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魔法とスマホの魔界戦記RPG  作者: 常日頃無一文
第2章:ヘイヘイヘイ天界ビビってる♪ ヘイヘイヘイ天界ビビってる♪
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24:信仰と奇跡と勝利

 レッチリ砂漠で躍動する都合二組。


 聖雷エクレールの蒼き炎を加護として突き進み、さながら舞いのように優美かつ美麗にデビルアンツを狩っていく俺とみーみ。


「さぁさぁやっちゃってください御主人様♪」


「もちろんやっちゃうんだぜ我が護衛♪」


 みーみの両足ダブルネコソックスに跳ね上げられたデビルアンツの巨躯4つに、俺の撫子が巻き込むように「わっしょい!!」と殺到した。


 気合とともにはじけ飛んだ4つの首。

 みーみの踊りの熱にあてられた身体は、ほだされるように装飾的な舞踏となっていた。

 ツヴァイヘンダーたる撫子の重量に、体重を上乗せした、空中前転からの真向両断斬り。おおよそ実戦では絶対に成立しない大振りだった。もちろん実戦でなくとも、俺にこんなアクロバティックものは放てない。一重にこれは、コンビネーションによる運動能力上昇の賜だ。

 振り切った大剣に、当然のごとく流されていく俺の身体。

 無防備極まりないそのスキを、しかしピタリと埋めるのが彼女みーみ足捌スタイラー。ダンシング・ハンティング・マーシャル・アーツ。


「御主人の誘いに乗ったら終わりっすね♪」


 流れる俺の身体に食いつこうとした一匹のデビルアンツが、哀れデュアル・クロウ『メロディック・スピードメタル』の餌食となる。

 キャットレディの六爪が、閃くように鋭く疾走はしる。直後、四肢を斬裂されたうえに蹴りあげられ、無防備のまま浮き上がるデビルアンツ。その首めがけ、


「わっしょい!!」


 打ち下ろされる断頭台のような撫子の一撃。デビルアンツの首が舞い飛ぶ。


 みーみが軽快なフットワークで撹乱し、

 俺が渾身の力で撫子を振るう。


 コンビネーション・アタック『舞踏剣士』。


 その役割は護衛ディフェンスである。


 かたやティラミスとエクレール。

 この舞踏の間に十全な力を蓄えたであろう、七色の艶を放つ黒い尾羽根。ティラミスが自らの意志で選びとった魔法の触媒『八咫烏やたがらす』。振り上げられたそれが、エクレールの抑えきれぬ魔力奔流を青白いスパークとしてバリバリバリとたぎらせている。

 ティラミスは肌身でそれを感じ取ると、目を悪魔の蟻へと向けた。


 ティラミスが吠える。


うな れ いかづち!!」


 振り下ろすと同時に魔力は一斉解放。

 デビルアンツの軍勢そのものを叩き割るかのような勢いで、聖なる雷は疾走する。


「きゃ!」


 っと、怒涛のような明滅に伏せってしまう俺達。無害だと分かっていても、身体が反応してしまう。

 かたや直撃したデビルアンツたちは、測定不能天使の鉄槌という想像を超えた熱量で、苦悶の間もなく蒸発する。しかしなおその痕を、悲鳴のような唸りをあげてほとばしるのは、魔を払い聖を守る浄化にして選別の炎。


 もちろんこれで終わらない。

 間髪入れずに直交する第二波。


たけ れ いかづち!!」


 ティラミスは八咫烏の羽を今度は横に薙ぐ。

 天空を裂いた蒼の閃きが再び顕現し、今度は悪魔のアリを分断するよう横一列に襲いかかる。


 俺はやっぱりふせった。

 そして言う。


「くるぞみーみ!」

「合点承知!」


 耳を二人で塞いだ直後、爆鳴とともに天に立ち上る聖青色の十字トーテンクロイツ

 叫び声のようにうねりあげ、天を焦がすばかりに燃え爆ぜる、蒼き炎。


 それはデビルアンツたちを瞬く間に蒸発させる一方、しかし俺達にはすす一つ付けはしなかった。

 

