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魔法とスマホの魔界戦記RPG  作者: 常日頃無一文
第2章:ヘイヘイヘイ天界ビビってる♪ ヘイヘイヘイ天界ビビってる♪
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19:龍帝とのファーストコンタクト

 場所は再び社殿である。

 あの鹿威しの『カッコーン』が風情な和風庭園を望める、青畳の匂いが香ばしい間だ。


 ティラミスが、『そろそろ夕食やで~』と声をかけてくれた通り、そこには食事の用意がなされていた。

 青畳の上、高さの低い朱色の一人用テーブル――御膳というらしい――が、手前側に三膳、奥側に二膳、並べられている。


「へ~、これまた雰囲気があるというか可愛らしいというか」


 俺は拙いながら、素直に感想を口にした。

 魔界に見られる豪華なディナーとは、また趣を異にしている。


 配置と人数から考えるに、おそらく俺とティラミスとエクレールが手前側。

 そして、龍帝と手水舎にいたあの巫女さんもといポン太が、奥側の方だろう。


 俺は二人に声をかける。


「じゃぁ、まず座ろっか」


「そやね」


「はいです」


 そういう具合にして三人着座。『座布団』と呼ばれるクッションの上に、きちんと足をたたんでの正座である。新鮮だ。


 俺は奥側の二人が来ていないのが気になった。

 てっきりもう先に着ていると思っていたのだけれど、なにか所用でもあるのだろうか。


「ポン太が今、龍帝を呼びに行ってくれてるらしいわ」


 ティラミスが察したように言った。

 それはそれは恐縮の至り。


 俺は心の準備を開始する。


 ――――さて、 

 まずは龍帝。


 三界の支配者。第一次聖魔大戦から永らえている、神代の龍。神と魔王との戦に決定打を放った、天界の仇敵にして魔界の英雄。


 一体全体、彼はどんな姿なのか。

 改めて思いだすと、ドキドキと落ち着かなくなってきた。これでは心の準備としては本末転倒。早々ながらやめることにした。


 とりあえず料理など眺めてみる。


 御膳に乗っている品々は、どれもが小さな器に綺麗にまとめられており、見た目からして楽しかった。

 野菜と魚が中心であり、健康にもよさそうだ。


 自分の料理スキルUPに繋げよう。

 密かに決意を新たにする。


 しかしながらこうして、一品一品を丁寧に美しく並べられると、なんだか食べるのに気を使ってしまう。

 一応、『箸』の使い方は知っているのだが、他にも何か自分の知らない作法があるやもしれない。

 『おしながき』と書かれた、メニューのようなものを見つつ、そんなふうに緊張していたら


「むぐむぐむぐ。このプリンあんまり甘くないですマストビー」


 ふとそんなコメントを聞いて目をやれば、お隣のエクレールがもみじ型のハチを両手で持って、中のピンク色のプニプニを飲み込むように食べていた。はははエクレール、箸を使わなきゃだめだよー。って


 ――先食っとるぞこの大天使。


「エクレールはん。それプリンやのうて『サクラドウフ』言うらしいで」


 ティラミスが『おしながき』を見ながら言った。なるほどこれは豆料理なのか。見た目も可愛いが体も健康。ぜひとも俺のレシピに取り入れたい。よし。って


 ――冷静に解説してないで注意しろよ。

 お前の信仰対象だろ。


「ははは。これはこれはお待たせして誠に申し訳なかったでござる」


 という巫女さんの艶っぽい声が聞こえてきた。どうやらポン太が戻ってきたらしい。


 ああどうしよう、格好悪いな。

 俯いて顔が火照る俺。


 ちゃんと御行儀よく待つのは魔界でも当たり前の作法なのに、まさかの大天使が箸も使わずフライングだもんな。


 ここは代わりに俺が謝るべきだろう。


 俺は居住まいを正して顔をあげて


「いやいやこっちこそ、ウチのエクレールが先に食べちゃってその」


 恥を忍んで顔あげたら、巫女さんがこっちに歩いてきつつ口にはキュウリをくわえてポリポリポリ。ポリポリポリ。わおワイルド。ははは。野菜はやっぱり丸ごとだよね。って


 ――コイツは歩きながら食っとる。


 もはや青ざめてる俺の向かいに、この元ペンギンにして実は龍族でありかつ本性はとっても淡麗な巫女さんだったポン太は、自らの席に緋袴をきっちりと降り、居住まい正しく正座した。さすが様になっている。

 彼女は艶っぽく微笑んで言う。


「龍帝はもう間もなく参られるが、せっかくの料理にござる。冷めてしまっては元も子もない故、どうか召し上がってほしい」


 そう言って、ポン太は「どうぞ」と手を差し出してきた。


 それならば。

 と俺も手をつけることにした。


「頂きます」


 手を合わせ、箸を手に取る。

 エクレールのフライングやポン太のダイナミックきゅうりポリポリとか見て、もう緊張とかなかった。その意味では彼女たちに感謝せざるを得ないだろう。天然も時には役に立つものだ。


