23:忠誠と親愛、そして信仰と崇拝
デビルアンツの大群はまるで黒い津波のようで、おびただしいというより、おぞましくさえあった。
平常であれば夕暮れの黄昏、レッチリ砂漠の砂丘は、美しい黄金に輝くはずなのだけれど、いま地平は、真っ黒に染まっている。
それは数えるのさえバカバカしい数だ。
どうしてなら、黒い津波を構成する一匹をカウントしていくなんて、波を一滴一滴カウントするようなものだ。
「ドモホルンかよ」
呆然と呟く。
とりあえずそんなものが俺達のいるここと、俺達を超えた先にあるダージリン修道会を目指してうねって着ているのだ。
――冗談じゃない。
俺はそこから目線を切り、スマホを取り出して通話ボタンを押した。相手はもちろんフィナンシェお嬢様だ。
もはやこれは、俺達だけでどうこう出来るようなものではない。そしてこの期に及んで、ティラミスとの間柄だとかエクレールが大天使だとか構っている余裕もない。いまは間違いなく、お嬢様の力必要だ。
「10万……はいるんじゃないっすかね?」
みーみの声にぞっとなる。
俺はまだかまだかとスマホを耳に当てつつ、迫り来る悪魔の群れを睨んでいた。早い。思った以上に早い。最初のあの一匹――恐らく偵察の一匹――とは随分と距離があったように思われたのに、もうすぐお互いを視認できるような距離にくる。
俺は焦る。まだかお嬢様は。まだかお嬢様はと。
そこでスマホから電子音。
『おかけになった電話番号はYO、現在魔界電波の届かない位置か、電源が切れておりますYO♪ 残念でしたYO♪』
響いてきた自動アナウンスがほがらかに絶望的だった。
俺は叩き付けそうなる衝動をこらえ、しかし
「安定のソフティーめ!」
と一吠えだけした。
「ボクのスマホは『ドコデモ』っすけど、同じく繋がらないっすね」
とはみーみ。彼女は言ってスマホをしまい、そして迫り来る群れを睨みすえた。
「もしかして御主人の御主人、スマホ充電してないんじゃないっすか?」
彼女は言った。だとすれば最悪だ。そして手慰みとばかりに彼女の側においてきたゲームが狩りげゲーなことを考えれば、スマホとか放置して熱中してる可能性が高い。レアアイテム探索の泥沼にハマればドツボだ。彼女はミイラ化したってやめない。
――不要なフラグ回収されとるぞ。
俺は穏やかに絶望した。スマホが使えない。しかし今更、お嬢様を呼びにいくような時間はもうない。どうする? さぁどうする? 焦る俺。
「一度龍界まで避難するでござるか?」
「それは無理や!」
ティラミスの悲鳴にも近いような声が、俺の『それ採用!』という言葉を遮った。なんで!? と言いかける前に、彼女はすがるような目をして言った。
「あの教会とグリモアが亡くなってもたら、エクレールはんはもう二度と天界へ復帰できへんようになる!」
俺は頭を抱えそうになった。
大天使が大天使たる所以は、本人の能力や天界での功績もそうなのだが、それと同程度に偶像としてのカリスマも必要とされる。その指標が、修道会の発足、グリモア、教会といったものなのだ。
そして、エクレールが大天使としての地位――堕天はしているが――を保っているギリギリのラインが現状である。
巡礼者も修道女もいない教会。
効力の殆ど無いグリモア。
いまやどちらが欠けても、エクレールが天使として失格するのは、俺にでも分かった。
でも
「なんでそんな大事なの忘れてきちゃったの!?」
「龍帝のことで頭一杯やったんや! 堪忍や!」
今さら攻めたって始まらないのである。堪忍しよう。しかしどうしよう。
「わ、私はもう天界なんて構いませんマストビー!」
大きな声を出したのはエクレールだった。彼女は両手をグーにして言う。
「大天使なんかに拘って、ステビーやティラ、みーみーやポンちゃんを危ない目に合わせるぐらいなら、そんなとこに戻らないですマストビー!」
彼女の言葉にティラミスが身を乗り出した。
「エクレールはん! 昨日に言うたやん! それあかんて!」
彼女は勢いそのまま続ける。
「いまはこうしてウチらがおるからええけど! 天界に戻られへんようになったら! ウチらが亡くなったあと、エクレールはんはずっと一人で何万年と魔界におらなあかんねんで!?」