 奇跡の顕現といって差支えのない、その青の火柱を俺達は呆然と見上げる。


「……すげー」

「……まじバリアっす」


 そしてまたまた、自分たちの両手に絡みつく炎の無害さを認識してしまう主従コンビ。殺到するそばから消えるデビルンアンツは、もはや驚愕を超えて滑稽でさえある。

 青く燃えるみーみは後方を振り返って言った。


「正直、大天使エクレール舐めてたっす」


 俺はそんなみーみを叱れない。


「俺もだわ」


 彼女には、ただ苦笑だけを返した。

 ティラミスの後ろで膝を折り、目を閉じて手を組むエクレールの姿は、無垢な少女そのものなのだから。


 俺は再び、撫子を背負うように構える。


「さて、そろそろ『バリア』もきれるぜみーみ」


 みーみが、俺のがら空きの胴を守るように前に来る。


「それではいきますか♪」


 青の炎が途切れた直後、2人は再び一組となって地をけった。


 そうして俺達は、デビルアンツの群れを削っていった。

 

 愚直なまでにエクレールに狙いを定めた悪魔の蟻。

 その先頭に俺達は立って撹乱し、そのスキに魔力を蓄えたティラミス達が、聖雷『エクレール』で一気になぎ払うという戦法。


 俺達ディフェンスが攻めて

 彼女達オフェンスを守るという

 ある種の奇妙な戦法。


 現状のところ死角はない。


 ティラミスの触媒に、エクレールの魔力が充填される間のみ、撹乱すればいいのだ。

 ただ、それだけのこと。


 ――――ただし、


 一つ目、エクレールの魔力が続くこと。

 

 二つ目、俺達の体力が続くこと。

 

 三つ目、デビルアンツが方針転換しないこと。


 これら作戦維持条件が三つ揃っている限りにおいて、であるが。


 しかしそれは早々に破られる。


 レッチリ砂漠に6度目の十字が燃え上がった時に、

 一匹のデビルアンツが号令をかけたのだ。


「フタテ ニ ワカレロ」


 泥のようにおぞましい声。

 その瞬間、エクレールを狙う楔形の陣形は、俺とみーみを避けるように真っ二つに割れた。


 しまった! と思ったのもつかの間


「アノ エサ ヲ ハサミウチ ニ シロ」


 再び泥のような声が響く。俺はすぐさまその意図を察して、舌打ちした。

 これでもうこの戦法はつかえない。

 デビルアンツの方針転換。

 即ち、崩された作戦維持条件は3つ目だった。


 これまで、デビルアンツたちは全軍が一丸となって一点突破を狙ってきたがゆえ、俺とみーみはその先頭を撹乱していればよかった。そこさえ止めれば、エクレールにもティラミスにも危害は及ばないから。

 しかしこうして、群れを二つに分けられては、俺達がどちらか一つを抑えていても、残る一つがティラミスとエクレールに向かってしまう。

 エクレールは魔力供給特化のようで、攻撃力は桁外れながら防御力は極めて低い。なにせHPは、ティラミスの1500のまま。故に、デビルアンツの群れに襲われたらひとたまりもないのだ。


 かと言って、俺とみーみが別れて対応するのもまた不可能。

 これまでデビルアンツの先頭を相手にしていられたのは、言うまでもなくコンビネーションアタックのお陰だ。それを解除してまで立ち向かえるほど、俺達は強くないしアイツらは弱くない。


「くそ! とりあえずこっちだみーみ!」


 俺は彼女に号令して、二手にわかれた群れの、向かって右側に飛び込んでいった。一方しか止められないからといって、両方止めないわけにもいかないからだ。

 そして先程と同様に、デビルアンツたちを舞うように駆逐していく。阿吽の呼吸で、着実に削いでいく。しかし焦る俺の横目は、エクレールたちめがけていくもう片方の大群を認めている。

 焦燥が激しくなる。

 どうすればいい。あの群れを止めるには、一体どうすればいい。どうすれば、俺達がこの群れを担当しつつ、あの群れを止められるのだ……。


 ――あ。


 そこで俺は、ここにきて絶望的なことに気付いた。

 このデビルアンツたちが、群れを分ければ良いというシンプルな発想に気付いた時点で、それが致命的な未来をもたらすということに。どうしようもなく、絶望的な未来が、すぐにやってくるということに。


