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魔法とスマホの魔界戦記RPG  作者: 常日頃無一文
第2章:ヘイヘイヘイ天界ビビってる♪ ヘイヘイヘイ天界ビビってる♪
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38:ブリージング・アブソリュート

 大天使長たる職位を利用して汚職悪行の限りを尽くし、贅沢とエゴの全開をコンセプトとしてアテネンに建造された巨大ビルのデルフォイフォイ。

 その最上階が吹き飛んで30分、アテネンが人混みならぬ天使込みで騒がしくなり始めた頃、今なおモウモウとした煙をあげる瓦礫の中で、二人の大天使がヨレヨレと立ち上がった。


 一人はアフロヘアーの真ん中をゴッソリと持っていかれてウグイスボールみたいなヘアースタイルになった大天使長補佐のアリストテレサー。

 一人はヒゲを全焼させられて貫禄の欠片もなくなったソクラテサー。

 一言で言えばボロ雑巾さえ憐れむような格好になった、本筋の黒幕二対である。


 すっかりと青空が見えるようになってしまった大天使長室で、二人は下のドヤドヤを聞きつつ放心状態となる。ああ終わった。詰んだ。マジ詰んだ。人生終わった。魔法とスマホの魔界戦記RPG第二部完。いくらなんでもこの騒ぎは弁解しようがない。弁明のセリフもない。程なく最高神あたりが飛んできて、黒焦げの自分たちを詰問し、0.5秒ぐらいで天界兵器をブッパしたことがバレるだろう。


「まだじゃ……」


 そんでその原因とか経緯とか展開とかを調べていくうち、芋づる式に自分たちの悪行が露呈していき、最後の最後には龍族の違法虐殺とかベルゼブブとバルバドスの違法堕天とかエクレールのでっち上げ堕天とかアリストテレサーが悪魔王だったとかいうもうハイパークリティカルなことがフルオープンになって、即日縛り首もありえるだろう。


「まだ終わっとらん……」


 あるいはこの騒ぎが魔界まで轟いて、最高神より先に魔王がピンク色の戦闘機に乗ってきてここに不時着し、『ぶるわぁああああ!!!』とか『あなごおおお!!!』とか叫びながら自分達をフルボッコにし、そのまま第三次聖魔大戦とかに突入するかもしれない。しらんけど。


「まだ道はあるわええええ!!!!」


 放心状態から起死回生したのは黒焦げ大天使長ソクラテサー。彼はそしてついに気でも触れたのか、再びその手を天界兵器の発射スイッチに伸ばし、人差し指をつきだしてかける。機器からは青白いスパークが散っており、なんだか随分と挙動が怪しくなっているが、それでもモニターなどは健在で、画面には忌々しいまでに歓喜に沸き返る魔界の雑草共が写っていた。


「ぐうううぬううううう!!!」


 欠けた歯を剥きだしてソクラテサーは怒りに震えるが、震えるが、すんでのところで押し留まり、発射方向を定めるキーを操作して対象を切り替える。


 そしてそして、新たに天界兵器の照準が捉えたのは、しかし。


 しかししかし。

 

 レッチリ砂漠にぽつねんと置かれたカボチャの馬車である。


 そう。


 生ける絶対――ブリージング・アブソリュート。

 魔王の愛娘にして天魔最強にして天魔最恐と謳われるフィナンシェ・エルヒガンテ。

 神さえも関わることを禁忌とした災厄。

 そんな彼女が乗る、馬車である。


「だ、だ、だ、だ、だ、大天使長様……?」


 この縛り首が確定した現状にあって、なおそれよりも恐ろしいことがあると言わんばかりに声かけてきたのはアリストテレサー。

 それにソクラテサーも、顔に脂汗をにじませて言う。


「も、も、もしワシらが。……い、いまから、いまからこの状況を挽回できるとするなら。て、天界兵器を放った言い訳が成立し、そ、そしてその正当性が認められ、れ、れ。し、しかも過去の罪まで、ゆ、ゆ、許される、る、き、奇跡があるとすれば……」


 ごぐん――と、一度喉を鳴らしてから言った。


 ――あのフィナンシェ・エルヒガンテが、再び天界を攻める意志を見せたため、やむにやまれず天使たちを救うために自分たちは天界兵器を放った。

 ――そしてこのデルフォイフォイ最上部の被弾はフィナンシェ・エルヒガンテの先制攻撃によるものであり、自分たちはその反撃として天界兵器を撃ったのだ。

 ――結果、大願成就。

 ――フィナンシェ・エルヒガンテの討伐に成功した。


「し、し――しかあるまい……?」


 ソクラテサーはカボチャの馬車にロックオンしながらそう言った。

 アリストテレサーは卒倒しそうになるのを堪えつつに言う。


「さ、さ、さすがは、さすがは、大天使長様です。し、しかしあのフィナンシェ・エルヒガンテです。ほ、他ならぬ、あのフィナンシェ・エルヒガンテです」


 討伐なんて、そんなの、ありえますか?


