第36話
前回のエイプリルでフールな回ですが、ご指摘を頂いたのでそのままで。
ちゃんとああいうの投稿する前にヘルプとか色々確認しないと駄目(*´・ω・)(・ω・`*)ネー
さて、新学期も始まり、今日は1月10日。そう、楓ちゃんの誕生日だ。
昨日は、楓ちゃんのためのバースデーケーキを作った。
なんのケーキがいいかなーと悩み、楓ちゃんに聞いてみたが、返ってきたのはケーキならなんでも好きです! という、元気のいい声。
いや、そういう事じゃないんだよなーと思いつつ、好きなように作ることにした。
希帆の時は、ショートケーキで、来月にもイベントを控えてる事を踏まえると、チーズケーキかなとなったのだ。
で、持ち運びの事を考えて、レアチーズではなく、ベイクドチーズ。
レアチーズでもよかったのだけど、電車乗って行く事を考えると、ちょっと不安だったのでやめた。
で、どんなのを作ったかというと、チーズ生地と一緒に苺をミキサーにかけて混ぜ込み、湯煎焼きをするときに、上からカスタードを絞った、スフレチーズケーキだ。
生地がほんのりピンク色で可愛らしい感じなので、可愛いの好きな楓ちゃんも喜んでくれるのではないかな。喜んでくれるといいな。
一晩冷蔵庫で寝かせたので、いい感じでしっとりしてくれていると思う。
あと、誕生日プレゼントである写真だが、何歳くらいのがいいのか分からず、これまた楓ちゃんに聞いてみた。
すると、5歳か6歳辺りがベストです! と、ケーキの時とは打って変わって明確な返答。我が家に数あるアルバムと睨めっこして協議した結果、5歳のをチョイス。
これらを、今日の放課後の集まりで持っていけばいいわけだ。
あ、真田君と今川君には、希帆からメールで初詣の後に伝えたらしい。実家からちゃんと持ってきてくれるそうな。
「……姉ちゃん」
「ったく、生地多めに作って小さいの焼いといたから、学校から帰ってきたら食べていいよ。ちゃんと父さんと母さんの分も残しとくんだよ?」
学校へ行こうとした所で、陸に何かを訴えるように話しかけられたので、早口で一気に言う。
「……なぜ分かった」
分からいでか。
陸の生態なぞ、産まれた時から知ってるのだ。昨日の今日で何が言いたいのかなんてすぐに分かる。
「アンタの食い意地なんて、聞くまでも無く分かるっての」
「さすが姉ちゃんだ! 最高!」
……食い意地どうこうと言われて喜ぶのはアンタくらいだよ。
まあ、いい。さっさと学校へ行こう。
「いってきまーす!」
「「いってらっしゃい」」
行きがてら、雪花の耳の後ろをカリカリとかいてやりつつ、家を出た。
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さて、学校だ。
いつも通り、希帆と楓ちゃんと登校。
真田君と今川君の写真、楽しみだねーなんて話をしながら学校へと向かった。
2人は、いつも通り? 部活で放課後の誕生日会には参加できないそうで、なんと律儀に学校までアルバムを持ってきてくれるそうな。
これは、クラス皆で見るしかないでしょうて。
「おーす」
「おはようございます」
「おはようございまっす」
教室へと入ると、館林、宝蔵院、鍋島君がいつも通りに私たちの所へと来る。
なーんか、これが日常になってるなあ。おっかしいなあ。入学当初の私の計画とだいぶ現状が違う気がしてならない。まあ、いいけど。
「おはよー。写真今でもいい?」
「……おはよう」
その後、アルバムを持った2人が登場。
何歳くらいのを持ってきたのだろうか。どんな子どもだったのだろうか。
ちょっと楽しみだよね。テンション上がるよね。
「おはようございます。今見ても大丈夫ですか?」
「うん、大丈夫だよー。あ、お誕生日おめでとう」
「……おめでとう」
「ふふ、ありがとうございます」
今見るかの決定権は私に無いので、楓ちゃん次第ではあったが、どうやらすぐに見たいもよう。
「……さて、どっちからいくー?」
「え? ん、んー……どっちがいいですかね?」
今川君が、どちらを先に見るか聞くが、楓ちゃんが決めきれない。
てか、そんな困った顔で上目遣いされてもね。今日の主役はあなたですよ? 楓ちゃん。私たちじゃなくて自分で決めないと。
「んー……じゃあ、今川君のから見せてもらっていいですか?」
「うん、いいよー」
ひとしきり悩んだ後、今川君のを先に選んだようだ。さて、どんな少年時代だったのだろうか。
「ありがとうございます。……うわぁ、可愛い」
早速、アルバムを受け取ってページを捲る楓ちゃん。
横から覗きこめば、サッカーをやっている少年の姿が。
小さい頃からサッカー少年だったんだなあ。うちの陸と写真の内容があまり変わらない。
「これ、何歳くらいの時のですか?」
「そうだねえ。サッカー始めた頃のだから、8歳か9歳くらいのかなー」
今川君の返事に、へえっと呟きながら楓ちゃんの視線は写真へと戻る。
「あ、泥だらけで泣いてるのがある」
「ああ、それは初めて出た試合でこてんぱんにやられて泣いたやつだねえ」
いやあ、恥ずかしいな、なんて言いながら写真の説明をする今川君。
顔にまで土をつけて泣いてる写真だが、撮ってる人は親だろう。写真撮る前に慰めてあげるべきだと思うのだが……。
しかし、こうして見るとサッカーの写真が多いな。あとは、社会科見学とかでどっかに行った写真だろうか。
「……サッカー以外だと、女の子と写ってる写真が多いですね」
そう、楓ちゃんが呟いたように、サッカー以外の写真だと女子率が一気にあがる。
サッカーだと、ほぼ男子と一緒に写っているのだが、それ以外だと9割くらいは女子と一緒の写真じゃなかろうか。まあ、たしかに爽やかな美少年って感じなんだけどさ。モテすぎだろうて。
「……あはは、サッカー以外だと男友達少なくてさ……」
……それは、妬まれてたのではないだろうか。
「……こんな小さい頃からハーレム野郎とかもげればいいんすよ」
そうそう、こんな感じでって、鍋島君は結構目が本気じゃないか?
