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魔法とスマホの魔界戦記RPG  作者: 常日頃無一文
第2章:ヘイヘイヘイ天界ビビってる♪ ヘイヘイヘイ天界ビビってる♪
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16:じじい天使『アリストテレサー・ソクラテサー』

 ここは魔界のはるか上空。

 天にまします光と雲の楽園。


 神殿も広場も、教会も家屋も、すべてがワタアメみたいな雲で出来た、ふわふわと柔らかく、そしてぽかぽかと温かな世界。


 天界である。


 その地方都市アテネン。

 ここも天界を構成する都市の一つとして、柔らかく温かな空気が、一帯からにじみ出るように漂っていた。


 しかしそのどまんなかにそびえ立つのは、雰囲気ぶち壊しなゴージャスなビルである。


 高さは111階。

 床は大理石。

 壁はコンクリート。

 外は鏡面ガラス張り。


 夜はネオンライトを外にバラマキ

 昼はやかましいロックを外に垂れ流す。


 この建造物の名は『デルフォイフォイ』。

 大天使長アリストテレサーが建築したアテネンの中枢である。


 そしてその最上階にある大天使長室に、


「だだ、大天使長!! 大変ですぞ大変ですぞ!!」


 というセリフを、ブタを絞め殺したような奇声でのたまって飛び込んできたのは、今日も白髪アフロヘアー全開なジジイエンジェル、大天使長補佐のアリストテレサーだった。


 そしてそんなテンパジジイにテンパった声をかけられたのは、電動式車椅子に腰を下ろしたスキンヘッドのジジイ天使。


 名をソクラテサーという。

 即ち、大天使長。


 やたらエッジのきいたサングラスを装備し、つるつるのスキンヘッドと相まってなかなかロックンロールしているのだが、残念なことに身体が貧相なので全く決まってない。

 ちなみにこんな格好ナリでも、一応は大天使長なので格位は上級天使。

 即ち、神への謁見なり進言なりが許される身分なのだった。


 ところでいまソクラテサーは昼食中のようで、彼はカップ麺『ごつもりや』の麺をハシで掴み、入れ歯とは感じさせぬ勢いでズババババっとすすっていた。


「大天使長!!大変ですぞ! すごく大変ですぞ!」


 補佐たる自分が緊急っぽくやってきたのに、しかしまだメシを食ってるソクラテサーに対し、アリストテレサーは再びまくしたてた。

 しかしこのスキンヘッドのソクラテサーは、なんだか面倒くさそうに眉根を寄せ、


「うるさいのうアリストテレサー。わしは食事中は沈黙を好むと言ったじゃろう。特にラーメン食ってる時に騒がれると、誰彼なしに堕天させたくなるわい」


 神様がいたら一発で堕天ものの発言をサラっと言った。

 しかもソクラテサーは依然ラーメンを食いつつ、「ああまた血圧あがるわい。これが戦闘力じゃったらのう」と意味のないことを呟いてズババババ。


 白髪アフロ天使アリストテレサーはワナワナして


「大天使長!! これは火急の用事なのです! 出来れば『ごつもりや』は後にしてもらえませんか!」


 ていうかまた痛風でますよその塩分! と一応突っ込んでみたが、ソクラテサーは煩わしそうに箸を振り


「ええいもう。そんなに慌てまくったところで事態が改善するものじゃなかろうて? 落ち着けこのアフロヘアー」


 言ってからゲッホゲホと咳き込んだ。が、しかしまたズババババババっと汁を飛ばして麺をすするソクラテサー。アリステレサーの内心は『ジジイいつかグラサン割る』だったが、今は立場が下なので我慢する。


「で、ですが! これは本当に天界がひっくり返りかねない事態ですぞ!? 本当に『ごつもりや』を食べてる場合ではないかも知れませんぞ!?」


 ソクラテサーはいよいよ面倒くさそうな顔で


「うるさいのー。ワシは天界よりも今はラーメンに忙しいの。今は勤務時間外なの。要件をさっさと言って帰りなさい。タクシー代あげるから」


 ソクラテサーは言いながら、カップ麺を両手で持ってその濃いスープをグビグビと飲み始めた。

 その呑気さにとうとう怒りさえ覚えたアリストテレサーは、自分のアフロヘアーフェイスを寄せて


「ダージリン修道会のロケットが龍界に向けて飛翔中ですぞ!」


「ぼべー!!!!!!!!!!!!!」


 ジジイがスープ噴いてムセた。

 直撃を受けたアリストテレサー。


「だー飛び散ったきったねー大天使長きったねー!! 死ねよグラサンじじいい!!!」


「ッゲッホゲホ!! アリストテレサー!! お前さんこの大天使長たるわしになんという口の利き方じゃ!?」


「し、失礼致しました大天使長!」


「堕天さすぞこのアフロめが!!」


「溢れるパトスを抑えきれず口が滑りました! 悪いのは魔王です!」


 悪いことをしたらとりあえず魔王のせいにしておけばイイ。それは大天使長ソクラテサー自身が、天界会議で汚職の末に通した天界ルールの一つだったので、彼はそれ以上の文句を言えなかった。


