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百鬼戦乱舞  作者: 朝日菜
第三章 再誕の言霊
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二  『《カラス隊》』

 怪しく光る投げナイフで陰陽師おんみょうじが口を噤んだのは、一瞬だった。陰陽師の失笑が下座から上座にまで伝染し、それは陰陽師の後ろで控えていた式神しきがみにまで及ぶ。

 五年前から何も変わらない彼らの態度があまりにも不快で、結希ゆうきは眉間に皺を寄せた。自分でも珍しいとは思うが、さすがにここまで言われると我慢ならない。


 もう、ここにいるのは十一歳の自分ではなかった。


「それで? そのちっぽけな刃で我々を殺せると本気で思っているのか?」


「《十八名家じゅうはちめいか》だからといって思い上がるな、小娘」


「ハッ、毎回毎回クソつまんねぇ会のくせにようやく面白くなってきたじゃねぇか! かかって来いよ、俺がぶっ殺してやる!」


「貴方まで何を。ゲンブ、これ以上我々の主の名を貶めないでください」


「あぁっ?! んだとセイリュウ!」


 睨み合うゲンブとセイリュウの足の甲を、姉妹である互いの主が無言で抓る。


「ぁづっ!」


「んぬ!?」


 地味な痛みに悶える二人の呻き声は、上座にいたこともあり下座には届かなかった。そうでなくても、下座にいる陰陽師は全員突如現れた部外者のいぬいに敵意を向け続けていた。