これは彼女が、エクレールが天界に戻ることを渋った時に説いた言葉だ。
「そのときにアテはあるんか!? 一人で生きていく自信はあるんか!? 元大天使いうだけで、悪魔からはボロカスに扱われて」
「だからそれが何なんですか!!!!」
エクレールは叫んでいた。ティラミスは打たれたように口を閉ざす。
「私が何万年一人で魔界で生きていくからなんなんですか!! 悪魔からひどいことされるかもしれからなんなんですか!! そんなので、そんなつまらないことで、皆を『いま』失えって言うんですか!!」
彼女の目からは大粒の涙が散っていた。
「私は! そんなの絶対イヤです!!」
魂そのものが叫ぶような彼女の悲鳴。エクレールはもはや泣いていた。
しかしその反応に応答する間もなく、メキリという、嫌な音が頭上でした。直後にエレベーターが揺れて『なんだ?』と思う間もなく、
「で ろ ! ! 」
ポン太が吠えた。そしてその裂帛のような怒声に吹き飛ばされるかのように俺達がとび出すと、ほぼ同時にエレベーターが砂中に砂煙をあげて沈んだ。
振り仰いで、初めてエレベーターの外観を目の当たりにする。
確かにティラミスの言った通り、その天をつくようにそびえた赤煉瓦色のオブジェは、なるほど、世界創造神話で語られる人類最初の建造物にして最大の聖塔『バベル』、それに相応しい威容だった。
そして、
その上方10mぐらいのところに、煉瓦をぶち破って頭を突っ込んでいる、ハネの生えたデビルアンツ。
そいつが自前の強靭なアゴで、エレベーターのワイヤーを噛み切ったことはすぐに理解できた。
これでもう、龍界へ戻るという選択肢はない。
より追い込まれた状況に舌打ちした時、デビルアンツがエレベーターより顔を引き抜き、網目状の複眼で俺達を見下ろした。
アゴがガキガキと噛みあわされる。
そして悪魔の蟻は、ネバつく泥のような不快な音で、こう言った。
「ニゲタノカ エサ ドモ」
俺は思い出した。
デビルアンツは言葉が理解できる。
即ち、
意思の疎通が図れる。
確かティラミスはそう言っていて、
そして実際、その通りのようだった。
俺はそこに一縷の望みを見出した。何か交渉の余地があるかもしれないと。
が、
すぐにそれは否定される。
「お、お願いですアリさん! 私達を助けてください!」
涙に濡れたままエクレールが言った。
「あとでなんでもお礼をします! 神様や他の天使さんに頼んで、たくさんのお礼をします! だからどうか、私達を見逃してください! 教会もそっとしてください! お願いします!」
聞いていて悲痛になるような声音で、彼女は懇願した。目に涙を貯めて、こぼして。小さく震える手を、抑えるようにギュっとグーにして。
デビルアンツは、そんな彼女を値踏みするように触覚を動かしながら、外壁に取り憑いたままじっと見下ろす。
エクレールは続ける。
「いえ、……私はいいですから、他のみんなを助けて下さい」
ティラミスがなにか言いかけたが、彼女は構わずむしろ掻き消すように叫んだ。
「お願いですアリさん! 私は食べられてもいいので、みんなを助けて下さい!」
エクレールの悲鳴に似た懇願。
それはあまりに純粋で、そして幼い、大天使の自己犠牲だった。
自分は殺されても構わないから、俺達は助けろという。
なんとありふれて、なんと益体のない願いだろうか。
そしてこの願いを聞くことは、相手にとってなんのメリットももたらさない。
いまデビルアンツたちの選択肢は二つ。
彼女の願いを聞き入れず、このまま俺達全員をエサとして教会を蹂躙――なんの目的かは知らないが――するか。
あるいは彼女の願いを聞き入れ、彼女だけをエサとして帰るかである。
後者を選択することに、デビルアンツにはとってはなんのメリットもない。
しかしそれでも、
しかしだからこそ、
このエクレールの哀れな懇願を聞き入れるか否かが、
『慈悲』や『人間らしい心』を持ち合わせているかの指標になると言えた。
それはこの蟻に限らず――
いまや 地響きとなって轟き、砂煙を巻き上げて到来してきた、
