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第34話

遅れましたが、明けましておめでとうございました。

拙作共々、今年もよろしくお願いします。

 年が明けた。

 明けましておめでとうございます。


 去年は、と言っても昨日なんだけど、夕飯に年越し蕎麦を食べ、取り敢えずは日付が変わるまで起きていて、希帆きほたち皆にラインやらメールやらで年賀メールなどを送った感じだ。で、1時には寝た。

 初日の出とか見るのもありっちゃありなんだけどね。それよりも美容の方が大切です。

 で、7時には起き、ついさっきリビングへと降りてきたわけだ。


 あ、そうそう。

 クリスマスパーティーが終わったあとなんだけど、希帆から雪花せっかが居なかったねーなんてメールがきた。

 雪花は、私が準備してる時に知らない人がたくさん来る事を勘付いたのか隠れてましたよ。猫だからね。知らない人が来たら逃げます。希帆とかえでちゃんだけなら平気だったんだろうけどね。他にも男が5人も居たから仕方ない。

 私が自分の部屋に戻った時は、部屋のおこたの中でまったりしてました。

 おこたを出した時に抱っこして連れてってみたらすっかり気に入ったようで、1日の大半をおこたで過ごしている。なんと羨ましい事か。

 おかげで私の部屋は自分が居る時間以外、雪花が自由に出入りできるよう扉が開けっ放しである。


「あら、おはよう。明けましておめでとう」

「明けましておめでとう」


 リビングへと入ると、両親が既にいた。

 母が食事の準備をしている事から、つい先程起きたのだろう。まあ、父は寝起きで部屋着と言っても寝癖なんて無いし、髭もしっかりと剃ってあるのだが。

 休みの日だろうと、身嗜みをしっかりするのが父だ。産まれてこの方、父が寝癖のまま居るなんてのを見た事が無い。たまには見てみたいんだけど、無理だろうなあ。


「おはよう、明けましておめでとうございます」


 昨日、日付が変わった時に言ったのだけどね。新年最初の挨拶はやっぱりこれだろう。私もそう返す。


「すぐにお雑煮できるからね。空はお餅1つでよかったわね?」

「うん、ありがとう。お箸と取り皿出すね」

「ええ、お願い。いつものやつじゃなくて、ここに出てるやつね」

「うん、勿論」


 母に言われた通り、台所に洗って置いてあるやつを布巾で拭きながら準備をする。

 いつも使ってるやつじゃなく、正月などの特別な日のみ使う食器だ。

 お皿は、何焼きかは知らないけど、真っ白な磁器に山水画が描かれた上品なお皿。お雑煮用のお椀は、漆塗りで扇絵が蒔絵まきえで描かれ、内側は朱塗りの綺麗なお椀だ。お箸も漆塗りのやつ。

 あ、蒔絵っていうのは漆で絵を描き、乾かないうちに金粉や銀粉を蒔いて描く技法の事ね。

 お値段? 知りません。怖くて知りたくもありません。両親が結婚する時に、祖父母がお祝いとして持たせてくれたやつらしい。もう、20年くらい前の品だ。ちゃんとした漆器っていうのは長く使えるからね。相当な品なんだろうなとは思うけど、値段は知りたくない。


