11:両手剣『撫子』
おびただしく放散された魔王の魔力で、紅蓮に染まったネクロポリスの空。
国民たちが見上げるその一面の赤に、光が飛来した。
何か凄まじく凄まじい感じのが、凄まじい勢いで飛んできたのだ。
皆が口々に叫ぶ。
「あ、あれは一体何だYO!?」「音速ブッチしちゃってるわ!」「フィナンシェ様はパパと言ってたんだぜ!?」「それじゃぁ魔王様確定だろ常考!?(あばばばばば)←もはや逆転の域」
燃えるよう空を背景に、猛烈な勢いで迫って来る光の線は、
やがて『キィィィイン』という風切り音を立てて、
「おいあれってまさか……」
音速を超える轟音となって、
「冗談だろYO!?」
その形を、ベンダシタイナー城に突っ込むかという距離になって露わにした。
「 「 「 「 あ あ あ あ あ あ ! ? ! ? ! ? ! ? ! ? ! ? 」 」
皆が口をそろえてその正体を叫ぶ。
「 「 「 「 「 痛 ジ ェ ッ ト 戦 闘 機 !?!?!?!?!?!?!?!?」 」 」 」
次の瞬間、チュドーン! という分かりやすい爆発音と、オレンジ色の爆炎が城から噴き出た。
痛車ならぬ痛ジェット戦闘機が、真っ赤な空をマッハ2ぐらいで飛行し、なんのヒネリもなく城を直撃したのだ。
ガラガラガラと崩落するその箇所。
モクモクモクと、立ち上る黒煙。
突如発生した衝突現場を見あげながら、俺は思った。
確かに、あれは痛かった。
オールピンク色のF22ラプター型のステルスジェット戦闘機、そのボディには『輝鳴夢沙愛』と赤丸文字でペインティングされていたのだ。
「もう、パパったら」
リング上のフィナンシェお嬢様が、恥ずかしそうに頬に手を当てて、でもちょっと嬉しそうにハニかんでいる。可愛い! でもパパ大丈夫? ものすごい勢いだったけど、って。
――――ていうかパパかよ。
やがて、ガラガラガラと崩落している城の激突部分から、『ウィーン』という、何か駆動音らしきものが響いてきた。
火煙でおぼろげなそこを、皆が沈黙して見上げる中、
「ぬぅううん!!」
やたらとダンディーかつ渋みのある声と共に、真っ黒な影が飛び降りてきた。皆が目で追う。
高さは4~50mぐらいか、そこから飛び出してきた人型の影は、そのまま城の跳ね橋の前に――広場の奥側に、ズダっ! と音を立てて着地した。
いよいよ、魔王エルヒガンテと対面。
ごくん、と喉が鳴った。
片膝をついて着地していたその姿が、
ゆっくりと立ち上がる。
「っはぁああああ……」
唸るような、息を吐きながら。
そしてゆっくりと、威厳を以って歩いてくる。
その全容を目の当たりにして、皆がカミナリで打たれたように硬直した。
「ああ」
誰かがうめいた。
その姿がまさに、
魔王だったのだ。
マジマジと見る。
マダムを0.5秒で撃沈しそうな激シブダンディーフェイス。頭にチョンマゲ。
真っ黒な南蛮の甲冑に朱色の陣羽織。戦国時代。
上から羽織った大きなエリのついたマント。異国情緒。
無頼のように担いだ大きな陣太刀。真剣。
いえす。
その姿はまさに、
魔 王 だった。
皆が内心こう思った。
魔 王 違 い も 甚 だ し い !
皆が内心こう思った。
バ サ ラ に か え れ !
皆が内心こう思った。
ぶるわぁああああ!
ともあれ彼は。
やおら後方を振り返り、城の最上部で今も燃えまくってる痛ジェッド戦闘機を見上げて、
「ふぅむっ……」
と、眉間にしわを寄せて目を細め、手を目の上にかざしながら
「着陸成功で、あ~るかぁ……」
満足気に言った。
皆が内心全力でこう思った。
見 事 に 大 失 敗 だ よ!!!!!!!!!!!!!!!!!!
でも皆がツッコミをこらえた! ここまで必死にコラエた! よく耐えた! おお、フィナンシェお嬢様がちょっと赤面してる! なんか参観日に来た親が目立ってどうしよう、みたいな小学生みたいに赤面してる! 可愛い!