大群のデビルアンツに対しても言えることで。
そして結果は最悪だった。
「イキ ハ イイナ。 ウマソウダ」
俺はそれで、デビルアンツが何たるかを理解した。
「ソレ イジョウ ハ シカシ ナクナ」
このアリは、エクレールの言葉など聞いていなかった。
「ミミザワリダカラナ エサ」
これまで様子を伺っていたのは、ただエサとしての鮮度を値踏みしていただけなのだ。
元気があるか。
生きがいいか。
食いがいがあるか。
それを判断するためだけに、これまで話を聞いてるような素振りを見せ、ただ彼女の『鳴き声』を聞いていたのだ。
それも、
意思疎通の能力がありながら。
エクレールの言葉を解する知性がありながら。
である。
だから理解した。
コイツらには、『慈悲』や『人間らしい心』なんてない。
断言できる。
そう。
――最初にティラミスが言った通り、
デビルアンツは命乞いを聞かない。
人間たちをエサとしか認識しない。
悪魔よりも悪魔めいた悪魔のアリ。
レッド・ホット・チリ・ペッパー砂漠最悪の魔物。
まさしくそのとおりだった。
「……そっか」
俺は静かに呟いた。
でもそれが真実として確認されたのであれば、
――――こちらに『やり用』がないわけではない。
そうしてついに到来した、
視界を真っ黒に染め抜かんばかりの大群。
それを前にし、
みーみもまた、『やり用』を行動で示す。
ジャキン!! という断頭台の落ちるような音と共に、
ネコハンドより解除された片手三爪。
両手合わせて都合六爪のディアル・クロウ『メロディック・スピードメタル』、
それが黄昏の陽を浴びて、刺すように鋭くきらめいた。
「『慈悲』が理解できない連中に、『慈悲』をかける意味は無いっすね」
みーみが獣性全開に牙を剥いた時、
俺も心を決めて、
背中よりツヴァイヘンダー『撫子』を、ぞろっと抜いた。
「どのみち逃げられないなら、これしかないよな。……それに」
俺は背負うように撫子を構えると、そのがら空きの胴を守るかのように、ぬるりとみーみが、俺の前に身体を沈めた。
さて以心伝心。
チラリとティラミスを見る。
「神様や天使だって救えないもの、たまにはあるだろ?」
静かに語りかけた。
すると彼女は黙って、ローブの裾から一枚の大きな黒羽根を取り出す。
色は黒ながら七色の艶を持つ不可思議な色彩、
伝説の聖鳥『八咫烏』の尾羽根。
ネクロポリスを離れる際、バルバドスより彼女が持たされた魔法の触媒。
彼女が取り出したのはそれだ。
言葉はなくともそれで十全。
そこでポン太は切れ長の目を細める。
「私のハッタリは通じそうもないか?」
「LV2は隠れててください」
「本当にだめな感じでござろうか?」
「割とガチで」
「御意にござる」
男の娘は俺達と距離をとった。一瞬、お嬢様を呼んできてもらおうと思ったが、もはや彼(なんか違和感あるなこの代名詞)に居場所を伝えるほどの猶予はなかった。覚悟を決めよう。
さてそして、
エクレールは俺の意図通り、ティラミスの背後にいた。
ただし隠れているのではなく、両膝をついて目を閉じ、手を組んで祈りを捧げている。
意図は伝わったようだ。
しかし念には念をで確認する。
俺は久しぶりに、『ステータス参照』コマンドとして、空に光の線を疾走させた。
中空に描かれる、俺達の『やり用』。
それは確かに、きちんと成就していた。
ご覧あれ。
名称:ステビア & みーみ
コンビ名:忠誠と親愛(舞踏剣士:ダンシング・スレイヤー)
LV:40(共有)
HP:2万(共有&上方修正) MP:1000(共有&上方修正)
装備:デュアル・クロウ『メロディックスピードメタル』 & 両手剣『撫子』
解説:ステビアとみーみによるコンビネーション・アタック。以心伝心レベルで繋がった2人の連携は、さながら離合集散自在の一個の魔獣。みーみによる華麗なフットワーク『R&B』とステビアによる必殺の一撃『わっしょいスラッシュ(仮)』の連携は優美にして強烈。まさに舞踏剣士の名に相応しい。抜群の相性と鉄壁の結束により、全パラメータが強化上方修正されている。2人が離れぬ限り、その力は悪魔王さえ退かせる。
よし、上々。
さてこちらは?
