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ChapterⅣ:再臨の黒①

 

【VolumeⅤー再臨の黒ChapterⅣ:再臨の黒】


 俺は黒のジャケットに袖を通した。

漆黒のロングコートを羽織り、黒光りするロングブーツを履く。

ガンベルトの左右には同じスコフィールドが一丁ずつ差されている。

俺は以前ジョニーさんから貰ったビーンズメーカー用と実弾用のスピードローダーを複数個ロングコートのポケットへねじ込み、荷物袋を掲げた。


「アーリィ、行ってくる」


俺はそう呟いてから号の船室から甲板を目指した。


 甲板へ上がると、青々とした空が上に広がっていた。

ゴールドメダル号は日差しで船体を輝かせながら、内炎コーン機関を燃やし、

海を割って進んでゆく。

水平線の向こうにはテラロッサに覆われた不毛地帯、アンダルシアンの岸が見え始めてくる。

プラチナに蹂躙され、瀕死の状態にあるテラロッサの大地。

そこへ向けてゴールドメダル号は迷うことなく突き進んでゆく。

やがてゴールドメダル号はアンダルシアン東海岸にある港の跡地へ停泊したのだった。


「良いのか、ハーパー?」


俺はずっと隣で静かに佇んでいたハーパーへそう問いかけた。


「はい!これが私の意思です。どこまでお供します!」


俺と同じく荷物を持ったハーパーは元気よく、逞しい返事を返して来る。

操舵室から甲板へ俺たちの見送りにやってきたバーンハイムさんは、

ハーパーの回答を聞いても一切口を挟まない。

ハーパーはバーンハイムさんの方を向いた。


「バーンハイム、ここまでよく仕えてくれました。お姉さまを失ってから十年、未熟な私をここまで支えていただきありがとうございました」

「もったいないお言葉です当主様」

「後のことはお願いします!」

「ははっ、仰せのままに!お二人の馬は街の中心にある元保安官事務所に手配してございます」

「最後の最後までありがとうバーンハイム」

「ハーパー様、ワイルド様のご武運をお祈りしております!」


深々と頭を下げるバーンハイムさんへ俺とハーパーは背を向けて歩き出す。


―――もうここへ生きてもどることはない。

いや、目的を果たしたならば生きていてはいけない。

俺はプラチナを殺し、俺自身も殺す。


俺は決意を固め、ゴールドメダル号から飛び降り、二年ぶりの故郷の大地を踏みしめるのだった。


 かつては街であっただろうガレキの山の中を俺とハーパーは歩んで行き、バーンハイムさんが馬を手配してくれたという元保安官事務所を目指す。

ガラス片が散らばり、無数の黒いシミが浮かんだむき出しのテラロッサの上を歩いてゆく。

やがて道の先に比較的原型を止めている保安官事務所の建物が見え始めてきた。


「きゃあぁぁぁぁー!」


その時、廃墟の街に断末魔のような悲鳴が響き渡って来た。

道の向こうから衣服をボロボロにした老若男女がかけてくる。



「【死】をもたらすために【破壊】を!【死】をもたらすために【破壊を】!」

「【死】をもたらすために【破壊】を!【死】をもたらすために【破壊を】!」

「【死】をもたらすために【破壊】を!【死】をもたらすために【破壊を】!」

「【死】をもたらすために【破壊】を!【死】をもたらすために【破壊を】!」

「【死】をもたらすために【破壊】を!【死】をもたらすために【破壊を】!」


不気味な掛け声と共に、農具や刃物を持った同じ人間が人間を追いかけている。


―――あれがプラチナに下ったアンダルシアンの民。

考えることを捨て、ただ破壊と殺人を繰り返す暴徒。


今のアンダルシアンで貨幣よりも価値のあること。


【プラチナへ下り暴徒と化すか】それとも【ただ死と破壊から逃げ惑うか】


暴徒の上空には五機の銀兵士が追従している。

すると、隣にいたハーパーが荷物を下ろし、腰元のレイピアを握る。

が、俺はそれを手で制した。


「ワイルド様?」

「丁度良い。腕試しだ」

「ワイルド様!!」


俺はハーパーの声を無視して飛んだ。

俺の身体は暴徒から逃げ惑う人々をあっさり飛び越え、彼らを追う暴徒の上に達する。

俺は腰元に括りつけていた縄を手にし、暴徒の一人へ向けて投げた。


「【死】をもたらすために【破壊】を!【死】を……!?」


俺の縄が馬鍬まぐわを持った暴徒の腕を絡め取る。

俺が遠慮なしに縄を引くと、馬鍬を持った暴徒が転倒。それに巻き込まれた他の暴徒がドミノ倒しに倒れてゆく。

俺は地へ降り立つと、縄を引き戻し回収する。


「【死】をもたらすために【破壊】を!【死】をもたらすために【破壊を】!」