魔王はそして、その目を愛娘ではなく、上空のある一箇所に向けた。
そして一言。
「そこのハエぇ……」
空で死んでいたベルゼブブだった。
スカトロ貴公子はその声だけで一万回は殺されそうな顔して
「しししししししししし、失礼致しましたザンス!!!」
っと超高速で着地し、魔王の前で臣下の礼を取った。そのまますぐに
「ままままま、魔王様!!! まままままずは!!!! ここここ、今回の!! フィフィフィフィフィフィフィナンシェ様に対する数々のご無礼を!!! こここ心からお詫びいたしますザンス!!!!」
顔から滝のような汗をこぼしながら、マシンガンのようにくっちゃべった。
「ししししししししかし魔王様!!! ここここ今回のイキサツには複雑極まりない事情や言葉の行き違いや錯誤や勘違いや不幸やいろいろなことがおきすぎて!!! ももももうこのベルゼブブにも――」
今も口からブチまけまくってる忙しいベルゼブブとは正反対に、魔王はユルリとした動作で担いでいた太刀を降ろし、
ズラズラズラっという、凍えるような音を立てて鞘を払った。
「おもてを、あげぃ……ベルゼブブぅ……」
そこには、見るだけで寒気がするほど怜悧な刃が、陽光に濡れて光っていた。
しかしそれよりも、そんなことよりもベルゼブブは、緋色に燃え盛る魔王の目に睨み降ろされ、身体が爆揺れしていた。
目をむいて涙をこぼし、歯をカチカチならし、
「はわわわわわわわひょひょえひょえひょえひょえはわはははは」
泣いてるんだけど、あまりの恐怖で泣き笑いになっている。
魔王が地鳴りのような低い声で言う。
「お前もぉ……、この魔王の魔王軍の端くれだろうぅ……? つまらん言い訳はぁ、末代までの恥じゃ。……この俺がスッパリぃ。その素っ首を……落としてやろうぅ……」
チャキン、と、太刀の刃が返された。そしていっそうに、魔王の瞳が紅蓮に燃えた。
「そこに なぁ お れぃ 」
「きゃーーー!!!!!! ケツカラデルドー!!!!! はわあわわわわお許しをおおおおおおお!! 魔王様どうかお許しを~~~!!!!」
ベルゼブブが土下座フォームになって、頭を地面に連打した。しゃがみ弱キックばりの高速連打だった。
「フンバルトモレール!!! ヘーヒルトベンデール!!! ベンダシタイナー!!! お許しを~~~!!!」
超絶高速で土下座やってるベルゼブブ。スカトロ貴公子はもう気の毒なぐらい怯えていた。
そしてその気持は非情によく分かる。
俺だって死ぬほどこわいもん。
「こぉの、魔王はなぁ……――」
魔王はアゴをあげて言った。
「可愛いフィナンシェちゃんを可愛く扱わずぅ……、綺麗なフィナンシェちゃんを綺麗に扱わずぅ……、美しいフィナンシェちゃんを美しく扱わないヤツはぁ……、例~~~~~~~外なくぅ、駆逐することにしてることにしてるんだよぉ?」
と。
俺はふと思った。
フィナンシェお嬢様の、あの決め台詞はここ由来かと。
そして、ベルゼブブがほんとうの意味で詰んでいた理由も、ここにあったわけだ。
ご覧のとおり次期魔王など、この存在の次になど、ベルゼブブ風情で務まるわけがない。
そして、ベルゼブブは魔王への申し開きを諦めた。
あかんと思った。魔王は完璧に目がイってるので、無理だと知った。
だから土下座しつつ、フィナンシェお嬢様の方を向く。
「ワーデルモーデル!!! ヒドいざんす~~~~!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
向いて泣きながら喚く。
「ぶひ~~!!! 勝ったら魔王様に殺され~~!!!! 負けたら国を追われ~~~!!!!! そそそ、それではチンに全然救いの道が残されていないザンスじゃございませんか~~~!?!?!?」
子供のように喚きながら、パンパンパンと両手で地面を叩いた。ベルゼブブはようやく悟ったのだ。フィナンシェお嬢様に目をつけられた時点からすでに、自分は終わっていたのだと。
決闘も次期魔王も復帰も、へったくれも、そんなもの何もなかったのだと。
今更になって、本当に今さらになってそれを理解して、絶望して、でも恐ろしくて、だからスカトロ貴公子はビャービャー泣いているのだ。
