6:ダンシング・ハンティング・マーシャル・アーツ
「大丈夫だぜ、みーみ」
脱兎のごとくかけようとしてきたみーみに、マラカスまみれの俺は言った。
ガラガラガラっと身体より崩れ落ちる、都合20の演奏器具。
アミーゴたちは俺の有様に動揺し、一歩後ずさる。
「アミーゴ!? 10人の全力投球受けてノーダメやてセニョリータ!?」「アミーゴどいや!?」「どいやでアミーゴ!?」
そう、我が身は一切の無傷である。髪の毛一本ほどのダメージもない。
これはしかし、決してマラカスの威力が弱かったわけではない。
そしてもちろん、避けたわけでもない。命中したのは命中した。それも全て。
しかしそれらが殺到したのは俺ではなく、
「流石に一国の王が持ってるとなると、造り自体が違うんだな。これだけ重いのに扱いやすいぜ」
俺が盾代わりに抜き払った背中のツヴァイ・ヘンダー、
死者帝国ネクロポリス国王、バルバドスより土産と渡された両手剣『なでしこ』、
その幅広の刀身に、である。
アミーゴの一人が叫んだ。
「セニョリーター!?!? 見た目によらずめっちゃ怪力かいなー!?」「剛力でアミーゴ!」「大剣メイドでアミーゴ!」
スッパリと身を隠すほどの大剣を、俺のような矮躯が振りぬいたと知ったからだろう、アミーゴたちは再びどよめいている。
両手剣の使用法はなにも、重さに物を言わせた一撃ばかりではない。
その面積を『横』に活かした、防御手段としても秀抜なのだ。
「にゅ~ん、一時はどうニャるかと思ったっすよ」
みーみは安堵の溜息をつき、
「ZZz。ステビアどの私はもうポンポンいっぱいにござる。Zzz」
ペンギンは後ろでふつうに寝ていた(無敵だなしかし)。
「意外だったか??」
俺は『なでしこ』を下ろして、ちょっと自慢げに笑ってみる。
「掃除洗濯料理といった家事を、訓練と見れないのは男の悲しい慢心ってことだよ」
ふふふ。メイドさんとは、皆が思ってる以上に体力と腕力のいる仕事なのである。
ヴン! っという粘るような重い風切り音を立て、俺は『なでしこ』を背負うように構えた。
大上段にではない。
背負うようにだ。
刃は背中の後ろに隠れ、両肘があがって胴はガラ空き。無防備千万。そしてこの型から繰り出せる一撃は、上からの振り下ろし以外ありえない。
あからさまな太刀軌道となる。
回避は至極容易だろう。
――ただしそれは、
――しかしながらこれは。
万 一 に も 当 た れ ば 、
致 命 傷 ど こ ろ で す ま な い。
そういう斬撃の構えである。
オール・オア・ナッシング――伸るか反るか
ハイリスク・ハイリターン――虎穴に入らずんば虎子を得ず
ウィナー・テイクオール――一撃必殺
そんな、無防備かつ傲岸不遜極まりない構えである。
「ま、まさかでアミーゴ」「やばいでアミーゴ」「セニョリータ無双でアミーゴ」
アミーゴの怖気ずくような様子に、俺はフっとほくそ笑んで見せた。
そう、こんな伊達た構えが許されるのは、もちろん、
手 練 だ け だ。
それ故の、アミーゴたちの気後れなのは言うまでもない。
そしていきなりだが明かそうと思う。
要はこれ、ハッタリなんです。
剣士見習ステビア、
まだ初歩の「し」の字も知りません。
――――だから俺には、
ま だ 此 処 か ら 先 が な い 。
本音まで言っちゃうよ?
み ー み ! 、 ヘ ル プ !
必死のアイコンタクト開始。パチパチとウィンク。お願い! 通じてマイスウィートみーみ!
以心伝心とはかく言うかな。目端でネコ娘の頷くさまが見えた。
「HEY♪ そこのアミーゴたち♪」
みーみの声にアミーゴたちが、一斉に彼女の方に向き直った。そして背後から新たなマラカス(スペアあるのね)を取り出して構えた。やった通じたよ!