名称:ティラミス & エクレール
コンビ名:信仰と崇拝(純潔の祈り手:ブライダル・プレイヤー)
LV:250万(共有)
HP:1500(共有) MP:1京(共有)
装備:聖触媒『八咫烏 』 & 純潔の翼『ブライダル・ウィング』
解説:ティラミスとエクレールによるコンビネーション・アタック。修道女の純粋な信仰に心を打たれ、大天使が直の祈りでもって応えた一つの奇跡。大天使の力を託されて放たれる裁きの雷は、あらゆる邪悪を浄化し、純潔の祈りとなって天に届く。ただしエクレールの補正が魔力特化のため、体力は心もとない。
――――無双だな。
ほくそ笑んだ俺に、ポン太がニョキっと出てきて
「ちなみに私は何もないでござるか?」
「今のところ」
「これでも龍帝の跡継ぎでござるよ?」
「LV2ではちょっと」
「ご恩返しがしたいでござる」
「いずれまた」
とりあえず男の娘は宥めておいたところで、
さて。
――ご覧にいれてやりましょうか。
慈悲の心を持ち合わせた俺達が、
無慈悲になるその瞬間を。
俺は息を大きく吸い込み、
「みーみ!」
「言われなくとも!」
地を蹴って飛び上がった俺の足裏を、さらにみーみがカンガルーキックのように跳ね上げる。
キャットレディの脚力を得た俺は一瞬で上空に消え、エレベータにいまだ止まっていたデビルアンツを遥か下に追い抜いた。
ヤツの複眼が俺を捉えようと追う。
――所詮は虫知恵か。
「余所見厳禁にゃ♪」
恐らくそんな声をヤツは聞いただろう。
複眼が俺から下に向けられた時、ソイツが俺の方へ弾丸のように打ち上げられてきた。
みーみが、エレベーターの外装を駆け上がって、俺に注意を取られていたデビルアンツを蹴りあげたのだ。
急速に迫ってくるデビルアンツ。
しかしヤツには、もう俺への攻撃意思などない。
何故なら、最初のみーみの一撃で、その背はゴッソリとデュアルクロウにえぐられていたから。
とはいえ、
戦えなくとも。
まぁ、放おっておけば逃げるぐらいの力はあるだろう。
彼らの造りは頑丈だから。
しかしむろん俺に慈悲はない。
両手で握った撫子に、あらん限りの力を込めて、迫り来る悪魔のアリを見据える。
さぁ食らってみなさいよ。
そして理解してみなさいよ。
メイドさんが如何に体力のいる仕事かをね!