その無様で気の毒な姿を、リング上からフィナンシェお嬢様が見下ろしながら、
「これを貴方の敗北とするならば、その敗因はこれよベルゼブブ」
掛ける言葉はひとつしかなかった。
さて、こちらもお馴染み。
「私はね、」
予定調和。
お嬢様がここでいつもの、決めゼリフ的な口癖を言うべく、ベルゼブブに向き直った。
腰に手を当て、
斜めに構え、
手の甲で血色のツインテールをサラリと流し、
妖しく目を細める。
「可愛いものを可愛く扱わず、綺麗なものを綺麗に扱わず、美しいものを美しく扱わないヤツは、例外なく駆逐することにしてるの」
そう。
思えばそれが全てだったのだ。
だから今にして思う。
今回の決闘で、俺が不安になる要素など、どこにもなかったのではないか。
だって彼女は、『シンドルワー』の森でこう言っていたのだから。
――――絶対に、確実に、100%。ネクロポリスはこの私が浄化し、そしてそこに存在する全ての不幸を全て取り除いてあげる。貴方たちに本来の笑顔を本来のままに返してあげる。約束するわ
そう、言っていたではないか。
「というわけでぇ……。覚悟は決めたかぁ…… ベルゼブブぅ……」
カチャン、と再び刃が返され、峰打ちの型になった。むしろベルゼブブが青ざめる。青ざめて泣く。泣きまくる。
「ふぃ、フィナンシェ様~~~~!!!! フィナンシェ様~~~~!!!! あ、あの魔王様の太刀がどういうものかご存知のはずザンス~~~!! どうかあればかりはお助けザンス~~~!!」
何やら懇願しているスカトロ貴公子に、フィナンシェお嬢様は100万ドルの笑顔で言った。
「ええ。知っているわ。パパも平和至上主義になってから殺しを極力控えるため、太刀の峰には『蘇生魔法』が付加されているわ。良かったわねベルゼブブ。きちんと100叩きを受けられるわよ」
早い話、100回しんどけ、だった。
ベルゼブブの顔から目と鼻と耳とカツラがオモチャみたいに飛び出した。どんなギミックだ。
「そそそそんなの耐えられないでザンス~~~~!! 即死するようなダメージ100とか無理ザンス~~~~!! ベンデルとグレーテル~~~!!」
賑やかな顔芸を披露して泣いてるベルゼブブに、フィナンシェお嬢様は諭すように言った。
「ネクロポリスの死者たちが死ねないのを利用して、無実の罪を着せて多くの国民たちを奴隷にし、ずっとコキつかってきた貴方にはピッタリのしおきよ。この更生の『チャンス』をしっかりと噛み締めなさい」
と。
「ワーデルワーデルワーデル!!!! ももももももう、それないっそ死なせてください、お願いしますザンス~~~!!!」
――――そうね。タタじゃすまないわ。『死なせてください、お願いします』って泣き叫ぶまでいたぶってやるわ
フィナンシェお嬢様の、『シンドルワー』でのセリフだった。こういう意味だったのか、あれは。
お嬢様はゆっくりと首を左右に振って、優しく残酷に言う。
「ダメよ。『死』なんてぬるま湯では、貴方の罪を洗い落とすことなんて叶わないわ。100度死ぬような目にあって、七つの大罪ともども浄化されなさい」
「ひょほほはははははははは、ひ、ひ、姫君は鬼ですかザンス~~~~!?!?」
もう泣き笑いじゃなくて、単なる笑いになっているベルゼブブ。壊れたか? そんな彼に、ついに魔王の太刀が振り上げられた。
そしてそのとき、俺は確かに、フィナンシェお嬢様がクスっと笑うのを聞いた。
「いいえ、まさか。よりによってこの私が鬼だなんて、とんでもないわ」
お嬢様の瞳が、いつか見た時のように獣の如く縦に細った。
そして口が、
三日月のように**的な笑みとなり、
こう言った。
「 私 は 悪 魔 よ 」
最後も、お嬢様のメッセージがよぎった。
――――まぁ私は『悪魔』だけれど『鬼』ではないから、この土壇場で一つだけ『チャンス』をあげるわ。
俺はもう感嘆した。
ああ、最後までお嬢様完璧だなと――。
魔王の太刀がベルゼブブに振り下ろされた。
「ぶるわあああああああ!!!! 魔王ストライク国外追放100叩きヴァアアジョオオオン!!!」
「びゃあああああああ!!!! ワカモッットーー!!!!!!!!1」
ベルゼブブがベンベンしばかれた! クリティカルダメージ10万!!!
