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魔法とスマホの魔界戦記RPG  作者: 常日頃無一文
第3章:1000年の眠気覚ましに
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60/66

1:クライネルット教会へ

こちら例の代替です。続きは未定なので完結設定にしています。


2017/3/20

今更再開です

「『――というわけで、今からクライネルット教会の方にデザート様共々お邪魔します。お土産にはエクレアちゃんの好きなティラミス・ケーキと紅茶を買ってきますね。よろしくエクレアちゃん』っと」


 悪魔王ザイアークのもとに向かうに辺り、交渉事に適した頭脳派として堕天使エクレアをメンバーに迎えるべく、クライネルット教会を目指すデザート達。その旨をスマホのメールでエクレアに送信し終えたタルトは、


「あ、そうだデザート様。さっき庭で泥遊びみたいなのやってましたけど、あれなんだったんです?」


 と、デザートに問いを発した。彼は城を離れる前に、ブレイバーの一振りで壊滅させた魔物たちの灰と『魔界の美味しい水(水道水)』を混ぜ合わせて、何か粘土遊びのようなことをしていたのだ。

 デザートは言う。


「うむ、魔物を作っていたのだ。オレ様達が魔王城を留守にしている間に、1000年ぶりに城内掃除をさせるためのな」


 解説しよう。魔界の支配者たる魔王はしょぼい魔物であれば自分で作ってしまえるのだ。


「だからオレ様達が魔王城に戻ってくる頃には中はピカピカになっているはずだ! はっはっはっはっは!」 


「へ~、珍しく気の利いたことしたんですねデザート様。ところでそれどんな魔物なんですか?」


 高笑いする魔王に、タルトは久しぶりに感心した。


「岩人族のヘドロンパだ」


 ヘドロンパ。スライムのようなボディにハニワのような顔を持つ癒し系岩人族。ネトネトと移動し、その跡を泥だらけにすること以外は人畜無害。むしろそれしかできない。泥ナメクジとも言う。乾燥するとHPゼロになる。『あぶー』とか『ぽべー』とか謎めいた声をよく発している。

 タルトは額に汗を落とした。


「泥ナメクジに掃除ですか。ここまで清々しい人選ミスは久々に見ましたよ」


 タルトは小さく嘆息した。同じ岩人族でもせめてワンランク上のサンドパッパであれば、せめて居留守役ぐらいはできたのにと。彼女はスマホでグーグル魔界図を呼び出し、クライネルットにマーカーをセットする。自分とデザートをそこに転送する準備だ。


「ちょっと待てタルト。お前これどうしたんだ?」


 デザートの声に、「はい?」とタルトが振り向くと、スマホの画面が突きつけられていた。そこには、彼女が隠していたステータスがババーンと表示されていたので、思わず「う」と声を漏らしてしまった。


「LVが2になってるじゃないか?」


 デザートにまっすぐに指摘され、タルトは観念したようにしゅんと項垂れた。


「うう、申し訳ありませんデザート様。実はカクカクシカジカ、さっきのザイアーク軍との戦闘でへっぽこ火魔法『ホム』を浴びたつもりが、コッソリ並唱されていた呪魔法『ガタ』も浴びてしまったので、この通りLVが2まで『ガタ』落ちしてしまいました」


 慢心や油断による魔力の喪失。それは魔王の側近にはあってはならない失態だった。それは世が世であれば、『魔界フェイスブックに恥ずかしいポエムを投稿しろ』という非情な刑罰さえ与えられかねない重罪である。いくらデザートとタルトの間柄であっても、厳罰は免れないだろうと思われた。

 デザートはおもむろにタルトを抱き寄せた。


「!? あ、あのデザート様?」


「じっとしてろ」


 背中に腕を回してくるデザートに、おろおろと戸惑うタルト。しかし彼女は、デザートの体から魔力が流れ込んでくるのを感じると、その力のみなぎってくる感覚に口を閉じた。けれども、体を満たしていくその魔の力よりも、体を包むデザートの温度と、胸に直接伝わる彼の鼓動の音が、彼女にはもっと心地よく感じられた。その力強くも優しい感触に、ついうっとりと目を閉じそうになってしまう。


 ――すごく、温かい。

 

