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魔法とスマホの魔界戦記RPG  作者: 常日頃無一文
第2章:ヘイヘイヘイ天界ビビってる♪ ヘイヘイヘイ天界ビビってる♪
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17:龍界にヤツがおりました

 俺達をのせたクリーエクレール号は、そのあまりの速度のせいか、ブレーキが間に合うどころか着陸直前でさらに加速し(なんでや)、さながらミサイルのごとき勢いで龍界に墜落。爆発炎上したわけであるが、一行は一応無事だった。


 神にマジ感謝。


「大丈夫かステビアはん?」「大丈夫、生きてる」「御主人様センパイ♪ ボクのちゅういる?」「いんない」


 そうしてこうして、ロケットからは、二人に両手をズリズリと引っ張られる格好で俺は救出されたわけである。


 さて、龍界。

 天界と魔界に次ぐ三界。

 光と影の狭間、薄闇の世界。

 天と魔を隔てる境界。


 立ち上がって見渡した、その第一感想は、


「せま」


 目を点にして呟いた俺に、ティラミスは笑いつつ


「まぁ、対立中の魔界と天界の狭間にあって、しかも龍帝は領土に無関心やったらしいしな。削るとこまで削られた感じやね」


「いやいくらなんでも無関心過ぎるだろこれ。もう路地裏か公園レベルじゃないか」


 手を左右にふりつつ立て続けに突っ込む俺。


 ――光と影の狭間、

 薄闇の世界、

 龍界。


 その天井は、天界を支える超分厚い雲の『下側』に覆われ、

 その地面は、龍界を支える石畳が整然と敷き詰められている。


 その間、わずか2m強。


「やっぱりセマ! いや、正確には低い!」


「まぁまぁまぁ、物件探しに来たんとちゃうんやし」


 ティラミスが苦笑する。

 ちなみにジャンプすれば雲に頭を突っ込むことが可能。 ←みーみが実践済み。


 もう一度じっくり見渡す。 


 薄闇の世界と言いつつ、随分と明るい。


 天井の雲が、山吹色に輝いているのだ。


 雲のところどころより光の筋が漏れており、石畳を仄明るく照らしている。

 なんだか奇妙な情緒があった。


 要所要所には、鮮やかな朱色の円柱が立っており、雲と石畳をつないでいる。

 これで龍界を繋ぎ止めているのだろうか?

 俺は思った。

 

 水の流れる音に気づき、目をやる。

 神社に見られるような、石で出来た手水舎ちょうずやがあった。


 ちょろちょと水を吐くのは龍の置物で、それを貯めているのは石でできた水盤。

 上には柄杓が、キチンと並べられている。


 近くには締め縄を張った鳥居があって、奥には社殿のようなものが見えた。


 いよいよもって、神社である。


 あるいは、天井の山吹色の雲と合わせれば、『極楽』のような趣も感じられる。


「なんだか、随分と魔界とは雰囲気違うんだな」


 俺は思った。


 そう、何もかもが魔界と違う。

 天界とも違う(見たことないけど、神話で知ってる)。

 やはりだから、ここは、

 第三の世界、龍界と呼んでしかるべきなのだろう。

 

 と、そこでみーみが俺の肩をちょんちょんちょん。

 なに? と振り向くと、彼女がネコハンドで指差す先には、この龍界の石畳を下から突き破るようにしてペイロードをのぞかせた、クリーエクレール号があった。

 まるで、掘ってたら不発弾出てきたよ、みたいな光景。

 みーみはそれを見ながら


「帰りはどうするっすか?」


 すごく大事な問題を教えてくれた。

 確かにこれは最優先課題である。


「むうう」


 俺は目を閉じ腕を組んだ。

 

 建前上、俺達はこれより龍帝に話を聞きに行くわけである。しかし場合によっては、このまま龍帝と戦うつもりでいる。それはもちろん、エクレールを大天使として天界に復帰させるためだ。