「おはよー、あけおめ」

りく、ちゃんと挨拶しなさい」

「はーい、ごめんなさい。明けましておめでとう」

「ん、おめでとう」


 準備がそろそろ終わるというタイミングで陸が起きてきて、新年早々父に注意された。

 ここら辺をちゃんとしないと、父は凄く嫌がるからなー。仕方ないね。


「陸、明けましておめでとう」

「明けましておめでとう。陸はお餅何個?」

「姉ちゃんも母さんも明けましておめでとう。お餅は取り敢えず3つ!」


 私と母も陸に挨拶し、母はお餅が何個かと聞いた。

 取り敢えずで3つも食べられる陸の胃袋は本当に凄い。そして、焼いている数が読み通りになっている母も凄い。私にはまだこの芸当は無理だ。


「よし、焼けたからよそった順に持って行ってちょうだい」

「ん、分かった」


 言われた通り、よそった順に蓋をしめてテーブルへと持って行く。

 我が家のお雑煮はすまし汁。お餅に紅白蒲鉾、銀杏、鶏肉、柚子、三つ葉のシンプルなお雑煮だ。地方によっては味噌で作る所もあるらしいね。食べた事ないけど。


「では、いただきましょう」

「「「「いただきます」」」」


 運び終わり、お節を食べる。

 毎年、お正月は祖父母の家へと行くため、お節はそんなに多く作らない。それでも重箱3段分あるのだけども。


 海老から始まり、伊達巻き、百合根きんとん、昆布巻き、煮豆、数の子などなど色々だ。

 個人的に好きなのは百合根。ほくほくとしていて、ほのかな甘さがあり、とても好きだ。

 因みに、百合根は別名よろとも言うらしく、煮豆と百合根と昆布で、まめでよろこぶとなるらしい。まあ、おめでたい料理って事だ。お正月らしい感じだね。


「空、何時に友達と初詣行くって言ってたかしら」

「10時の予定だよ」

「お昼くらいにはお義父さんたちの家に行く予定だから、あまり遅くならないでね」

「ん、了解」


 祖父母の家は、だいたい車で2時間ちょい。今の時期ならもう少しかかかるだろうが、それでも夕方までには着くだろう。

 あ、そうだ。浴衣は何回も着付けしてもらってるけど、着物は無いな。着付けの時間はどれくらいかかるんだろう。


「母さん。着物の着付けどれくらいかかる?」

「んー……そうねえ。お義母さんに教わって、昔はそこそこ速かったけど……かからないとは思うけど1時間みたほうが安心ね」

「ん、分かった。じゃあ、食べたら先に髪の準備しちゃうね」


 今が7時半だから、もう少ししたら髪にアイロンかけて、着付けしてもらって、髪をセットして、軽く化粧して……うん、間に合うね。大丈夫だろう。

 よし、そうと決まれば食べ終えて始めてしまおう。数の子が美味しくてずっと食べてたいけどそうは言ってられない。


「ごちそうさま。準備してくるね」

「ん、準備できたら着物も一緒に持ってくるのよ?」

「はーい」


 皆まだ食べてはいるが、私はこれで終わり。そもそも、お雑煮にお餅が1個入ってる時点で私は充分なのだ。それプラスでちょいちょい食べてるのだから、いつもより多く食べてるくらい。


 自分の部屋へと戻り、アイロンと本棚に飾ってあるテーブルミラーを取り出しておこたに座る。

 テーブルミラーは木枠の英国アンティーク調のものだ。なんでもイプスウィッチスタイルというデザインらしい。祖父から去年、いやもう年が明けたから一昨年か。に、貰ったクリスマスプレゼントだ。値段は不明。この鏡も、我が家にある怖くて値段が知りたくない物の1つかもしれない。……案外、こういうのって目が飛び出るほど高かったりするからねえ。


 で、話を戻そう。

 アイロンで何をするのかと言うと、勿論髪を巻くのだ。今日は簪を使ってシニヨンアレンジにする。で、今回の巻き方だと、毛先がちょろっと出るので、巻かないと動きが無くなってしまうため、動きを出すために毛先を巻こうというわけ。


 よし! アイロン終了!

 毛先をちゃんと巻けたので大丈夫だ。アイロンは持ってはいるのだけど、髪質がストレートかつ猫っ毛なので、ほぼ意味がないというね。

 まあ、今回の場合は巻いたあとにすぐ纏めちゃうから、すぐに巻きが落ちる事は無いと思われるけども……。

 ポニテしたり、纏めた先からスルスルと抜けていったりするような直毛ストレートよりは、猫っ毛で良かったと思うけどね。どちらにせよ、セットが難しい髪質ではあると言える。


 ……んー、着付けの前にセットとか化粧しっかりやっちゃった方がいいのかな。

 着物がどれくらい動きにくいかは分からないけど、もし化粧とか厳しいくらい動けなかったら悲惨だな……。よし! 先にやろう!

 まず髪。纏めた時のハネ防止のためと、見た目のためにツヤ感の出るワックスを髪全体に広げて揉み込む。使ってるワックスはコンビニでも売ってる有名なメーカーのアレだ。男性用だけど、ツヤ感を出したい時はこれ。

 で、後頭部の辺りで髪を束ね、ぐるぐるとねじって、ヘアコサージュを作る感じでくるんと纏め、横から簪を指し、毛先を整えたら終了。


 さて、化粧だ。と言っても、バッチリメイクなんてしないし、ナチュラルな感じにするだけだからすぐ終わるんだけどね。

 まず、ファンデを塗ったあとに、アイシャドウはせずにアイラインだけ引く。で、下まぶたにベージュのシャドウを入れ、マスカラを上だけつける。まつ毛は長く、量が多いので、普通のを使うとバッサバサになる。なので、ブラウンマスカラを使って派手にならないように抑えるのだ。

 で、あとは透明グロスを塗っておしまい!