「なんやセニョリータ!? もう戦いは始まってるんやアミーゴ!」「参戦やったらタダじゃすまさんどいやアミーゴ!」「ワシのセリフはアミーゴどいやばっかりどいや!」
まさにいつ攻撃されてもおかしくない緊張したその状況、しかし、みーみはあくまで軽く、
「ザッツライト♪ いえい♪」
と、大きなネコハンドでVサインを決め、キャンディみたいにニコっと微笑んだ。
アミーゴたちが気色ばむ。
「アミーゴ!! そやったらセニョリータも命を――」
そう啖呵を切りかけた時、リズミカルにビートを刻む音が響いてきた。
「なんどいや?」「なんどいや?」「なんどいや?」「なんどいや?」「なんどいや?」「なんどいや?」
見ればみーみが、足のツマ先とカカトで、乾いた砂を軽快かつ器用に踏み鳴らし、ヒップホップのような韻を奏でている。
そしてそれに合わせ、彼女はゆったりと、ライムと調和したゆるいステップを踏み出した。
アミーゴたちがザワザワと騒ぎ出す。
「おおおおおお なんどいやなんどいやすごいどいやアミーゴ……?」
マラカス持ちとしては、戦闘さえ忘れて注視せざるを得ないダンスのようだ。
彼らの視線に、みーみはニコっとする。そして俺に、彼女はパチリとウィンクし、アイコンタクト。
――御主人様♪ ここはボクにまかせて♪
み ー み 、 俺 の 市 場 で 株 爆 上 が り 。
徐々にみーみの刻むビートが、よりアップテンポに、よりリズミカルになっていく。
知らぬ間にアミーゴたちは、小さくヘッドバンキングをしはじめた。マラカスも振り始めた。シャカシャカシャカと、音が重なる。
そうして徐々にノッテいく彼らに、
「お~~♪ 盛り上がって来たっすね?♪」
みーみもまた自らのライムでノリノリになり、足先の動きが膝を伝い、徐々に腰を揺らし、肩をひねらせ、やがてスタイリッシュなブレイクダンスの立ち踊になった。
アミーゴもはや大騒ぎ。
「おおおう!?!? ブラボウウウ!?!? セニョリーータブラボウウ!!!」「アミーゴどいやどいや!?!?」「マルゲリーターー!!!」
みーみのステップ。
まわるようなトップロック、
うねるようなツイスト、
すべるようなブロンクス。
アミーゴ達は快哉をあげる。マラカスも振りまくる。
ここまで来れば俺にも分かる。
―――さぁ、
みーみのダンシング・ハンティング・マーシャル・アーツ、
『R&B』の始まりだ。
時に重く時に軽い。
時にリズミカルで時にリズムブレイキン。
テンションを底からくすぐるようなステップのコンビネーションに、彼らはもはやノリノリで魅入られていた。
みーみがパッチリとウィンク。
「さぁアミーゴ♪ ボクと踊ろうよ♪」
ステップしつつ、ネコハンドでくいくい。アミーゴ達はそこでようやく「ハ!?」っと我に返り、これが闘いの合図と知って踊りかかってきた。
「セニョリーター!!!!」「ちょっとワシらがノリノリシャカシャカさせられたから言うて舐めとったら痛い目あうどー!!」「アミーゴどいやー!!」
アミーゴによる飛びかかっての初撃はマラカスによる殴打(演奏器具で殴るのか)。しかしみーみは、
「わぉCOOL♪」
と呟きつつ、やはり踊るようなフットワークでかわした。
上体を地に伏した、しなやかでセクシーなステップ。
ただの回避にしてはあまりに装飾された動き。
アミーゴ達は挑発されたととって、
「アミーゴ!! 真剣勝負でフザけとったらアカンどいやー!!」「セニョリータどいやー!!」「ワシのセリフ適当どいやー!」
次々と怒涛のように攻撃をかけてきた。
まるで瀑布のようなマラカス乱舞がみーみを襲う。
しかし彼女はそれを笑うように、事実笑いながらリズミカルかつ軽快にかわしていった。彼女はさらにノリノリだ。
みーみは嬉しくてたまんないとばかりに「うふふふふ♪」と笑い
「いいよいいよアミーゴ♪ 最高にCOOLっす♪ さぁ、もっとボクと踊ろう踊ろう♪」