ベルゼブブがベンベンしばかれた! クリティカルダメージ10万!!!
ベルゼブブがベンベンしばかれた! クリティカルダメージ10万!!!
ベルゼブブがベンベンしばかれた! クリティカルダメージ10万!!!
ベルゼブブがベンベンしばかれた! クリティカルダメージ10万!!!
ベルゼブブがベンベンしばかれた! クリティカルダメージ10万!!!
ベルゼブブがベンベンしばかれた! クリティカルダメージ10万!!!
以下略
爆裂するような振り下ろし100回執行の後、
「良かったなぁ、ハエぇ……」
地面には叩き潰されたハエのように
「命まではとらんとフィナンシェちゃんが言っていたからぁ……」
ペタンコになったベルゼブブがいた。
「これでぇ、シオキはしまいにしてやるぅ……」
ピクピクしながら、「け、ケツカライッパイデタ」と、不気味なうめき声をあげていた。
バチン! と、太刀が鞘に治められた。
そして
魔王の目線がベルゼブブからフィナンシェお嬢様に向けられた時、再び魔王が厳かに口を開いて
「フィナンシェちゃんこんにちわパパ寂しくてき」
「城に突っ込んだ乗り物片付けなさいよパパ」
「わかりました」
全員がすっ転んだ。
親父も大概だったがしかしお嬢様が無双過ぎてすっ転んだ。
魔王が駆け足で城に消えた。
なんだよ今の三行は。
ゼーハーゼーハー。俺はなんか呼吸がおかしくなりそうだった。
――気を取り直して。
「さて、ネクロポリス国王バルバドス・ゲロッパーズ」
再び穴に落ちそうになったバルバドスは、辛うじて起き上がり、臣下の礼を取る。遠くで「ぶるわぁああ!」という掛け声と飛翔する影があったが、今は気にしない。
「ははーベイベー」
バルバドスはかしこまった。
さてそれに対し、当のフィナンシェお嬢様はしかし、腕を組んで目線鋭く睨みつけ
「余計な殺生をせぬためにティラミスの『超究極レベルダウン魔法』で自分のLVを下げていたですって? あんなハエ一匹潰せない程度の力で、よくもそんな生意気を言えたわね? 国民を守る国王としての自覚が著しくかけているのではないかしら?」
キッツイお灸だった。俺はアチャっと顔を手で抑えた。エカエリーナとケロンはオロオロしている。ティラミスも場都合悪そうに頭をかいていた。
バルバドスは冷や汗出しながら平伏し、しかしでもさらなる叱咤は甘んじて受けると、そういう覚悟を表すように今一度ペタンと頭を下げ
「か、返す言葉もございませんベイベー」
そういった。
そしたらすぐに
「許す。そういうの大好きだから」
「へ?」
キョトンとなって、バルバドスが伏していた顔をあげる。
するとフィナンシェお嬢様は、なんだかくすぐったそうに「ふふふ」っと可愛く微笑んでいた。まるで悪戯でもしたみたいに。そして血色の髪をかき分けながら
「けれども現実問題として、今回のように国や国民、あるいは家族の命運を背負って戦う日が再び来るかもしれないわ。だから貴方は、今日から国王としてその優しさを慢心として切り捨て、これまでの自分とは決別なさい。あのとき、リングに開いた穴の下から、私に見せた決意のようにね」
フィナンシェお嬢様は、念押しするように小首をかしげる。
「良いわね?」
と。
もちろん、バルバドスの返事は決まっていた。彼は居住まいを正し
「……心得ましたベイベー」
厳かに言った。
その顔は、あの死闘で見せた国王としての非情と、国王としての愛情を兼ね備えた、貫禄のあるヨルムガンドのものになっていた。
それを見て取ると、彼女は満足そうにうなずき。
「よろしい。それでは国も国民も家族も思う存分に溺愛し、たっぷりと甘やかし、愛すべきバカな国王としてネクロポリスに君臨なさい」
そしてその、パーティーグローブに飾られた手をあげ、彼女は高らかに宣言する。
「 こ れ で 完 全 決 着 !」
これまでで一番大きな歓声が、爆ぜるように湧き上がった。
「ところでぇ、フィナンシェちゃん」
マッハで歓声が凪いだ。
空気読めよ親父。