 私の化粧なんてこんなもんです。バッチリメイクはあまり好きじゃない。これは前世からずっと変わらない事だ。

 と、そんな事よりも下に着物持って行って母に着付けてもらわねば!


「母さん、お願いします」

「ん、じゃあ向こうに行きましょう」


 クローゼットにしまってあった着物ケースを取り出し、リビングへと戻るとそう言われた。

 まあ、私も父や陸の前で下着姿にはなりたくないから文句は無いよ。

 で、母に連れられて言った先はピアノの置いてある部屋。まあ、部屋と言っても1階は洗面所以外は扉が無く、玄関ホールから一続きの空間になってるんだけどね。衝立もあるし大丈夫だろう。


「じゃあ、まずは肌襦袢ね」

「ん、了解」


 言われるがままに服を脱ぎ、肌襦袢を手に取る。が、ここで気付いた事があった。


「ねえ、ブラってしたままでいいの?」


 そう。ブラの事だ。振袖にブラって考えた時に、なんか違和感があったのだ。……振袖ってノーブラが普通なのか、それとも普通に着けたままでよかったのか……うーん。


「ああ、そうだったわね。ちょっと待っててね」

「あ、うん」


 私が聞いた瞬間、何かを思い出したのか衝立の向こうへと消える母。

 戻ってきた時にまた脱ぐのも馬鹿らしいので、そのままで待つが、下着姿で突っ立ってるのってシュールだな……。


「お待たせ。今の外してこっち着けてね。聞いた話だとワイヤー部分が痛くなったりするらしいから」


 母が戻ってきて、袋から取り出したのはタンクトップっぽいブラ……なんだと思う。なんだこれ。


「和装ブラって言ってね。着物着る時に使うブラよ」

「へえ、分かった」


 言われた通り、今着けているブラを外し、和装ブラを着ける。……ん、これけっこう胸が押さえられるんだな。


「じゃあ、次はさっき言ったけど肌襦袢ね」


 母から手渡された肌襦袢を羽織り、なされるがままに着ていく。

 肌襦袢が終わると、胸の下、アンダーバストの辺りにタオルが巻かれ、次は足袋を履くように言われる。

 で、それが終わると次は長襦袢の出番。もうね、長襦袢の辺りからは分かんない。いつか、着物の着方も覚えようと思うけど、今日は諦めようと思う。言われたままに動き、なされるがままだ。


 その後、母の動きがたまに止まる事はあれど、無事に着ることができた。














 ……いや、もう説明とかしようがないよ。真剣な表情の母を見つめたまま、言われるがままに動くしかできないんだもの。慣れたら私もできるようになるんだろうが、慣れるまで大変そうだなあ。


「ふう、なんとかできたわね。久々だから手間取っちゃったわ」

「ありがとう。今度、自分でも着れるようにお祖母ちゃんに教わってみるね」

「ん、それがいいわね」


 30分ほどで終わったのに手間取ったのかという突っ込みはせず、お礼を言う。

 私もいつか、自分で着れるようになるのだろうか。普段着に和服とか着るのもかっこいいもんね。是非とも着れるようになっておきたい。


 さて、そろそろいい時間だから行こうか。

 初詣に行く場所は、夏祭りでも行った竜泉神社。待ち合わせは駅だ。

 祖父から貰ったフェザーショールを……いや、一昨年両親から貰った大判ストールにしよう。総絞りの落ち着いた振袖なら、フェザーショールよりこっちの方が合う気がするし。フェザーショールが駄目ってわけでは無いけどね。成人式の日とかはこっちにしようと思うし。


「じゃ、行ってくるねー」

「いってらっしゃい。あんまり遅くならないでね」

「はーい」


 リビングにいる家族へと声をかけ、家を出る。

 皆との初詣も楽しみだけど、その後は祖父母の家だ。久しぶりだから楽しみだなあ。




 ----------




 駅に着くと、皆は既に揃っていた。まだ、私が来たことには気付いてないもよう。この格好だからかな?

