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彼と彼女のおはなし  作者: ひな
4/5

デートのおはなし



ついに樹くんと遊ぶ日がやってきました。

……つまり、デート、というやつ。たぶん。


服、やっぱりあっちのワンピースのほうがかわいかったかな

髪の毛も巻かないほうがよかったかな

この洋服と靴って合ってないかも

化粧もうまくいかなかったし……


「(あ、だめだ、家帰りたい)」


緊張しすぎて、本当にはきそう。

むしろ体調不良ということで今日は無しということにしようかな……

いやそれはさすがに樹くんに申し訳ないか



そんなネガティブ思考爆発している私にはかまわず

電車は目的の駅へとすいすい進んでいく。



「(……もういるし)」


待ち合わせは改札を出たところ。

そこに、携帯をいじくっている樹くんの姿が確認できた。

しかも今は待ち合わせ時間の10分前。


心臓よ、落ち着け。

ほら深呼吸だ。


「……ごめん、遅くなった」

「いや?まだ10分前だよ。俺が早かっただけ」


じゃあ行こうか、と樹くんは歩き出した。


やってきたのは、ショッピングモール。

そこに入っている映画館が今日の目的。


「ほんとにこの映画でいいの?俺がみたいやつだけど」

「平気。私もみたいし。この原作面白いよね」

「原作あるの?」

「あるよ。小説だけど」


よしよし。ちゃんと会話はできてる。

ただし一切樹くんの顔は見れない。


「(……高校生かっての)」


自分が情けなくなるけど、そこはご勘弁を。

だって、男の子に対する免疫力、なくなっちゃったし。


……相手は、樹くんだし?


「(そこだよ、そこ。そこが一番の原因……)」



「学生2枚お願いします」

「学生証はお持ちですか?」

「はい。……相川は?」

「あ、あるよ。はい」

「ありがとうございます。学生様2枚で3000円になります」


1人1500円か。500円あったかな。

ごそごそ財布の中を探していると、


「はい。これで」

「3000円ちょうどお預かりいたします。こちらチケットになります」


さらりとチケットを受け取って、「相川はポップコーン食べる人?」なんて

聞いてくる樹くん。

ちょっと待て。


「1500円……」

「いいよ別に」

「1500円!」

「いやいいっておごりますって」

「こういうときは割り勘しなきゃだめだようん」

「こういうときは素直におごられてください」


そういったやり取りが数回……いや数十回繰り返された後、


「じゃあポップコーンと飲み物は相川が払ってよ」


ということで落ち着いた。それでも3000円には及ばない。


「……飲み物はLサイズにしますか」

「Sでお願いします飲み切れないから」


なんなの。樹くんなんなの。

そうやってさらーっと紳士的な行動しちゃって。

ひとの心臓壊したいの。


でもまぁ、

「(……こういう時に、素直にありがとうって言えるのがかわいい女子だよねぇ……)」


残念。女子力のない干物女にはそういうスキルが身についていないのだ。





「面白かったな」

「映像にすると迫力がすごいね」


映画はなかなか面白かった。

けど、あまり集中できなかったというのが本音。


「(映画館の席って、隣と近くないですか)」

ひじ置き使っていいのかなーとか。

飲み物入れるのはここであってるかなーとか。

樹くんポップコーンあんまり食べないけどいいのかなーとか。


こんな近くに私なんかがいていいのかなーとか。


とにかく邪念がすごかった。邪念だらけ。



「微妙な時間だけど夕飯どうする?おなか空いてる?」

「あんまり空いてないかな」

「じゃあお茶して帰ろうか」


そのままショッピングモールに入ってるカフェに入って

映画の話とか大学の話とかしながらコーヒーのんで。


会計ではまたバトルになったけど、じゃんけんの結果樹くんが払うことになった。くそう。


そしてそのままショッピングモールを出ることになった。

あとは、帰るだけ。


「今日はありがとう」

電車に乗っているとき、樹くんにそう言われた。


「こちらこそありがとう。私挙動不審だったでしょ」

「なんで」

「あー、うーん。女子大にいるとね、男の子に対する免疫力が落ちちゃうんですよ」

「そう?高校のときの相川と変わんないけど」

「そりゃよかったです」


だって平然を装うのにがんばりましたから。ええ。

どれだけ緊張してたのか知らないでしょ樹くん。


「でも、へぇ。免疫ないんだ。ふーん」

「馬鹿にしないでくれますか」

「いや、馬鹿にはしてないよ。うん」

「女子力も低下するばかりですよ」

「そうなの?でも今日の格好かわいいよね」


……またこの人は。


「……ドウモ」

「なんでちょっと片言になるの」

「いえ、別に」

「あ、もしかして動揺してくれた?」

「なんのことだか」


顔が赤くなってませんように。あ、でも意外と顔に出ないタイプだから平気かな。

まぁ心臓の音が外に漏れてなければ問題ない。


「じゃあ、次は水族館行こう」

「は?」

「俺イルカショーみたいんだよね」

「ちょっと、樹くん?」

「あーでもマグロもみたいなー」

「ねぇ、会話のキャッチボールしてくれるかな?」

「まぁまたラインするから。あ、ほらもうすぐ相川が降りる駅だよ」

「おーい」


まったく会話が成立しないまま、私の最寄り駅に着いてしまった。

なんなんだ、この人。


「じゃあね、相川。今日は本当に楽しかった」


そういってにっこり笑う彼の笑顔に、なんだかすべてがどうでもよくなった。

心臓の奥がきゅっと、音を立てた気がした。


「……私も、楽しかった。ありがとう」


そういって去っていく樹くんを見送った。






そして気づいたのは駅から家に帰る帰り道。


「(樹くんて、こっち方面のひとじゃないじゃん……)」


高校は一緒でも、地元は違う。

彼と私は、高校を挟んで真逆の地域に住んでいる、はずだ。



最後の最後に、してやられた。



どうにも彼は、私の心臓を壊すのが得意らしい。



「(彼氏彼女じゃあるまいし!)」



こういう優しさに弱いと気づいたのは、

樹くんのせいである。







あと1話で完結予定とお伝えしたのに完結できませんでした……。

次のお話で完結です。


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