料理中は騒がしい。
──どっか~~んっっ!
少し離れた森の中、くぐもったような爆発音とともに、木々の上から少なくはない土煙とそれを上回る爆煙が見える。
黒く吹き上がったそれらはそのまま風に乗って流れると思いきや、木々の上空1メートルほどの位置で不自然な形で留まり、不意に霧散した──と見えた瞬間。
「この馬鹿もんがっ!」
がつっと痛そうな殴打音とそれに続く怒声に、彼女はまたかと呟き溜め息を漏らす。幸せなんぞとっくの昔に放棄したアラサー女は、溜め息を吐くことになど躊躇しないのである。
因みに、殴られたのは彼女ではない。
「っっ~~!」
円く切り取られた窓から外を見れば、彼女がいる家から少しばかり離れた位置にふたつの影が見える。
一人は立って片手を腰に当てながらもう一方の手に持つ長い棒──よく仙人や魔法使いなんかが持っている頭が丸くなった杖を掲げて振り回し、もう一人はその杖で殴られたであろう頭を抱えてもう一人の前にうずくまっている。それは最早見慣れた日常茶飯事な光景である。
それを初めて見た時は驚き声をなくしてただ呆然と見ていた彼女だけれど、慣れとは恐ろしいものだ。今ではちらと視線を一瞬向けるだけで、今までやっていた作業に戻れてしまう。まぁ、殴られている”彼”曰く、「お前は最初からそうだったよ」ということらしい。まったく失礼な話である。
「んー、もうちょっと欲しいかな」
彼女の手には木製のお玉。もう一方にはこの世界では貴重らしい陶器の小皿。目の前にはぐつぐつと煮えたぎる大鍋。少し煮え過ぎか。
慌てず火力を最小に落とした彼女は少し考え、右手の壁にずらりと並んだ小瓶の中からふたつを選び少量ずつ鍋の中に落とし込むそして軽くお玉でかき混ぜ、小皿で味見。
「うん、大丈夫」
やっと自分の思い描いたものが出来たのか、それまで無表情だった彼女から笑みがこぼれる。
そのまま鍋の火を落とし、家の玄関に向かってその扉を開け放ち、開口一番彼らに向けて叫んだ。
「新作の治療薬が出来ましたっ!」
「「昼飯じゃないのかっっ」」
・・・どうやら間違えたようです。
誤字訂正しました。
・・・スマホって書きにくい。