 そう尋ねた時、

 答えの代わりとして、

 ソクラテサーは、

 モニターを指さした。


 --------------------------

 名前:フィナンシェ・エルヒガンテ

 職業:魔王の眷族(生ける絶対:ブリージング・アブソリュート)

 LV:1

 HP:1(瀕死) MP:無限

 装備:宵闇の翼『ヴェスパー・ウィング』


 --------------------------



 そういえば、そういえば。

 以前に見た時も、

 どういう事情かは知らないが、

 フィナンシェ・エルヒガンテは瀕死になっていた。


 ――どうしたのだろう、もしかして大病を患ったのか。

 ――それともそろそろ寿命が到来したのか。

 ――あるいは前の大戦の無双ぶり、実は尾ひれがついたものであり本当は深手を追っていたのか。

 ―――ありえる、ありえるぞ。



 アリストテレサーの脳内でいろんな脳内物質がほとばしる。


 ――なにせあの龍帝でさえ落ちぶれたのだ、魔王の娘がよぼよぼババアになってたって不思議じゃない。

 ――『Arcadia戦姫ニュース』は天界で放送されていないから、自分たちは過去の歴史をそのまま現在のものとして恐れるより他はなかったが、しかし、実は、本当は、もう、


 

 ――フィナンシェ・エルヒガンテって、実は過去の遺物なんじゃね?



 アリストテレサーの脳内でいろんな脳内物質がほとばしりまくる。



 ――もしかするとこれは、


 ――本当にもしかすると、これは、



「い、いくらブリージング・アブソリュートとはいえ、こ、これは天界兵器じゃ」


 

 ソクラテサーの言葉で希望が滲み出る。



 ――メ イ ク ミ ラ ク ル 、 く る ? 



「ヒットポイントの1ぐらい、削れんわけが、ない!」


 ソクラテサーがそして、再びキーを操作する。

 照準がカボチャの馬車に合わさる。

 そして最終天界兵器の鈍色の砲身が、

 それにトレースするように、

 禍々しい砲口の向きを変えてゆく。


「ね、念の為にステータスの詳細を見て置きたがったが、いやしかしこの期に及んで他に道はないわい――――」


 覚悟はできとるの?


 震える人差し指が再び発射スイッチに伸ばされ、

 ソクラテサーにそう問われたとき、

 アリストテレサーはただ、黙って頷いた。

 ソクラテサーが笑う。

 目を剥き、口を吊り上げた、狂人のような顔つきで。


「さぁ、天魔を巻き込む大博打じゃ」


 カチリという音を立てたとき、アテネンで破壊の光が瞬いた。


 十数秒後、


 モニターに写っていたカボチャの馬車が、


 眩い光に包まれた。


 直後、激しい明滅。

 この距離からでも画面が乱れ、振動が伝わる。

 不気味な轟きに、アテネンそのものが震える。


「ぐぬぬぬ!!! い、一点特化破壊に設定してもこの振動!! さ、さすがは天界兵器じゃ!」


 これまで撃ってきたのは戦略利用目的での広範囲殲滅型。故に威力は分散されるが効果範囲はマップレベルである。しかしそれでも地図を改めさせるほどの破壊を引き起こした。

 そして今回は一点特化破壊型。効果範囲は精々で半径20m程度と極小ながら、そこに天界兵器の全威力が集中されるため、ダメージは図り知れない。そして実際、モニターには


 砂漠に底知れぬ深淵のような穴が、馬車の代わりに出現していた。


「「や」」


 幾星霜にも重なったであろう、地層断層が剥き出しになって、

 地殻は愚かマグマにさえ到達しているであろうこの威力。


「「や――」」


 そこにフィナンシェ・エルヒガンテの片鱗など、影も形もない。


「「やったああああああああああ!!!!!!!!!!!!」」


 ソクラテサーとアリストテレサーは抱き合って泣いた。

 泣いて笑った。

 笑って泣いた。


「「やったああああああああああ!!!!!!!!!!!!」」


 なんということだろう。

 かつて神が、

 かつて歴史が、

 勝てるどころか触れることさえ禁忌とした絶対の災厄を、


「「やったああああああああああ!!!!!!!!!!!!」」


 存在を忘れることさえ諦めた絶対の概念そのものを、


「「やったああああああああああ!!!!!!!!!!!!」」


 他ならぬこの自分たちが討ち果たしたという空前絶後の大偉業に、


「「やったああああああああああ!!!!!!!!!!!!」」


 彼らは己の成したこれまでの悪行と現状の絶望も何もかも忘れ


「「やったああああああああああ!!!!!!!!!!!!」」


「こんにちは、御機嫌いかがかしら? ()()使()()風情(ゴトキ)


 そして当然のごとく目の前に現れた御約束(ぜったい)展開(ルール)に何もかもが台無しにされて夢も希望も期待も幸福も歓喜も勝利も自分たちには爪の先程もありはしないのだという当たり前と当然と現実と理論と理屈と摂理と法則をマッハで理解して彼らは穏やかに思考停止した。