振り返ると、肩に痛ジェット戦闘機を担いだ魔王がいた。もうどこに突っ込めばいいんだよ。
「なにパパ?」
とフィナンシェお嬢様は小首を傾げる。すごいなフツーに対応してるよ。
「今日はフィナンシェちゃんにぃ、渡すものがあるんだぁ……」
言われてお嬢様は、フワリとリングの外に跳び、魔王の前に音もなく着地した。
魔王はそして、と陣羽織の内側をゴソゴソとまさぐってから、一枚の紙を取り出して彼女に差し出した。
「とっても大事なものだよぉ……これはぁ」
魔王が直々に
魔王の娘に手渡すもの
そしてとっても大事なもの。
一体それはなんだろうか。
皆が緊張で耳をそばだてる中、魔王が言った。
「頼まれていたZONYスタイル限定の初音○クさん仕様のウォークマン予約権」
お嬢様が固まった。
みんなはポカンとなった。
でもパパは気付かかない。
だから続ける。
「もちろんシリアルは39と3939両方だよぉ。パパ魔界の悪魔総動員でF5連打してたから誰にも邪魔されずに2つともゲットできちゃったぁ。それからこっちは真世紀エヴァンゲリオンQプレミアム試写会のS席チケットォ。こっちは『あの花』の初回限定版BDで声優さんのサイン入りぃ。ちゃんと日付とフィナンシェちゃんへって書いてもらったよぉ。応募ハガキは軽く100兆書いたよパパ」
なんかトンデモないこと言いながら、四次元ポケットかよという勢いで陣羽織からポイポイといろんなものを出してくるシュールな魔王。おお、お嬢様の顔がみるみる赤くなってる! 可愛い!
「それからこっちはPS5のHD容量5TB版のダイヤモンドカラー限定仕様で、こっちはPSヴィータンのゴッドイー」
「もうこんなとこで見せないでよ! パパのバカ!」
愛娘に顔真っ赤になって一括された途端、魔王はショゲてしまった。フィナンシェお嬢様はそれでも、腕を組んで、もう知らない! とばかりにそっぽ向いてしまった。ケロンが空気読まずに、「ママ~、私昨日ね、フィナンシェ様とMHP4Gでギルカ交換したモゴモゴ」慌ててエカエリーナに口を抑えられていた。なにやってたのお嬢様?
「それからぁ、フィナンシェちゃん。あのさぁ……」
魔王はプレゼントの山(山!)をリングに並び終えてから、頭をかきつつ
「そのぉ、この世界のことなんだけどもうちょっと待ってくれないかなぁ?」
フィナンシェお嬢様は振り返り、小首をかしげる。
「もちろん、フィナンシェちゃんにはいつか必ずぅ、パパの跡を継いでもらうつもりなんだけれどぉ、その、まだプレゼントするには色々と未完成な部分が多いんだぁ」
魔王は言った。フィナンシェお嬢様は目を閉じ、腕を組んで思案顔になる。
何かまたとんでもない規模の話をしている親子である。
しかしそういえば、そもそもこの旅を始めたフィナンシェお嬢様の目的は確か……。
と、俺が思い返していたら、
ぴこん♪
と頭に電球でも閃いたような、そんな様子でお嬢様は目を開け、魔王に振り向き、そしてウットリとした笑顔で
「ねぇん……パパぁ?」
子猫がミルクをねだるような声を出した。瞬間、魔王は顔が真っ赤になった。
「今回は私の不手際でお城が燃えちゃったからぁ、バルバドスちゃんに新しいお城あげて?」
魔王の鼻から鼻血が噴射された。
でも魔王の威厳で倒れるのはこらえた。えらいなパパ。
でもパパは慌てる。
「で、でもぉフィナンシェちゃん。パパの方も魔界財政がなかなか厳しくって、この前もネクロポリスは自治関連で相当な根回しをしてその、急には」
「お願い」
ぴょん、とお嬢様は軽快に飛んでから腕を魔王の首に絡ませ
「大好きなパパ」
その頬に、チュ、っとキスをした。
魔王はぶっ倒れた。
もちろん、みんなもぶっ倒れた。
名前:サマエル・エルヒガンテ
職業:魔王(世界の支配者:ワールド・カスタマイザー)
LV:1万
HP:1(萌死寸前) MP:1億
装備:闇の翼(ウィング・オブ・ダークネス:マントでした)
解説:歴代最強の魔王として魔界に君臨する世界の支配者。絶対不可侵と言われたレベル1000の壁(以下略)。もう死んだって構わん~う!