 そんな風に夢心地になりかけていたら、そこでスマホの画面が目についた。


 --------------------

 名前:デザート・エルヒガンテ

 種族:魔人

 職業:魔王:終わりの始まり:『ビギニング・オブ・ジ・エンド』

 LV:30

 HP:3500 MP:600/1000

 装備:大剣『ブレイバー』

 解説:生ける絶対と言われたフィナンシェ・エルヒガンテの血を引く魔王。強さは悪魔王クラスだが、その剣術は侮れない。

--------------------


「ちょっと待って下さい! デザート様! ステータスがえらいことになってますよ!?」


 慌てて飛び退くタルト。しかしデザートは、彼女の様子とは正反対に満面の笑みでスマホを向けて言った。


「見ろタルト! お前はこれで10倍強くなったぞ!」


--------------------

 名前:タルト・ストロベリー

 種族:魔族サキュバス

 職業:魔王の側近:神殺しヨルムガンド:『ゴッドイーター』

 LV:20

 HP:1500 MP:2000

 装備:トライデントスピア『バルバドス』

 解説:死者帝国ネクロポリス出身の魔族。強さは悪魔王クラスだが、その槍術はレベルでは推し量れない。

--------------------


「代わりにデザート様が1万倍弱くなってるじゃないですか!!!」


 解説しよう。魔界の支配者たる魔王は自分の部下にレベルを分け与えることが出来るのだ。ただしそのレートはヤミ金も逃げ出すボッタクリ。


「あ~~~!! なんてことしたんですかデザート様~~~! レベル30の魔族だなんてその辺の悪魔王と変わりませんよ! それで魔界支配とか『ロト666』で一等当るより難しいレベルですよ! ヘタすれば上級竜族よりも弱(ザコ)いですよ! まかり間違って遭遇して頭カジられたら即ゲームオーバーですよ! 第3部完! ホント信じられないです!」


 タルトは頭を抱えた。しかしデザートは腕を組んで斜に構え、余裕の笑みを浮かべる。


「ふん、見損なうなよタルト! このデザート様の強さがレベル如きで測れるものか!  

『ロト666』だと? ふん、そんなもの1等くじからハズレくじまですべて制覇してやる!」


「有りクジ全買いですか!」


「上級竜族だと? ふん、そんなものオレ様に刃向かってきたら鞘のサビしてくれる!」


「抜かずに撲殺ですか!」


「第三部完だと? ふん、そんなもの第四部を始めれば良いじゃないか!」


「アントワネットですか!」


「しかし確かにちょっと調子悪いな。気のせいか『聖雷エクレール』が一撃も放てない気がする」


「全く気のせいじゃないです!」


「あと感覚的に1万倍ぐらい弱体化したような気もする」


「全く気のせいじゃないです! だいたい『エクレール』はMP500万も消費する雷魔法の奇跡なんですよ! レベルは最低でも5万は必要です! 現状で放てるわけないじゃないですか!」


「そうか。それは困ったな」


 タルトはすっ転んだ。そしてもう『ダメ』と呟いた。デザートに『ウェイクアップ・タルトー』と指示され、ヨレヨレと起き上がる。

 そして覚えた頭痛に片手を当てて嘆息。


「はぁ~、もうホント信じられないですデザート様。……どうしてこんな血迷ったことしたんですか……。もしもデザート様の今のレベルが魔界に知れ渡ったら、ザイアークだけじゃなくて、きっと色んな悪魔王が魔王の座を狙って襲ってきますよ。フィナンシェ・エルヒガンテ前魔王様がいない今、魔界はもう平和とはいえないんですから。レベル20に30といえば、悪魔王どころかその辺りをうろついている魔物にさえ手こずる可能性があるじゃないですか。それこそ竜族タインタンレックスなんかに鉢合えば、二人がかりでも倒せるかあやしいですよ。本当にもう、どうしてそんなことしちゃったんですか」


「どうしてって、そんなのタルトが好きだからに決まってるじゃないか」


 デザートのその言葉に、タルトは不意を突かれたように「ほえ?」と固まってしまった。


「オレ様はタルトのことが好きだ。そしてお前は、さっき弱くなったことをオレ様に打ち明けるとき悲しそうな顔をしていた。オレ様はお前のそんな顔が見たくなくて、お前に魔力を分け与えたのだ」