 ……しかし、最近こうやって待ち合わせをすると私が一番最後な事が多い気がする。んー……時間前行動はしっかりやってるんだがなあ。

 なんか、自分が一番最後っていうのは悔しいので、これからはもう少し早め行動を心がけるようにしよう。時間前に着いてるのに更に早める理由? 自己満足ですよ。


「皆、明けましておめでとう」

「え? あっ空だ! 明けましておめでとー! わー、きれー!」


 皆がいる所まで近づき声をかけると、 希帆がやっと気付いたのか、驚きつつ振袖を褒めてくれた。


「空さん、明けましておめでとうございます。着物、綺麗ですね」

「片桐さん、明けましておめでとうございます」

「明けましておめでとう」

「あけおめっす! すげーきれーっすね!」


 その後、楓ちゃん、宝蔵院ほうぞういん館林たてばやし鍋島なべしま君も挨拶を返してくる。

 別にいいんだけど、男どもで振袖褒めてくれたのは鍋島君だけか。こういう所で褒められないとモテないぞ?

 あ、因みに振袖着てるのは私だけでした。他の皆はいつも通りの普段着。……希帆と楓ちゃんの振袖姿見たかったなあ。


「よし! 皆揃ったから行こうか! しっかし、空の着物きれーだねえ」


 私が最後だったから、雑談もそこそこに神社へと向かう。

 真田さなだ君と今川いまがわ君は帰省のためこの場にはいない。少し残念ではあるが仕方あるまい。


「去年のクリスマスにお祖母ちゃんがくれたんだよ。お祖母ちゃんが成人祝で曾お祖母ちゃんから貰ったんだって」

「へー! 年代物だ! 大切にしないとね!」

「ふふ、そうだね」


 希帆の言う通り、大切にしなければなるまい。なにせ祖母の大切な思い出の品だ。これを汚したり駄目になんかしたら私はなんて言って謝ったらいいか分からない。


「次にその着物を着るのは空さんの娘ですね」


 楓ちゃんが横からいつも通りニコニコしながら言ってくる。そうなればいいんだけど、どうなるんだろうね。

 振袖って結婚したら着ないものだし、これを着る回数も限られてくるだろう……私が結婚できればの話だが


「そうなればいいけどね。子どもが娘とは限らないし、そもそも私が結婚できるか分からないし」

「……空さんなら選り取りみどりでしょうに」


 私が返せば楓ちゃんは呆れ顔でそう言う。

 いや、実際私ってそんな需要あるとは思えんよ。今でこそ元男って意識はだいぶ薄れてきたし、女である事の忌避感は特に無いけどさ。それを抜きにしても結構性格悪いと思うし、我は強いし、負けず嫌いだしさ。


「……私にそんな需要があるとは思えないんだけどねえ」

「そんな事ないっすよ! 安心してください!」

「じゃあ、お前が行き遅れたら俺が貰ってやんよ」


 ポツリともらせば、鍋島君と館林からフォローが入った。

 ……あー、うん。ありがとう? 何を安心すればいいのかよく分からないけどね。よくよく考えれば、私に需要があるかどうかより、そもそも男と恋愛ができるかという大問題が存在するわけだし。

 そして、館林は行き遅れを貰う前に、嫁を貰いそびれる事がまず有り得んと思うんだ。


「なんだかんだ、そんな事言ってる人が一番結婚早かったりするんだよねー」

「あ、そうかもですね」


 希帆が何かを悟った風に言い、それに楓ちゃんが同調する。

 んー、そういうもんかねえ。まあ、たしかに前世では嘘だろ? ってタイプの子が出来婚とかしてたけども。私に限ってそれは、ねえ。


 そんなこんなで、新年早々妙な話題で盛り上がりつつ、神社へと向かったわけだ。

 このメンバーの中で、誰が一番結婚遅いかで、宝蔵院と鍋島君で票が割れ、誰が一番早いかでは、なぜか真田さなだ君がなにげに一番早そうだと満場一致した。




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 さて、初詣も特に見せ場もなく終わった。

 私の願い? いつも通り、家内安全と家族の健康だ。


「んー! 終わったねえ。次のイベントは楓の誕生日かー」


 鳥居を出てお辞儀をし、希帆が伸びをする。

 ああ、そっか10日だものね。んー、誕生日プレゼント何にしようかな。


「誕生日会は楓の家でいい?」

「ええ、いいですよ。あの、誕生日プレゼントの希望があるんですけど……いいですか?」


 ふむ、楓ちゃんの家に始めて行けるぞ。楽しみだ!