俺は吸いきった息を一挙に吐き出す。
「 わ っ し ょ い ! 」
気合一発。
振り降りした幅広に、破砕音が強烈な振動となって響いた。
落下しつつ舌打ち。
やはり剣法の基礎ができてない。
切りそこなって手が痺れたのだ。
首を叩き落すところを誤って、
頭 を 叩 き 割 っ て し ま っ た 。
落下地点には既にみーみがいて、俺を受け止める態勢を整えている。しかしデビルアンツの大群が、いまやそのスキを逃すマジと殺到してきている。彼らはこの瞬間を逃すほど、臆病でもお人好しでもない。
が。
「うちらもいくでエクレールはん!」
「万端です!」
そんな虫知恵が読めない俺達ではない。
ティラミスは握った聖なる黒翼を振りかざし、俺とみーみに殺到するデビルアンツに向けて振り下ろす――その刹那の間、自らの姿に、姉と慕ったジェラート・ダージリンを追想した。
彼女の言葉を真似た。
彼女の髪型を真似た。
彼女の肌色さえ真似た。
そして外見のみならず、所作や振る舞いに至るまで、自分は必ずそこに、ジェラード・ダージリンを意識した。
けれども、
こうして彼女と同じく修道女長に収まったこと、
エクレールを信仰と仰いだこと、
それは紛うことなく、このティラミス・ダージリン本人の意志によるものだ。あのジェラートの意思にさえ背いて貫き通した、純潔なる己だ。
手にあのグリモアはない。
ジェラート・ダージリンが肌身離さず持っていた、あの、何よりも彼女を思い起こさせる大切品はない。
しかしいま、自分の手には、己でこれと定めた触媒がある。
ダージリン修道会の修道女長として、
己が己の意志でダージリン修道会のグリモアを取り返した記念として、
親友バルバドスより選びとった、この触媒がある。
――これでウチは十全。
そして背には、自らが祈ってきた偶像たる彼女。
その彼女が、いま、信徒たる自分に対し、あろうことか自分に純潔の祈りを捧げている。
――なんという奇跡だろう。
この究極のところに来て、自分は、ティラミスだからジェラードになれないという当たり前の事実を受け入れ、同時にそして、真の意味で覚悟した。
自分はダージリン修道会修道女長、
ティラミス・ダージリンであると。
――それでは見せてあげましょう。
――穢れ無き信仰の力が生む、
――掛け値なしの奇跡の力を。
悪魔のアリに向けて高らかと叫ぶ。
「叫 べ 雷! ! !」
ティラミスが決意の黒翼を裂帛の勢いで振り払った時、
聖なる雷が晴天を切り裂いて閃いた。
光そのものという神速の一撃。
ろくな反応もないまま大群の前衛に炸裂したそれは、突風とともに蒼き炎を爆ぜるように巻き上げた。
悪魔の蟻は一瞬にして浄化され、自己の在り方を生物から炭へと変じる。
勢いはしかしそれで留まらず、落下を受け止めたみーみも、受け止められた俺も、閃光を前にしてとっさに伏せってしまう。
聖雷はいまなお引き裂くような炸裂音をあげてスパークし、デビルアンツの中で明滅していた。
LV250万。MP1京。
戦闘力測定不能として天界より追放された、メイビー・マストビー・エンジェル。
大天使エクレール・オ・ショコラ。
これはその桁外れの力の、
しかしほんの『片鱗』の顕現だった。
――つまりそれで終わらない。
振り下ろした黒翼を、ティラミスは勢いを殺さずそのまま円運動にして返し、
「吠 え ろ 雷! ! !」
黒翼は再び振り払われる。
その直後、蒼き雷は再び晴天を割り裂いて、しかし今度は大群を縦に疾走し、真っ二つに焦がした。
怒涛のような蒼き閃光がほとばしる。
直撃を受けたデビルアンツの縦列は、しかし苦悶する間もなく一瞬にして『灰』と化し、荒ぶる風にさらわれ虚しく吹き散らされた。
先ほどの倍の熱量はあるであろうこの一撃、
しかしその威力に驚く間もなく。
閃光のなめた跡を、悲鳴のような炸裂音を発して青の炎が疾駆した。
爆炎とはこのことか。
火の嵐とはこのことか。
疾駆する炎は初撃の名残っていた炎を勢いづかせ、再び青く爆ぜらせた。
悪魔のアリに穿たれた二度の直交雷撃。
高々と燃え盛る、十字型の青炎。
大天使エクレール・オ・ショコラが、
自身に純潔な祈りを捧げた2人の修道女長に許した彼女の悲鳴。
世界創造神話の終章で語られる、
第二次聖魔大戦で魔界を清めた青の炎、
――『聖雷エクレール』。
紛れも無いその顕現だった。
しかしそれに動じないのがデビルアンツ。攻め来る大群の勢いは衰えない。
さもありなん。
慈悲の心も人の心もない彼らに、
恐怖を伝えるすべはない。
「アノ ウズクマッテイル エサ カラ ネラエ」
泥のような声で、エクレールを標的と号令するデビルアンツ。
そう、彼らに心はなくとも知性はある。だからすぐに、この攻撃の根源がエクレールであると見極めて、それを全軍に言い渡したのだ。
大群の陣形が、一個の魔獣のように変化する。
ぞろぞろぞろと。
ぞろぞろぞろと。
全面攻撃に備えた四角形の方陣が、
一点突破に特化した楔形の陣形に。
同胞の死骸もお構いなしに踏み砕き、整形がなされていく。明らかに狙うはエクレール一人。彼らは彼女をしとめればなんとかなると踏んだのだ。そしてそれは大正解だ。事実俺達の生命線は彼女なのだ。
そしてそれが分かればやはり打つ手は一つ。
エクレールを守りきれば即ち問題なし。
「「バックアップよろしく!!」」
陣の切っ先に真正面より突っ込むのは、俺とみーみのたったの2人、
否、
俺&みーみのたった一組。
風のように2人で駆ける。
力も意志も運命も心も今は共有。
恐怖は半分、勇気は2倍。
弱点は半分、強みは2倍。
マジで神システムだぜ!
