37:天界兵器は悪を穿つ
天界より撃ち放たれたのは言わずもがなの天界兵器。
試射で魔界の地図を書き直させ、本射で天界を壊滅させた災厄としか思えぬ破壊光弾。
地方都市アテネンで押されたスイッチと連動して、
中央にそびえ立った高層ビル『デルフォイフォイ』の屋上から、
禍々しき歴史を刻んだ鈍色の砲身が、
その口を覗かせている。
煌々と灼熱した先端はサイが投げられた証。
後には返せぬ凶行を物語る。
――――遡ること1分前。
「「どういうこっちゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?」」
ソクラテサーとアリストテレサーはビルを揺るがす勢いで同時に叫んだ。
顔の面積を口の面積が凌駕すんじゃねーかという勢いで開き、大声で叫んだ。
さもありなん。
これまでこのスコープでもって散々物笑いにしてきた、売れないこと確約された身の程知らずワナビユニット、適当デザインコンテスト優勝大本命の『アミーゴ48』が、
まさかまさかのまさか、これまで世紀単位の時間をかけて探し求めてきた龍族の残党だったというトンデモ過ぎる展開が起きたのだから。
「「どういうこっちゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?」」
一回では足りずもう一回叫んだ。叫ばずにはおれなかった。これまで彼らが血眼になって探してきた龍族の残党が、自分の絶対に知られてはならない真実を知る龍族の残党が、よりにもよってこの時この場この瞬間に現れたことが、もはや超常現象レベルの展開すぎて絶叫せずに折れなかった。
「大天使長様~~~!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
アリストテレサーは目を血走らせ、悪魔王出身をさらけ出す勢いで牙を剥いて叫ぶ。
「ブッパしちゃいましょう!!! ここで龍族共を始末しなくてはどのみち私たちはオシマイですブヒイイイイイイイイイイ!!! 奴らこそ最強最悪の生き証人ですううううううううう!!! ぶっ殺しちゃいましょうううううう!!!!!!」
もはやその形相は天界の大天使のそれではなく、魔界の悪魔王のそれである。
そんな魂の叫びに答えるようにソクラテサーもまた、血圧あがりまくってとうとう頭の血管から出血しつつ叫んだ。
「当然ジャー!!!!!!!! やったるわええええええええええ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
叩きつけられる人差し指。
スイッチは破滅の開始としてはあまりに軽快な、ポチっという音を立てた。
こうしてストッパー不在となって、天界兵器は発射されたのだった。
「「ぎゃはははははははははははははははは!!!!! 死ねや魔界と龍界と裏切り者どもがあああ!!! ぎゃはははははははははは」」
もう無茶苦茶なテンションになって泣き笑いながらモニターを指差す二人の大天使。彼らの涙目の先では、一条の光線が魔界に向かって飛翔する様子が映し出されていた。
モニター表示概略図:
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アテネン →(天界兵器) レッチリ砂漠
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――――かたやこちら地上。
「撃ってきたぜ」
太陽よりもなお輝く光の線に眼をすがめ、クイーンは笑う。
「で、こっからどうすんだい? まさかやるだけやらせといて、実は手がないなんて言わないだろうね」
なんてことは微塵も思っていないくせに、クイーンは肩をすくめて言った。
そして案の定、ポン太はそれに「まさか」と苦笑し頭を振る。
「何のことはない。単に前の大戦の焼き直しでござるよ」
と、天魔乖離剣『瑞雨』を――天を貫き地を穿つ暗剣を――再び八双に構えてから、
「さて各々方――」
護身を極めた剣聖が皆に号令を下す。
「これより護身仕る故にお手と得物を拝借。私と同じく八双に構えられよ」
言えば勝手知ったる者はそのように構え、
俺のように「八双ってなに?」なニワカ剣士は
「言うなれば『バッター』みたいな感じザンスよ。柄を両手で持って刃を体と並行に。……やれやれチンは刺突剣ザンスが大丈夫ザンスかね」
と教えられた。
後続が次々に構える。
「ボクは自分の爪しかニャいっすけど?」
「ウチも本やし」
「私はマラカスですが良いですかメイビー?」
なんていう、構えのままならないメンツに対して、皇龍妃はこういった。
「護身は武器を選び申さぬ。適当な枯れ枝でも拾われよ」
と。
そうしてゾロゾロゾロと、ゾロゾロゾロと。
みーみやエクレール達のみならず
俺達の後ろに侍るデビルアンツ・ネクロポリスの総勢までもが――。
――――得物を八双に構えてみせた。
俺は笑いを噛み殺す。
ここまでくれば何をなそうというのかだなんて、そんな無粋は言わない。
照りつける太陽。
構える武器。
背後に応援。
飛来する弾丸。
とくれば一つ。
「来たな」
笑うクイーン。
「いつでも良いぜベイベー」「全くとんでもないザンス」
笑うバルバドス、ベルゼブブ。
「一発必中や」「コントロールは覚えたな」
笑うティラミス、ジェラート。
「これでバコーンですねメイビー?」「たぶんカキーンっすよ」
笑うエクレール、みーみ。
「せーのでいくか?」「ではそのように」
笑う俺、ポン太。
やがて視界そのものを侵食するような白色光が砂漠を染め上げ、
しかし眩しさにも熱にも逃げず退かず眼を逸らさず、
ただ己と仲間を信じて団結し踏み止まるその場へ、
螺旋を描いて飛来する破壊弾を捉えた瞬間、
俺は腹の底から叫んだ。
「 せ ーーーーーー の!!!!!!!!!!!!」
振りかぶる撫子。
全員の全力。
そして。
響 き 渡 る 快 音。
「「「「 マ ジ で !?!?!?!?」」」
全員が叫ばずにおれない。
まさに掌返しというような、
破 壊 弾 の 真 逆 突 進 。
あっという間の出来事。
山なし谷なしオチなし意味浅薄。
一瞬にして青空へ取って返した災厄に、
俺達は歓喜ではなくポカンとなって、
ただ空を見あげていた。
――――かたやこちら天界。
モニター表示概略図:
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アテネン →(天界兵器) レッチリ砂漠
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「「ぎゃはははははははあははははははははははははは!!!!!! ぎゃははははははははははは!!!!!!!」」
地方都市アテネンの大天使長室。
モニターを見ながら指を指し、
涙と鼻水と唾を飛ばしまくって、二人の大天使は爆笑していた。
「「ぎゃはははははははあははははははははははははは!!!!!! ぎゃははははははははははは!!!!!!!」」
そして突然、なんか表示が怪しくなる。
モニター表示概略図:
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アテネン(天界兵器)← レッチリ砂漠
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「「ぎゃははははははははははは!!!!!! うそぉおおおおおおおおお!?!?!?!?!?!?!?!?!?」」
と身を乗り出した途端、画面が真っ白に光ったかと気付く間もなく部屋が吹き飛んだ。
――このとき
地方都市アテネンに飛来した光弾は奇跡的に直撃を免れ、
デルフォイフォイの最上階大天使長室をかすめるに留まったという。
いやほんと、日に2連、2日で3連とか何年ぶりですかね。
ソラネコHIT