 そして、誕生日プレゼントの希望か。なんだろう? 楓ちゃんが高額なものを要求とかは考えられないし、よっぽどの物で無い限り用意できると思うのが。


「ん、何が欲しいんすか?」

「えっとですね……皆さんの小さい頃のアルバムが見たいなーって。あと、そこから1枚貰えたら嬉しいなって」

「え? 別に俺はいいっすけど……」

「僕も構いませんが……」

「そんな数があったか分からんが……」


 楓ちゃんの希望は、皆が小さい頃の写真でした。

 そして、皆の反応が、そんなんでいいの? って感じです。


「ありがとうございます! 空さんも大丈夫……ですか?」

「え? あ、うん。全然いいけど……そんなのでいいの?」

「はい! 大事な友達の小さい頃が知れるのって嬉しいです! あと、写真があるとなんだか幼馴染になった気分で」


 恥ずかしそうに、へへへとはにかむ楓ちゃんは凄く可愛い。

 希帆はと言うと、好きだねえと楓ちゃんに対して少し呆れた顔。


「楓も好きだねえ。私は前にあげたから何か別の用意するね!」

「ふふ、ありがとうございます。希帆ちゃん」


 希帆も昔にあげてたらしい。

 となると、私が用意するのはアルバムとケーキだけか。楽だなー。

 あ、ケーキ何にしよう。ショートケーキは希帆の時にやったし……チーズかチョコがベターかな? あ、でも来月の事を考えると友チョコとかやるんだろうしチョコは続けたくないな。んー……チーズかなー。

 そして、アルバム。……いっぱいあるんだよなあ。中学入ってからは減ったものの、産まれてから小学生時代まで1年に1冊くらいのペースである気がする。私のも陸のも。

 さすがに全部は持っていけないからな。……何歳くらいのを持って行こうか。


「よっし! この後どうする? どっか寄ってく?」


 と、希帆。今は駅まで向かってる道中だが、私はそのまま帰らねばならないので参加はできない。残念。


「私はこの後、お祖父ちゃんの家に行くから無理だ」

「私は大丈夫ですよ。お祖父ちゃんの家に行くのは明日の予定ですし」

「俺も暇っすよ!」

「僕はちょっと無理ですね……予定が」

「俺はどうだったっけかな……まあ、祖父さんち行く予定があったとしても、お袋だけ先に行けばいいしどうとでもなる」


 私と宝蔵院以外は大丈夫らしい。

 まあ、年末から帰らない限り、年明け早々で帰省するほうが少数派だったりするのかなー。


「そっかー。空と宝蔵院君は仕方ないね! あ、ちなみに宝蔵院君の予定ってデート?」

「いえ、親戚やら祖父と父、主に祖父ですね。が、お世話になってる先生方が新年の挨拶にくるので。それの付き合いですよ」

「……うわー、なんかセレブっぽい」


 宝蔵院の言う先生が、学校の先生なんかでは無く、もっと凄い先生と呼ばれる人たちっぽい雰囲気だが、たぶん当たりだろう。

 パーティーみたいのがあって、そこで挨拶まわりでもするんだろうか。凄い世界だなあ。


「新年早々疲れるだけで嫌なんですけどね……」

「あー、うん……頑張れ!」

「ありがとうございます」


 希帆の激励に疲れた笑顔を向けつつも少し嬉しそうな宝蔵院。

 やっぱり、この2人って兄妹っぽい感じだよね。

 っと、駅まで着いた。私はこのままお別れだ。


「じゃあ、私は帰るね。次は休み明けの学校でかな?」

「僕もですね。では、また」

「うん、だねー。じゃあ、バイバイね!」

「空さん、宝蔵院君、また学校で」

「じゃな」

「お疲れ様っす!」


 手を振って、皆と別れ家へと帰る。

 途中、近所に住むお婆さんとお会いして、新年の挨拶を交わしたりもした。

 お婆さんの子どもであろう人と、そのお嫁さん。そして、お孫さんと一緒にこれから初詣に行くらしい。

 お孫さんと手を繋いでたが、とても嬉しそうな顔をしていたよ。やっぱり、孫を連れて遊びに来てくれたのが嬉しいんだろうね。

 お孫さんにバイバーイと手を振られたので、振り返し、お子さん夫婦には軽く会釈して別れた。

 私も、祖父母の家に行ったら孫孝行? とでも言うのかな。それをしないとだ。

 祖父母に伯父に従兄弟。皆元気にしてるかなー。




 ----------




 さて、帰宅した所やら移動シーンなどは全カットで到着でございます。

 高速に乗って2時間ほど。都下にある某有名な山の麓にある小さな町に祖父母の家がある。まあ、麓と言っても離れてるけどね。ただ、人里もそんなに多い場所では無いし、麓の範疇に入れてもいいんじゃないかなと思う。


