36:シャカシャカシャカシャカ♪ シャカシャカシャカシャカ♪ 2
「エクレール! それでアミーゴたち呼んで!」
主従による以心伝心。
すぐさまみーみの意図を読み取った俺は、彼女が言うよりも先に言い放った。
「わかりましたマストビー! これでイケイケでノリノリのダンスをしますマストビー!」
仲間による以心伝心。
俺の意図を正確に汲んだ測定不能天使は、マラカスを握った拳を天に突き上げ、ノリノリでそれを振り始める。砂漠にこだます空と太陽の律動。
「わっはー! さすがにあんな連中にまで煽られたら一気にプッツンやろな!」
「なにせセリフだって適当ですから!」
信仰と姉妹による以心伝心。
エクレールの意図を読み取った修道女二人は、やがて起きるであろう展開に早くも笑いを堪え切れず、ただ連中の出現をいまかと見守る。
「ん~? ワーデルモーデル? 国王陛下、これは何を始めてるザンスか?」
「ん~、バルバドスにも分からないベイベー」
腕を組んで見守る二柱の悪魔王。
「けど、ティラミスがあんなに笑ってるなら何か秘策なりがあるんだろう? ベイベー」
「一国の王ともあろう悪魔王が、無根拠に信じていいザンスか?」
ニィと笑う不浄の暴君。
「根拠のある信頼なんて信頼じゃないぜベイベー」
「ヒーヘルトベンデル。返す言葉もないザンス」
国王と臣下、そして信頼による以心伝心。
死者を統べる二柱の悪魔王もまた、なにがしかの登場を期待と共に見守る。
砂漠で楽しげに、無邪気に、マラカスを振って跳ねるエクレール。
本当に俺は吹き出してしまう。やっぱり、なんてふざけたエンディングなのだろうと。
隣でクイーンも、腹を抱えて笑っている。あまりにエクレールが可愛らしくて。
砂漠を震撼させ、
教会を震え上がらせた悪魔の蟻の統率者、
そんな彼女が、教会の偶像が可愛らしくて大笑いし、
それをしかし、同じく笑って見守る教会の修道女が二人いる。
かつての仇敵が、旧友みたいに肩を並べて笑ってる。
戦のさなかに笑ってる。
なんて光景なのだろうと思う。
最後に笑ってやると言い聞かせ、
今の辛酸に耐えるすべはある。
けれどもそれが、こんなふうに笑うラストになるなんて、誰でも予想できるものじゃない。
『シャカシャカシャカシャカ♪ シャカシャカシャカシャカ♪』
エクレールの鳴らす、愉快で楽しげで、そして軽快な音に、
誘われるようにして、誘われるようにして。
やがてジワジワと砂煙が立ち込め始める――。
「アミーゴ!!!」「アミーゴ!!!」「アミーゴ!!!」「アミーゴ!!!」
「アミーゴ!!!」「アミーゴ!!!」「アミーゴ!!!」「アミーゴ!!!」
そしてそんなすごく適当な歌詞と共に、
地中の砂がうごめき始め。
「「「「「アミーゴどいや!!!!」」」」
掛け声一つ、ポポポポポポポポポポンというコミカルな音と共に、
テンガロンハットを被った緑のハニワならぬ、
トゲのないサボテンが10人ぐらい(適当)、
俺達の前に飛び出してきた。
――マラカスを両の手に納めて。
シャカシャカシャカシャカ♪ シャカシャカシャカシャカ♪
彼らは振っていた。
ものすごく楽しそうに、振っていた。
シャカシャカシャカシャカ♪ シャカシャカシャカシャカ♪
俺は懐かしむように、しかしやっぱり冷めた目で見る。
その、10人のサボテン集団を見る。
ゴザル口調の皇帝ペンギンも許せた――、
変態に成長したキャットレディも許せた――、
素数を間違える測定不能天使も許せた――、
そんな心の広いステビアちゃんではあったが――、
――やっぱり
こ れ は な い と 思 っ た 。
一様に固まり、
文字通り珍獣を見たように目が点になっている、
俺たち総勢。
しかしそんなことなどお構いなしに、