そんなに羨ましいかこの写真の光景が。
「……なんつーか、高校入ってからのアレとこの写真を見てると思うんだが、今川は夜道に気を付けた方がいいんじゃねえか?」
「え、いやあ、さすがにそこまでじゃないでしょ。彼女だっていたこと無いし」
……いや、ここまでの状態になって彼女がいたことが無いのが問題な気も……ねえ。
女に刺される心配は無いと思う。けど、男が嫉妬に狂ってって展開は充分にあり得るような、ね。
「で、吾妻さんどれ持ってくか決めた?」
「あ、そうですねえ……これ、いいですか?」
「……それかあ。いや、いいんだけど……それかあ」
今川君に聞かれて、少し悩んだ後に指さしたのは、さっき説明のあった泣いてる今川少年の写真。
まあ、確かにこの中じゃ一番可愛い写真だと思う。けど、本人にとっては一番恥ずかしいであろう写真をチョイスする辺り、楓ちゃんって結構容赦ないよね。
「駄目なら他のにしますけど……」
「え? あ、いや、いいんだよ! 持ってってくれていいよ!」
「いいんですか? ふふ、ありがとうございます! この今川君可愛い」
いや、ホント楓ちゃん容赦ない。
本人の前で可愛いとか言っちゃう辺りも容赦ない。
「次は、真田君の見せてもらっていいですか?」
「……ああ、だが面白いのは特に無いぞ」
真田君は、前もって面白いの特に無いなんて言ってるが、面白い気がしてならない。
「うわっ、真田君全然変わってないですね!」
アルバムを捲って、開口一番楓ちゃんの感想がそれ。
覗きこんでみれば、たしかに全然変わってない真田少年がそこにはいた。
坊主頭で、寡黙そうで、にこりともしてない真田少年。うん、今と全然変わってない。
「……凄いですね。見事に笑ってる写真が無いです」
「……写真、苦手でな」
苦手と言ってもここまで笑ってないのは凄いと思うんだが……。
「私、これがいいです」
「……ああ、大会で賞状貰った時のだな。いいぞ」
楓ちゃんが数ある無表情の中から選んだのは、賞状とトロフィーを両手に持ち、賞状を持った方の指を立て、ピースをしている無表情な真田少年の写真。いや、ホントどこまで無表情なんだ。
「今川君、真田君、ありがとうございました! 宝物が増えました!」
「いや、こんなんでいいならいくらでもあげるんだけどね」
「……何が嬉しいのか分からんが、満足してるならそれで」
楓ちゃんもそうだけど、女の子って写真好きだよねー。プリクラ交換も含め、他人の写真貰って何が楽しいんだかと思わんでもない。
まあ、私も女なんだけどさ。それでも、理解できない生態の1つですな。
否定する気は無いけどね。写真やらプリクラ貰って喜んでる女の子見るのは眼福ですし。
あと、プリクラを撮る行為自体は嫌いじゃないし楽しいけど、プリクラ自体はいらないんだよね。希帆たちには理解してもらえないけども。
出かけたり、学校の帰りにちょっと寄って撮ったりしたけど、撮るのは楽しいんだよね。普段しないような顔してみたりさ。
あ、チャリで来たのネタはやったよ。あれはプリクラ撮るならやらなきゃ駄目だよね。
あ、私のが欲しいって人が万が一いたら、自分の思いつく限り最高に厨二なポーズで、厨二な台詞を書いたプリクラとなら交換してあげよう。
因みに、鍋島君に同じ事を言ったら、鬼や! って言われた。ネタプリ同士の交換なのに何を言ってるんだかねえ。
ああ、話が逸れた。プリクラの話なんてどうでもいいんだよ。
「吾妻はなんで写真なんか欲しがるんだ?」
私が別の事を考えていると、写真を持って嬉しそうにしている楓ちゃんに館林がそう聞いていた。
「えっとですね。私、中学入るまでお父さんの転勤で、引っ越しが多かったんです。だから、幼馴染とか小さい頃からずっと一緒の友だちとか居なくて」
そういう気分を味わいたいごっこ遊びみたいな感じですね。と、微笑みながら言う楓ちゃん。
そうか、そんな事情があったのか。うん、私の写真でいいならいくらでも持っていくといいよ!