 そうして身体にも心にも優しそうなお料理をいただきつつ、


「なぁポン太。ちょっと聞いてもいいか?」


 俺は、今なお違和感バリバリな向かいの巫女さんに問いかけた。彼女は小首を傾げて


「なんでござろうかステビア殿?」


 と返答。

 う~む、やっぱりあのプニプニ生物とマッチしない。


「どれから尋ねたら良いのかわらないぐらい俺は混乱してるんだけどさ。差し当たってまず。なんであのときお前はペンギンだったんだ?」


「あ、それならウチが」


 答えたのはティラミスだった。


「いまのポン太の姿を見てようやく確信したんやけどさ」


 彼女は箸を箸置きに寝かせて言う。


「ウチが昔、初めてポン太に会うたときは、確かに今のポン太なんやわ」


 と。

 ティラミスが初めて、ポン太と出会った時。

 彼女から聞かされた話を思い返すに、それは幼いティラミスが、夜中に納屋の物音に気づいて、『食料泥棒か?』と檜の棒を片手に赴いた時のことか。

 ティラミスは人差し指を立てて言う。


「ほら。あのときウチさ、納屋で大人の女性を見たとか何とか言わへんかった?」


 俺は話の内容を思い返す。


 ――暗くてよく見えないが、何か大人の女性のような影が、食料品の入った袋を漁っていた。


 確かにそんなことを言っていたようだ。


「あのときは暗かったし見間違えかとも思ったんやけれど、こうしていまの姿見たら、確かにあのとき見たのは今の姿そのまんまなんやわ」


 ティラミスは巫女衣装のポン太をまじまじと見つつ言った。

 なるほど。


「それからウチはその時さ、納屋へ飛び込むなり『LVダウン魔法』をかけた言うてたやろ?」


 回想してみる。


 ――気合一発飛び込むと同時、

 ――「喰らいなさい!」

 ――攻撃ではなく、LVダウン魔法を唱えた。

 ――影が驚いて振り向いたその顔に、ネズミ花火のような螺旋の光が命中する。


「ああ、そうだったね。それでポン太が『ぴぎゃ!?』とか言ってペンギン化したわけ?」


 いえば巫女さん、頬を染めてハニかみつつも頷いて、


「恥ずかしいでござるな。あれは私がLV1のときの、つまりは生まれてほぼ間もない姿にござる」


 袖を口に当てていちいち可愛い反応を示していた。そしてちょっとトリビア。龍族の生まれたてはペンギンンみたいな姿をしているらしい。

 俺は言う。


「そうするとつまり、ポン太はLV1のときはペンギンの姿だったけれど、LV2になったら急にこんな綺麗な感じになったわけ?」


 そう、こんな綺麗な姿へ。ペンギンから美人巫女さんへの遷移など、成長どころか進化の粋ですらない。今でも騙されているような気がする。

 ポン太は目をパチクリとさせ


「綺麗って、ステビア殿は私を口説いておられるのか?」


「いやいやそういうわけじゃないです」  


 何となく焦って否定している俺がいる。第一、俺とは同性でしょうに。

 いや、それともまさか。このポン太もフィナンシェお嬢様の『チュロス』同様、人間の女性と結ばれるための不可思議パーツをどこかに持ってるかもしれ……いや、よそう。


「せやけどなぁ」


 ティラミスが思い出を懐かしむような笑みを浮かべて言った。


「ウチがネクロポリスにさらわれてからこうしてレッチリに戻ってくるまでの間、ポン太って、全然LVあがってへんねんもんな。ウチとの約束はどないなったんや~?」


 と。

 

 彼女の言う約束って、もしかしれあれだろうか? ティラミスがポン太に、『ネクロポリス行き』を告げたあの日の、別れ際の言葉。

 俺は回想する。


 ――では、ティラミス殿が帰ってくるまでには精進しておくでござるよ

 ――期待せんと待っとるわ


「だ、だから」


 ポン太がちょっと焦ったように言う。


「私はきちんとLVを2にまではあげたでござるよ?」


 LV2って、俺、フリプール村で山羊のオッパイもんでるだけでもあがったんですが。


「ティ、ティラミス殿が不在の間は、それこそ私は一心不乱に、その、ダージリン教会を守りつつ、デビルアンツを討滅しつつ修行に励んで、その」


 目線キョロキョロしつつ言い繕うポン太に、ティラミスは生温かく笑う。


「へ~。そうなんや~。せやけど、ステビアはんに聞いた話やと、『生き倒れとる『ペンギン@LV1』にお弁当をほぼ全部あげちゃった♪』って聞いたのはほんの二日前やで~?」 


 ティラミスが言った。

 そういえば礼儀正しくガッツリ食べてたね。俺がポン太にニコっと微笑むと、彼女の顔が目に見えて赤くなった。確実にテンパっている、が、ティラミスはなお続ける。


「するとそうか~。ポン太のLVが2にあがったのはついさっきのことで、エクレールはんが堕天してきて『グリモア』の『魔法効果の延長』が切れたからとは無関係なんやな~? ウチの『LVダウン魔法』の効果が切れたんとは無関係なんやな~?」


 そう言えば、ダージリン修道会の『グリモア』には魔法延長そんな効果があると、バルバドスの『グリモア解放』のときに言ってたっけ?