デザインの微妙いサボテンが言う。
「アミーゴ!! そこのセニョリーター!!! アミーゴ!!」
なんか真ん中ぐらいのサボテン@トゲなしが、
エクレールにマラカスを差し向けて、
全力で語りかけてきた。
「ワシらをスカウトしにきたプロデューサーはあんたどいや!?」
「セニョリータどいや!?」
「天使どいや!?」
「可愛いどいや!?」
「ワシはどいやしかいえんどいや!?」
「以下略どいや!?」
哀しい勘違いとともに。
それにエクレールが目をキラキラと輝かせて、
拝むように両手を組んで、
「わぁああ! うわさ通りです……!」
まるで憧れの偶像を目の当たりにしたかのような、
そんな表情とともに、万感を込めて言う。
「本当にみなさん『イ マ さ ん』ですマストビー!!!!!!」
次の瞬間、
アミーゴたちは石化した。
彼らの夢は儚く消えたのである。
出現10秒で。
そしてみーみが耐え切れずに崩れ落ちた。
やり切れなさのあまりに崩れ落ちた。
そしてネコハンドをバンバンと砂地に叩きつけて嘆く。
「え、エクレールまじパネぇっす!! イマイチどころかイマサンなんて! そ、そんな太陽みたいニャ笑顔で言われたら! も、もう彼ら絶対に立ち直れニャいっす!」
しかしここで、
ここで。
真 の 超 展 開 が 発 生 す る 。
「…………姫様」
聞き違えではない。
断じて聞き違えていない。
サボテンの一体が、確かにそう言った。
「姫様じゃ……」
もう一体も、震えながら言った。
そしてその怪訝に眉をひそめたのは、
――――皇龍妃大風院ポン太。
「姫様じゃ!」「姫様じゃ!」「姫様じゃ!」「姫様じゃ!」「姫様じゃ!」
「姫様じゃ!」「姫様じゃ!」「姫様じゃ!」「姫様じゃ!」「姫様じゃ!」
予想外のリアクションを起こし始めたアミーゴに、俺は混乱する。『どいや』はどうしたんだ? じゃなくて、姫さまって一体どういうことだろうかと。
そしてどうやらポン太の方も困惑しているようで、
「確かに姫と言われて否定する身分ではござらんが、そなたらに言われる覚えは――」
と言いかけた時だった。
ついにそれは起きた。
音で言うなら、ババババババババ! という感じで持って、
アミーゴたちがマラカスやテンガロンハットは愚か、
本体そのものであるトゲなしの緑色ボディまでも、
そ の 場 に 脱 ぎ 捨 て た の だ 。
「!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?」
皆が絶句し目を見開いたその先、
アミーゴの『着ぐるみ』が散乱するその先、
その先そこに立っていたのは――、
ポン太が目をショックで見開き、
瞳を感動でジワリと濡らすその先で、
屹立していた十体――否、十人とは――、
「お、お前たちまさか……」
ポン太クラスに可愛らしい、巫女十人が感涙で目を濡らしている姿だった。
皆が唖然呆然とする中で、
巫女十人が一斉に叫ぶ。
それこそ、万感の思いを込めて。
「「「「「お久しぶりです! 姫様!」」」」」」
その声は先程のアミーゴからは信じられない、想像もつかぬ美声。
その声でもって更に、彼女たちが真相をぶちまける。
「「「「我ら龍族!! 先の大戦を生き延びこうして身を潜めておりました!」」」
ここで俺の頭に稲妻のように閃き思い起こしたのは、あの龍帝の言葉。
――――戦争で生き残った龍が、
――――今日まで報復として天界の天使たちに狩られ、
――――残りの龍は、天使の襲ってくるここにはもう居れんと
――――魔界へ降りていってしもうたんじゃ。
その意味を理解した時、俺は言葉を失った。
アミーゴたちはそう、
生 き 残 った 龍 族 た ち の 隠 れ 蓑 だ っ た 。
そう真相を理解し、