 なにせビルアンツはいま、大群これだけの数がいるのだ。


 何も二つと言わず、


 四つでも五つでも、

 六つでも七つでも、

 群れを分けてしまえばいいのだ。


 分けるだけ分けて、

 四方八方からエクレールを襲えばいいのだ。

 そうなれば、俺達にエクレールを守ることはできない。


 くわえて、


 群れが離散するほど、エクレールの直線的な攻撃は効果を発揮できなくなる。

 究極を言えば、このまま『乱戦が有利』と気付かれたらおしまいなのだ。


 アリとえば、ひとつの命令系統で動く集団行動の代名詞のような存在だ。本性的に乱戦に持ち込むということはしないだろう。

 しかし、俺達の相手はデビルアンツである。

 彼らには本姓に勝る知性がある。だからそれに気付けばアリとしての本姓を覆して、乱戦に持ち込んでくるだろう。


 そうなれば、もう本当に、俺達にはどうしようもない。


 エクレールたちを守るすべはないし。

 エクレールが攻撃するすべもまたない。


 そこに気づかれたらおしまいだ。


 そしてこの分断はそれに気付きつつある証左。


 ゆえのこの絶望。


 こうなったら仕方ない、


 いや、


 『そう』なる前にこうしよう。


 俺は決意する。

 2人には今のうちに、逃げてもらうしかない。


 しかしどこへ?

 それを決める猶予はもうない。

 ひとまず後ろだ。


 そして俺が彼女たちを振り仰ぎ、逃げろ! と叫ぼうとした時だ。


 目に飛び込んできた光景に愕然となった。


「……え?」


 口から自失の言葉漏れた。


 ティラミスが、

 エクレールのもとではなく、


 俺達から別れていった、もう片方の群れの先頭、


 そこに一人で、立ちはだかっていたのだ。


 その姿に呆然となり、俺は自分の瞳孔が散大するのを感じた。


 彼女は一人だ。

 一人でいる。


 信じられない。

 コンビネーションアタックを解いている。

 そしてデビルアンツに立ちはだかっている。


 一体何を考えている?

 まるでまるでそんなの、自殺行為だ。


 ティラミス、お前一人で何ができる?

 早くエクレールと一緒に逃げろよ。

 せめてコンビネーションは解くなよ。


「……どうして?」

 

 ショック状態に陥って、思わず呟いた時だ。

 しかし。


 俺 を 違 和 感 が 襲 っ た 。


 その違和感が感覚を加速させ、

 1秒を100秒にまで引き伸ばす。


 俺の目は、その違和感バリバリの彼女に釘付けとなる。


 ――――おかしい。


 すごく、おかしい。


 とてもおかしい。


 何がおかしいのか?


 列挙する。


 ティラミスが、ダージリン教会に忘れてきたはずのグリモアを、手にしている。

 ティラミスの顔が、どこか前よりも、さっきよりも精悍で、すごく大人びている。


 ――凛々しい。


 そして。


 ティラミスの頭上に、どういうわけか。


 天使輪エンジェルリングが 浮 か ん で い る。


 ――――おかしい。

 おかしすぎる。


 一体何が起きているのだ。


 呆然を超えて混乱までする中で、その彼女は、グリモアを高らかと掲げてみせた。

 まるでこれより、真相をお目にかけると言わんばかりに。

 ティラミスには有り得ない、好戦的な笑みを浮かべて。


 そして彼女は、こう言った。


「こんな有様ではおちおち天界にもおられんで!」


 と。


 ――天界にもいれないだって?