「ん、そうか。俺の写真あんま無かったけど、後で好きなだけ持ってけな」
「えへへ、ありがとうございます」
私と似たような事を考えたのかは分からないが、同じような事を言って頭を撫でる館林。
アイツ、そういうスキンシップもするんだね。はにかむ楓ちゃんは可愛い。
しっかし、楓ちゃんの頭は撫でるのね。私のは叩くだけなのにねえ? なんだろ、面白く無いぞ。
いや、撫でられたいわけじゃないし、撫でられたら気味が悪いだけだと思うけどもさ。
「みなさん、何をさっきから見てるんですか?」
「あ、中東さん」
ワイワイと皆で眺めていたら、中東さんが気になったらしくこちらまで来た。
中東さんは私の貴重な友人というか、クラスメイトな人だ。
部活が忙しいらしく、遊びに行った事は無いし、お昼も学食派な人なので一緒した事は無いけども、いつものメンバー以外ではなんだかんだ一番よく話す子ではないだろうか。
あ、私たちは今は教室でご飯は食べるようにしている。さすがに中庭は寒いからね。あと、学食は人がいっぱい居るので落ち着かない。
「今川君と真田君のアルバム見てたんですよ」
「え!? 私も見たいです! 駄目ですか!?」
楓ちゃんがそれに答え、中東さんが目の色を変え食いつく。
「と、言ってますけど」
「僕は別にいいよー」
「……かまわんぞ」
「ありがとうございます!」
今川君と真田君の返事にバッとお辞儀をしてお礼を言う中東さん。
「はい、HR始めますよ。席に着いてください」
さて、アルバム鑑賞タイムって所で鹿が入ってきた。
なんとも素晴らしいタイミングだよ。中東さんは可哀想だけども。
「鹿ちゃん! もうちょっと空気読んでくださいよー!」
「なんの話ですか。はい、席戻って」
中東さんが鹿に八つ当たりをするが、鹿は悪くないんじゃないかなあ。時間通りに来ただけだしさ。
「うー……休み時間に見せてくださいね!」
とても残念そうな顔でそう言って戻る中東さんに皆で手を振ってお見送り。
で、更に男子どももお見送り。まあ、こっちには手は振りませんけども。
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で、学校が終わって放課後でございます。
あの後、中東さんを筆頭に、前田さん後藤さんのバレー部3人娘に捕まり、真田君と今川君はアルバムを見せていた。
で、あれだけ騒いだのだから当然、クラスの皆にバレているわけで、2人の席にはクラスの女子が群がっていましたよ。
今川君は慣れた様子だったけども、真田君はもの凄く疲れた顔をしていた。まあ、あれだけ囲まれたらねえ。
「そーらー、良い子だ帰りましょ―」
「私の名前で変な替え歌を作らないでほしいんだけど?」
希帆に対して文句を言うと、反省してないのか、えへへと笑う希帆。
しかし、懐かしい曲だな。小学生の頃に男子どもが替え歌うたってたのを思い出す。
坊や良い子だ金出しな。札が無いなら財布ごとだっけ? 誰なんだろうね、あんな物騒な替え歌を小学生に教えた奴は。
……まあ、ガチでその歌詞と同じような事されて泣いている男子も居たわけですけども、ね。とっさに助けましたよ、ええ。
あの男子は元気にしてるかねえ。助けてからそんなしない内に転校してしまったけども。縦にも横にも学年で一番だったくせに気弱だったからねえ。宝の持ち腐れってやつだね。
と、まあ私の小学生時代の男子なんてどうでもいいんだよ。さっさと帰り支度を済ませてしまおう。
コートを着て、白い透かし編みのマフラーを巻く。そう、あのマフラーだ。使わないと、楓ちゃんに何を言われるか分からないので、使ってる。
「なあ、今日も鏑木ん時みたく17時に駅前でいいのか?」
「ああ、うん。それで大丈夫」
準備が終わり、立ち上がると館林から話しかけられた。
待ち合わせの時間の確認のようだが、希帆の時と同じなので大丈夫だと返す。
で、答えると同時に振り返ったのだが、館林の首元には当然のようにマフラーがあるわけで。
本人全く気にしてるようには見えないのが癪なわけで。
私ばっかりなんか気恥ずかしい感じなのが悔しいわけですが、どうやって復讐すべきですかね。
「あ、片桐さんたちまた明日ですって……あれ?」
中東さんたちが、これから部活に行くのか挨拶をしてきて、私を見て固まった。なんだろうか。
「どうしたの?」
「ああ、いえ、もしかしてそのマフラー手編みですか?」
「そうだけど……」
なんだろう。嫌な予感がする。
「館林君のと同じなのは偶然ですか?」
手編みだと聞いて、ニヤッとしてからそう聞いてくる。
ああー……やっぱりか。手編みだって分かる人には見て普通に分かるしなあ。
てか、なんでそれ聞いてクラスがざわついているんだろうか。お前らさっさと部活行くか帰れよと。
「ああ、コイツが編んだからな」
「おおー! て事はペアルックですね!」
私の代わりに館林が答える。
いや、その言い方だと私がプレゼントしたみたいじゃないか! いや、プレゼントしたのは合ってるんだけどさ!
「いやね、クリスマスパーティーで……」
「おお! クリスマスに好きな人に手編みマフラーとは! 片桐さん乙女ですね!」
「いや、ちが……」
私が説明しよとすると、さらに勘違いして暴走する中東さん。
てかさ、私の周りにいる皆はさ。そんな楽しそうな顔してないで、私の事を助けるべきだと思うんだ。どういう経緯か知ってるんだからさ。
「なんだ? お前、俺の事好きなのか?」
「は!?」
館林が意味の分からない事をほざいてきた。
「いや、好きじゃないし」
「じゃあ、嫌いなのか?」
「え? いや、嫌いじゃないけど……」
「どっちなんだよ。はっきりしろよ」
咄嗟に好きじゃないと答えれば、嫌いかと聞かれる。
なぜか、館林はとても楽しそうだ。いいな、私は楽しくない。
しかし、どっちなんだよと言われても普通だよ、普通!
はっきりしろってなんだよ! 普通に、普通に? 普通に……嫌いじゃないしな。むしろどちらかと言うと……いやいやいや。
あ! そう! 普通に普通だ! そうだ、普通だ! よし!
「普通! よし、帰ろう。館林君たちもまた明日!」
「いや、この後会うじゃねえか」
「デートですか!?」
「違うからね!?」
私はなぜこんなに動転しているのだろうか!
あと、中東さん凄い楽しそうだけど、部活はいいのかと言いたい!
「えー、違うんですかあ?」
なぜ、否定したらそんな不満顔なんですか中東さん。
館林とデートとか有り得んですよ。デートするなら希帆と楓ちゃんとしたいです。
可愛い子としたいです。男と一緒よりも女の子との方が絶対楽しいです!