『コンビネーション・アタック』!
目前まできたデビルアンツの先頭――楔形陣形の切っ先。
俺の頭を噛み砕かんとアゴを開く一匹。
訪れた生死の狭間。
そこで俺は並走していた護衛に命令を下す。
「みーみ!」
「了解っす!」
彼女は滑るように前に踊り出ると、両手を付いて『にや』
「御姫様ボクと一緒に踊りませんか?♪」
「不作法ながらもぜひに♪」
自分の頭を噛み砕こうと襲うデビルアンツのアゴ。
それには一切目もくれず、俺は独楽のように身体をクルっと回転させる。さながら舞踏のように装飾されたこの初動。
旋回する風景。
視界は大群から後方のティラミスへ。彼女と目が合う。目を見開いている。まるで俺が命の危機に瀕しているみたいに。タイミング的にはいままさに、デビルアンツが俺の頭を噛み切らんとしてるところだろう。
俺は小さく笑いかける。
大丈夫だと。
そして回転の遠心力が十分にのった撫子、その刃を水平にし、この一回転を終えようとした時だ。
「それでは御姫様、どぎついのを一発♪」
みーみの声に心が躍り、期待が高まる。
いよいよ終わった一回転。
一巡した視界。
再びの大群。
そして彼女はきっちりと、期待に答えてくれていた。
遠心力に任せて水平に寝かせた刃、
その高さにちょうど、
まるで、『切っちゃって下さい♪』とばかりに首を差し出して落下してきたデビルアンツたち、
まとめて都合6匹。
これに当たらぬ道理はない。
今一番の気合を腕に込める。
ありあまって口から迸った。
「わ っ し ょ い ! !」
ズバ ズバ ズバ ズバ ズバ ズバ
興奮の中、舐めるようになめらかな手応えがスローモーションで伝わり、デビルアンツは綺麗に首なしとなって宙を舞った。
目端に見やって自分で驚きそうになった。さすがはみーみと。
俺だけであれば恐らく一匹で限界。
けれどもこれは、デビルアンツを一瞬で蹴っ飛ばすような力を持ったキャットレディみーみと力を共有したコンビネーションアタックだ。そこにこの撫子まで持ってくれば、デビルアンツの首打ちなどカモの羽根をムシるより易い。
まだ勢いが余って流れ始めた俺の身体を、みーみがネコハンドで優美に抱き止める。
まるでバレエダンサーのパートナーのように。
しかし彼女はそれに終始しない。
「今度もキツイっすよ♪?」
彼女は俺を抱き止めはしたが勢いまでは殺さず、その力を自分の運動へと加算してから、両足を繰り出してきた。『R&B』のパワームーブへの連携。
「そしてたぶん痛いっすよ♪?」
みーみの瞳が獣のように細った時、二つの足からジャキンとデュアルクロウが解放された。
それを目に止め耳に留める間こそあれ、回避まではおこがましい。
縦から振り下ろされる、マサカリのような浴びせ蹴りが二連。
キャットレディの猛爪がデビルアンツに食らいつく。
苦悶の咆哮を撒き散らすが、それを飲み込む勢いで放たれた二足は、
遊び――ダンシングではなく、
狩り――ハンティングに来た
みーみ渾身の一撃。
しかし彼女は言う。
「痛いけど前座っすよ♪?」
彼女はニ連撃により増した回転運動を、抱きしめた俺にいっそう加速して伝える。
振り切ったネコソックスからは鋭いツメが剥かれ、砂丘とはいえしっかり深く食い込み、地をグリップしている。空滑りはない。
めまぐるしく回った視界の中、
「どうぞ御主人様♪」
という護衛の言葉を信じ、
「わ っ し ょ い !」
俺は撫子を縦に振るった。