 なお一層混乱する中、彼女はこう続けた。

 ティラミスよりも、なお『流暢』なレッチリ弁で。


「しっかりしいやティラミス・ダージリン!!」


 彼女は叱咤するように、ティラミス・ダージリンと言った。

 それはまるで、妹の世話を焼く姉のような口調で。


 俺がその意味を理解する前に、


「――――!!!」


 感極まったティラミスの声が、聞き覚えのある名を叫んでいた。

 それも別の場所から――エクレールのいる場所から。


 俺は胸の高鳴りを落ち着け、状況を整理する。

 今の声は確かにティラミスだ。

 そして声の位置は、エクレールのいる場所からだった。


 それはつまり、

 エクレールとティラミスのコンビネーションは解けていないことを意味する。


 故に、

 いま俺の見ている彼女は、ティラミスではないことを意味する。


 即ち、

 消去法的に、

 今のセリフ的に、

 会話の流れ的に、

 容姿的に、


 彼女こそ――――。

 彼女こそダージリン修道会の前修道女長の――。


「久しぶりやわ~、この感じ!!」


 彼女は俺の答えを待つまでもなく、目前にまで殺到してきたデビルアンツたちの前にグリモアをつきだした。


「それから、雷はこないして使うもんやでティラミス!」


 そしてかつて、ダージリン教会を襲ってきたデビルアンツたちをたった一人で退かせたという――、

 そんな奇跡エピソードの再現をやってのけた。


クリー エクレール!!」


 裂帛のような気合一つ。その直後、空より光の帯のような稲妻がデビルアンツの先頭を穿ち、布を引き裂くような音を立ててのた打ち回った。 

 激しく鋭い明滅。

 青白いスパークが散乱させながら、青の稲妻はデビルアンツたちを一瞬で硬直させた。

 その威力は聖雷エクレールに遠く及ばないが、

 それでも練度は圧倒的にこちらが上だった。

 明滅する光の帯は、聖雷のような単純な疾駆に終わらず、群れを蹂躙するようにジグザグと逆行していき、迅速に『殲滅』に追い込み始めたのだ。

 彼女は言う。


「雷を放つだけでは単なる自然現象や! 操ってこその奇跡や! ティラミス! これがうちからの最後の宿題や!」


 そして己を誇示するよう名乗りをあげる。


「このライトニング乙女メイデン、ジェラート・ダージリンからのな!」


 その時みーみが舞のさなかにあって、歓喜から大きくネコハンドを突き上げた。

 ジェラートの放った雷の勢いは、まるでデビルアンツの群れそのものを奇病におかし、端から石化していくかのようだった。

 そんな有様に見えるほど、デビルアンツたちは端からみるみる炭となっていくのだ。


「わっはは!! まじっすか!?!?」


 まるで龍のように駆け巡る雷の乱舞に、みーみはテンションMAXだった。俺も思わず、撫子のコントロールを失敗しそうになるぐらい釘付けになっていた。


「フタテ ニ ワカレロ」


 再び、デビルアンツの泥のような号令。ジェラートに殺到するのは、これまでと二の舞と踏んだのだろう。再び群れを割るように支持してきた。

 そしてそれを受けてすぐ、彼女に襲いかかっていたデビルアンツたちはさらに二手に別れ、一方がエクレールたちの方へ転身していく。


 まずい。

 群れがどんどん離散していく。

 俺は再び焦燥した。


 が。


「逃げなや」


 ただ一言。

 光の帯はそれで急転し、エクレールたちに向けた群れめがけ神速で襲いかかった。


 再び激しい明滅。

 布を引き裂くような炸裂音。

 迸る青いスパーク。

 炭とかしていくデビルアンツの群れ。


 彼女は、雷は操ってこその奇跡といった。

 ならば間違いなくこれは奇跡だった。


 ――雷が御されている。


 ダージリン修道会前修道女長、ジェラート・ダージリン。

 ライトニング乙女メイデン

 

 その真髄だった。


 ――――そしてその先に、


 涙に濡れて突っ立ち、八咫烏の羽根を握り締めるティラミスがいた。

 唇をキュっと引き結び、拳を作った手は震え、目からは大粒の涙を、ボロボロとこぼしていた。

 彼女の状況は、茫然自失にして戦意喪失。

 こんな火事場に何をやってるのかという現状だったが、しかしそれでも、これが彼女にとってはやっとだった。いまにも泣き崩れんばかりの暴発的な思いがこみ上げていて、それを寸でのところでぐっと堪えて、震えつつもなんとか自分を保っている状態なのだ。

