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遅くなりました。
そしてまだ続きます。
彼女の魔力は、チート仕様らしい。
「さて、体力は別段変わっているわけでもないようなので、MPを見てみよう」
若干引きずりながらも意識を次に向けるべく、声に出して言ってみる。別に傷ついているわけではない、と誰にともなく言い訳してみる。
しかし、元値がわからない。
残量が3桁で表示されていることから、4桁を越えているだろうとは思う。だが、残念なことにこのステータス画面、3桁までしか表示されないようで、正確な値がさっぱりなのだ。
どうにかならないかと念じたり触ってみたりしたが、変わらなかった。
いじり方がわからない以上推測するしかないが、元値が4桁を越えているということは、残量も見た目どおりではないということになる。現在どれだけ減っているのかは判らないが、最低でも魔力が77は使われているということだ。
しかし、葵紗には魔法を使った覚えなどない。
当たり前だが、葵紗はついさっきまで魔法などない世界にいたのだ。使わないのが当たり前の世界にいて、無意識にも使えたとは思えない。魔法のない世界で魔力を持っていたとは思えないが、だとしても使わなければ減りもしないだろう。あちらの世界で、日々の生活の疲労が魔力に影響を及ぼすとは考え難い。
ならば、と葵紗は思う。
それはおそらく、意識を失う直前のこと。
帰り道、街灯の光の届かない一瞬の闇の中、不意に地面を見失った。
何かに躓いたわけではなく、最初から穴があったわけでもない。
闇の中、踏んだはずのアスファルトが消えた。
『落ちた』と思った。
上から下へと、落下する感覚があったわけではない。
なのにそう思ったのは、そうとしか表現できなかったから。
一瞬の思考、すぐに意識は飲み込まれた。
たぶん『落ちた』と思ったとき、意識や無意識ではない、本能が反応したのではないだろうか。
世界を超えた瞬間、魔力が発動した。もしかしたら地面に叩きつけられるところだったかもしれないほどの落下の衝撃から、持ち主を護るために。
それが事実なら、たんこぶくらいで済んでよかった、と思うところだろう。完全に無傷で護れる、というわけではないようだから。
だとすると、意識が少しでもある状態なら、魔力は持ち主を護ろうとするということか。そのためにどれだけの魔力を消費するのかは不明だが、枯渇すれば危険だろうなと思う。
えてしてこういう場合、魔力の枯渇は死に至る可能性大だ。
そういう危険を回避するためにも、地味に生きるに限る、と葵紗は決意する。
次に魔法適正だが、何故か飛びぬけて数値が高いものがある。
これはなんとなく想像がつくが、たぶん職業が関係している。
火と水は、料理する上で不可欠なものだ。調理師として毎日それらを扱う葵紗だから、その経験値が反映されているのだろう。
だがそうなると、光属性が高い意味がわからない。
「説明書とかないのかな」
自分ひとりで考えるのも限度がある。というかいい加減、考察するのが面倒になってきたので、手っ取り早く知る方法はないかと葵紗は画面を注視する。
葵紗は元来、面倒なことが嫌いな性質である。
料理以外は。
さっきは何も反応はなかったが、どうにかならないかと手応えのないステータス画面を、反応を確かめるように触れてみる。それは、PC画面を反転する作業に似ていたと思う。
すると、名前の上に反応する箇所があった。
そのままダブルクリックの要領で押すと、画面ががらりと変わった。
ゲームじゃないのか。
いや、PCゲーム?
と、どこかずれたことを思いながら表示された画面の最上部を見れば。
『これを読めば初心者でも安心! ファンタジー世界イストニアのすべて』
・・・ぶちっ
初心者マニュアルがあるなら最初に出せ!
理不尽な世界に八つ当たりしたくなっても、それは当然の反応なのではないかと思った葵紗である。
今後の更新予定は活動報告にて。