 

 ううう、っと、ちょっとポン太は涙目になっていた。

 一方、エクレールさんはゴーイングマイウェイ。既に自分の御膳を完食して俺のサクラドウフをガン見している。優しい少女ステビアは黙ってあげた。


「そっかそっか~。えらい偶然もあったもんやな~。ところでポン太」


「な、なんでござるか?」


 ビクっと揺れたよ巫女さん。


「そのやっつけたデビルアンツの数はなんぼや?」


 ティラミスが片眉をあげて問えば、ポン太は目を閉じてそっぽ向いて


「ひゃ、百兆匹でござるよ?」


 うむ。


 この娘も多分ステータス画面で『バカ』が出るに違いない。

 俺は魚の煮付けを食べながら思った。エクレールがそれもガン見してたので、優しい少女ステビアは半分あげた。

 ティラミスは、もうなんだがちょっと拗ねた感じなってるポン太にクックックと笑いつつ


「そうか100兆匹か。まぁ、ポン太がそういうならそうなんやろな」


 そのあたりでイジるのはやめることにしたらしい。

 ポン太はちょっとだけ頬を膨らませて、「ティラミス殿は人が悪いでござる」と小さくつぶやいていた。


 と、そこで。


 『何か』がこの間にペタペタペタとやってきたかと見れば、それはポン太の隣の膳にポスっと腰を落ち着けた。


「あ、龍帝でござる」


 いともアッサリと、ポン太が言った。


 他愛のない昔話をしていた最中、

 現れたそれは、


 全身が真っ白な白髪と白ヒゲにまみれて、もうケサランパサランか何かと見違えるほどの、しかし身体の大きさや歩き方からしてその……


 お そ ら く フ サ フ サ の 中 はペ ン ギ ン で あ る 。


 みたいな、なんかそんな……その、そういうのがペタペタやってきた。


「「「……」」」


 俺とティラミスとエクレールは、無言で、膳に着いた白髪物体を見ていた。


「龍帝でござる」


 ポン太に二回言われた時、ハっと我に返った俺は改めて居住まいを正し


「あ、どうも先にお料理を頂きました。えっと、初めまして。私はステビア・カモミールと言います」


 とりあえずベタに挨拶などしてみる。


「それで、こっちは大天使のエクレールと、向こうの彼女はティラミスです。どうぞ宜しくお願いします」


 二人も紹介し、ペコっと三人揃って頭を下げた。


「……」


 白髪の龍帝はプルプルプルと震えている。


「……」


 プルプルプル。

 依然、無言のまま震えている。

 隣のポン太が「龍帝?」と笑顔で小首をかしげ、


「お客人から挨拶を頂いたでござるよ?」


 と話しかけた。


「……」


 白髪の龍帝はしかし、プルプルプルと震えている。


 反応がない。


 いや、それともこの微妙な振動が反応なのか?


「……」


 分からない。

 とっても分からない。


「……」


 依然震えている。

 電池で動いてるのかもしかして?


「……」


 分からない。


 分 か ら な さ す ぎ る ぞ 龍 帝 。


 ごくっと。

 なんとなく固唾を飲んで見守っていたら、やがてこのフサフサ物体はプルプルしつつ顔をあげ、


 ようやく俺達に、こんな第一声をかけてきた。


 これである。



「客人にオッパイ博士が名言一発。無乳はクリティカル、微乳はスピチュアル、貧乳はプリンシパル、凡乳はリリカル、微巨乳はワンダフル、巨乳はミラクル、爆乳はマジカル」


 ポン太が笑顔のまま石化した。


 ティラミスが浴衣でスカリンになった。


 エクレールは目をパチクリさせた。


 俺は聞かなかったことにしようとして、でもムリだった。


「パッパッパッ♪ パ~イパイ♪ ふがふがオッパッピー♪」


 居間の空気が、氷点下にまで落ち込んだ。


 ――――そう。


 これが俺達三人と、

 三界の支配者、龍帝、


 そのファーストコンタクトである。


 鹿威しがそのとき、『カッコーン』と鳴った。

まさかのオッ○イ博士でした


*:明日から数日家を開けるので、更新がその間停滞します。どうかご了承ください。

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