「――――――――――――――――――――――――――――」


 いま二匹の大天使(むしけら)が抱き合ったまま逝った。


「初対面の挨拶としては、少々おイタが過ぎてないかしらね」


 ――イエス。


 眼前に顕現したのは少女の形をした破壊の歴史。


 ブリージング・アブソリュート。

 フィナンシェ・エルヒガンテ。


 今しがた天界兵器で消滅したはずの破壊神。

 今しがた歓喜の代償として破滅したはずの悪夢。


 一体全体どういうわけか。

 それが目の前に佇んでいる。


 華奢な背からは魔族のしるしたるコウモリ翼を生やし、

 鮮やかな血色の髪を長いツインテールにくくり、

 胸元がハート型に開いたブラックレザーのボンテージドレスで細身を包んだ容姿端麗な少女。

 年齢不相応な色気と、歌うような声音のせいで大人びて見えるが、年の頃は15,6とも。


 そんな彼女がいつの間にか、

 腰が抜けたまま魂も抜けた二人の前に現れ、

 見下ろしながらうっとりと笑っていたのだ。


「私の15万6千4百2十1回0分針討伐の努力が水泡に帰したじゃない?」


 言いながらその手が落としたのは、

 黒焦げの小型ゲーム機。


「命を削ってようやく手に入れたのよ? 『天狼竜の碧玉』」


 そのときの僅かな衝撃で、

 天界兵器のモニターが誤作動を起こして、

 彼女の『過去ステータス』を一部表示する。


 解説:どういうことかしら。テーブル合わせも乱数調整も完璧なのに、どうしてこうも『天狼竜の碧玉』は私を拒むのかしら。かれこれ全部位破壊0分針討伐を9万回も繰り返しているのよ。ありえないわ。ありえないわ。ありえないわ。


「それに見合う対価を、支払ってもらうわね」


 100万ドルの笑顔で微笑んだ時に、天界兵器のモニターは再び誤作動を起こして、彼女の『詳細ステータス』を表示する。


--------------------------

 名前:フィナンシェ・エルヒガンテ

 職業:魔王の眷族(生ける絶対:ブリージング・アブソリュート)

 LV:1(気分次第。数字ごときに意味は無い)

 HP:1(気分次第。数字ごときに意味は無い)

 MP:無限(別に虚数でもいい。数字ごときに意味は無い)

 装備:宵闇の翼『ヴェスパー・ウィング』


 詳細:

 物理攻撃力:無限(めんどいからこれで良い) 

 魔法攻撃力:無限(めんどいからこれで良い) 

 物理防御力:無限(めんどいからこれで良い) 

 魔法防御力:無限(めんどいからこれで良い) 


 発動アビリティ:

 魔属性ダメージ無効

 聖属性ダメージ無効

 火属性ダメージ無効

 水属性ダメージ無効

 氷属性ダメージ無効

 雷属性ダメージ無効

 *:ただし気分次第で吸収・反射可能

 全属性異常無効(気分次第で食らっても良い)

 法則作成(ルールメイク)

 法則改変(ルールカスタム)

 法則破壊(ルールブレイク)

--------------------------


「――」


 そのステータス画面の内容をようやく飲み込んで、アリストテレサーは声にならない声で呻く。そしてようやく、神が『手を出すな』と禁忌した理由を悟る。


「そ、そんな無茶苦茶が……」


 呟いたのはソクラテサーで、


「そんな無茶苦茶があるかえええええええええ!!!!!」

 

 叫んだのもソクラテサー。

 彼はトチ狂ったように、いや、事実トチ狂って叫ぶ。


「HP1じゃ!? 防御無限じゃ!? 全属性吸収じゃ!? 気分次第で改変じゃ!? めいんどいからこれで良い!? ふざけんなそんなものが許されるんか!? そんな無茶苦茶がありえるか!? 馬鹿にするなこれは天界兵器の詳細モニターじゃぞ!? すべての真実を見抜く超精密機器じゃぞ!? たとえ誤作動とはいえこんな馬鹿げた数値が」


「ええ、その通り。たいそう間違ってるわね。その超精密機器(ガラクタ)


 生ける絶対がそして、

 血色の髪をサラリと流していう。


「私、 そ ん な に 弱 く な い も の 」


 いよいよ恐慌状態に陥るソクラテサーだが、

 彼女はむしろ、

 己が『あまりにひどい過小評価』されたことへの苛立ちに眼を細めて言う。


「少しばかり引きこもっているうちに天界のこのていたらく。私も舐められたものね。物理防御(ざれごと)魔法防御(たわごと)属性異常(よまいごと)も大概にして欲しいわね。寝言は寝て言うものよ。なればこそもう一度、寝かしつけてあげようかしら? けれどもその前に」


 彼女は人差し指を口に当て、星がまたたくようなウィンクを一つ。


 ――出血大サービスで教えてあげるわ。

 ――私の本当のステータス。


 そしてパチンと指が一つ鳴らされた時、モニターの表示が切り替わる。

 そしてそれを目の当たりにした時、ソクラテサーは己が石であれば良かったと願った。

そろそろお仕置きタイムです。

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