「デートなら希帆と楓ちゃんとするから館林君は要らないし!」
「きましたわ!」
「何が!?」
デートなら希帆と楓ちゃんとすると言えば、いきなり喜びだす中東さん。
……ホント、なんなのこの人。
「……ふう。やっぱり、片桐さんいじるの楽しいですねえ。あ、色々と冗談はさて置き、私は部活に行ってきます! また、明日ー!」
そう言って、中東さんは満足そうな笑みを浮かべて去っていった。
……ホント、なんなのあの人。
「……あそこまでお前いじれんのもアイツくらいだな」
「……私、いじられキャラじゃないよね?」
「ああ、大丈夫だ。安心しろ」
……ああ、いじられキャラじゃなくて本当に良かった。
「おーい、帰ろうよー」
ああ、希帆が呼んでる。そうだね、帰ろう。
帰り道、中東さんの話の延長? で、希帆が、自分が男だったら絶対空をお嫁さんにしたけど女だから無理だねーなんて言っていた。
そして、それを聞いて、男版の希帆を想像してしまった私だが、仕方のない事だと思う。
小さくて、元気で、食いしん坊なニコニコ笑顔の男の子。うん、もの凄くあざといショタ枠だ。……希帆、怒るだろうから絶対言わないけど。
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さて、家に帰り、着替えた。
そして、既に楓ちゃんとの待ち合わせの駅に着いている。
昨日作ったチーズケーキを希帆の時と同じように保冷バッグへ入れ、アルバムはキャンバストートへ。
格好はというと、待ち合わせまで時間があまり無いのもあり、吟味している余裕が無かったのでシンプルにパッパッと。
グリーンのオフタートルニットチュニックと、スキニーデニム、靴はサイドゴアショートブーツと、簡単に着れるけど可愛い感じで。
ニットチュニックは、ざっくり編みでめっちゃ可愛かったので一目惚れで購入した。思わず2着買っちゃったけど、私は悪くない。
アイボリーとグリーンを買っちゃったけど、あんな可愛いのを出して、しかもお勧めなんてしてきちゃういつものお店の、あの店員さんが悪い。
アイボリーのは春先に着るのが丁度良さそうかな。春らしい明るい感じに仕上がると思うんだ。
手首には館林から貰った腕時計。うん、実はお気に入りだ。
とまあ、こんな感じの格好で館林と宝蔵院と駅で合流し、楓ちゃんたちの住む町へと移動したわけだ。
ああ、移動中はというと、前のように保冷バッグは館林に奪われ、電車内では空いた席へと座らされと、なんでコイツらこんな年齢からレディーファーストが身に染み付いてるのって感じだった。
男は女の分も金を出して当然とか、女優先みたいな感じとは違うけど、これが自分の中で当たり前になりそうで、怖い。
親しき仲にも礼儀ありと言うし、奢ってもらって当然とか、何かしてもらって当たり前なんて考え方をしている女性は滅びるべきだと思うんだよね。可愛い子は大好きだけど、そういう馬鹿な女は大嫌いです。
私もそういう馬鹿な女にならないように、この怖さを、危機感を忘れないように生きていかねばなるまい。
てか、よくネットで初デートで割り勘だったから幻滅して別れるべきかとかいう記事があったりするけど、そもそもびた一文出す気なしでデートだろうと何だろうと、人と一緒に出掛けるなよとね。もう、こういう勘違いさんに対する文句なら原稿用紙10枚くらい書ける気がするけど、誰も望んでないし、意味がないし、やめますけども。
あ、私は前世では女の子と一緒に出掛ける時は基本的に財布を出させないタイプでしたけどね。うん、カッコつけたいじゃん?
「なにをさっきから考えこんでるんだ?」
「え? ああ、自立心やら危機感を忘れてはいけないなと再確認してた」
「……なんだそれ」
電車を降り、歩いていると館林から話しかけられたので素直に答えたが、呆れた顔をされた。
うんまあ、自己完結した結果をいきなり話されてもなんの事か分からんよね。いいんだよ、気にすんな。
「あ、皆こっちですよ!」
改札を出て、階段を降りると楓ちゃんが制服のまま待っていて、隣には鍋島君と自転車のハンドルを持って立つ希帆。
「あれ、楓ちゃんいったん帰らなかったの?」
「はい、そのまま待ってたほうが楽そうだったので」
制服のままだったので聞いてみれば、ニコニコと嬉しそうな笑顔で楓ちゃんが答える。
なるほどねえ。しかし、それだと楓ちゃんが暇したに違いない。もう少し急いで来ればよかったかな。
「希帆ちゃんが帰ってすぐに戻ってきてくれたので、話しながら待ってました」
待たせちゃってごめんねと言えば、ニコニコ笑顔を崩さずにそう言って、だから暇はしませんでしたよと笑う。
「しかし、鍋島君は早いですね」
「たぶん、1本前の電車っすけどね」
「にしたって、家帰って着替えて写真準備してと考えたら早いだろ」
「写真は昨日の夜に準備してバックに入れといたっす! 寝る前に忘れ物ないかも確認したっす!」
「……遠足か」
「……その用意の良さが普段から発揮されればいいんですけどね」
「ホントっすよねー」
男子組は男子組で挨拶をしているようだ。
鍋島君は宝蔵院から突っ込まれてるけど、それに自分で全面同意している。……それでいいのか君は。
「ねー。ここで話してても仕方ないし行こー?」
希帆がまーだー? って顔しながら焦れた。
そうだね。希帆の言う通りだ。行こう行こう。
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で、歩くこと20分ほど。
楓ちゃんの家に到着した。楓ちゃんの家は、数年前に新しくできた分譲マンションらしく、まだまだ外観は綺麗なままで、住んでる場所はその9階だ。厳密に言えば、902号室。
9階ねー。私は絶対にベランダには出ないぞ。
「どうぞー、入ってください」
楓ちゃんの招きにお邪魔しますと言いながら入る。
と、玄関の下駄箱の上にウェルカムボードを持った木彫りの猫がいるのが目に入った。で、そっちに目をやれば、特徴的な顔をした木彫りの猫たちがいる。釣り竿を垂らした猫もいるし。なにこれ可愛い。
「あ、それお母さんの趣味なんですよ。季節によって飾ってる人形が変わるんです」
「へえー、なんとも言えない可愛さがあるね、この猫」
「うち、雛人形も木彫りのなんですけど可愛いですよ」
ほほー、雛人形まで!
木彫りの人形を集めるのがお母さんの趣味なのかな? 可愛らしい趣味だ。
「楓? 帰ったのー?」
廊下の奥の扉が開いて、女性が顔を出した。
ん、楓ちゃんのお母さんかな?