 乾も敵意を抜くことはしなかった。が、乾は投げナイフを漆黒の軍服の袖口にしまう。そんな乾の両隣にいる若い男性も、狩衣かりぎぬではなく漆黒の軍服を着用していた。


「それになんだ、その服装は。末森すえもり本庄ほんじょう、貴様らまで一体何をしている」


「この会で狩衣を着用しないとは。それは我々を裏切るという意味か?」


「まさかとは思うが、貴様らマギクと繋がりが……」


「いい加減にしてくださいよ!」


 老陰陽師の声に被せた怒鳴り声が上座から聞こえた。誰もが口を閉ざし、声の持ち主に視線を送る。一度目とは違う驚愕の視線が、結希を貫いていた。


「さっきからなんなんですか、貴方たちは! 何かある度にそうやって誰かを裏切り者呼ばわりですか! 小学生じゃないんですから黙れないなら出ていってくださいよ!」


 右手の人差し指をまっすぐに伸ばして、乾らが立ち、火影ほかげが密かに覗き込んでいる襖を差した。

 しん──と、火影が慌てて身を引っ込めただけで誰も彼もが動きを止める。


「無駄話は済んだのかの?」


 陰陽師の王、千秋せんしゅうの問いかけに返ってくる言葉はなかった。


「なら聞け。綿之瀬わたのせ乾くんをここに呼んだのはこの我だ。乾くん、話の流れは把握しておるかな?」


「あぁ。末森と本庄は把握してねぇけどな」


「よいよい。では、三人はそこに座れ」


 千秋が示した場所は、上座にいるるいの下座側の隣だった。結希と向かい合わせに座っている涙は、乾を一瞥して俯き加減に視線を逸らす。


「ざけんなよ、あいつの隣なんて死んでもごめんだっつーの」


「乾さん、ここまで来ておいてわがままはなしにしてくださいよ」


「千秋様のご指示だ。乾、隊長殿の面子の為にもどうか今はご寛容に」


 末森と本庄に押され、乾は渋々と胡座をかいて座る。「てめぇ、いつ日本に帰ってきた」乾の唇がそう動いたのを、ずっと見ていた結希は見逃さなかった。

 聴力では聞こえない音量で尋ねた乾に対して、「四月です。乾にしては愚問です」と涙の唇が返す。二人は、それ以上の言葉を交わさなかった。


「まず、最初に皆に話さなければならないのぅ。乾くんは十年前、綿之瀬家が人工的に作りだした半妖はんようの一人での? 流れる血はサトリのものなのだ」


 結希は反射的に千秋を見上げた。

 綿之瀬家で思い出すのは、百鬼夜行で意識不明の重体となった百妖ひゃくおう家の三女──餓者髑髏がしゃどくろの半妖でもある真璃絵まりえのことだ。


「サトリ……?! あの森の主のか!」


「すでに退治した厄介者の血が、まさか……!」


 どうやら人工半妖という存在は周知の事実らしく、結希は言葉を飲み込む。今まで相手にしたことはなかったが、サトリのことは文献でのみ知っていた。

 人の心を見透かす力を持つサトリの、人工半妖。人工半妖とはそのままの意味でとっていいと思うが、実物を目にしても結希には想像さえできなかった。


「今回の議題は、一連の事件から見た俺たちのただの推測です。つまり、六年前に起こった百鬼夜行再来の有無です」


 涙は千秋の補佐役という肩書きもあり、代表して告げた。そして乾を見下ろし、表情を曇らせる。たいして歳は離れていないように見えるが、涙は誰が見ても乾の顔色を伺っていた。


「透視と予知、それが私の半妖能力だ。てめぇらがポンコツなせいで継承されていたはずの力が途絶え、百鬼夜行を詳しく予知できないんだってな?」


「ちょっと待ってください! 誰からそんなことを聞いたんですか?!」


 乾は片眉を上げ、黒縁眼鏡の奥の碧眼で結希に視線を向けた。

 胡桃色の長髪を邪魔にならないよう一つに纏め、青いピンで前髪の一部を留めている姿は若くとも働く大人の女性そのものだった。


「陰陽師の王、千秋から直にだ。人手が足りないとは言え、頭首がわざわざ別の《十八名家》のテリトリーに頭を下げに来るほど、状況は深刻なんだよ」


「乾くん、君の上司にも面子があるように、我にも面子があるのだが……?」


 申し訳なさそうな表情で末森と本庄が乾に謝罪を促すが、乾は無視して眉間に皺を寄せた。


陰陽師てめぇらに面子もクソもねぇだろうが。六年前の百鬼夜行を受け、どの勢力も力をつけているっつーのに唯一戦力を大幅に下げといてよ。《十八名家》の結城ゆうき家だけを取り上げても、長男が死に長女が未熟で涙に至っては式神を亡くしたまま新たに作ろうともしてねぇだろーが」


 乾は拳を畳に叩きつけ、千秋を睨んだ。


「見たところ、陰陽師のまともな戦力はてめぇを除いて間宮まみやの一族と三善京子みよしきょうこ、末森と本庄のみだ。……もうわかるだろ? 私がわざわざここまで言うのは、てめぇらの推測が正しいからだ」


 予知能力で誰もが恐れていたことを断言した乾は、一瞬にして凍りついた空気を鼻で笑った。


「その反応、能力を使わなくても予想通りだな。ここにいるほとんどの陰陽師を二つに分けるなら、あの日逃げて生き延びた奴か、若く、そして老いすぎたが故に避難した奴しかいねぇんだからよ。戦った奴で生き残ったのは、本当に一部だ」


 結希は乾の仲間と思われる末森と本庄を見、実母の朝日あさひを見、三善という人物を探そうとしてすぐに見つけた。

 老陰陽師が三人の他に視線を寄せている人物は、堂々と背筋を伸ばしている。ただ、先ほど老陰陽師を非難した京子の表情は暗かった。


「それと、視えちまったモンが予想以上に胸糞悪ぃからついでに言わせてもらうけどな。てめぇらが散々裏切り者呼ばわりしてた結希は血統で言えば確かに裏切り者の一族だ。が、百鬼夜行に関しては違う。こいつはてめぇらが継承していない術を独学で身につけただけの、ただの陰陽師バカだ」


 急に話題の矛先が当たった結希は、覚悟していた百鬼夜行を頭から外してもう一度乾の瞳を見つめ返した。


「それはつまり、俺が術の代償として記憶を失ったのは……」


 急に身を乗り出した結希を見据え、乾は口を開いた。


「そういうことだ。詳しくは知らねぇけど、六年前のあの日、それだけを強く感じた。てめぇの思いが私を貫いたんだろうな。ちゃんと陰陽師が継承していれば誰も死なせずに止められたものを、ガキ一人に背負わせ責め立てるなんててめぇら陰陽師は狂ってやがる」