猛烈な攻撃なのに、まるで予定調和のように、みーみはエントリーのリズムを維持したまま、全く危なげなくかわしている。右に左に自由自在に、変幻自在に。
そう、彼女のダンスを意識した時点で、アミーゴたちはもうみーみの手の内なのだ。
緩急のついたエントリーステップで彼らは動きを制限され、
挑発するようなフットワークで彼らは冷静さを失わされ、
そしてなにより攻撃のテンポが、
無意識にみーみのビートにノせられているのだ。
つまり彼らの全ての攻撃が、みーみには予定調和なのだ。
踊るようにという比喩はあるけれど、みーみは本当に踊りながら彼らの攻撃をかわしている。
当たらない当たらない。カスリもしない。
そんな気配など微塵もない。
みーみが再びパチリとウィンク。
「へいアミーゴ♪ そろそろボクもイっちゃうよ♪?」
声を境に、みーみの動きが急にアクロバッティクになる。
いよいよ攻撃の始まりだ。
「やらせないぜセニョリーター!!!」
気合一発、アミーゴ達の強烈なマラカス大ぶり。それを再びセクシーなフットワークでかわしたあと、みーみは両手を大地につけ
「スタイラーからパワームーバーへのスタイルチェンジ♪」
回転するような足技を放った。
ブレイクダンスの真骨頂にしてカポエイラの色が濃く出た、両足による連撃。
コンパスのようなクリケット――、
えぐるようなスワイプス――、
旋風のようなトーマスフレア――、
スピーディーなウィンドミル――。
いかにもブレイクダンスらしい動きで、アミーゴ達は彼女のネコソックスに乱打され、放射状にぶっ飛んだ。
「アミーーゴーー!!! ノリノリでイケイケでボコボコどいやーー!?!?」「ヤミつきどいやー!!!」「アンコールでアミーゴー!!!」
嬉しいのか痛いのか良くわからない悲鳴。
みーみはそこで流れるようにしてエア・チェアをピタっと決め、ぶっ倒れている彼らさえパフォーマンスの一つとするようなフリーズで、そのブレイクダンスをしめた。
見事なKO劇。
鮮やかなダンシング・ハンティング。
みーみによる――、
――『R & B』。
パンパンパンとネコハンドで砂を払ってから、彼女は、ご褒美ねだるような目をキラリと俺に向け、そして事実ほめてほめてというような声音で
「御主人様御主人様!♪ いまのボクのダンスはどうだったすか♪ ノリノリでイケイケだったすか♪ うふふふふふ――って……ウニャアアアアアア!!!」
みーみ絶叫。俺とペンギン見て絶叫。
「御主人様~~!!!! それどういうつもりっすか~~!!?!?!?」
俺が寝ているペンギンを膝枕しているのをネコハンドで指しながら、彼女は鳴いた。いや、泣いた?
みーみ地団駄。
「ウニャァアアアア!! なんでそんニャ見ず知らずの行きずりペンギンにボクの御主人様は膝枕とか決めちゃってんですか~~!?!?」
叫んだ。
みーみすごく叫んだ。
俺はスヤスヤ寝てるペンギンの頭を撫でつつ、でもなんかニヤニヤしちゃって
「いや。なんか自分の作ったものをあんな美味しく食べてくれたのが嬉しいっていうか可愛いっていうか、ほら、なんかペンギン可愛いって言うかその」
寝顔ナデナデ。みーみの頭上におもいっきり『ガーーーーン!!(ショック音)』が出現。
「ニャアアアアアアアア!? ボクなんかここ最近ぜんぜんぜんぜん御主人様の膝のぬくもり味わってないっすよ~~~!?」
「え、だってもうみーみ俺より大きいしそういうのしたらあれかな~って」
「ニャアアアアアアアアアア!! そんニャこと言いニャがらペンギンの頭を撫でてるなんて許せニャいっす!!!」
ダブルネコハンドで地面をバンバンバン! バンバンバン! おお、荒れとる荒れとる。ネコ荒れとるぞ。
「あ、うん。ゴメン。でもこの子すごくプニプニしてて寝顔も可愛いというかあったかいというかフフフ」
「ニャアアアア!! 御主人様の裏切り者~~!!! ニャアアアアアー!!」
みーみが泣いた。内股座りになってネコハンドで目抑えながら泣いた。