「あ、お母さんただいまです。こちら、前に言ってた私の友だちです」
「片桐空です。いつも楓ちゃんにはお世話になってます」
「鍋島直茂っす!」
「館林輝宗です」
「宝蔵院信綱です」
「おばさーん! 久しぶりー!」
楓ちゃんに紹介されたので、お辞儀をしつつ自己紹介をし、それに皆が続く。
希帆だけかなり挨拶が違ったけど、そこはまあ2人は中学から友だちだしね。何度も遊びに来てるのだろう。なんと羨ましい事か。
「希帆ちゃん久しぶりねえ。皆も楓と仲良くしてくれてありがとうね」
何も無い家だけどゆっくりしていってね。と言って、楓ちゃんのお母さんはリビングへと戻っていった。
「じゃ、私の部屋に行きましょう」
言われるがままに靴を脱いで楓ちゃんに付いて行き、リビングへの扉の手前の部屋へと入る。
……おー、ピンク色だ。可愛い。
ベッドも絨毯も淡いピンク色で、これぞ女の子! な楓ちゃんの部屋だった。うーむ、これぞ女子力というやつなのだろうか。
私の部屋とはえらい違いだ。
「なんすかね。女の子の部屋初めて入ったけど、なんか緊張しますね」
鍋島君は、キョロキョロしつつ緊張気味。
館林と宝蔵院は特に気にするでもなく普通に入ってきた。
「あ、あんまり見渡さないでください。恥ずかしいです」
「あ、ご、ごめんなさい」
キョロキョロと部屋を見渡す鍋島君に対して、楓ちゃんが恥ずかしそうに注意するが、なにこれ。
……私たち邪魔者じゃない? これ、2人で誕生日祝った方がいいんじゃない?
「ねえ、取り敢えず立ってないで座ろうよ」
そんな、ちょっと甘い? 雰囲気を醸し出す2人に対して全く気にする素振りを見せずに、いつまでも立ってる私たちに対し、希帆がベッドに腰掛けつつそう言う。
「鏑木さんは人の部屋でくつろぎすぎじゃないですか?」
「えー、だって今更だし」
「希帆ちゃんの言う通りですね。皆さん適当に座ってください」
宝蔵院が我が家のようにくつろぐ希帆に突っ込みを入れるが、楓ちゃんは気にしてないようで、微笑みながら皆に座るよう促した。
楓ちゃんがそう言うなら私も座るかな。
「失礼するわね。これ、皆で食べてね」
ノックの音がし、楓ちゃんのお母さんが入ってきて、大皿に乗せたお菓子とジュースやらを持ってきてくれた。
あら、わざわざ手を煩わせて申し訳ないです。言ってくれたら取りに行ったのに。
「あ、お母さんありがとうございます」
「ごゆっくりね。あと、楓? いつまで制服のままでいるの?」
「……あ」
楓ちゃんがお礼を言い、大皿を受け取り、私たちもお礼を言いつつお辞儀をする。
で、楓ちゃんの格好に突っ込みが入った。まあ、家の中でずっと制服って変だよね。
「じゃあ、私たちはいったん外に出てるね」
「うう……ごめんなさい。すぐに着替えますね!」
一同、苦笑いをしつつ外にいったん出る。
楓ちゃんは顔を真赤にさせていたが、別に急がなくてもいいと思うんだ。制服乱暴に扱って皺になるとアレだし。
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「……すみません。お待たせしました」
廊下で他愛のない話をしつつ待つこと数分。中から楓ちゃんが出てきた。
顔が赤く、少し息があがってるが、そんなに急がなくてもいいのに。因みに、手にはブラウスらしきものが抱えられているので、さっきまで着ていたやつだろう。
「中に入って待っててくださいね」
そう言って、楓ちゃんは小走りで他の部屋へ行ってしまった。洗濯物出しにいったのだろう。
楓ちゃんの今日の格好は、グレーのひざ丈ワンピースの下にロングスカートを履いていた。ワンピースには、花の刺繍が入った、レース付きスカーフ。スカーフまで巻く時間は無かったと思うので、たぶんああいうデザインの変形襟だと思う。で、裾にもレースで縁取り。そして、スカートはフリンジ飾りやこれまた花などの刺繍の入ったレースで彩られたふりふりのロングスカートだ。てか、全体的にふりふりだ。
とても可愛いと思うが、私には絶対似合わないな。うん、私には無理だ。
因みに、希帆はというと、サルエルデニムに長袖ロングTシャツというシンプルな格好。
男どもの格好はー……まあいいや。
さて、中に入って待ってますかね。
で、私たちが中に入って座る前に楓ちゃんも戻ってきたので、誕生日会開始です。
まず、誕生日プレゼントを開けてとしたいところであるが、アルバムから写真選ぶだけだし、お菓子やケーキを食べながらの方が楽しくていいだろうって事で、同時進行で。
「じゃ、これ楓ちゃんのケーキね」
「わー! 凄いです! チーズケーキですか?」
保冷バッグからケーキを取り出すと、喜色満面の笑みで楓ちゃんがケーキを眺める。うむ、可愛い。
「じゃ、蝋燭立てるねー」
ちゃんと誕生日用の蝋燭も準備している私に隙はなかった。
しかも、今回は大きさで年齢を分けるのではなく、数字蝋燭というやつだ。
楓ちゃんの誕生日用の蝋燭を買いに百均に行った時に見つけちゃってねー。これだ! って事で即買いですよ。
あ、ちゃんとライターも持ってきたよ。前回の反省をちゃんと活かすのだ。……家にあった蚊取り線香用と化してるライターだけども。
「じゃあ、電気消して歌いますかね」
「おー! 鍋島君電気!」
「あっはい」
希帆に電気をと言われ、素直に消しに行く鍋島君。便利に使われるなあ。
で、まあ歌い終わって、蝋燭吹き消して、それをしっかりムービーに撮ってとなりました。
「楓ちゃん、誕生日おめでとう」
「おめでとー!」
「おめでとう」
「おめでとうございます」
「おめです!」
「ふふ、ありがとうございます。照れますね」
楓ちゃんの照れる姿が可愛い。
あ、歌ってる描写とか歌詞とかそういうのはね。諸々の事情がありますんでね。ほら、団体に目をつけられるとアレなんで。
商用でもなんでも無いのに歌詞載せただけで団体さんがくるらしいからね。怖いね。
あ、電気は鍋島君がつけてくれました。本当に便利に使われてますね。
「じゃ、ケーキ切り分けるねー」
「あ、私やりますよ」
「いいの。祝われる側は、憧れのお姫様みたくやってもらってなさい」
「そ、それは言わないでくださいよー!」
切り分けようとすると、楓ちゃんが自分がやると言ってきたので、素直に祝われてろと言いつつ、いじってやった。
顔を真っ赤にさせてるが、最近私が楓ちゃんにしてやられてる気がするからね。仕返しだ。ふひひ。
「あれ? これ生地がほんのりピンク色ですね?」
「ああ、苺を練り込んだスフレ生地だからね」
「へー! 苺好きなので嬉しいです!」
うん、苺が好きなのは分かるよ。なにせ、ベッドの上に苺のクッションがあるくらいだし、ね。
「よし! 食べながらアルバム見よー!」
「そうですね! 見せてもらっていいですか?」
皆でケーキやらお菓子やらを食べ始めると、2人がそう言い出したので、トートからアルバムを取り出す。
てか、誰のから見るんだろう?