 力強く言うデザート。ぼぅっと彼女の顔から火が出たのは、死ぬほど嬉s(削除)恥ずかしくなったせいである。


「それに、オレ様はたとえレベルが1になろうがマイナスになろうが何も問題ない。なにせこのデザート様は魔王なのだからな!」


 言ってから、さきほどの問題などスッカリ忘れたと言わんばかりに、


「はっはっはっはっは!」


 と、悪童のように笑った。

 タルトはその姿に、なんだか開いた口は塞がらないような、あるいは振り上げた拳が降ろせない用な気持ちになってしまった。だからもう、黙っているしかなかった。


「――まぁ、今はエクレアちゃんに会いに行くだけですし、ザイアークとも戦わずに話し合いという線でいくなら、案外このままでも何とかなるかも知れません」


「その通りだ! さすが魔王の側近タルトだ! はっはっはっはっは!」


 やれやれと彼女は苦笑してからスマホを操作し、クライネルットに向けての転送を開始した。それにしても、この胸のドキドキはいったい何だろうかと首をかしげながら。


 *


 スマホの転送アプリによって、クライネルット教会の手前まで転送されてきたデザートとタルト。そこでタルトは、眼前に広がっていた予想外の光景に石化した。

 クライネルット教会。

 聖女ティラミス・ダージリンによって建立(こんりゅう)された、測定不能天使エクレールを信仰する2000年以上の歴史を持つ教会である。現在はその末裔とされる堕天使エクレア・クリーミィのマイホーム。教会周辺は、園芸好きの彼女によって天界と人間界から植生された花が一面に咲く楽園となっている。

 はずなのだが、はずでなかったのでタルトは石化した。

 デザートは腕を組む。


「むぅ? なんだこのジャングルは? エクレアのやつ。最近は随分と手広く植物を育てているのだな」

 

 そう言う彼の目前に広がるのは、暗緑色に茂る樹海。ジャングル。花が一面に咲く楽園的な教会とかどこにもなかった。しかもその植物のほとんどが、パクリンドウ、ショクパンジー、オペラベンダーといった、魔界でも危険な肉食系の魔草族なのである。

 デザートは見渡しながら片眉を上げた。


「おかしいなぁ。前に来た時にはもっとこう、葉も枝も丁寧に刈り込まれていて、花もウネウネとした黒とか紫とかじゃなくて、サラサラとした白とか赤だったような気がするんだが、気のせいか?」


「気のせいじゃないですよデザート様! そこすごく重要なポイントです!」


 タルトは石化解除して一気にまくし立てた。


「こんなわけ分かんない魔草なんてエクレアちゃんは栽培していませんよ! デザート様の言うとおり白のベゴニアとか赤のアネモネとか人間界にあるような無害の花を栽培していました! 魔草はせいぜいでも一鉢ぐらいです!」


 タルトはワザワザと蠢く不気味な蔓草(つるくさ)を指さして言う。


「しかもこの勢い、確実にコイツら勝手に繁殖してますよ! ……きっとエクレちゃんに何かあったんですって!」


 彼女が言い終えるとほぼ同時、この密林の奥からまるで蛇のようなオペラベンダーの蔓が3本、スルスルと草木を縫うようにして現れた。

 それらはデザートとタルトの前でくると、ガバっと花を開く。

 その毒々しい黒紫の花びらの中央には口があり、中には肉食獣のような鋭い牙が生えそろっていた。


「ん? パックンフラワー亜種か?」


「それは任○堂のキャラです」


 デザートとタルトは戦闘態勢を取る。

 が。


「ららららーらららー♪」「ららららーらららー♪」「ららららーらららー♪」


 オペラベンダーがテノールの音程で歌い出した。キョトンとなるタルト。


「ようこそここは~♪ クライネルット~♪」

「ミス・エクレアの~♪ 秘密の花園♪」

「ところで貴方はどちらさま~♪ っぎゃ!」


 3つ目のオペラベンダーが歌い終わった直後、デザートの鞘が花びらを一撃した。タルトはそれを見て『流石魔王様! このふざけたヤツからエクレアちゃんの安否を聞きだして下さい!』と思った。


「このデザート様に向かって『どちらさま』とは何事だ無礼者め!」


 タルトはそれを見て『流石魔王様! 怒るポイントがいつも通りです!』と思った。ぶん殴られたオペラベンダーがアセアセとした様子でデザートに言う。


「し、失礼致しました魔王様。 も、もちろん存じております。貴方様はこの魔界の支配者であらせられる魔王のデザート様でございます。レベルは実に30万を越える魔界最強のお方。その存在を私ども魔草族が知らぬわけがございません。ららららーらららー♪」


--------------------

 名前:オペラベンダー・トリオ

 種族:魔草族オペラベンダー

 職業:美しきドアベル(自称)

 LV:40

 HP:3000 MP:4000

 装備:天使もはにかむ美声(自称)