 乱暴な物言いで気づきにくかったが、乾はずっと第三者の視点で事実と陰陽師の欠点を告げていた。悪口と言えばそれまでだが、そこまでして言わないと陰陽師の悪癖は拭えない。

 狂ってやがる、その一言が乾なりの優しさだった。少なくとも結希にとってその言葉はどんな綺麗事よりも嬉しかった。


「綿之瀬さんの言う通り、俺たちは狂ってます」


「違う! にぃは狂ってないっ! 狂ってるのはにぃ以外のゴミどもだよ! にぃはあの日、アイツの代わりにくぅを助けてくれたもん! にぃだけがくぅの味方だったんだよ!」


 いてもたってもいられなくなったのか、紅葉くれはは立ち上がって結希を正面から抱き締めた。引っかかっていた胸のわだかまりが、紅葉の嘘ではない涙で一つの真実を導いていく。


「……狂っているからこそ、俺たちはここからいい方向に変わる努力をします。ですが、俺は何もわからない。記憶がないから、過去を知らない。何故裏切り者と呼ばれているのか、誰が亡くなったのか。例えば紅葉、ずっと一人っ子だと思ってたけど、紅葉には兄か弟がいたんじゃないか?」


 一瞬の間があって。紅葉は首を横に振った。


千羽せんば。彼が結希と俺の従兄弟で、紅葉の兄です。結城家の次期頭首、陰陽師の王子として強く気高く、生きていれば現在は二十歳です。六年前、今の紅葉の年で死亡、です」


「ゴミのくせに余計なこと言わないで!」


 涙は無表情のまま紅葉の悲痛な叫びを受け止めた。

 視線を紅葉に落とすと、慌ただしい足音と共に襖が乱暴に開けられる。


「姫様っ!」


 火影はその言葉の続きを「にげ──」とまで発し


「ッ?! てめぇら全員真上に結界を張れ!」


 乾の命令によって掻き消された。

 いち早く対応した末森と本庄の巨大な結界に、結希や朝日、朝羽あさはが結界を重ねていく。


 効果範囲を重視した二人の結界の隙間を、硬度を重視した間宮の一族の結界が埋め尽くした。涙と京子が遅れて反応すると同時に、耳が痛くなるほどの音量が大広間に轟く。


「なっ……!?」


 それは、結城家の天井が抜けた音だった。

 天井の木片が結界に当たり、茜色の空を塗り潰していく。


「老害どもも早く張れ! 戦意のある奴は式神と共に外に出ろ!」


「俺と本庄は出ます! 後は任せました!」


 乾が指示を出して飛び出した。末森と本庄は、張られた結界の厚さを確認して飛び出していった。


「結希様! ここは貴方様も出るべきです!」


 怯え、強く抱き締めてくる紅葉を支えていた結希は真後ろのスザクの声を聞く。


「にぃっ……!」


 縋る従妹の紅葉は顔色を青ざめさせ、涙目になりながら首を横に振った。

 結希は一瞬だけ紅葉を見、抜けた天井を見上げた。そこには数多の妖怪が集結しており、それを裂く薙刀が光る。


「火影!」


「わかっています、いとこの人。姫様は責任を持って火影が守ります。ビャッコも安心してください」


 いつの間にか主の元へと駆けつけていたビャッコは、短く頷き式神の中では真っ先に飛び出していった戦闘狂のゲンブを追った。


「行きますよ、スザク。あの二人だけだと不安で寿命が縮みそうです」


「セイリュウは長生きですから、ちょっとやそっとでは縮みませんよっ」


 混乱の渦中にいても、乾があれほど馬鹿にしていた陰陽師の連携は決して脆弱なものではなかった。結希は彼らの隙間を縫い、縁側から足袋のまま飛び出す。


椿つばきちゃん!」


 空に向かって名を呼ぶと、人形の赤鬼は薙刀を担いだまま結希の目の前に飛び降りた。


結兄ゆうにぃ! 中の人たちは無事か?!」


「全員無事だ! 椿ちゃんはどうしてここに……いや、状況はどうなってる?!」


「えっと、ウチで結兄の──ううん、アタシらの新しいお母さんが来るかもってなって! 待ちきれなくて待ってたら、急に妖怪がマンホールから出てきてここの屋根をぶち抜いたんだ!」


