ヤンデレ兄と快楽主義者
今回は観月ちゃんは出て来ません。
前回の会社に行ったその後のお話です。
ーー高坂千尋は面白い男だ。
それが俺、狭間新太の感想だった。
「セーンパイ、今日もここにいたんですか?」
「‥‥ああ、狭間君か。」
薄く染めた明るい髪に茶色の瞳の、甘やかな顔をした青年はニコリと笑って俺を見上げた。
先輩、高坂千尋から見ると俺は会社の中で“唯一”名前と顔が一致している人物だろう。
穏やかに笑ってはいるものの、その目はひどく冷たく、無関心だ。
「そんな睨まないでくださいよー。ほら、俺になら妹ちゃんのこといえるっしょー?」
そう言うと、先程の笑みが嘘だというのが一瞬で理解できるほどの笑顔を、満面に先輩は浮かべた。
「今日の観月はな、すっごく可愛いんだ。勿論観月は毎日可愛いし、甲乙なんかつけれないけど。」
「うわー。相変わらず絶好調ですね先輩。」
薄く頬を染めながら“ミヅキ”のことを語る先輩に適当に相槌を打つ。
“ミヅキ”のことを話している時の先輩には、無闇矢鱈に同意しても、また無反応でもダメなのだ。
どちらに転んでも死亡フラグが立つ。俺はまだ死にたくない。
「ホントーに大好きですねー。妹ちゃんのこと。」
「当たり前だろう‥‥!! ここまで来るのに、二年も我慢したんだ‥‥!! 初めて見たときから、なんて可愛いんだとは思っていたけど時間が経つにつれて本当に‥‥。」
ミックス野菜ジュースを飲みながら俺は先輩の話を聴き続ける。
ーーこの、先輩の重度なまでの“ミヅキ”好きを知ったのは、偶然だった。
偶然、先輩と帰りの電車が一緒になり、後ろから見えたスマホの壁紙に映っていた一人の少女。その少女のことを、会社で聞いただけ。
『そーいえば、昨日の電車で偶然見ちゃったんすけど、あのカワイー子先輩の彼女っすかー?』
『!? ‥‥見たのか。』
その、地を這うような声が酷く印象的で、まあ、色々と紆余曲折があって、今に至る。
ハッキリ言うと、彼のことに興味なんて今までなかった。
いつも綺麗に笑っている、会社内屈指のエリートでモテ男。
そんな存在、どうでも良かった。
けど、今は違う。
(‥‥こーんな面白い人、中々いないって。)
多分、一歩間違えば自分は消される。
けど、それすらも楽しいと思ってしまっている自分は、やはり何処かおかしいのだろう。
「‥‥て、聞いてるの?」
「聞いてますよー? 妹ちゃんが可愛くて可愛くて生きてるのが楽しすぎて辛いんすよね?」
「そうなんだよ!! もう、いつもは強がってるのに時々甘えてくるところとか‥‥」
多分、彼は義父と母を殺している。
証拠は無い。ただの勘だ。
けど、なぜか確信があった。
(ま、今が楽しければいっか。)
彼が何を過去にしていようが関係ない。
それに足を突っ込んだら同じ道を辿ることになることになるだろうから。
はい、新太は快楽主義者です。
面白いこと(危ないこと含む)が大好きで、ある種それ故千尋に名前を覚えて貰っています。
そしてそれを本人は自覚しています。