「ニャァアアアアアア!!! 御主人様のばかあああ!!!! にゃあああああ!!!!」
ガチ泣きだった。
わりと本気で泣いていた。
流石にかわいそうだと思ったので、
「じゃぁみーみ」
俺は彼女の後ろで、再び「よいしょでアミーゴ」と立ち上がるアミーゴたちを指さし、
「そのアミーゴを早くやっつけたら、ヨシヨシしてあげる」
急にみーみの目がキュピーンと輝いた(さすが猫)。そして彼女はネックスプリングで跳ね起きた。いちいち躍動感のある子だ。
「それホントすっね!?」
身を乗り出して聞くネコ娘。俺はペンギンのほっぺをプニプニしつつ頷く。
「うん、お約束。すごくお約束しよう」
また、キュピーンという音が聞こえそうな輝きで目が光った。なんかイヤな予感がする。思わずペンギンの頬ひねる。ううう、とうめき声。
みーみがアミーゴに振り返った。
「聞いてのとおりっすよアミーゴ♪ そういうわけで、ボクはもうそろそろ帰ったほうがいいと思うっす♪ ありがとう、今日は楽しかったよ♪」
そしてみーみは最後とばかりに、空中で螺旋状に身をひねるジャンプ――コークスクリュージャンプをスタイリッシュに決め、しなやかに着地。
それからパッチリと大きなウィンクを決めた。
思わずアミーゴ達はマラカスを振り上げ
「ブラボーー!! おう! ブラボー!! セニョリーター! マルゲリータ!」「エクセレントーー!!」「ファンタスティーーック!!」「トレビアーン!!!」
快哉しながらマラカスをシャカシャカシャカシャカ♪ シャカシャカシャカ♪ 振りまくった。めっちゃ振りまくった。
が、
ハっと我に返り。
「アミーゴ!! フザけんなや! あんだけワシらをボコボコノリノリヤッフイさせといて今更帰れるかいセニョリーター!」
やっぱりボコボコよりもノリノリだったのね、俺はペンギンをプニプニしながらさりげなく突っ込む。
「アミーゴ!! ここからが本番どいや!!!」「本気どいや!!」「誰かセリフ考えてくれドイヤ!」
食い下がるアミーゴに、みーみはヤレヤレとばかりに両手をあげて肩をすくめ
「これ以上はやめといたほうがいいと思うんだけどニェ~、ボクは♪ だってここから先は、御主人様のヨシヨシペロペロチュッチュがかかってるからこのボクもニェ~」
いや、ペロペロチュッチュは言ってないぞペロペロチュッチュは。後頭部に汗が降りてきた。思わずペンギンのほっぺをひねった。あうう、とうめき声がした。
アミーゴはビシっとマラカスをみーみに向けて
「セニョリータ!! その言葉そのまま返したるわ!! このアミーゴはこれでもレッチリ砂漠で昔はブイブイ言わせとった札付きのマラカスマスターやからここからがサボテンとしての真髄――」
ジャキン! と剣山が突き立つような音がして、アミーゴは沈黙した。
見れば、みーみのダブルネコハンドからそれぞれ、
――――カッターナイフのように鋭く大きな爪が、
三 セ ッ ト ず つ 飛 び 出 し て い た。
濡れたような艶を放つ、そのカミソリのように鋭利なツメ。
それを目の当たりにして青ざめているアミーゴたちに、彼女はニィイっと、獣性むき出しにして笑う。
「さっきのダンスでボクがこれを出していたら、いまごろアミーゴたちどうニャってたかっすね~♪」
それは、指先でソロっと触れるだけでもパックリと切れそうなほど、研がれに研がれまくっていた。
そしてアミーゴたちが受けていた嵐のような乱打を考えれば、『どうニャってたか』など言うまでもない。
「にゅっふふふふふふふ♪ これはよ~~~~~~~~~く、切れるっすよ~~~♪??」
どんどん青ざめていくサボテン。
「もし続けるなら~~、次は踊り(ダンシング)から狩り(ハンティング)にかえちゃうっすよ~~~~~♪?」
みーみがそうして、ぬるりと溶けるぐらい柔らかな動作で、その両手を地につけた途端。
「アミーゴ!!お、覚えてろセニョリーター!」「また来週どいや!!」「今度はセリフをプレイヤーから募集どいや!」
