合コンのおはなし
さて、やってきました良質物件合コン。
「もう男の子たち先に入ってるってー」
この合コンの開催者でもある子が携帯を見ながら言う。
「じゃあ行きますか」
「何階?」
「6階。個室だってー」
目的の居酒屋がある6階目指してわらわらとエレベーターに乗り込む。
エレベーターについてた鏡に向かって真顔でメイクや髪型をチェックするひとが、2人。
おそらく男子側の主催者と連絡を取り合ってるひとが、1人。
そして、やる気ゼロ感が隠しきれてないひとが、ここに1人。
女子が4人ってことは、男子も4人か。
私の目の前に座った人かわいそうだな。ぐいぐい系だったらどうしよう。
「(ま、のんで食べてマイペースに過ごしますか)」
せっかくのタダ酒タダ飯だしね。
店員さんに案内してもらって、たどり着いた個室。
ほかの女子3人は気合を入れなおしていた。さすがです。
「こんばんは~遅れてごめんね~!」
先陣を切るのはもちろん主催者の子。
どこからそんな声が出るんだ、と軽く引くぐらい高い声をだしている。すごい。
「こんばんはぁ」
「こんばんはー!」
続いて満面の笑みで突撃していく2人。ねぇ、さっきまでの真顔はどこにいったの?
「……こんばんはー」
もちろん締めは私。いつもどおりのテンション。よしよし。
さらっと男子たちの顔ぶれをみるけど、確かに良質物件なだけある。
顔の整ったひとたちばっかり。
「(……え?)」
私の座るはずの席の目の前。
ほかの男子たちは笑いながらも品定めをするような目をしているというのに。
その人だけはただただ携帯をいじっていた。
どこかで見たことのある、そのうつむき顔。
「(うそだ、なんで、どうして)」
顔すらちゃんと思い出せない、そう思ってたのに。
今、この瞬間、彼の何気ない仕草まで鮮明に思い出せる。
あの頃の心臓の痛さをまた感じてる。
もう2年もたっているのに。
「……樹、くん……」
思わずぽろり、とこぼれた言葉に顔をあげる、目の前のひと。
「……相川?」
あの頃黒かった髪の毛は焦げ茶に染められていたし
顔つきも大分大人っぽくなっていたけれど。
でも、あの頃と変わらぬ声で彼は、そう呼んでくれた。
「な、なんで、樹くんがいるの、むしろ樹くんA大だったの、え?これ夢?
樹くん合コンとか来るキャラだったっけ、女子苦手じゃなかったっけ、え、なにこれ」
「うん。相川ちょっと落ち着こうか」
完全にキャパオーバーになった私に、とりあえずおしぼりを差し出してくれた樹くん。
素直に受け取って手を……拭いてる場合じゃない。
約2年ぶりの、樹くんが、目の前にいる……!
「なになに?真奈美とお知り合いですか?」
私の動揺しまくっている発言を聞きつけた友達が樹くんに聞いている。
「あ、そうです。同じ高校で同じクラスでした」
「えー!そうなんだ!すっごい偶然だね真奈美!」
あ、そうだね、と返すのが精一杯でした。
やっと平常心が戻ってきたのは
自己紹介も終わってお酒を口にし始めた頃だった。
「……で、なんで樹くんがここにいるの?」
「大富豪で負けて罰ゲームとして参加中」
「高校生みたいな理由だね」
アルコールのおかげか、さっきあまりにも動揺しすぎたせいか。
とにもかくにも高校時代より緊張せずに樹くんと話すことができた。
「相川は女子大いったんだな」
「そうだよ。樹くんはA大だったんだね。第一志望?」
「そう。無事に合格できた」
「おめでと」
受験戦争中はクラスメイトの進路先なんて軽々しく聞けたものではなかった。
だからみんながどこの大学に進学したのか、滑り止めだったのか、浪人したのか。
そんなことぜんぜん知らなかったのだ。
その後も誰々はどこの大学に行った、浪人した、専門学校に行った、という話から
あの先生はいなくなったとか、この先生は結婚したとか。
お酒が進むにつれて樹くんも饒舌になっていき、高校話に花が咲いていた。
「じゃあ森川くんはー?元気ー?」
私も酔ってきたかな、やばいかなーと思ってきた頃、
当時の推しメンである森川くんの現在について聞いてみた。
「森川?第一志望のB大に行ってるよー」
「B大!?すご、国立じゃん!さすが森川くんー推しメンなだけあるー」
「……、相川の推しメンって森川だったっけ?」
「そーだよー、森川くん推しでしたー!」
本命は樹くんですけどね。言いませんけど絶対に。
「ふーん。森川人気だったもんな」
「ねー。イケメンだったよねー!かっこよかったなー」
「ちなみに俺は相川推しだったよ」
今、なにか爆弾落としましたか?
「……笑える冗談だねーうけるー」
「冗談じゃないけどねー。ぶっちゃけると相川のことすきだったんだよ俺ー」
ふにゃり、と笑い出す樹くん。そんな笑顔みたことない。
どくり、と心臓が痛いくらいに鳴り始めた。
「……それはちょっと、笑えない冗談かなー」
「冗談じゃないから笑わなくていいよ。
それで今どうやって次会う約束してもらおうかなと思ってるところ」
「樹くん、酔っ払ってるね」
「そうだね。だいぶ酔っ払ってるね」
酔っ払ってるからこんなわけ分からないこと言えるんだな、うん。
だから落ち着いて、私の心臓。
平常心を保つんだ。
「私お酒が入ったときのそういう言葉、信じないタイプだから安心して」
「じゃあシラフのときなら信用してもらえるわけだ」
「お酒入ってなかったらちょっとは信じるかもね」
「分かった。じゃあ後日デートのお誘いするからよろしく」
ふふふ、と笑う樹くんの笑顔に心臓持っていかれそうになるけど。
この人はただの酔っ払い。
酔っ払いの戯言なんて信じちゃあかん!
そう強く強く心に命じていたのに。
「こないだは楽しかったです。いつ空いてますか?」
後日、本当にこんなラインメッセージが来たからさあ大変。
「(うそだこれは夢だ自分の都合のいい夢だ……)」
果たして私の心臓は保つのでしょうか。
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あと1話ほどで完結予定ですので、よろしければお付き合いお願いします。