「つばねぇ! やっぱりダメだよっ、ぼくならともかく、つば姉が半妖姿のまま町中で戦うのはまずいよ〜!」


 鬼の半妖の椿は、屋根に取り残された小人こびとの半妖の心春こはるを見上げた。


「だからって、周りの人を見捨てるなんてことアタシにはできない!」


「でもっ!」


「椿ちゃんは下がって。ここは陰陽師の俺たちに任せて、周囲に妖怪がいるかどうか確認してきてほしい」


「それって……! 結兄まであたしのことを足手纏いだと思ってるってこと!?」


「違う! 適材適所って言うだろ? 昔から町中は陰陽師が、その他は半妖がって決めていたから俺たちは今の今まで出逢わなかったんだ。俺は、椿ちゃんを足手纏いだなんて思ってない。ただ、俺たちにはできないことをやってほしいんだ」


 椿は赤目を見開き、そして強く頷いた。


「わかった。心春は残してくから、結兄お願い!」


 人間の姿に戻り、椿は結城家から離れて行く。その背中はすぐに地面に叩き落とされた妖怪で隠れ、結希は息を止めた。


「ハハッ! ざっまーみろ!」


 日本刀を振り回しながらゲンブが自分の唇を舐めた。崩れ落ちる屋根を器用に渡り歩きながら、十を超える妖怪を切りつけている。それでも、妖怪の数は一向に減らない。


「ゲンブ! 頭を使いなさいと何度言わせるつもりですか!」


「んなの知るかよぉ! とどめを刺すのは譲ってやる、もっともっとかかって来いってーのぉ!」


「結希様、九字くじを!」


「でもこいつ、まだ弱ってないよ!?」


 ビャッコは冷や汗を掻きながら数歩下がった。スザクは顔を顰め、セイリュウは眉間に皺を寄せ「頭を使わないから詰めが甘くなるんですよ!」とゲンブを叱る。


「きゃあ!?」


「ッ、心春ちゃん!」


 妖怪から心春へと視線を戻した結希は、ゲンブの暴走でバランスを崩した心春へと手を伸ばした。


「い、いやぁ!」


 が、心春は顔を青ざめさせて屋根瓦から手を離さない。その時心春が見ていたのは、妖怪ではなく結希だった。

 男性恐怖症の治療の為に心春が病院へと足を運んでいたのは、ついさっきの出来事だ。結希は唇を噛み、心春を救う最善を考える。


『……タ、スケ……コロ、ス……』


 刹那、耳ではなく脳に直接声が響いた。


「……声?」


「余所見してんじゃねぇよ!」


りんぴょうとうしゃかいじんれつざいぜん


 乾の怒声で咄嗟に振り返ると、脳裏の声と涙が唱えた九字が重なった。いつの間に外に出てきたのか、涙は息を整えて汗を拭う。


「結希は心春の救出、優先です」


 結希は頷き、心春の真下に位置をとった。心春が手を伸ばせば、本当にあと少しで二人は繋がれる。


「心春ちゃん、手を!」


 びくっと心春の赤目が見開かれた。怯えた瞳で結希を視認し、心春はゆっくりと首を横に振った。


「そのままじゃ大怪我をするよ」


 心春に息を合わせるように、結希はゆっくりと心春を説得する。


「ぼ、ぼくは……怪我してもいい……」


 それでも返ってくる言葉は拒絶だった。


『馬鹿か! てめぇは式神持ちじゃねぇんだぞ!?』


『問題ないです。現に、まだ衰弱していない妖怪を撃退しました』


『あるんだよ殺すぞ!』


『矛盾です。……乾は俺を助けたがっているくせに』


『チッ! 相変わらずクソタチわりぃな! あぁそうだよ、てめぇが死んだら今度こそアリアは立ち直れなくなる。それで死ぬのはてめぇだけじゃねぇんだぞ!』


 状況を理解しているのかしていないのか、乾と涙の口論は結希にも聞こえてきた。