 測定不能天使たる、エクレールのぶっ飛んだLVの高さを、既に俺達は知っている。

 そのへんの魔物や悪魔王風情であれば無双状態だろう。


 しかしそれでも、今回の相手は三界の支配者たる龍帝。

 世界創世の頃から今まで長らえてきた、神代の龍である。


 それは世界創造神話に語られ、第一次聖魔大戦で、神の軍勢を叩きのめした存在。

 敵とするにはあまりに恐ろしい。


 そしていくらエクレールのLVが高いとはいえ、そもそも彼女の性格からして戦闘向きでないのは明らかである。

 つまり、

 龍帝と戦って、エクレールが負けることは、しっかりと考えておかなくてはならないのだ。

 即ち、負けた時に備え、龍界からの退路を確保する必要は大いにあるわけである。


 つまり、あのエクレール号の状況はとってもまずい。

 どうみたって、もう飛ぶ気配はなかった。


 俺は目を開け、傍らにいるみーみに


「やっぱりあれまずいよな。ここから逃げるときもそうだけど、仮に無事話し合いが済んでも帰り方が――ってみーみ?」


 さっきまで隣にいた、みーみがいなかった。


「あれ?」


 その隣、エクレールもいなかった。


「あれれ?」


 ティラミスもいなかった。


 焦ってキョロキョロ。みんなどこいったし? 龍界で俺一人を置いてどこに――


「お~い、ステビアは~ん」


 ティラミスの遠い声。どこだどこだとその方角に目をやれば、さっきの手水舎の近くで俺に手を振っていた。

 みーみとエクレールもそこで、何やら見知らぬ女性に付き添われ、手やネコハンドなどをお上品に洗っていた。


 俺は思った。


 なるほど、郷に入りては郷に従えか。


 うむ、善哉善哉。


 腕を組んで頷く。


 ――――いやいや能天気過ぎだろお前ら。


 内心突っ込みつつ、しかしなんだか平和そうな光景に緊張の解けた俺は、ため息を一つ付いてから側まで歩いていった。ていうかやっぱり、俺は緊張していたようである。


 手水舎に辿り着き、まずはみーみやエクレールに、清めの手ほどきをしていた女性に挨拶を試みる。

 しかしながら。


「――――」


 彼女を前にして、俺は思わず息を呑んでしまった。


 あまりの美しさに、呆然としたのである。


 白衣に緋袴という紅白の衣装――いわゆる巫女衣装――に身を包んだ、背の高い色白の彼女。

 夜の清流を思わせる艶やかで長い黒髪。後ろは腰のあたりで一度結われ、前のほうは額の中頃で切り揃えられている。


 前髪の下には、凛とした面立ち。

 細筆で引いたように整った眉、その下には切れ長の二重。黒曜石のように美しい瞳。

 筋の通った鼻。

 薄い紅をさした唇。


 その姿は美しさのみならず、匂うような気品まで備えていた。

 

 俺はただ、麻薬にでもアテられたように陶然と魅入られていた。


 おおよそ人間離れしたその美しさ。


 こんなにも甘い感覚を覚えたのは、これまで過去に一度だけ。


 言うまでもなく、フィナンシェお嬢様のことだ。


 魔王の一人娘たる、フィナンシェ・エルヒガンテそのひとだけ。

 俺のお仕えする、お嬢様だけ。


 それに匹敵するほどの、魅力を備えた、この女性。


 ――――まさか、彼女こそが。

 

 そう思いつつも見とれていたら、彼女が俺の方を向いた。

 サラリとその髪が流れるように揺れて、花も恥らうほど美しく微笑みかけてくる。


 ――ああ、お嬢様お許し下さい。違うんです。この気持は、違うんです。


 そのあまりの誘惑に、どこか背徳的な罪悪感を覚えた俺は、どうしてか心の中でお嬢様に謝っていた。

 お嬢様、これは違うんですと。

 胸が高鳴り、喉もなる中、


 彼女がそっと口を開き、見た目にふさわしい美しい声で言った。


「ステビア殿、よくぞ参られたな」


 と。

 彼女は小首を傾げて続ける。


「長旅でさぞお疲れでござろう? 私の住まいはすぐそこ故、しばし足休めをされよ。久方ぶりの客人でござる。私もたいそう嬉しい」


 そして巫女さんは柄杓でソロっと水盤の水をすくい、どうぞと差し出してきた。

 俺は我に返って、そして意図を察して手を出せば、そこに冷たい清水が優しくかけられた。


「まずは左手を清め、次に右手を清め。最後は口を清めて下され」


 言われた通り、素直に従う。

 郷に入りては郷に従え。

 清めてしんぜよう。

 しかし、

 一抹の不安ならぬ一抹の違和感。


「これといったもてなしは出来ぬが、茶の一服ぐらいは用意致す故な。さてさて、茶菓には何が良いかな」


 巫女さんはるんるんるんという感じに言った。


 ――――ふむ。

 OK。


 違和感の正体判明。


 ど こ か で 聞 い た ん だ ぜ こ の す げ ー 艶 っ ぽ い 戦 国 言 葉 !


 身体が震えてきた。

 心も震えてきた。

 全身から汗も止まらんようになった。

 どうした、いったいどうしたよ俺。

 

 俺のガチ目線に気付いた巫女さんは、どこかハニかむように目を伏せ


「ステビア殿、そのように見られては私も困るでござるよ」


 それは美しくもあり可愛いらしさもある声音だった。


「いくら本職とはいえ、異界の客人にこの格好を見られるのはたいそう照れくさいものにござる。ましてお初にお目にかかった時とは異なる姿。ステビア殿が違和を覚えられるのも重々承知。どうかご勘弁くだされ」


 その途端、俺は、自分の発汗理由として驚愕的すぎる事態に思い至り、


「まま、ままま、まさかお前……」


 震える指を、この淡麗で神々しい巫女に向ける。

 うそだろ?

 うそだろ? 

 と。

 否定の言葉を期待するように。

 否定の言葉を期待するように。


 しかしそして、彼女が、俺の衝撃的推測を肯定するようにコクンと頷いた時、


「――――」


 もう俺の頭はビッグバンだった。


 が。

 が。


 この姿に、

 あの青と白のプニプニ生物を重ねあわせてみるが、


 全 く 全 然 一 致 し な い。


「う、うそうそ!! お、お前! うそだろ!」


 いまだブルブル震えてる俺がいい加減面白いのか、

 彼女は恥じらうような表情をやめ、口に袖を当てて上品に、しかしまるで悪戯を働いた子供のようにクスリと笑って、


「どうしたでござるかステビア殿。そこまでは流石に大仰でござろう? まるでキツネかタヌキかに化かされたオナゴにござる」


 そんな実に、実に白々しいことを言った。


 ――あの、ペンギンの声で。


 内心突っ込まざるを得ない。

 俺が化かされたのはタヌキでもキツネでもねー。


 ペ ン ギ ン だ よ。


 もはや俺は絶叫する。


「お前あの砂漠行き倒れてた腹減りポン太かー!?!?!?!?!?!?」 

 

 同時に、ティラミスとみーみが大笑いし始めた。

 エクレールも笑っていた。

 俺一人だけテンパっていた。

 って、

 え、なにその知ってました的なリアクション!?

 いったいどういうこと!?


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