アミーゴたちはとマラカスを捨ててダバダバダバダと砂煙をあげて逃げてしまった。賢明な判断である。
そしてちょうどそのタイミングで、ペンギンは目を覚ました。
ムクっと起き上がり、両手をパタタタタっと羽ばたかせながらアクビ。
にゃむにゃむと目をこする。
パチパチとマバタキ。
そして沈みかけた太陽を見上げる。
夕暮れに目を眇め、一言。
「もう一眠りしよ」
再びパタンと膝に頭をのせてスヤスヤスヤー。
「いいかげん起きなさい」
後頭部に汗しつつプニプニ生物を引き起こし、こちらを向かせる。
「これはこれはステビア殿、本日はどのようなご用向きで」
相当寝ぼけてんなこのペンギン。
「というのは冗談で」
と、このペンギンは言ってから、居住まいを立たすように気をつけ。
そしてきちんと、三つ指ついたような礼で頭を下げた。
「ご馳走を頂いたばかりでなく命まで救って頂いた恩義、いかような言葉を尽くしても足りるものではござらん。ステビア殿、此度のことは誠に誠に、誠に有難き幸せにござる」
そのあまりにかしこまった礼がかえっておかしくて、俺は笑ってしまう。
「この恩義はいつか必ずお返しするゆえ、どうかいましばらくこの身にきることをお許しくだされ」
俺は「いいよいいよ。そんな大仰な」と手を振り、
「俺だってあれだけ美味しそうに食べてくれたらさ、お弁当も気合入れ手作ってよかったって思えたし。それにね」
折角なのでリップサービスを装って招待もしてみよう。
「機会があればうち来なよ。もっとうまいものご馳走するぜ?」
小首を傾げて微笑んでみれば、ペンギンの目から、じわ~~っと涙が溢れそうになって、けれどもそれを見られるのが恥とするようにこのプニプニは背を向け、
「ま、誠に申し訳ないが、私はこれより抜き差しならぬ用があるゆえ、これで! 恩返しは必ず!」
言うやいなや、ペタタタタタタタタタタっと、可愛いステップでペンギンは消えていった。
俺はその背中を、消えたあとも見送りつつ、
「なんか可愛くて面白いヤツだったな~。砂漠は広いや」
ふふふっと、らしくない笑みを浮かべてしまった。
予定外にして予想外ではあるけれど、とりあえず人(とり?)助けができてよかった。
それだって、勇者の仕事だもの。
「御~主人様♪」
みーみの声だ。
「あ、ご苦労様み~み」
と、窮地を救ってくれた護衛を労うべく振り返って微笑んだら急に上から押し倒されて
「キャ!」
と悲鳴。背中をしっかりと砂地につけた見事な転倒。
唐突の出来事に思わず閉じた目を、ゆっくりと開ければ、
みーみが、俺にマウントポジションをとって、目をランランと輝かせていた。
そのピンク色の口元が、ヨダレをじゅるりとすすっている。
「みーみ……?」
怪訝に眉根を寄せれば、みーみはニィイっと笑い、
「にゅふふふふ♪ 御主人様♪ さっきの約束覚えてるっすか?♪」
約束? と呟いたが、すぐに『ナデナデ(?)』の件を思い出した俺は何か嫌な予感がして背筋が寒くなり、「あの」と口を挟もうとしたが
「それではそれではそういうわけで、ボクと約束した通り、今からヨシヨシなでなでペロペロちゅっちゅアムアムモミモミくりくりをいっぱいいっぱいしたりされたりするニャン♪ にゅふふふふふ♪」
意味不明なにゃんにゃフルコースにサァーっと血の気が引いた。
「いやいやいや色々おかしい!! いろいろおかしいよ!?」
俺、ソクラテスばりの弁明開始。
「なんか最初と契約内容が色々全然違うし著しく改ざんされてるし不穏なフラグがビンビンに立ってたよ!? そしてアムアムモミモミくりくりってなんだよ!?」
「にゅん? そんなのオッパイマッサ(バキューン!)に決まってるっすにゃんにゃん♪」
燃えるように顔が赤くなるのが分かった! ていうか
「いったいそんなお下品なマッサージどこで覚えたんだみーみ!?!?」
腹上のペットはネコハンドの指を一本立て、
「御主人の御主人からにゃん♪」
あのツインテール!!!!
