表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/12

すいません、遅くなりました。

難産でした・・・そして短い。申し訳ありません。




 缶ビールとつまみを片手に、葵紗は異世界へ“落ちて”きた。




 痛い。


 葵紗が最初に感じたのは、そんなことだった。


「って、ホント痛いっ?」


 がばっという音がしそうなくらいの勢いで起き上がった(・・・・・・)彼女は、その自分の行動に違和感を覚える。


「え……」


 まず初めに見えたのは、雑草の生えた地面。後頭部に痛みを感じ、頭を垂れて痛みを訴える箇所を右手で押さえれば自然、視線は地面を向く。

 そこにあったのは、先ほどまで彼女が歩いていた舗装された道路などではなく、人間の手など一切入っていないであろう、雑草の生い茂った地面。


「は?」


 なんだ、これは。

 痛みも忘れて顔を上げた葵紗の目に映ったのは、大きな満月だった。


 月って、こんなに大きかったっけ。


 空を遮るものなど何一つない空間。

 葵紗の目に映る夜空にはただひとつ、中天にかかる月。

 やわらかな月の光は、それまで葵紗が見てきたよりもつよく、広く周囲を照らしている。


 地球ではまずありえない光景に、彼女の思考はしばし止まる。


「夢……じゃあないか」


 ほけっと空を見上げていた葵紗は、自分の声に頭の痛みを思い出し、そこに手を当てる。どうやら少したんこぶができているようで、ちょっと触っただけでも鈍い痛みがある。ぬれた感触はないから、血は出ていないようだと安堵する。

 いや、どれどころじゃない。


「ここ、どこ?」


 途方に暮れた彼女の言葉に、返る声はなかった。




* * *




 ごくごくと喉が鳴る。

 少し温くなってしまったビールは、それでも心地よい喉越しで葵紗の疲れを癒してくれるようだ。

 缶の飲み口から口を離し、ふうっといつもそうであるように満足げな吐息が漏れる。そこにつまみの端を咥え、少し顔を動かして口の動きで食べる。今日のつまみは裂けるチーズだ。滅多に食べないが、たまに食べたくなる不思議。これが出始めた頃のCMが脳裏をよぎる。

 口をもごもごさせながら、葵紗はぐるりともう一度周囲を見渡す。月は既に傾いているが、その光量は十分あたりの様子を彼女に知らせている。



 動くものはまったくと言っていいほど見当たらない。虫一匹いないのはさすがにおかしいと思いつつ、あまり得意でないのでありがたいとも思っている。

 特に差し迫った危険がないと判断した葵紗は、とりあえず自分の傍らに視線を落とす。動くたびに痛む後頭部が少し鬱陶しい。

 すると右手の辺りにかさりと音を立てる、買い物袋が落ちている。拾い上げて中身を確認すれば、帰り道で買ったビールが3本とつまみのチーズ、鳥の照り焼き、そして朝食用の食パンがきっちり揃っていた。


「よかった。落とさなかった」


 それは酒好きゆえの呟きか、現状で食料が確保されていることの喜びか。


 どちらにせよ安堵した葵紗は、もうひとつ持っていたはずの鞄を探して視線を巡らせる。いつも右肩に掛けているのでそちらを見れば、少し離れたところにそれはあった。

 少し身体をずらして手を伸ばし、足の上に抱える。食料は抱えたまま下ろさない。

 鞄の口はしっかり閉じていたので、外側のポケットを先に探る。財布とスマホ、家の鍵が入っているはずだ。

 手を入れて感触を確かめ、取り出して確認する。財布の中まで見て、何もなくなったものはないと確認し、スマホを弄ってみる。が、うんともすんともいわない。


「壊れた……のかな?」


 頭の隅でそうではあるまいと思いつつ、取り敢えずもとの場所に戻して鞄の口を開く。

 化粧ポーチと少量の筆記具とメモ帳、スケジュール帳が間違いなくあるのを確認し、無くなったものはないと判断した葵紗は、しかし別の事実に困惑する。


「やっぱここ、異世界、だよね?」


 答えるものはないと知りつつ、呟かずにいられなかった。


 ひゅうるりと、冷たい風が吹いたような気がした。





彼の出番はまだまだ・・・

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