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百鬼戦乱舞  作者: 朝日菜
第十五章 希望の結盟
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六  『起点』

熾夏しいかさん、るいにもう一度連絡を」


 状況が少しだけ変化した。町役場の中にまだいるのは結城ゆうき家の陰陽師おんみょうじの涙と、《伝説の巫女》の明日菜あすなと、土地神の風丸かぜまる──そして、力をなくしかけているとはいえ土地神の加護を唯一受けている小人の半妖はんよう涼凪すずなだ。


「オーケー」


 熾夏に差し出されたスマホを耳に当てて、紅葉くれは火影ほかげに視線を送る。次に美歩みほを含めた芦屋あしや義兄弟たちに視線を送り、六人が頷いたことを確認した。


『熾夏、状況は……』


「涙! 悪いけど門を守ってくれ!」


『……結希ゆうき? やはり状況が変化ですか。しかし何故涼凪さんの力が急速に回復を?』


「ポチが外の神様の使いだったんです! だから、それは外の神様の力で……!」


 結希の服の裾を引っ張って体を無理矢理傾けさせたのは、心春こはるだ。熾夏のスマホに向かって彼女が声を出したのは、涙の傍にいる母親の涼凪に伝えたいことがあるからだろう。


「……ぼくたちは、まだ戦えるからッ!」


 涼凪もきっと、戦えることがわかったら躊躇わずに戦う人だ。現頭首であり娘でもある心春と、仲間でもある旧頭首たちが命を懸けているのだから。


「これは向こうが使った方がいいかもね」


 真菊まぎくが懐から取り出したのは、五十枚はありそうな札だった。札から感じる陰陽師の力は紅葉のもので、それを芦屋義兄弟たち全員が持っていることを確認する。


「確かに、退魔としても使えるからね」


 作った本人である紅葉もその効果を保証していた。涙たち四人が戦うよりも、退魔の札を張るだけの方が何倍も安全だろう。


「涙、今から紅葉の札をそっちに送る。効果が切れたら張り直してほしい」


『承知です。……結希たちは、そこで待機です』


「悪いけどできない」


『何故ですか。ならば不許可です』


「町役場の何処かに妖怪が探しているものがあるらしいんだ。涙や……紅葉に心当たりがあるならそんなに時間をかけなくても済むと思うんだけど」


「くぅにはないけど、強いて言うなら……」


『高確率で禁術庫です』


「……こいつらが狙っていたとこじゃない?」


 紅葉が親指で雑に指差したのは、芦屋義兄弟たちだった。


 昨年の五月に真菊と紫苑しおんが狙ったのは、陽陰おういん町の重要な資料がすべて保管されている公にはされていない秘密の部屋だ。あの部屋が最も怪しいとは感じていたが、結城家の現頭首である涙から見ても陰陽師の王の娘である紅葉から見てもそこしかないようだ。


「じゃあ、俺たちはそこに直行しよう」


「そうね。……じゃあ、〝破るわよ〟?」


 結希が芦屋義兄弟たちに視線を送った理由はそれだった。破り方は芦屋家の式神の家や陽陰町を囲んでいる結界を破った時点で理解していたが、あの時のやり方で町役場の結界が破れるとは思わない。


「頼む」


 真菊が陽陰学園や町役場の結界をどのようにして破ったのか。それは、陰陽師として結希だけでなく紅葉も気になるところだった。


「破るのは私たちじゃないけどね。妖怪が多すぎて近づけないからここにいる誰かに頼むけど、あそこにある石を破壊して」


「あれって……」


「町役場の結界の起点となっている石。五個ある内の一個よ」


「……なんであんたがそんなこと知ってるのよ」


 紅葉は結城家の人間として知っていたようだ。だが、真菊は「モモがそういうのを見ることができる陰陽師だからね」としか答えない。


「あれを壊せばいいのね」


 真菊も結希も百妖ひゃくおう義姉妹の中の誰かが行くものだと思っていたが、仕方がないとでも言うように溜息を吐いたのは紅葉だった。

 紅葉は真菊から札を奪って、軽くそれに息を吹きかける。その光景は先ほども見た光景だった。


「まさか」


 指で弾くように札を飛ばした紅葉はあの技を既に自分のものにしている。あれだけ陰陽師としての才能がないと言われていた紅葉はどこからどう見ても結希を超える陰陽師に成長しており──的確に石を撃ち砕いた。

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