「空さんは最後です! 私は美味しい物は最後までとっておく派なので!」
「え? あ、うん?」
誰のから見るか聞こうとしたら、先手を取られた。
いや、そうだとしても私のが美味しいとは別に思えないのだけど……。
で、誰のから見るかしばらく迷ったのち、宝蔵院のからという事になった。
「はい、どうぞ」
「ありがとうございます!」
さてさて、宝蔵院のショタ時代はどんななのだろうか。
「うっは! 可愛いね!」
「これは……予想以上です」
アルバムを開いて、少し吹き出しながら可愛い可愛いと言う2人。
いや、ふふ、たしかに可愛い。某頭脳は大人な名探偵ルックで、ジュースの入ったワイングラスを持ったショタ宝蔵院が写ってる。
また、その顔が緊張してるのか少し強ばってるのも良い。ふふ、いや、これは微笑ましくて良い写真だ。
「……あの、笑わないでいただけますか」
「あ、ふふ、すみません。ふふ、その、思った以上に微笑ましくて」
宝蔵院が面白くないといった顔をしながらそう言ってくるが、楓ちゃんの笑いは止まらない。
「ね! ね! これはいつ撮った写真?」
「それは、5歳の時だったと思います。祖父のパーティーに初めて出た時ですね」
希帆の質問に何気ない顔して答える宝蔵院だが、お爺さんのパーティーという時点で凄いのに、それがこんなフォーマルな格好をしないといけないとなると、もうね。言葉も出ないよね。
希帆も、ほえーって言いつつ写真へと視線を戻すだけだ。
「……あれ? この宝蔵院君と一緒に写ってる男の人どこかで見たような……」
ぱらりとページをめくり、ある写真を見た楓ちゃんがそう漏らす。
で、その写真へと目をやれば、私もどこかで見た事のあるような気がする男性が、宝蔵院君の肩を抱いて一緒に写っていた。
……はて、私はどこでこの男性を見たのだろうか。
「んー……あ! あれじゃない? 政治家のー……名前なんて言ったっけ! 大臣の!」
あー……そっかそっか。
今の政権で厚生労働大臣やってる人だ。そっかそっか。だから見たことある気がしたんだな。
たしか、政治家の汚職問題やらが続いた時に初当選後から1日も欠けてない会計帳簿どころか、政治家になる前からつけてる家計簿まで公開して、調べるだけ好きに調べろ! って言い放った豪胆な人だ。
国民の皆様の信頼を得るためなら、私個人のプライバシーなぞどうでもいい! と言い放った時はなかなかに爽快であった。
そっかー。てか、大臣の顔を見てすぐに分からないのも問題ありだなあ、私。そっかそっか、大臣か……って、え!?
「え? なんで一緒に写ってるんですか!?」
「ああ、祖父の友人らしくてですね。毎年、新年の集まりにも顔を出してくれますよ」
「……はあ、なるほど」
「あと、父がこの人の秘書をやってます」
「……はあ」
楓ちゃんは自分の理解できる範囲を超えたらしく、相槌を打つだけになっている。
「って事は、お父さんも将来的に政治家っすか?」
「たぶん、そうなんじゃないですかね」
「宝蔵院君も政治家になるの!?」
「いえ、僕は公務員になりたいので。森林とか自然の事に関係する部署とか面白そうですよね」
どうやら宝蔵院は政治家になる気がないらしい。
自然関係だったら農大から公務員なのかな。まあ、どうでもいいか。
「で、吾妻さんはどれにするか決めました?」
「あ、はい。これがいいなーって思ったんですけど……」
話がアルバムの方へと戻った。
で、楓ちゃんが指差す写真を見ると、相変わらずの名探偵ルックのまま、ソファで眠るショタ宝蔵院の姿が写った写真。
「ああ……パーティーで疲れて寝てしまった時のですね」
「駄目……ですか?」
「いえ、いいんですよ。持って行ってください」
「ありがとうございます!」
宝蔵院は恥ずかしそうな顔をしていたけど、あげるみたい。楓ちゃんはとても嬉しそうです。
てか、楓ちゃんは今川君と真田君の時もだけど、結構本人にとってはエグいのチョイスするよね。これ、私の時大丈夫かな。変な写真無いといいんだけど……中身までちゃんと確認しなかったからなあ。
「じゃあ、次は館林君の見せてもらっていいですか?」
「ああ、いいぞ。少ねえけどな」
次は館林君らしい。楓ちゃんへと薄めのアルバムが渡される。
「さてさて、この生意気そうな男にも可愛い時代があったのかね?」
さらっと酷い事を言う希帆に、黙ってアルバムをめくる楓ちゃん。うむ、私も見よう。
「……ってあれ? 髪の毛の色が今と一緒だ」
