し、ドアノブの鍵穴へ差し込む。

少し手間は掛かったが、鍵が開き俺は館の内部へ侵入することができた。


―――部屋は確か三階だ。


俺は物陰に隠れながら館の中を進んでゆく。

集中させた俺の感覚は、どこに誰がいるのかがわかる。

しかし、警備に当たっている男たちは俺の動きが捉えられず、まるで俺の姿が見えていないかのように気づかない。

それでも俺は警戒を厳にしたまま、三階のジムさんの部屋を目指す。

そして三階に至ると俺は妙なことに気がついた。


―――静かすぎる。


例え、今が深夜であろうとも門前、庭、一階、二階と少なからず警備の姿があった。

しかし三階に至った途端、そんな警備の人影が一つも見当たらなくなる。

よく目を凝らしてみてみると、廊下には黒服を着た男たちが倒れ込んでいた。

口から泡を吹いてはいるが、意識を失っているだけで死んでいるわけではなさそうだった。


―――どうやら先客が居るらしいな。


 俺は更に音を殺して廊下の突き当たりにあるジムさんの部屋へ続く扉の前へ行く。

わずかだが扉の向こうから物音が聞こえる。

俺はコートの内側にマウントしてあるシースナイフの柄を逆手に握り締める。

そしてジムさんの部屋の中へ飛び込んだ。


刹那、鋭い殺気を感じ、俺はナイフを振りかざす。

俺のナイフに別のシースナイフがぶつかり赤い火花が散った。

一歩踏み込み切りかかろうとする。

だが相手は俺の行動を予見してか、後ろへ飛び退いた。


目の前にはシースナイフを構える人影があった。

ポンチョを身にまとい、テンガロンハット深く被り、布で口元を隠している先客。

奴のもう片方の手には黒いアタッシュケースが握られている。


「ただの盗人じゃないな?」

「……」


俺の問いに先客は答えない。

より殺気が濃密になり、俺の皮膚に鳥肌が浮かぶ。


「ッ!」

「ッ!」


 俺と先客は同時に動いた。

再び俺と先客のナイフがぶつかり合う。

でも均衡は一瞬。

次の瞬間にはもう俺は先客の喉を狙い、先客もまた俺の首筋を狙ってナイフを刃を向けていた。

だがナイフの刃が重なり、互いにダメージを与えられず終わった。


俺と先客は互いの急所を狙い、ナイフを振り続ける。

しかしナイフは刃を重ね続けるだけで、一向に均衡は破られない。

相手の腰元にはホルスターに収められている銀色のリボルバータイプの銃がみえる。


―――抜かないってことは、俺と同じく密かにことを済ませたいってことか。


先客が斬りかかり、先読みをした俺はナイフで受け流す。

先客の体勢が崩れ、ナイフの刃が俺からずれる。

だが俺は後ろへ飛び退いた。

さっきまで俺が立っていたとこには下方から縦一文字の軌跡が過ぎっている。

俺はその隙に先客の腹へ向かってナイフを横に振る。

が、先客はまたしても俺の攻撃を読み、受け止めていた。


「ッ!?」


 先客が俺の手からナイフを弾いた。

刹那、鋭利なシースナイフの鋒が無防備な俺の首を狙う。

しかしその前に俺は高く飛んで回避し、空中をぐるぐると回っているナイフを再び手にした。

体勢を整え、後ろへ周り、先客の項を狙ってナイフを凪ぐ。

先客は華麗に体をひねると、俺の一撃をナイフで受け止めた。

俺はナイフを引き、瞬時に先客の首、胸、腹、足を狙う。

すると先客は俺の軌道の全てを先読みしてナイフで受け止める。


 先客から鋭い殺気が放たれ、俺は体を引き、ナイフを振る。

先客もまた俺の首、胸、腹、足を狙ってナイフを振る。

だが先読みに成功した俺はその全てを受け止める。

互いの急所を狙ったナイフの応酬が続き、暗い室内には無数の火花が散る。

俺と先客は互いに飛び退いて距離を置き、体勢を整えた。


「はぁ、はぁ、はぁ……」

「はぁ、はぁ、はぁ……」


俺と先客の荒い息遣いが室内に響き渡る。

俺と先客は構えを取ったまま、殺気を緩めることはない。

そしてこうして互いに刃を交え、殺気を放ち合うとあることに気が付く。


―――この殺気には覚えがある。


ならば先客は相当な手練。

いくら与えられた身体能力の差が俺の方にあろうとも、相手が踏んできた場数とくぐり抜けてきた修羅場は俺よりも遥かに多い。

だから一筋縄ではいかないし、力で押し切ることも難しい。

単純な戦闘テクニックなら先客の方が上。

年季が違い過ぎる。

だったら、他の方法で攻めるしかない。


「ッ!」


だから俺は先手を取った。

床を蹴り、先客の喉元をめがけてナイフを振る。

すると予測通り、先客が先に動いた。


「ッ!?」

「俺にこれがあるのを忘れてたか?」


俺は先客が振り落としたナイフを左腕のクロコダイルスキンで受け止めた。

そして先客の動くが止まったこの瞬間に、ナイフを下方から一気に振り上げた。

ナイフの鋒は先客の口元を覆う布を引き裂きく。

はらりと真紅の髪が現れた。

瞳が血のように真っ赤に染まっている彼女。

二年前、教会で別れたきり消息がわからなかった俺の家族がそこにいた。


「そいつの中身は何なんだローゼズ?」


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