「ニャんでも御主人の御主人いわく、『いいことみーみ。今から私の話すことを一言一句余さずよくお聞きなさい。これから事あるごと、何かにつけてともすれば事故なども装って、ステビアのおっぱい触りまくりなさい。最初はくすぐったがるでしょうけれど、それでも執拗に続けていればいつかその声音に甘く哀切な声がこぼれ始めてくるでしょうから、そこまで来たら首筋に舌を這わせつつ貴方の手を胸から腹部へ、腹部から下(以下CERO18につき自粛。これは良い子のゲームだよ♪
』」
あの赤毛ツインテールなに吹きこんどんじゃない!! やっぱりこの子発育おかしいと思った! あんな可愛かったみーみがこんなんになるにはどっかで悪影響与えてるヤツがいるとか思ってた!
怒りと恥ずかしさに涙まで出てきている俺にもお構いなしにみーみは顔を寄せてきていきなり首筋を べ ろ り ♪
「ひゃん!?!?!?」
死ぬほどくすぐったい感触にビックンと弾むほど痙攣したが、しかし先ほどご覧のとおり、マーシャル・アーツの達人たるみーみによるマウントポジション。体勢は一切変化せず。
「ぐすん。みーみ。お願いよく聞いて」
なんか俺両手を目に当てて泣いてるし!
「さっきね、わたし――いや、俺とお約束した内容と、ぐすん、み、みーみが言う内容って、か、かなり違うんだけどね、」
「そんニャ難しいこと言われても御主人様、ボクはネコだからニャンのことだかサッパリ分からないニャン♪ にゅふふふふふふう♪」
みーみは言った。確信犯的に言った。
その、ちょっと尋常でない様子のペットの笑顔と、
その、ワキワキと動かしている巨大ネコハンドに、
俺はもう、御主人としてのプライドそっちのけで、がち泣きになる。
だってさっきの一撃で、
も う 俺 の H P は 0 な ん で す ! ! ! (実際は全回復しますが)
「そ、そそ、そうだみーみ!!」
半泣き半笑いの俺の声は、最早震えていた。
にゅん? と首を傾げるみーみ。
「あ、あのね! ここ、ここは砂漠でしょ? さ、砂漠で暑かったから、お、俺ちょっと汗かいてるの! ……だ、だから、ペ、ペロペロとか、あ、あむあむはしたらバッチイからまた今度にしよ……? ね……?」
必死、俺まじ必死。もう涙とかボロボロ出てるもん。
ねこ、めっちゃ笑ってる。目の前ですげー笑ってる。
「にゅふふふ♪ 御主人様~~♪ 汗だニャんてそんニャのね~♪」
ジュルリっとみーみが再び舌なめずりした。
そして告げた。
何を言っても無駄だと。
「 そ ん ニ ャ の ボ ク に と っ て は ご 褒 美 以 外 何 (ニャニ) 者 で も ニ ャ い っ す ♪」
あー、死んだ。俺死んだ。
み ー み 、 俺 市 場 で 株 爆 下 が り 。
ツ イ ン テ ー ル は ス ト ッ プ 安 !
――――その日、
レッチリ砂漠には少女の泣いたような笑ったような悲鳴がずっと響いてました。
後には、なんだか全身モモミツまみれにされまくったメイドさんが、
ビクンビクンしていたといいます。
そしてそれを抱き枕にしているネコ娘が、そばにいたといいます。
名前:みーみ・カモミール
職業:ステビアのペット(戦う五線譜:メロディアス・ハンター)。
LV:22
HP:2200 MP:200
装備:デュアル・クロウ『メロディックスピードメタル』
解説:キャットレディ(希少種)として成長した桃猫みーみ本来の姿。彼女ならではの音楽センスを昇華したマーシャルアーツ『R&B』は、フィナンシェをして『いずれ間違いなく魔王軍に抜擢されるわね』と太鼓判を押されているほど。しなやかでセクシーなボディは健康的な色気に溢れており、放たれるフェロモンは異性を秒殺する。但し当人は自覚なし。なによりも御主人様の愛が全て。無限回復能力は健在。センパイLOVE。バカ(動物的な意味で)
ピロリン♪ YOU♪ CG『ネコ娘の過剰愛(CERO15)』をGETしましたYO♪
一方その頃、
カボチャの馬車内では。
「やったわ! 3333回めのリタマラにしてついにt5k9ゲットよ。やっぱりテーブル6だったようね。あ、そうだ。これまで応援してくれた人たちに返レスしておかないと。『下山してミニゲームいってきます』っと。よし」
ミイラから復帰したフィナンシェ・エルヒガンテが、携帯ゲーム機などエンジョイしていた。