「ん? ああ、これ地毛だぞ」
私が写真を見てポツリと漏らした言葉に反応し、館林が教えてくれた新事実。
へえ、本当に地毛が茶髪の人っているんだな。
「えー、なにそれうらやまー」
「そうか? 小さい頃から染めてんだろとか不良だとか言われて、結構めんどいぞ?」
「……リアルに不良だった人が言っていい台詞じゃねえっすよね」
「まーな」
そう言って館林が笑う。
あー……まあ、たしかにそれは面倒かもなあ。厳しい校風の所だったら色々と言われそうだしね。
そういう意味では、うちの学校って指定のセーターすら無いゆるさだからいいね。……まあ、夏休み明けで真ん中から赤と黒で色が分かれてた別のクラスの子がさすがに注意されてた事はあったけども。
「まあ、中学の時に金髪にしてましたけどね……」
「あれは、地毛だっつってんのに黒く戻せってしつこいハゲが悪い」
「金髪だったんすか?」
「ああ、戻せってぶん殴られてな。頭きたんで派手にしてやった」
「その結果が出席停止と……」
「あれは少し後悔したな」
「……馬鹿じゃねえの?」
「まあ、馬鹿だよな」
……ああ、うん。館林に髪色で苦労したんだろうななんて気遣ってやる必要な無いって事が分かった。ただの馬鹿だコイツ。
今は楽しそうに笑ってるけど、それ、若気の至りっていう厨二病だと思うんだ。
「はい! この写真がいいです!」
男どものやり取りに呆れてると、楓ちゃんがその空気をぶち破った。
ああ、話に入ってこないと思ったら、アルバム見入ってたのね。
「どれだ?」
「これです」
楓ちゃんが指す写真を見ると、真剣な顔をしてアイスクリームを食べるショタ館林が写っている。口のまわりはアイスクリームでベッタベタだ。
ベージュのオーバーオールが可愛らしい、とても純真そうな少年だというのに、将来はこんな不良もどきになるのか。時というものは残酷だな。
「ああ、どっかの牧場行った時のだったか? いいぞ」
「ありがとうございます!」
写真を持ってホクホク顔の楓ちゃんが可愛い。
「えっと、片桐さんは最後って言ってたから次は俺っすかね?」
「はい! お願いします!」
あ、本当に私が最後なんだ。
私の最後に持ってきても落ちはつかないと思うし、面白みも無いと思うんだけどなあ。
……まあいいや。私も鍋島君の写真を見よう。
「……なんか、泣いてるのばっかりですね?」
「そうなんすよね」
アルバムを開くと、鍋島君と思われるショタっ子の泣き顔ばかりが写っていた。
なぜにこんな泣き顔ばかりと思うが、本人は苦笑いするだけで特に気にしたようすも無い。
「あ、これは姉ちゃんの色鉛筆勝手に使って怒られて泣いたやつ。これは、奈良に行った時に鹿に群がられて怖くて泣いたやつっすね」
……律儀に説明までしてくれてるけど、恥ずかしくないのかね。本人がいいならそれでいいのだけども。
色々な泣き顔があれど、私の押しは鹿に群がられてるやつかなあ。泣いてる子どもだろうとお構いなしに煎餅くれよと群がる鹿たちがいい仕事をしていると思うんだ。次点で、アイスが地面に落ちて泣いてる写真だろうか。
まあ、可愛らしいと思うし、親御さんからしてみれば絶好のシャッターチャンスなんだろうけど、写真撮る前に慰めるなり助けるなりしてやれよと思う。もし、自分に子どもができてこの状況になったら写真撮るかもしれないけども……。
「んー……迷いますけど、この写真で!」
色々な泣き顔の写真がある中で楓ちゃんが選んだのは、プラモデルの頭がとれて呆然としている写真だった。
あの、ぽかーんって顔文字と同じ表情で固まってるショタ鍋島君はたしかに見ものだ。因みに、この後ギャン泣きしたらしい。写真が残ってないって事は、親御さんも写真撮ってる場合じゃないくらいの泣きっぷりだったのだろう。
「あ、それっすね。いいっすよー。泣き顔選ばれなくてよかったかも」
「ありがとうございます。ふふ、この後泣いたらしいですけど、この写真だけでどんな風に泣いたのかとか、どんな風に慰められたのかとか、想像が膨らみますね」
「……おうふ」
うん、やっぱり楓ちゃんってエグいわ。可愛い顔してえげつないわ。
「さて! 皆さん、次はお待ちかねの空さんですよ!」
「よし! きたね!」
「これは興味ありますね」
「コイツ、どんなだったんだろうな」
「楽しみっすね!」
なんで、皆さん興味津々になりますかね?
私の昔の写真見たって面白いことなんにも無いと思うよ?