「そしてロケットにはあの堕天させたエクレールが乗っています! つまりあの子は堕天御免要件を達成すべく龍帝討伐に赴いているのではないでしょうか!?」


 ソクラテサーは入れ歯をモゴモゴし、そして鼻から少量ハミ出た麺を指で取りつつ


「うーむ。それは確かに大変じゃのう。『ごつもりや』どころではなかったのう」


 だからそう言っただろハゲ、とはアリストテレサーが内心で言った言葉。


「あの測定不能天使エクレール、ワシ達が再三に渡ってイジメ抜いて、濡れ衣着させて、下級天使が母親とか浮気相手の子供だとかウソもついて、そして相当なイヤガラセをした挙句に堕天させたというのに。……一体どういう心変わりで、天界なんかに復帰したいと思うようになったんじゃ?」


 ソクラテサーは鼻から取った麺を食いつつ言った。アリストテレサーは一歩下がった。


「あ!」


 そのときアリストテレサーは閃いた。

 ソクラテサーと共に働いてきた悪事を思い出し、ピンときたのだ。


「まま、まさか! エクレールは、私達があの子を堕天に追い込んだ際の不正を見抜いていて、それを神様に報告する気ではありませんか!?」


 と。

 そしてそう思い始めると、悪い連想は止まらなかった。


「あるいはエクレールを妹のように可愛がっていて今回の堕天に最後まで反対していた戦乙女ヴァルキリーアテナに泣きつく算段では!? それともエクレールの隠れ実父にしていつもエクレールのことを遠巻きに見守っていた神王ゼウス様にチクる――」


「落ち着けい落ち着けいアリストレテレサー」


 テンパるアリストテレサーをなだめるように、ソクラテサーは言った。


「ゼウスにはな、エクレールが『自分を騙した父親とは絶縁したい』と言って自ら堕天したと言いくるめてある。心配ないわい。それにエクレールの方も、9を素数と間違えとるアホの子じゃ。ワシたちのついた巧妙なウソを見抜いとるわけなかろう?」


 ソクラテサーは笑った。フェッフェッフェと笑いながら入れ歯をボゴっと噴いた。

 そしてそれを何事もなかったかのように戻してから


「それにしてもあのエクレール。小学生でも分かりそうなゼウスを模したハリボテ幻影に、『わっはっは。エクレール、お前は出来損ないの片翼だー』とか、『わっはっは。エクレール、お前の母は下級天使だー』とか、『わっはっは。エクレール、母親が死んだからといって今頃娘を名乗られても厄介だー』とか、『わっはっは。エクレール、お前はそもそも生まれてくるべき子ではなかったー』とか口パクさせたら、そのまま丸呑みに信じてビャービャー泣いておったなぁ。フェッフェッフェ」


 アリストテレサーは思い返す。

 確かにエクレールはあのときガチ泣きしていた。


 ソクラテサーは電動式車椅子にふんぞりかえりつつ


「な~にが測定不能天使じゃバカバカしい。そんなものでこの大天使長ソクラテサーが脅かされると思うてか。ふん」


 アリストテレサーは、『いやあんたエクレールの戦闘力見て失禁してただろ。そして震えながらマッハで堕天決定したのもアンタだろ』と内心では思いつつ、引き続き黙って耳を傾ける。


「それにそもそもエクレールはのう。まだ実父であるゼウスに一目も会ったことがない。じゃからいくらあのハリボテ幻影がパチもん臭かろうと、本物を知らんでは問題無いじゃろう?」


 アリストテレサーは、そういえばそうだったかな? と首を傾げつつ


「ところでなにゆえ、エクレールはゼウス様と面識がないんでしたっけ?」


 と彼は尋ねた。ソクラテサーは自分のスキンヘッドをさすりつつ


「エクレールの母マリアはな、エクレールを生んだ直後に不治の病にかかり、ゼウスはその看病にかかりきりじゃったんじゃ。そしてその時に、マリアは、まだ幼いエクレールに母親じぶんの苦しむ姿を見せとうないと遠ざけた。しかし、母を知らぬ子もミジメじゃと、マリアはゼウスに頼み、下級天使を母親としてあてがい、エクレールを育てさせたんじゃ」


 アリストテレサーは、『マリアといえばフリプール村に祭られている聖母の名だったか』と思いつつも、しかしすぐどうでも良くなって


「そうすると大天使長、『わっはっは。お前の母親は下級天使だー』発言はあながちウソではないのですな?」


 尋ねると、ソクラテサーは頷いた。


「そうじゃ。義理の母であることには違いない。大天使長はウソをつかん。フェッフェッフェッフェ。そしてその下級天使もつい先ごろ、マリアと同じ病にかかって亡くなったわけじゃ」