 そしてこうして、いま自分が棒立ちで泣いていることに、しかし彼女は、なんら恥ずかしいと思っていなかった。こんなのは当たり前だと、当然だと思っていた。

 いや当たり前どころか、むしろ今の状況に自分を追い込んだ、このジェラートにこそ責任があるとさえ思っていた。そしてその気持ちを一言で形容するなら、『卑怯ずるい』だった。


 だって


 彼女の揺れる瞳の先には、

 さっき心の中で決別を告げたばかりの、

 どうしようもない憧れが、


 よりにもよってこの土壇場で、

 思い出よりもなお眩しい勇姿で、

 ニィっと笑っていたのだから。


 ――ひどいよ、ジェラート姉さん。


 ――私やっと、姉さんを卒業できたのに。


 ――こんなの、あんまりだ。


「泣いとる場合ちゃうやろ!!」


 ジェラートの声は叱咤のように鋭かったが、しかしやはり、にじみ出る再開の喜びは隠せなかったらしい。どこか嬉しげだった。


「さっさとあのデカイのやったれや!!」


 そして吠える。


「ダージリン修道会修道女長ティラミス・ダージリン!!」


 その言葉に、ティラミスは落涙をやめた。

 彼女のその言葉に、一切合財が吹っ切れたのだ。

 ティラミスは八咫烏の羽根を再び大きく振り上げ、しかしそれを払う前に、


「ジェラート姉さん!!」


 わざわざ天界より堕天してきたらしい、姉と慕った憧れを睨みつける。


「はっきり聞かせてくださいジェラート姉さん!!」


 大きな声で、そして地声で彼女は叫んだ。


「なんやティラミス!!」


 雷を操りつつも、威勢よく応答する憧れの姉。

 それにティラミスは、積年の思いをここ一番の大声でぶつけた。


「 あ の 時 の 破 門 は 撤 回 し て く だ さ い ! ! 」 


 それはジェラートが臨終の間際、ティラミスに言い渡した、優しくて容赦のない遺言のことだった。


 ダージリン修道会は、自分ジェラートの死をもってたたむから、ティラミス、お前は砂漠を離れろと。修道女の身を捨て、外で人並みの生活を手に入れ、幸せに暮らせと。そうしてティラミスにかけた、ジェラートの無慈悲な優しさだった。

 その思いやりが、ティラミスにはどうしても許せなかった。

 あまりに無責任で、あまりに無神経で、あまりに身勝手な、その思い込みが許せなかった。

 冗談じゃない。

 この信仰も、この身分も、これまで強制されてやってたんじゃない。

 好きでやって、望んでなって、憧れてずっと続けていたのだ。何をおいてもこれと自分の意思で定めて、レッチリに残ったのだ。誰かにどうこう言われて、いやいや続けられるほど、自分は我慢強くもないし、心の弱い人間ではない。

 ――見損なうな。

 それなのに。

 それなのに私のこれまでを

 それなのに貴方のこれまでを

 一緒に過ごしてきたこれまでを

 『死』ぐらいで冒涜してんじゃない。

 ――見くびるな。

 しかもそれをよりによって、ジェラート・ダージリン。

 他でもない憧れの貴方が、他でもない自分ファンに言いますか?

 純粋なティラミスの本音いかりだった。


 しかしそれを、今この場で問いただすのもどうかと思ったが、しかし自分の知らぬ間に弱り、なんの心の準備もないまま唐突に死んでしまった彼女ジェラートのこと。油断したらまた聞きそびれるかもしれない。

 今彼女がここにいる事自体、何かの間違いか、あるいは奇跡なのだ。

 ならばやはり、この場で聞くしかあるまい。

 ティラミスとっさの判断に理由を与えるならば、そんな辺りか。


 そんな重要で切実なティラミスの問いかけながら、しかしジェラートは吹き出した。


「破門やって!?」


 吹き出してこう応えた。


「 そ ん な ん ウ チ 言 う た っ け ! ? 」


 と。


 ティラミスが、その、あんまりにしてもあんまり過ぎるその言葉に、アホみたいにポカーーーンとなったとき、

 ジェラートは畳み掛けるように、こう続けた。


「だってウチ、レッチリ人やし都合の悪いこと覚えられへん!」


 ティラミスもそれには吹き出した。

 お腹を抱えて盛大に吹き出した。

 許されるならばその場に突っ伏して大声で泣いて、大声で笑って、そして飛びつきたかった。


 仮にも修道女長が天界の禁を犯してまでやった破門が、いったいなんという言い草だろうか。


 ――撤回どころか

 ――都合悪くて覚えてないだって?