翌日、ベンダシタイナー城は、バルバドス夫人の名前にちなんでキャッスル・エカエリーナと名を変え、『総純金』で建て替えられたそうな。
魔界の財政ぃ? 知らんなぁ? とは目線キョロキョロ冷や汗タラタラで述べた魔王のコメント。
さて。
改めて国王バルバドスを頂いた死者帝国ネクロポリスは、その後、これ以上ないぐらいの善政によって栄え、国民も幸せに暮らしたそうな。
また、あまりにも評判がいいので、早々に命を絶ってでもこの国を訪れようとする者達まで出始めた。
バルバドスはそれを憂慮し、思い止まらせるため、いまでも『シンドルワー』の森には自らが番に赴いたりするという。
お供を連れて。
「ゲロッゲロッゲロッゲロ! 勝手に死ぬとネクロポリスでは怖い目にあうぞー?」「ワーデルモーデル! ひょっひょっひょ。本当にヒドイ目にあうザンスよ~?」
時折やってくる風聞によれば、あのあと、十分に反省したらしいベルゼブブは、次第に国民たちの信頼を得るようになり、やがては国の重鎮として迎えれられ、バルバドスと共に国を守り立てているらしかった。
スカトロという嗜好はともあれ、彼には外交才能があったらしい。
事実、国に暴政を敷いていたとはいえ、ベルゼブブがネクロポリス国王であった頃、対外戦争無敗だったのだ。
また意外な事実として、あのスカトロ貴公子は、密かに子供には人気(ただし女の子はのぞく)があったらしい。シモネタの受けが良いんだとか。
――大臣大臣YO!
――ヘーデルトベンデル! 誰かと思えばまたジャック・オ・ランタンの子供ザンスか。ノックもなしに執務室に入っちゃだめザンスよ?
――前のスカトロジャンプもう一回やってYO!
――フンバルトモレール。あとでザンス。チンはいま領土問題関連で忙しいザンス
――え~、お願いだYO大臣。もうちょっとでコツつかめそうなんだYO! 明後日のハロウィンまでにマスターしたいんだYO!
――ベンダシタイナー。そちはあれを出し物にしたいザンスか?
――うん。あれなかなかイケてると思うんだYO! なんだかトリプルアクセルとアッパー系必殺技のコラボっぽくてYO!
――ワーデル、あの良さが分かるとはなかなか見所があるザンスね。ひょっひょっひょ。では一回だけやるザンスから、よく見てるザンスよ?
――やっふーいYO!