 なるほど、とアリストテレサーは頷いた。


「し、しかし大天使長。エクレールがこれらの事に自分から気付かなくとも、誰かに入れ知恵された可能性はないですか? 例えば『あのハリボテゼウスはアホのソクラテサーが作った幻影だー』とか。でなくてはエクレールが、あんな面倒臭い堕天御免要件をクリアしてまで、この天界へ戻ってこようなんて気にはならないと思うのですが」


 あんなひどい目にあわされたわけですし、と最後にアリストテレサーは加えた。

 むう、と唸るソクラテサー。←アホ扱いされたことに気付いててない。


「もしもそうとして、そしてエクレールが天界復帰を果たし、ワシたちのでっちあげたこの真相を神王ゼウスや戦乙女アテナに言ったりすれば、いくらワシたちでも一発で堕天決定じゃな」


「ひいいいいい!!!!」


 アテナという名を聞き、ブタを絞め殺したような声で震えるアリストテレサー。


「いや、最悪の場合は魔界どころか滅界に行きかねん」


 滅界という言葉を聞いてアリストテレサーの声はやみ、変わりに顔色がサーっと青くなった。

 しかしすぐにまた大きな声で


「めめめめめめ、滅界!?!? 滅界ですと!?!? 史上最凶の13歳少女、バイタル・ハント・キティが統治する滅界ですと!?!? あああああ、あんな場所に堕とされたら! わ、私たちは!」


「うむ。どうなるか想像もつかんわい。なんせ滅界は、あのフィナンシェ・エルヒガンテでさえ『気が滅入る』と言っておったそうじゃからな」


 その言葉が如何に凄まじいものであるか、それはアリストテレサーのアフロヘアーが微震していることからも明らかだった。


「そしてエクレールは天界復帰が不可能なよう、堕天御免要件を無理ゲーレベルの龍帝討伐としておいたんじゃが。いや、甘かったか」


「どういうことですか大天使長?」


 アリストテレサーの顔が恐慌寸前だった。ソクラテサーは言う。


「さっきは悔し紛れにああ言ったが、やはり天界始まって以来初の測定不能を叩きだした大天使じゃ、相応のヤル気を出せば、龍帝討伐もあながち可能性がないわけでも……」


 アリストテレサーがムンクの『叫び』のように顔を両手で押しつぶし、


「だだだだ、大天使長様!!! もう今からあのロケットを撃墜しましょう!!! かか、かつて魔界を焼き払った最終絶叫兵器『口を慎み給え。君は神の前にいるのだキャノン』とか、天界最強鬼畜兵器『ハハハ、みろ。魔界がゴミのようだ砲』とかで、クリー・エクレール号を木っ端微塵にしちゃいましょう!!」


 天使にはあるまじき、とんでもない提案をアリストテレサーはした。

 しかしソクラテサーは、驚く様子は微塵も見せず、吟味するように顎に手を当て、


「むぅ、確かに今から始末をつけてしまう手もないではないな」


 貧乏揺すりしつつ言った。


「そそそ、そうしましょうそうしましょう! そうしましょうったらそうしましょう!!」


 アリストレテサーはヒステリック気味に言った。


「しかしじゃ。世界創造神話によれば、第一次聖魔大戦でその砲撃を行った瞬間、神の軍勢は大敗を期しているという過去があってな。じゃからワシはあのキャノンを動かすことにどうも一抹の不安が」


「大丈夫です大丈夫です大天使長! あれは龍帝の仕業と世界創造神話にも記されているでしょう! 何も龍界に撃つわけじゃないんですから大丈夫です!」


「そうかのう?」


「そうですそうです!」


「本当にそうかのう?」


「大丈夫ですって!」


「そこまで言うならば、いっちょやってみるかのう。しかしその前に……」


 ソクラテサーが眉間にシワを寄せたので、


「何ですか大天使長?」


 恐る恐るとアリストテレサーが問えば、グラサンじじいは頷いて


「痛風の薬飲む」


 結論から言うと、キャノンは発射されなかった。

 彼らは、エクレールの魔力で推進する、クリー・エクレール号の速度を舐めていたのである。


 そう。


 こんなしょうもないやり取りをしてる間に、

 彼女達はすでに龍界へ達していたのだった。


「だから言ったでしょう大天使長!! ラーメンすすっとる場合じゃないって!!」


「お前さんこそもっと真剣に言わんから悪いんじゃろう!」


「イイましたよイイましたよかなり真剣にイイましたよ!!!」


「うるさいわい! そんな悠長なアフロで言われて真剣さが伝わるか!」


 二人のジジイ天使は醜くいがみ合っていた。


 ――とりあえず、


 『ごつもりや』とか食べてる場合でなかったのは、確かだったようだ。

哲学ファンの人ごめんなさい




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