35:ヘイヘイヘイ天界ビビってる♪ ヘイヘイヘイ天界ビビってる♪
「ビビってるじゃとー!!!!! ビビってるじゃとー!!! こ、こ、このワシがビビってるじゃとー!!!!」
「ぬぐぐぐぐぐぐ、お、落ち着いてください落ち着いて下さい大天使長様! 落ち着いて下さい大天使長様!!!」
天界の地方都市アテネンの大天使長室。
そこにはゆでダコのように顔を真赤にしたソクラテサーが最終天界兵器『口を慎み給え君は神の前にいるのだキャノン』のスイッチにプルプルと人差し指を伸ばし、それを顔真っ青にしたアリストテレサーが羽交い絞めで阻止しているという構図があった。
「堕天使ごときに駆逐寸前にまで追いやられた龍族の末裔ごときが、よ、よくもこの大天使長たるソクラテサーに『ビビってる♪』などと抜かしおるわー!!!!」
「は、は、早まらないで下さい大天使長様!!! 天界兵器の運用は慎重と万全を期して下さい!!! あ~~~、だからあんな塩分モリモリの塩ヤキソバ『とくもりや』食べちゃダメって言ったじゃないですか! 高血圧過ぎてハイパー暴走してるじゃないですか!!」
ソクラテサーはアリストレサーの言など聞かず、額に青筋を走らせる。
「おまけにド田舎フリプール村の貧民娘に魔眼の木精! あろうことか天界の巫女たる修道女までが!! よ、よりにもよってこのワシにーー!! いいじゃろうブッパしてやるわい! 魔界の形を変えてやるわい!!」
「だーーーかーーーらーーー!!! 大天使長様落ち着いて下さい!! お忘れですか先の大戦での敗因!! あの時も先代が龍帝の挑発『フガフガおっぱっぴー』にノって天界兵器ブッパしてここが吹っ飛んだじゃないですかー!!!」
「ぬぐわあああ!!! そんなものしったことかーー!!! 第一ヤツはまだ護身を開眼しておらんわい!! 所詮あくあまで次期じゃぞ次期ー!!」
「わ、私もそう思います!! し、しかし念には念をでもう少し雌龍のステータス詳細を見てからのほうが」
「そんなもん待っとれるかー!! ぐぬうううううう!」
そうしてアリストテレサーは必死にソクラテサーを止めつつも、皇龍妃のステータス詳細を表示すべく、辛うじて空いた片手でキーを操作し、スコープでロックオンしていた。
こちらに向け、煽りまくっている巫女衣装の麗人に向けて。
一方、
地上では――――。
大風院ポン太による指揮のもと、
ものすごい天界挑発が実施されていた――。
「「「 へ い へ い へ い 天 界 ビ ビ っ て る ♪ 」」」
地を揺るがし
天まで轟く大合唱。
「「「 へ い へ い へ い 天 界 ビ ビ っ て る ♪ 」」」
総勢はデビルアンツ全軍・ネクロポリス全軍。
それに加え先頭の俺たち。
「「「 へ い へ い へ い 天 界 ビ ビ っ て る ♪ 」」」
俺は撫子で、
ポン太は乖離剣で
ベルゼブブは刺突剣で――、
「「「 へ い へ い へ い 天 界 ビ ビ っ て る ♪ 」」」
バルバドスはトライデントスピアで、
みーみはディアルクロウで、
ティラミスは八咫烏の羽で――、
「「「ビ ビ っ て る ♪ ヘ イ!」」」
ジェラートはグリモアで、
エクレールは片翼で、
クイーンは眼で、
「「「ビ ビ っ て る ♪ ヘ イ!」」」
皆が銘々の武器の切っ先をアテネンに差し向けながら、
「「「 天 界 ビ ビ っ て る ♪ 」」」
おらおら撃ってこいよと
おらおらビビってんのかよと
「「「 ヘ イ ! 」」」
――――満面の笑みで罵倒する。
この状況、挑発の意味でもなくなんでもなく、俺はただ純粋に吹き出しそうになる。なんてフザけたエンディングなのだろうと。
魔眼によって過酷と苛烈を極めた蟻の巫女がいま、
それを与えた相手に怒りではなく嬉々として、
精一杯笑いながら挑発しているのだから。
「ふ~む、しかしなかなかノってこないでござるな」
ポン太は目を眇めてささやいた。
この大音声でも聞き取れた彼女の声こそ、これが紛れも無いイベントシーンたる証。『画面下』に字幕など入ってます。
などというメタ発言はさておき、
「まさかこれだけいて、数が足りないなんてないだろ?」
俺は横目でチラリと見ていう。
そしてポン太がそれに頷けば、蝿の王がヒゲをさすりながら言う。
「ベンデルスゾーン。この数でだめなら、足りてないのは量よりも質ザンスね。しかし……」
とベルゼブブは振り返る。