「いや、お嬢様すごいです」
さて俺達はと言えば、死者帝国ネクロポリスを離れて、いまはティラミスの用事にちょこっと付き合うべく、ダージリン教会を目指して真っ青な空の下を散歩気分で歩いていた。
「もういろいろすごすぎて意味分からなかったです。まさかあんな隅々まで計算してるとは思いませんでした」
俺は普通に感嘆していた。まぁ決闘に関しては少々やり過ぎかもしれない、そう思ったりもしたけれど、諸々の事情をよくよく思い返せば、あれぐらいで妥当かもしれないと今は思っている。
それに、なにも完璧である必要もないのだし。
終わりよれければ全て良し、そういう言葉だってあるのだし。
お嬢様は、俺達の先頭を音もなく、草一つ踏み折らぬような足取りで進みながら言う。
「ふふふ。いまさら惚れなおしたのかしら? 私のステビア」
と。
それはどこか冗談めいた口調だった。今までずっと、俺が「いいえ」と答えてきたからだろう。
けれども俺は、今回ばかりは素直に返事をすることにした。
「はい、ステビアはお嬢様に惚れ直しました」
するとフィナンシェお嬢様は振り返って、そしてあまりに俺の返事が予想外だったのか、まるでチョコレートをかじったリスのような顔をしていた。
なんだかそれがあまりにも可愛らしくて、俺は自分らしからぬ笑顔でフフフと笑ってしまった。
途端にお嬢様が倒――俺は慌てて抱きとめて
「なんという事かしら。私の可愛いステビアがネクロポリスで不意打ちドレスアップのみならず、そんな私殺しのデレまで備えていただなんて。これこそ計算外だわ」
死に際した薄命のヒロインが浮かべるような、そんな哀切な表情を浮かべてお嬢様は言った。またかい。
「わかったわ。とうとう勇者として目覚めた貴方は本格的に魔王の娘たる私を殺しにきたのねステビア?」
フィナンシェお嬢様は、俺の背にかかったツヴァイ・ヘンダー――ネクロポリスを離れる際、バルバドスにもらった両手剣。花のエングレーブがカワかっこいい――を揶揄しつつ言った。
いやいや
「勝てるなわけないでしょう?」
「貴方になら殺されても構わないわステビア」
後頭部に汗が降りてくる。
「性的な意味で」
「お嬢様やっぱり一回ぐらい死んでもらえますか?」
いいえ、やはり貴方を処女のままにして死ぬだなんて、そんな罪深いこといくら魔族であっても許されないわ、とか恐ろしいことを仰ってから
「ああ、でもやはりこのままでは私が死んでしまうわ。たいそうな勢いで死んでしまうわ。さぁ私のスデビア。早く『ステータス画面』を参照して自分のなすべきことを知りなさい」
後頭部にさらなる汗が降りてくる。
「もう死にかけたふりをして、キスの要求するのはやめていただけますか」
みーみも最近、変な方向に発育してるし。
「そんな冷徹なことを言わずに、早くしてちょうだい私のステビア。このままでは私が死んでしまうじゃない?」
主従二人のバカ漫才を、ちょっと後ろでみーみと一緒に見守っていたティラミスは、やれやれとばかりに言った。
「フィナンシェはんも結構面倒くさいんやな」
俺達の行く先は、どこまでも晴れ晴れとしていた。
おしまい♪
Arcadia戦姫おんらいN 第1章 -完- 次章に続く。
YOU♪ LVがUPしましたYO♪
ピロリン♪ YOU♪ CG『ネクロポリスからの帰還』をGETしましたYO♪
名前:ステビア・カモミール
職業:魔王のメイド(剣士見習:リトルスレイヤー)。
LV:10
HP:700 MP:10
装備:両手剣『撫子』
解説:ハワイアンブルーの髪を持った美少女。小柄だが幼少期より掃除で鍛えられた腕力は侮れず、身の丈ぐらいある大剣もしっかり振れる(掛け声は胴上げの影響で「わっしょい」)。これからはゲームの主人公に相応しい、世界をすくっちゃえる勇者を目指して頑張るぜ! でもラスボスって誰なんだろ?? バカ(鈍感的な意味で)。
どもども、第一章プレイお疲れ様でした。
Arcadia戦姫おんらいN 如何だったでしょうか?
実は今回、従来作と趣向を大きく変えたのは文章構成だけではなく
物語に『シンデレラ曲線』というものを導入してみました。
私的な言い方をすれば、初めて物語性を強く意識したという感じです。
なにせ本当におNEWな試みなので、続けてよいものかどうかの判断もつかない状態です(書いてるぶんには楽しいです)
もしもドラマチックだったと感じてもらえたら、語り部としてハッピーです。
さて、次話から次章に入ります。プロット完成次第シナリオ投稿するので、プレイ続行して頂ければ幸いです。
ではではまた^^
常日頃無一文
『Arcadia戦姫おんらいN』
現在の公式プレイヤー数(お気に入り登録読者様)18名様
プレイ続行して頂ければ幸いです。冒険まだまだ続きます。