「【死】をもたらすために【破壊】を!【死】をもたらすために【破壊を】!」

「【死】をもたらすために【破壊】を!【死】をもたらすために【破壊を】!」


 考えることを捨て、目が死んでいる暴徒達は不気味な掛け声と共に俺へ襲いかかる。

俺は迷わず右のホルスターに収めたスコフィールド型ビーンズメーカーを抜いた。

左手の五指で撃鉄を撫で、シリンダー内部の弾を押し出す。

放った弾は全て暴徒を穿ち、その場へ転げさせる。

そこまでものの数秒。目標タイムクリア。


すると、俺の存在にようやく気が付いた銀兵士が一斉に前面装甲を開いて、マシンガンの銃身を現した。

マズルフラッシュが明滅し、無数の弾丸が俺へ向け降り注ぐ。

俺は両腕のクロコダイルスキンを発動させ、腕を縦横に振り、全ての弾丸をクロコダイルスキンで受け止め、弾き返す。

弾は計算通り周囲の瓦礫に反射し、逃げ惑う五機の銀兵士を撃ち落とす。

だが、敵はそれだけで全部では無かった。


 更に上空には三機の銀兵士が飛来し、俺へ銃口を向ける。俺は再び飛んだ。

ビーンズメーカーをホルスターに納め、左側の実弾が装填されているスコフィールドを抜く。

銀兵士の一機を蹴り飛ばす。

銀兵士が空中でバランスを崩している隙に、俺は敵の頭部構造体へ銃弾を撃ち込む。

爆発の瞬間、俺はそいつを足場にし、次の銀兵士へ向け飛び、実弾を撃ちこみ撃破する。


―――残り一機!


最も上空にいた最後の一機が機体側面から電撃を発した。

だが俺は空中で黒のロングコートを翻した。

絶縁繊維を縫い込ませたロングコートは電撃を弾き、無力化する。


「これでラストッ!」


俺は実弾を最後の一機へ撃ちこみ、そして奴を蹴って距離を置いた。

最後の銀兵士は鮮やかな炎と共に塵と消える。


―――被弾無し。目標クリア。問題なし。


「お見事です!ワイルド様!!」


地上へ降り立つとすぐさま、ハーパーが賛辞の声を送ってくれた。

俺はホルスターに実銃を収めながら確かな手応えを感じていた。

二年間の努力は無駄ではなく、俺は確実に力を付けているのが分かった。


―――これならいける!プラチナに挑むことができる!


「お兄ちゃん!ありがとう!!」


ふと、後ろから小さな女の子の声が聞こえる。

少し振り返ってみると、さきほどまで暴徒と銀兵士に追われていた避難民の中にいた小さな女の子がはにかみながら笑顔を浮かべている。


「……」


だが俺は女の子を無視して、保安官事務所跡に向かった。

事務所の脇にある馬舎には黒い艶やかな毛並みの立派な馬が繋がれている。俺はそのうち一頭に跨る。

拍車を掛けると立派な黒馬は猛りを上げて、走り始める。


「お、お待ちください!!」


慌てた様子で同じく黒馬に乗ったハーパーが横へ並んでくる。

「あのワイルド様……」

「……」

「すみません、何でもありません……」


ハーパーは黙り込む。彼女が言いたいことはなんとなくわかる。

きっと、避難民の子が礼を言ったのにそれを無視したことに対してだろう。


―――礼なんて言われることはしていない。


俺は自分の実力を試すためにプラチナの手下を倒したに過ぎない。

こうして力を付けたのは、アーリィの仇であるプラチナを殺すため。

だからといってアンダルシアンを、世界を救おうなんて考えてはいない。

この地や俺の命がどうなろうともはや関係はない。


―――俺はプラチナを殺すためだけに生きている。

アーリィの仇を討つ為だけにここにいる。ただそれだけだ。


「あ、あのワイルド様、この後は如何いたしましょう?」


ハーパーが聞いてきた。


「西海岸へ向かう。そこでプラチナを探す」

「でしたら、まずは情報収集をしてはいかがでしょうか?この近くにサント・リーという街があります」

「? その名前は例のプラチナに反抗しているレジスタンス組織の名前じゃ?」

「サント・リーは元々街の名前なのです。例のレジスタンス組織はそこで結成されたので自然と皆がサント・リーと言うようになったのですよ?あそこは彼らの拠点です。きっとプラチナに繋がる情報が得られると思いますよ?」


 ハーパーの言う通りかもしれない。

俺は一刻も早くプラチナを殺したい。

だが、奴が今西海岸を攻略していること以外は何も知らないのが現状だ。

少し回り道になるが、サント・リーで情報を仕入れたほうが、結果として奴を早く殺せるかも知れない。

進路は決まった。


「分かった。道案内を頼む」

「かしこまりました!付いてきてください!」


ハーパーは馬に拍車をかけて先行する。俺はそれに続き、馬を走らせるのだった。


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