 因みにどんな場所かと言うと、山がすぐそばというか、山間に流れる川に沿うように切り開かれた小さな町だ。

 すぐそばに山があるし、むしろ殆どの家が山の斜面に建てられている。平地が殆どない感じである。

 山には猿が住み着き、祖父母の庭にはアオダイショウが出没する事が稀によくあるし、狸まで居るらしいし、従兄弟の話では、秋の終わりになると、学校の集会で、マタギの人に猪と間違えて撃たれないように、山に入る時は派手な服を着ていくようにと注意されるらしい。

 うむ、ど田舎である。父の話では昔、橋の上からカワセミを見たことがあると言っていたしね。猿なら私も見たことがある。道路を小走りで横切ってたからね。あれは驚いた。


 で、そんな所にある日本家屋が祖父母の家になるわけです。敷地内には離れ的な感じで剣道場もある。


「ただいま」

「あらあら、政次せいじ君おかえりなさい。早かったわね」

「ああ、雅恵まさえ義姉さん。明けましておめでとう」

「ええ、おめでとう」


 父が、ガラガラと玄関の引き戸を開けると、パタパタと雅恵伯母さんが出てきて、挨拶を交わす。

 あ、政次というのは父の名前だ。伯父が政一郎せいいちろうで、父が政次。安直だが分かりやすくていい。

 伯父の事は、伯父さんか、せい伯父さんと私と陸は呼んでいる。


千砂ちずなさんも空ちゃんも陸君もいらっしゃい。明けましておめでとう」

「明けましておめでとうございます。雅恵さん」

「伯母さん、明けましておめでとうございます」

「明けましておめでとう」


 伯母さんが父に続いて入ってきた私たちにも挨拶をし、それに返す。

 あ、千砂というのは母の名前ね。片桐千砂だ。

 とまあ、玄関先で話し込むのもアレだし、さっさとあがってしまおう。


 荷物は玄関の横に置いておき、リビング、じゃなくて居間と言ったほうがいいか。居間へと向かう。


「お義父さん、お義母さん、政次君たちが来ましたよ」


 襖を開け、伯母さんが先に入り、居間に居た祖父母へとそう告げ、私たちも中へと続く。


「おお、よう来た。明けましておめでとう」

「明けましておめでとう」


 新年の挨拶を言いまくりだが、新年ならこんなものだろう。祖父母へと挨拶を返し、両親と陸はおこたの中へ。

 私は祖父母へと着物のお礼を言いたいので、まだ入らない。


「お祖母ちゃん、着物ありがとうね。大事に着るね」

「そうか、喜んでくれたかい。うん、よう似合っとるよ」


 祖母の隣に座り、お礼を言いつつ、感謝を込めてヒシっと抱きつく。ニコニコと笑いながら背中をポンポンと叩いてくれる祖母は私の癒やしだ。


「お祖父ちゃんも新しい帯ありがとうね」

「なんのなんの。ん、ばあさんの若い頃同様に綺麗だ」

「あらやだお祖父さんったら」


 祖父にも感謝を込めてヒシっとしつつお礼を言ったら、惚気が返ってきた。それを聞いて、祖母も嬉しそうに笑う。

 堅物っぽい見た目だが、祖父は祖母の事が大好きなのである。おしどり夫婦ってやつかな。

 因みに、そんなおしどり夫婦な祖父母の名前は、祖母がおね。祖父が政継まさつぐで、剣道の方? では、帯刀たてわきと名乗っているらしい。昔、ここに住んでた頃に、門下の人が帯刀先生とか呼んでいた。意味を聞いてみれば、世襲名というらしい。順調にいけば、次は伯父さんが名乗るのだとか。


 と、まあ私もよく分かってないし、ここまでにしよう。

 あ、そうだ。伯父さんにもミケ様のお礼を言わなくては!