そしてそのフザケ具合も、
あの龍帝からすればやむ無しとしても
それでも――やっぱり
こ れ は な い と 思 っ た 。
石化する中でしかし、彼女たちのドラマは勝手に進行する。
「「「どうかこれまでの無礼無沙汰!! 平にご容赦下さい!!」」」
そうして巫女十人が一斉にひれ伏した時、
ポン太が叫んだ。
「バカ!!!」
涙を散らして、大きな声で叫んでいた。
「バカ!!!」
一度で足りず、もう一度叫んだ。
「許す許さないなんてそんなの! お前たちと私が言い合う言葉じゃないだろ!!」
と。
それはしかし、俺達の知らないポン太の言葉遣いで、
「お前たちを含めた私達が!! 大天使達に言ってやる言葉じゃないのか!!」
――だからこそ彼女の真実が、
「まだ終わってないだろ!! 膝をつくなよ三界の眷属たち!!」
――そこに込められているような気がした。
「聖魔大戦の継続を開始しよう!!!」
そして龍の巫女たちは立ち上がる。
「そしてお前たちに問う! アイツら許せるのか!?」
龍の巫女たちはそこで、ポン太の弾けるような笑顔に涙した。
がしかしすぐに、彼女たちも笑顔になって叫んだ。
「「「「「「絶対に許せません!!!!」」」」」
「そうだろう!! だったらそれを態度で示してやれ!」
ポン太の煽りに、巫女たちは「はい!」と力強く応答し、奮い立った。
おそらく彼女たち龍族の示しうる、最高の笑顔で以って。
そしてこれら一連の展開を、皆が銘々の笑顔で見守っていた。
ふざけんなとか、バカにすんなとか、いやネーよとか、
そんなツッコミを入れつつではあるが、でも。
エクレールやティラミス、ジェラートという天界組は、少し涙ぐんで。
そして。
クイーン、ベルゼブブ、バルバドスという魔界組は、やや好戦的な笑みで。
――ああ、そうか。
俺は彼らを見ていて、この流れの中にいて、今更のように気づいた。
俺とクイーンに続き、
此処にもう一人、物語の主人公がいたことを。
此処にもう一人、悲痛と過酷を背負っていたヒロインがいたことを。
「主人公が一人だけなんて、なんでそんな勘違いしてんだろうな」
俺が静かにつぶやいた時、
総勢が天を睨む。
新たな眷属を加え、
天界・龍界・魔界の三界が揃ったこの総勢が、
各々の得物を天に差し向けて。
そして再び始まる大合唱。
ただし今度は、
――――豪華な演奏付きで。
見ればなんという事か、龍界の巫女の得物とは、
まさかまさかの吹奏楽器だった。
三人はトランペット
三人はドラム
三人は笛
一人が陣頭指揮
――フザケ過ぎだろ!
心のなかで突っ込むも、体はそれに合わせてしまう。
太陽が徐々に上り始め、レッチリ砂漠は本来の温度に迫っていく。
ジリジリという熱が足元からのぼってきた時、
かつて教会でしたバカな想像が、
この土壇場で今と重なり蘇る。
――照りつける太陽、うだるような暑さ。
――夏の聖地甲子園。
――滲む汗、光る涙。
――ダイヤモンドで繰り広げられる、幾多のドラマ。
――スタジアムの観客たちが、ボックスの打者にエールを送る。マウンドの投手を穿てと。
――魔界チームVS天界チーム。
――両雄相対する、その中で、
――魔王にエールを送る、その名は龍帝応援団。
――旗手が大きな旗をはためかせ、楽隊が太鼓でリズムを取り、トラペットが主旋律をリードする。
――さぁみんなで応援だ。
――俺達が打球の追い風となろう。
――届け、俺達の応援エール。
――せーの。
「 ヘ イ ヘ イ ヘ イ 天 界 ビ ビ っ て る ♪ 」
昔から、魔界龍界フザケてんだなと思った瞬間、
空より一条の光が放たれてきた。
どんどんフラグは回収です。
しかしまだでかいのが最低二つ残ってます。
ほら、あの人とあの人、まだでしょ?