 笑わせるな!

 泣かせるな!


 やっぱり最高だ!!


 ティラミスはありったけの感情を込めて叫ぶ。


「ジェラート姉さんの、ぶわーーーか!!」


 そしてその罵倒に笑顔まで返されては、もう迷うべきものもなければわだかまっているものもない。

 何もない。

 これ以上ないぐらいスッキリした。


 最後の涙を拭ってから彼女は、再び八咫烏の尾羽根を振り上げ、ようやく振り払った。

 ジェラートも、ティラミスの阿吽を読んで合わせ、グリモアを突き出す。


 さてそれではお待たせ致しました。


 これよりお目にかけるはダージリン修道会新旧の修道女長による合わせ技、


 奇跡中の奇跡。


 魔なるを払い聖なるを称えるエクレールの祈り、


 ――真実本命。


 正真正銘の測定不能メイビーマストビーです。


 とくとその身でご賞味くださいませ。


 ――デビルアンツ。


 二人が揃って吠えた。 


「 「 さけ べ エクレール !! 」 」


 新旧2人の修道女長の祈りと、

 新旧2人の修道女長の触媒に、

 このとき測定不能天使は、


 最大の奇跡でもって応えた。


 立ち上がった大天使。

 穏やかな祈りを続けていた彼女が天を仰ぎ


「 マ ス ト ビ ー ! ! ! 」


 魂からのさけびをあげる。


 世界を染める聖色の閃光が辺りに放散された直後、


 デビルアンツの大群に、


 天をつくほどの聖青色の十字トーテンクロイツが、


 轟々と次々と、


 まるで墓標に連なる十字架のごとき数でもち、


 怒涛のごとく砂漠に穿たれていった。


 ――――そして巻き起こる聖雷の悲鳴いちげき


 砂漠そのものが、青々と燃えた。

 次々と燃え爆ぜた。


 天界も魔界も鳴動させるほどの、爆発的連鎖反応。


 測定不能の奇跡が執行され、瀑布のように轟く世界。


 悪魔の蟻たちを容赦な断罪する裁きの光は、


 もはや彼らに蒸発さえも許さず


 質量さえ残さぬ、純然たる『無』への帰還を決行した。


 そびえ立つ青の十字群モニュメントを見上げる俺たち。


 大天使に抗うということの意味をまざまざと見せつけられて、

 ただ俺達は青一色の中に佇み、

 諦観のような心持ちで絶句していた。


 無意識に浮かべた、『ステータス画面』を見るまでは。


 名称:ティラミス & ジェラート & エクレール(イベント限定)

 コンビ名:信仰と奇跡と勝利(裁きの光:ブライトニング・ジャッジメント)

 LV:250万(共有)

 HP:1万(共有&上方修正) MP:0/1京(共有&上方修正)

 装備:聖触媒『八咫烏』 & グリモア『エクレール』 & 純潔の翼『ブライダル・ウィング』

 解説:ティラミス&ジェラート&エクレールによるイベント限定コンビネーションアタック。測定不能天使エクレールの全魔力を放つ公式オフィシャル反則チート魔法アタック、『ブライトニング・ジャッジメント』が使用可能。一京という魔力が解放される時そこは奇跡の跡地となり、そして魔界そのものが青の墓標となる。イベント限定技。防御力無視の聖属性全体攻撃。たぶん兆ダメージ。ボクの考えた最強技レベル。


 俺は静かに呟いた。


「これはひどい」


 そして俺達よりも、ティラミス達よりもさらに後方。

 そこで腕を組み、つややかに微笑みつつ


「どうにか間に合ったでござるな」


 と安堵する、今回の隠れ功労者な男の娘に気付くには、もう少し時間がかかるのだった。

 

クライマックス? いいえ(爆

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