「伯父さん、ミケ様のDVDありがとう!」

「ああ、本当にミケランジェリが好きなんだな」


 伯父さんにヒシっとするのは少し恥ずかしいので、お礼だけ。

 うん、ミケ様は素晴らしいピアニストだと思うのですよ。


「さて、皆来たし、お節出しますね」

「あ、義姉さん私も手伝いますよ」


 実際には1人足りないのだが、現状家に居る人間が揃ったのであろう。伯母が、そう言って立ち上がり、母もそれに続く。


「あ、私も手伝うよ」

「空は座ってなさい。振袖が汚れたら大変だから」

「そうね、せっかく綺麗なんだからそのままでね」


 私も手伝おうと思い、立ち上がろうとしたら母と伯母に止められた。

 んー……確かに油物とかはできないだろうけど、食器運んだり色々手伝えると思うんだけどなあ……。

 まあ、母に逆らう気というか、勇気は無いので、大人しく言うこと聞きますけども。


「そういえば、兄ちゃん居ないね?」


 母と伯母が台所へと行って少し。おこたに皆で入り待っていると、陸が今気付きましたといった感じで伯父にそう言う。

 ああ、兄ちゃんと陸が呼んでいるのは、政景まさかげ兄さんの事だ。伯父夫婦の子どもで、私たち姉弟の従兄弟にあたる。


「ああ、あいつは友達と初日の出を見に山登りだ。お前たちが来るからあまり遅くならないようにと言ってあるし、そろそろ帰ってくるとは思うけどな」

「なるほどねー」


 ああ、なるほどね。きっと近くのあの山に登ってるのだろう。初日の出を見るポイントとしてメジャーだしね。

 きっと、大学の友達と行っているのだろう。まあ、友達と親には言いつつ彼女である可能性も充分にあるわけだが。


「ああ、そうだ。お年玉をやらねばな。空、陸、これだ」

「ああ、そうだった。今取ってこよう」


 思い出したように祖父母からお年玉が渡され、伯父夫婦からのも取ってきてすぐに渡された。


「ありがとう。大事に使うね」

「ありがとー! 何買おうかなー」


 それを受け取りお礼を言う。その場でいくら入ってるか確認するなんて失礼な真似はしない。

 それに、いくら入ってようが、これは全て貯金なのである。大事に取っておき、必要な時に使うのだ。


「陸、少しは貯金しなさいよ」

「……えー、だって欲しいゲームとかもあるし」


 それに比べて陸はこれである。

 ゲームが悪いとは言わないけど、お年玉を全部そういう事に使っちゃうのはどうかと思うんだ。別にお小遣いがもの凄く少ないってわけでもないしさ。


「お小遣い少し貯めればゲームソフトくらい充分買えるでしょう?」

「……色々物入りなんだよー。姉ちゃんだって服とか色々買ってるじゃん」

「私はお年玉に手を付けた事はないよ」

「……なんで、小遣いの額はそんな差が無いのに姉ちゃんだけ」

「私はゲーム買わないし」

「……本とか服とか買うじゃん」

「どっか寄り道して家にご飯あるのに食べたりしないし」

「…………サッカーやってると腹減るし」

「むやみにコンビニ入って無駄なジュース買わないし、お菓子買って無駄な間食したりしないし」

「………ぐ」

「アンタも今のうちに少しは貯蓄していく事を覚えなさい」

「……あい」


 うむ、完勝である。


「ははは! 陸も姉には敵わんか!」


 伯父が私たちのやり取りを見て、楽しそうに笑う。そう、姉より優れた弟など存在しないのだ。

 ……まあ、実際は陸の方が私なんかよりスペック高いし、むしろ家族内で見れば、私が一番平凡であるというオチなんだけどね。

 でも、たった1年の差でも弟は弟。姉として、年長として、全て負けるわけにはいかんのだ。1個でもいいから勝つのだ!


「ただいまーって、お? もう来てたんだ」


 伯父が楽しそうに笑っていると、襖が開いて従兄弟が顔を出した。今、帰ってきたようだ。


「兄ちゃん明けましておめでとー」

「政景兄さん、明けましておめでとう」


「明けましておめでとう。あ、そうそう! 空には渡すもんがあったから取ってくるな!」


 新年の挨拶を済まし、思い出したかのようにもう1度襖を閉めて出て行く従兄弟。……はて、私に渡す物ってなんだろか。


「お待たせお待たせ。空、誕生日プレゼントな」


 小走りで戻ってきて、私に包みを渡しつつそう言って笑う従兄弟。

 あ、あー! そうか。そういえば貰って無かったね。今回はプレゼントが異常に多かったのもあってすっかり忘れてたよ!