 解説:発声練習は一日5時間。

--------------------


 タルトはオペラベンダー三体のステータスを確認し終えたあと、ひそかに胸を撫で下ろした、このオペラベンダーがスマホを持っていなくて良かったと。もしも自分たちのレベルが30と20だなんて知れた日には、こいつらだって魔王の座を奪うために遅いかかってきかねない。

 

「それにこの通り、きちんと前もって連絡を頂いてましたし。ららららーらららー♪」

 

 と、そこでオペラベンダーの蔓が掲げて見せたのは、魔物が持つことは有り得ない純白のスマホである。そしてそのストラップには、可愛らしい天使の羽飾りが着けられていた。


 ――あのスマホは……まさか。


 タルトは胸騒ぎを覚えた。そしてそれを裏付けるように、オペラベンダーの一体がスマホのディスプレイを見ながら言った。


「ららららーらららー♪ え~なになに。『中略。今からクライネルット教会の方にデザート様共々お邪魔します。お土産にはエクレアちゃんの好きなティラミス・ケーキと紅茶を買ってきますね。よろしくエクレアちゃん』と。こんな風なメールをミス・エクレアは受け取っていたようですしね。ららららーらららー♪」


「待ちなさい! どうしてあなたがエクレアちゃんのスマホを持っているのよ!」


 タルトがトライデント・スピアの切先を突きつけて言った。

 

「しかも勝手にメールとか覗きこんで最低よ! ていうかエクレアちゃんどこよ!」


 彼女が怒声をあげると、オペラベンダーの一体がニィっと笑っていった。


「ミス・エクレアはいま天使族から魔草族へ転生中です。ららららーらららー♪」


「なんですって!?!?!?」

 

 タルトがショックのあまり大きな声をあげると、三体のオペラベンダーはグルグルと観覧車のように回りながら言った。


「ミス・エクレアはこの私どもがまだ歌の美しさを知らない球根ベビーな頃から愛情いっぱいに育てて下さいました」「「でゅわでゅわ♪」」

「私どもはその過程で気付いたのです。彼女が私達魔草族に向ける愛情というのは彼女自身が美しい花になりたいという願望の証であると」「「でゅわわ♪」」

「だから私共は育ててもらった恩返しとして彼女を魔草族に転生させることを決意しました。だからミス・エクレアは今パクリンドウのツボミの中で眠っておられます。そういうことで」


 ――今はお引き取り下さい。でゅーわ~♪


 三体のオペラベンダーはそうして一様に頭を下げた。

 そこで何か言いかけたタルトの肩に、デザートは手をおいた。そして彼は、オペラベンダーに問いかける。


「お前たちの考えは良くわかった。エクレアが魔草族になりたいと望んだなら、まぁそれも良いだろう。だが一つ聞かせろ」


 デザートがそう言った時だ。上空より妖魔族のジャック・オ・ランタンが箒にまたがってふわふわと飛来してきた。


「あ、お土産届いたみたい」


 ジャック・オ・ランタンは見上げるタルトの近くまで来ると、ゆっくりと降下し、彼女の前まで来た。

 その瞬間、三体のオペラベンダーは飛び退くように花を後退させて


「うげええええ~~!!!」「なんたる刺激臭~~~!!!」「ひ、ひぬううう!!!!!」


 と叫びながら痙攣し始めた。タルトは怪訝な顔をしつつ、ジャック・オ・ランタン@A魔ZONデリバリーサービスから小包を受け取った。かたや、不敵な笑みを浮かべているのはデザートである。


「魔草族のお前たちには、この匂いは耐え難いだろうな。……タルト、お前何を注文した?」


「はい。エクレアちゃんへのお土産にケーキと紅茶を3人分ですけど?」


「「「ぎゃあああああ!!!」」」


 叫びながら後ずさるオペラベンダーたち。


「紅茶というのは、熟成させた魔界の茶葉を熱湯で煮出したもの。お前たち魔草族で言えば、いわば腐乱死体の煮汁も同然だろう」


「「「「ぎゃあああああ!!!」」」」


 今度はタルトも一緒に叫んでいた。では聞くぞと、デザートは言う。


「お前たち。エクレア・クリーミィが魔界に堕天してきた理由を聞いたことがあるか?」


 デザートが犬歯を剥きだして言う。


「エクレアは、魔界の紅茶とケーキが好きすぎて、神にお願いして自分から進んで堕天してきたんだよ。期間限定でな。三度のメシよりも、人間に愛を説くよりも、神を信仰するよりも、魔界の紅茶とケーキが好き過ぎてな!」