体ごと巻き込むような回転一斬。
撫子の刃は深く砂中に食い込み、デビルアンツの両断された胴が舞い上がる。
「まだまだっす!」
打ち下ろしの態勢で止まった俺を飛び越えるようにみーみは跳躍した。空中で身を捻る華麗なく宇宙遊泳――コークスクリュー。
それは、あのアミーゴたちに最後に見せたジャンプだった。彼女の眼に捉えるは、依然打ち下ろした姿勢のままの俺に襲いかかってきたデビルアンツ。
「虫は地面を這えっす!」
俺を一噛み――というところで、彼女は空中かかと落としを見舞った。
破裂音を伴う凄まじい速度の一撃。
デビルアンツの頭部を粉砕裂傷したキャットレディは身を翻して俺の前に着地する。
ここまで阿吽は完璧。
こちらの手傷はゼロ。
しかしもちろんデビルアンツの陣形は楔形、故に後続は際限ない。
このままではいずれ体力がきれ、
殺到するデビルアンツたちに俺もみーみも轢殺されるだろう。
―― 一組だけだったならね♪
俺とみーみは後続をかわさず、ただ全力で目と耳を閉じる。
もちろんそれでも、
エ ク レ ー ル の 悲 鳴 ( い ち げ き ) は
割 れ ん ば か り に 鼓 膜 を 反 響 し た 。
俺とみーみのすぐ目の前に閃光は落雷し、楔形の陣形をどまんなかより逆行して蹴散らしていく聖雷エクレール。
爆ぜるような聖炎に、俺もみーみも巻き込まれたが、
「熱くもにゃんともないっすね?」
周囲でデビルアンツが消失していく中、みーみは、自分の燃えるダブルネコハンドを見ながら言う。
俺は彼女にウィンクし、
「このRPGは味方に攻撃できないんだぜ?」
等と言ってみた。
が、もちろんそういうご都合主義なのではなく、
この一撃は、天に抗う邪悪を払う選別の炎なのだ。
故に、その大本であるエクレールの堕天を救おうとしている俺達が、その炎により悪として浄化される道理こそない。
だから当然の帰結なのだ。
というのもご都合主義??
みーみは灰となって消えていくデビルアンツを見ながら、そして、自分たちに殺到する側から灰となって消える彼らを見ながら
「むしろこれバリアっすね? このまま寝てても安全なんじゃないっすか?」
気楽なことを言った。
しかし本当にそんな気がして、俺はクスリとなる。
「そのバリアを解除されないために、どんどん行こうぜ?」
撫子を握り直し、俺は彼女に言う。
「まだまだ踊り足りないだろみーみ?」
そして手を差し伸べる。
「騎士殿、私と一緒に踊りませんか?♪」
みーみの目が輝いた。
「御姫様がお相手ならば朝までだって♪」
そんなわけで2人は、青炎を纏って次の舞に移った。
中二病こじらせた無一文です^^
クライマックスにそろそろ差し掛かって来ましたが、
しかしまだまだ序の口、だってツインテさんと男の娘さんまだ活躍してませんしね(爆)
ここまでプレイして頂いた方、
引き続き続行宜しくお願いします^^
目指すはユニアクセス日に1万!!!
は流石に無理でしょうが、
『幼馴染は破壊神』の連載時みたいにユニ1000を目標にしようと思います^^
だって1500以上あると出版申請とか出来ちゃいますからね。
ハイパーwktkじゃございませんか!
それではまた^^
追伸:
このお話と同じシリーズはこちら。
『ギルカと帽子の帝国戦記』
http://ncode.syosetu.com/n2147ba/
味付けはこのお話よりもうちょっとマジメよりですが、まぁコメディっぽいですね。