そこには目とか鼻とかヨダレとか飛び出しまくってるネクロポリスのゾンビ軍団が、あばばばばば! と手とか叩きまくって挑発しまくっていた。
ベルゼブブはそれを見ながら言う。
「これ以上に質の高い挑発を用意するのも、なかなか難しいザンス」
と。
実際そうだと思う。
なにせこの有様である。
今頃お空の上では大天使長だか大天使長補佐だかは爆ギレてんだろうなー、
と。
「あるいは、やっぱり前の聖魔大戦の敗因が引っかかってるんかもせえへんな」
とはジェラートさん。
「さすがにこんだけ煽られて我慢できるほど、二人は性格できてへんからな。単純に忍耐のリミットだけやないと思うけど」
彼女は明けの空を睨みつつ言う。
修道女が天界の天使に言うセリフでないのはさておき、それも一理あるよういに思われた。
「仮にそうとしても、二人揃って我慢できるほどやっぱり人格者とちゃうから、ここはどっちかがギリでストッパーやってると考えるほうがええで」
とはティラミス。こっちも修道女のセリフとしては悲しすぎる。
「だとするとそれはどちらでござろうか? そのソクラテサーという大天使長か、アリストテレサーか?」
ポン太が問いかければ、
「バルバドスは、やはり権力の強いソクラテサーが抑えてるんだと思うベイベー」
そう答えるネクロポリスの国王。しかし
「ワーデルモーデル、しかし王の暴走をチンが止めるように、ソクラテサーの暴走を補佐たるアリストテレサーが制している可能性も?」
異を唱えるのはベルゼブブ。しかし
「どっちだって良いじゃないか」
ニィっと、不遜に笑うのは蟻の女王。
「もしもどっちかがどっちかをギリギリで抑えてるってなら、どっちであろうとそのギリギリをぶっ飛ばせば良いんだろ?」
なんて男前なことを言いながら一歩前に出ると、彼女は「すぅ……」と息を吸い込んで
「 さ っ さ と 撃 っ て き な よ 根 性 な し が ! ! !」
破裂音にも似たその怒声。
この大合唱を雑音とあざ笑うかのような衝撃は、空の雲をまっすぐに切り裂いた。
――かたやこちら天界。
「「のわああああ!!!」」
というマヌケな声が二人分。
クイーンの大喝が放たれた瞬間、モニターに亀裂が入って思わず飛び退いたソクラテサーと、急に力のベクトルが変わってバランスを崩したアリストテレサー。
その二人が転倒した時にあげた声だった。
――ふたたびこちら地上。
「て、天界兵器の発射装置から指が離れましたマストビー」
エクレールが言う。それにクイーンは眉をひそめて
「本気でビビらせちまったか……」
「遠距離恋愛ならぬ遠距離恐喝っすね。まじパネェっす」
ネコ娘はそう言ってから、「にゅ~」と唸りながら腕を組む。
「天界兵器を撃たせるには、ネクロポリスのゾンビ軍団よりもフザけた連中が必要ニャんすよね~。いるっけかな~、そんなの」
キャットレディ、首をかしげる。尻尾もハテナの形に傾げる。
普段はいざしらず、ぶっちゃけこういう時のみーみは期待して良い。
非常に期待して良い。
わくわくと彼女を見守っていたら
「ん~……ニャかニャか思い当たらないなぁ~。やっぱりそんなの」
いかん、みーみの2bit頭脳が早くも限界を! ←非常に失礼。
俺は「んん!」と喉を整調してから彼女に
「お願い頑張ってみーみ。あとで一杯なでなでしてあげるから」
なんて俺らしからぬ声で言えば彼女の目はそれはもうキュピーンとなって
「御主人様の『初めて』がもらえるなら喜んで!!!!」
「いまひどい改ざんがあったよ!?!?!?!?」
「構わんネコ娘、続けな」
「蟻娘は黙ってろ!」
こちとら死活なんだよ! と抗議しかけてすぐ、実にすぐに、
みーみの頭にピコンと閃いたような電球が灯った。
そして一言。
「いたっす!! すげーフザけたヤツ!」
次の瞬間、皆の期待を背負った彼女がネコハンドで指さした先、それは。
「え、エクレール!?!?」
という俺の素っ頓狂な声の通り、みーみはエクレールを指指していた。
そしたらティラミスが
「こらー!! 人の崇拝対象に対してなんていい――」
「じゃニャいっす!!」
と、身を乗り出しかけたティラミスを制するように言って、彼女は解を示す。
「それっす!!」
再びネコハンドの示す先を落ち着いてみれば、やはりエクレールが目をパチクリとさせていたのだけれども、しかしさらに注意深く見れば、その先は。
彼 女 の 持 つ マ ラ カ ス だ っ た 。
いよいよクライマックスですかね~
ぼちぼち来るんじゃないでしょうか?