 あわわわわわ、と三体のオペラベンダーが震え出す。テンパって自分の葉っぱとかツルとか吸いながら震え出す。


「だから有り得ないんだよ。そんなエクレアが、堕天するぐらい紅茶好きなエクレアが――」


 紅 茶 な ん か 死 ん で も 飲 め な く な る 魔 草 族 に 

 転 生 し た い な ん て 言 う の は 有 り 得 な い ん だ よ 。


 タルトはハっとなった。オペラベンダーはガビーンと口で言った。デザートはそこでビシっと指差し、


「魔王へのウソは死罪も同然だ愚か者め! 今すぐエクレアを解放して俺達の前に連れて来い! さもなくばただじゃおかないぞ!」


 魔王の気迫にオペラベンダーは花色を白黒させて震えた。震えたが、なおも抗弁する。


「で、でも。た、た、確かにミス・エクレアは、ま、ま、魔草族になって、は、ハッピーフラワリングライフをエンジョイしたいとか、い、い、言ってたような気も」


 とか 


「そ、そうそう! ミス・エクレアは草食系女子――じゃなくて肉食系魔草になって可愛い男の子を養分にして生きていきたいとかいきたくないとか言ってたような気がしないでもないような気がするという感じがするようなこともあったことは確かだったという記憶がないわけではないと思う心地がほんのりと」


「 ま だ シ ラ を 切 る か 愚 か 者 め が ! 」


 デザートが吠えると雷鳴が空に届いた。飛び跳ねるようにオペラベンダーは「「「ぎゃああああ!!」」」と声をあげた。魔王はさらに自らのスマホを彼らに突きつけ、


「ここになによりの証拠がある! エクレアがオレ様に助けを求めているメールだ!」


 と大喝すると、しんとなった。次にデザートは、不安な様子で見守っているタルトにも見せつけてから、再びオペラベンダーの方を向いて声高らかに言った。


「どうだ参ったか!! このオレ様をバカにしていると痛い目を見るぞ! はっはっはっはっは!」


 腰に手を当てて勝利の哄笑。

 ちなみにスマホにはこう記されていた。


-----------------------

送信者:エクレア

受信者:デザート様!

件名:Re:【一大事】オレ様のレベルが30になった!

本文:

助けてデザートくん、このままでは私パクリンドウにされちゃいますマストビー!!


>『デザートくん』は書きました

なぁエクレアちょっと聞いてくれ。

どういうわけかオレ様のレベルが30になってしまった。

たぶんこのままだと竜族にすら勝てる気がしない。

元に戻る方法知ってたりしないか? 

ちなみにこのことは内緒にしててくれ。頼む。絶対だぞ?

-----------------------


「はっはっはっはっは! はっはっはっはっは! っイテ! なんだタルト? オレ様の頭に魔虫でも止まっていたか? そしてなんだその『まるでこのオレ様が絶対に知られちゃいけない秘密を自らバラしたバカと』と罵りたそうな顔は?」


「的確すぎて私のセリフが飛んじゃいましたよ! いったい何を血迷ってオペラベンダーにレベルダウンの秘密暴露してるんですか!?」


 「なに!? いったい誰がタルトのレベルが20まで下がったという秘密を暴露したんだ!?」


「私じゃないし!!!!!!」


 タルトは100点満点のヘッドスライディングを決めてすっ転んだ。

 そして痙攣する。

 もうだめだ。

 確実に積んだ。

 これで二人の強さ揃ってが弱小悪魔王クラスになっていることが発覚してしまった。ここまで清々しい自殺行為も前例がない。現にさっきまで一箇所に固まってマグニチュード6ぐらいで震えていたオペラベンダー三体が、今やデザートを上から見下ろしつつ、「うぷぷぷぷぷぷぷーぷーくすくす」と笑っているのだから。


「おいお前たち。いったいなにがおかしい?」


 デザートが尋ねると、オペラベンダー三体は再び3つの花を観覧車のように回し始めた。


「ららららーらららー♪ そんなの決まってるじゃないですか~♪」

「ららららーらららー♪ もしも~ここで~♪」

「ららららーらららー♪ 魔王を倒せ~ば♪」


「「「ららららーらららー♪」」」


「魔界の主はオペラベンダー♪ ららららーらららー♪ ら!!!!!」


 歌い終わると同時、オペラベンダーがその獣牙を剥いてデザート達に襲いかかってきた。


「タルト!」

「はい!」


 魔王の合図を境に二人は地を蹴って左右に飛んだ。間一髪という具合に、二人のいた個所はオペラベンダーの牙に深く抉られる。そのスピードにタルトは内心で冷や汗をかく。以前の自分であれば止まっているも同然に見えただろうこの攻撃も、今の自分には条件反射でやっとというような早さに感じられたのだから。