……まあ、とりあえず楓ちゃんにアルバム渡すか。
ありがとうございますと言いながら、アルバムを受け取り、楓ちゃんは早速中を見始める。
「……ふふ、可愛い」
これは、羞恥プレイの一種なのだろうか。とても恥ずかしい。
「これってお遊戯会みたいなやつですか?」
「ん? ああ、そうだね。それで踊ったやつだ」
楓ちゃんが1枚の写真を指さしつつ聞いてきたので、それを見れば、小さい頃の私が衣装を着て踊ってる写真だった。
そう、あの幼稚園とかであるお遊戯会的なアレだ。どぎつい派手な色の衣装を着せられ、大衆の前で踊るという罰ゲームだ。
「これ、凄くつまらなそうで可愛いですね」
「……まあ、実際なにが楽しいんだと思ってたしね」
この写真の私は勘弁してくれよとでも言ってそうな顔で写ってる。
楓ちゃんはそれが良いらしいが、この当時の私の気持ちからすればあまり嬉しくはない。
「……なあ、この写真とかってここら辺で撮ったやつじゃねえよな? 旅行か?」
「ん? ああ、私は小学校入るまでお祖父ちゃんの家に住んでたからね。それはお祖父ちゃんの家の近くの川で撮ったやつだよ」
「ああ、なるほど」
館林が麦わら帽子をかぶって釣り竿を持っている写真を指しつつ聞いてきたので答える。
「いい所っぽいですね」
「山と川しか無いけどね」
「避暑地ってやつっすか?」
「いや、盆地だから夏は暑くて冬は寒いよ」
写真だけ見ると避暑地っぽいが、盆地だから実際は暑い。
まあ、この写真のような場所は木々で日陰になってるし、川のすぐそばって事でかなり涼しいのだけどね。
「ね、この川ってどれくらいの深さなの?」
「んー……小さい頃に行ったっきりだからなあ。たぶん、腰にはいかないくらいだと思う」
「泳げる?」
「うん、凄い綺麗な川だし」
「行きたい!」
「ああ、お祖父ちゃんたちも友だち連れて遊びにおいでって言ってるから問題ないよ」
「やたー!」
まだ1月だというのに、もう夏の事を考えて遊びに行きたいと言う辺り、希帆は気が早いというか、遊ぶのが本当に大好きな子である。
「え、でもあまり遠いとキツくないっすか? 避暑ってわけでもないし」
「いや、往復でもバス代含めて2000円くらいだよ? 片道2時間ちょっとかな?」
「え? いや、でもそんな距離にこんな綺麗な場所あるんすか?」
「え、だってここ東京だよ?」
「……えっ?」
わざわざ大金出して避暑地でも無い場所にと渋った鍋島君に、ここは東京だから近いと教えてあげると、驚いてぽかんとした顔をする。
まあ、普通に暮らしてたら同じ東京にこんな場所があるとは思わないよね。でも、東京だって奥地はそれこそ秘境だよ?
「まあ、夏は空さんのお爺さんが構わないのなら遊びに行くとして、それよりも凄い良い写真を見つけちゃいましたよ?」
楓ちゃんが、季節外れな話題を一旦締め、写真へと話題を戻す。
で、希帆たちは楓ちゃんの言う写真へと視線を戻すわけだが、どれが良い写真なのだろうか。
「うーわ。うーわ。空、これは卑怯だよ」
「なんすかこの癒やし系な写真」
「自然と頬が緩む写真ですね」
「これは、癒されるな」
どんな写真かと思って見てみれば、夕暮れに縁側に座る祖父の膝の上で私が寝ている写真だった。
……そんなに言う程の写真ですかね?
しかしまあ、懐かしいな。一緒に住んでた頃は、こうしてよく祖父の膝の上に座って一緒に庭先を眺めていたものだ。
祖父は縁側でお茶やお酒を飲むのが大好きだったからな。通りかかると、おいでおいでされて膝の上におさまったものだ。
酒の肴は、四季折々の草花や虫の音、星月夜で充分と笑っていたのが縁側での祖父の印象だ。
「空さん、この写真にしてもいいですか?」
「うん、問題ないよ」
その系統の写真は私が産まれた年から、毎年数枚はあるはずだ。1枚程度なにも問題ない。
それに、寝顔という意味では少し恥ずかしくはあるが、失敗した写真や、さっき言ってたつまらなそうに踊ってるのより断然いいだろう。
「ふふ、ありがとうございます。空さん、寝顔が今と全く同じですね」
……おうふ。
やっぱり楓ちゃんエグいわ……。
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さて、帰り道。
あの後、お菓子食べながら雑談して、20時には解散。現在は最寄り駅から家へと歩いてる途中だ。
あ、ケーキはもちろん好評だった。皆、美味しいと言ってぺろりと食べてくれましたよ。
私は、皆の美味しく食べる顔が見れて幸せ。なんと素晴らしいウィンウィンな関係だろうか。
「なんつーか、こういう普通のダチってのも悪くねえな」
で、いつも通りの帰り道。そして、なぜかいつも通りに私を送る館林が居る。
宝蔵院は駅で別れた。にやにやしながら帰って行ったよ。
宝蔵院は、いや、希帆たちもだけど、館林とそういう関係になるのを期待してるのかね。けど、コイツ恋愛する気無いらしいし、私だってそのつもり無いし、無駄だと思うんだよなあ。
まあいいや。で、普通の友だちとはなんだろか。館林はもしかして友だち居ない人なのだろうか。
「ああ、俺にはガラの悪い連中との付き合いしか無かったからな。こうして、普通にのんびりするのも悪くねえなって思ってよ」
私の目線に気付いたのか、そう説明をしてくれた。
ああ、そういう事ね。
「お前と信のおかげだな」
「いや、なんで私のおかげになるのさ」
サンキューな。なんて言うけれど、私のおかげと言われても意味が分からない。
「あいつらに引きあわせてくれたきっかけが、お前と信だろ? あいつらと会ってなかったら、俺は今でもスレたまま馬鹿みたく一匹狼気取ってたさ」
だから、サンキューなと館林は言う。
んー……私はそんな風には思わないけど……まあ、本人がそう言うならそうなんだろう。
私としても、館林と宝蔵院がきっかけで、私自身にとっていい事なのかは分からないけど、男に対して無駄に警戒しなくなったし、対男で警戒しすぎて疲れるって事は無くなったと思う。
クラスの男子とも話しかけられれば、普通に話せるようになってきたしね。……やっとかって突っ込みが聞こえる気がするけども。
「お互い、友だちになれて良かったね」
「まあ……そうだな」
うん、そういう結論でいいだろう。館林も同意したしな!
「じゃあ、もう着くから。ありがとうね。また明日」
「おう、じゃあな」
話が終わった所で、家が見えてきたので館林と別れる。
……あ、そういえば今日の家の夕飯ってなんだったんだろう。聞きそびれたよ。まあ、いらないって言ってあるし食べないけどさ。
我が家の夕食。ブリの塩焼き、じゃがいもの煮っころがし、きんぴらごぼうでした。
……食べたら太るから食べられません。……つらい。
いいんだ……明日のお弁当にきんぴら持ってくからいいんだ……。