「……心春ちゃん。心春ちゃんが怪我をして傷つくのは、心春ちゃんだけじゃないんだよ」


 欲しい言葉を乱暴な物言いで体に刺してくる乾は、ここに来てから一つとして間違ったことを言っているようには思えなかった。

 心春も聞こえていたのか、困ったように眉を下げる。


「……お、おお、お兄ちゃ、んは……」


『コロシテ、ジャマ、シテ……シマエ……』


「……お兄ちゃんはっ、世界で一番強い陰陽師だよ!」


 刹那、心春は結希の掌に飛び込んできた。白い指に腕を絡め、心春は目を閉じながらさらに叫ぶ。


「だからぼくなんか放ってみんなを助けて!」


 結希は振り向きざまに九字を切った。


 乾は短刀と投げナイフを器用に使い回し、式神を持たない涙と背中合わせで戦っている。

 好き勝手に暴れるゲンブと、それをフォローするセイリュウ、スザク、ビャッコ。末森と本庄は軍服を着ているとはいえ、式神を駆使する姿は陰陽師そのものだった。


「──在・前!」


「『強くなれ』!」


 結希が九字を切り終わるのと同時に、心春の言霊ことだま能力が発動する。

 空を裂いた九字の効果範囲は広く、結城家を包み込んでいく。全員が徐々に弱らせていた妖怪が、一匹残らず消えていく。そして、頭に直接響いていた声は聞こえなくなった。


 結希は頭を抑えようとして、震えながら指にしがみつく心春に気づく。


「心春ちゃ……」


「うぷ、おぇぇぇぇ……」


「あっ!?」


「心春様?! どうか、どうかそれ以上はおやめくださいませ! あぁっ、結希様のお手がぁっ!」


「す、スザク、俺はいいから……心春ちゃんを頼む」


 腕を伸ばすと、顔を青ざめさせたスザクは両手でそっと心春の全身を包み込んだ。結希が呆然と右手を伸ばしたままでいると、乾に肘を入れられる。


「もしもし、アリアか。あぁ。こっちは無事だし怪我人も出してない。それよりも重要なのは〝そっち〟だろ?」


 乾は結希に目配せをさせた。

 その眼差しと電話の相手とのやり取りに、結希は右手のことを忘れて「まさか……!」と言葉を漏らす。


「何もすごくねぇよ。陰陽師が一箇所に集う今日、裏切り者ならばまた仕掛けてくると思っただけだ。あぁ、わかった。よくやってくれたな、お疲れ様」


 そして乾は電話を切った。


「綿之瀬さん、今のはどういう……!」


「うるせぇ黙れ。まず、私のことは乾と呼べ」


 いつの間にか末森と本庄が結希の両隣に立ち、乾の言葉を今かと待つ。


「さっきアリアから連絡が入ったが、町役場に来ていた裏切り者はあいつらで撃退したらしい。捕縛はあいつらにはまだ早いからな、これで充分だろ」


「そうですね。隊長が俺と本庄の代わりに指揮を執ったのですから、まぁ当然でしょう」


「度し難い。家族とはいえ、ここは副長である俺たちに報告すべきだ」


「チッ、こまけぇこと言ってんじゃねぇよ」


 腕を組んで顔を顰めた乾は、「んで? 状況は正確に理解したか?」と結希に尋ねた。


「……いえ、何も。一つだけ聞かせてください、貴方方は一体何者なんですか?」


「表面上はただの警官なんだけどな。私たちは《対妖怪迎撃部隊》、通称《カラス隊》の構成員だ」


 乾は漆黒の軍帽を外し、碧眼で結希を見据えた。乾の両隣へと移動した末森と本庄も軍帽を外し、漆黒の軍服が一列に並ぶ。

 カラスのように翼を広げる彼らは、貪欲な瞳を一瞬だけ光らせた。

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