「宣戦布告というわけだな、良いだろう。相手してやる」


 デザートは鞘からブレイバーを抜き払い、それを車に構えた。オペラベンダーは再び観覧車のように花を回し始める。


「ららららーらららー♪ 魔王の遺言テラかっこよす~♪」

「ららららーらららー♪ そんなのまるで勇者じゃないか~♪」

「ららららーらららー♪ 来世はなれるといいですね~♪」


 テノールボイスで歌い上げていたら、その一体がボロリと花を落とした。


 ――あ、


 という感じに、

 残り2体が、

 野に転がる無言の一体を見つめる。


 ――数秒の沈黙の後。


「「むねしげーーー!?!?!?!?」」


「思ったより無骨な名前ね!?」


 タルトは突っ込んだ。突っ込んでから、いったい何が起きたのだと目を見張った。これはデザートが斬ったのか? いや、それは有り得ない。彼がブレイバーを抜いたのは今しがただ。その間に斬るスキなどどこにもなかった。そしてもちろん、自分でもない。自分は避けるので精一杯だった。ではいったい本当に、何が起きたのだ。

 そんな彼女の疑問に答えるかのように、彼は悪童のような笑みを浮かべて言った。


「まずは一体だ! さぁ、次はどいつをたたっ斬ってやろうか!」

 

 どうやらデザートが斬ったらしかった。しかしタルトは斬る瞬間どころか、そもそも抜剣したところさえ見れなかった。早すぎたから見えないとかそういう理屈ではない。彼女には間違いなく断言できた。デザートは、このオペラベンダーを斬り伏せるときに、一度も剣を抜いていないと。


 ――なら本当に、どうやって?


 その問にも、デザートは答えるように言った。


「さぁ、次はどいつから『 鞘 の 錆 』になりたいんだ!?」


 タルトは咄嗟に、デザートの背に付けられたブレイバーの鞘に目をやった。

 見ればそれは、オペラベンダーの青い血に塗れていた。


「ららららーらららー!?!? いったいその鮮血はどういうこと!?」

「ららららーらららー!?!? まさか鞘でむねしげを斬ったというの!?」


「 「 そ ん な の 絶 対 あ り え な い ー ! ! ! 」 」


 もう全く歌えてないオペラベンダー二体に、魔王は哄笑する。


「はっはっはっはっは! 魔王が切れ味に頼る剣術を使うと思っているのか! オレ様にとって剣など飾りも同然! 故に刃がなくとも斬るべきものは斬ってみせる! それが王たるオレ様の剣術だ!」


「 「 そ ん な の 絶 対 あ り え な い ー ! ! ! 」 」


 オペラベンダー二体はリピートしながら電流を流されたように震えた。震えまくった。レベル30とはいえやはり魔王は魔王。並の魔物の感覚で戦いを挑んで事が運ぶわけもなかったのだ。そうして自らの失策を悟り涙の代わりにボトボトと花蜜をこぼしていたら、デザートは犬歯を剥いて笑みながら抜剣した。

 その凍るような刃の青さに、いよいよオペラベンダーは恐慌する。鞘で花が落ちるなら刃でどうなる? 想像もつかなかった。


「これが最後通告だ。エクレアを解放しろ。……このオレ様はな――」


 そこで魔王は、前魔王の直系だけに許された駆逐三原則を口にする。


「可愛いエクレアを可愛く扱わず、綺麗なエクレアを綺麗に扱わず。美しいエク……いた! な、何をするんだタルト!? いきなりオレ様の顔面に涙目でグーパンチとかいったいどういうつもりだ!? しかもなんだその『この女たらしの浮気者の鈍感のニブチンのアホタンチンのわからずやデザートのぶわーか!!』とでも言いたいような顔は!?」


「鈍いのか鋭いのかハッキリしてくださいよデザート様!」


「一体なにをそんなに怒っているのかオレ様にはサッパリわからないぞ!? オレ様はなにかお前を傷つけるようなことを言ったか!?」


「もう知りません!」


「あ! 待てタルトどこに行くんだ!」


 デザートは手を伸ばして静止したが、タルトは聞かずに密林の奥にかけて行ってしまった。

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