「いやー、宅急便で送るプレゼントたちの中に入れ忘れてるの当日になって気付いてな。急いで送ろうかとも思ったんだけど、今から送るのも今日渡すのも同じかーってね。遅れてごめんな」

「ううん、嬉しい。ありがとう。開けていい?」

「ああ」


 従兄弟からの誕生日プレゼントを忘れてたなんて、口が裂けても言いませんとも。

 実際嬉しいので、お礼を言って開けていいか聞く。

 さて、何が入っているやら。


 包装を破かないように開けて出てきたのはマリアージュ・フレールと書かれた箱。うむ、紅茶だ。

 更にその箱を開けてみると、中には紅茶缶が2個とティーハニーらしき瓶が1個入っていた。

 ふむ、このティーハニーを入れて飲むと美味しい紅茶なのかな? 中々に良い趣味である。


「このティーハニーはどんな味のやつなの?」


 パッケージだけじゃちょっと分からないので聞いてみた。

 一口にティーハニーと言えど、色々種類があるからね。


「ああ、それはティーハニーじゃないぞ。紅茶のジャムだ」


 従兄弟から返ってきた返答は、私が期待していたものと違った。

 しかし、紅茶のジャム? まあ、紅茶にジャム入れたりするけど……そういう事なのかな?


「ふーん? ティーハニーじゃなくてジャム入れて飲むのか」

「いや、紅茶味のジャムだからな。お茶うけのスコーンとかにつけて食べるやつだ」


 私が別にそれならティーハニーでもいいんじゃないかなーと思いつつ呟くと、従兄弟からそう言われた。

 へー、紅茶味のジャムねー。あー、確かにそういうの聞いたことあるな。食べたことないけど。


「ありがとうね。今度、友達来た時に出してみる」


 希帆と楓ちゃんが遊びに来た時にでも出してみよう。彼女らが遊びにくるまでに私が食べてみたいという誘惑に負けなければ。

 ……まあ、開いてるのを出してもいいんだけどさ。やっぱり、お客さんが来た時に使いかけを出すのもアレじゃん?


「気に入った?」

「うん、もちろん」


 気に入ったかだって? 勿論である。

 紅茶よりコーヒー派な私だが、紅茶だって好きだ。そのまま飲むならコーヒーで、甘くするなら紅茶って感じ。寒い日に飲む甘いミルクティーとか美味しいよね。


「よかったー。いやー、彼女に頼んで一緒に選んでもらったんだけど不安でさ」

「なんだ、お前彼女いんのか」

「あっ」


 私が返事をすると、安心したと言わんばかりに脱力して笑いながら従兄弟が言い、それに伯父が反応する。

 どうやら隠してたみたいだけど、やっぱり彼女いるのか。どんな子なのか気になるなー。


「なんだ、政景はいい人が居るのか。今度、連れて来なさい」

「え……いや、まだ付き合ってそんな経ってないし」


 祖父まで反応し、それに従兄弟がそう言うが、その発言に対して祖父の目がスッと細められる。

 ……あ、これ道場で門下の人の稽古を見てる時の顔だ。


「……政景、お前まさか他所様の大事な娘さんと遊びで付き合ってるとは、言わんよな?」

「え!? いやいやいや、そんなわけないっしょ! 真剣だよ?」

「なら問題あるまい。まあ、向こうの都合もあるだろう。話して、良いようなら連れて来なさい」

「……はい」


 祖父は強し。

 従兄弟はどうしてこうなったとでも思ってるのだろう。


「お祖父さん、政景もまだ大学生ですし、あまり無茶を言うんじゃありませんよ? まだ、お互いにそういう事を考える年頃でも無いでしょう」

「いや、しかしだな……」

「今と昔じゃ違うんです。私たち老人の価値観を若い子に押し付けるのは感心しませんよ?」

「……むう」


 訂正。祖母は強し、だ。


「でもまあ、政景がどんな子を好きになったのかは知りたいわね」

「……まあ、今度話して遊びに連れてくるよ」


 祖母がにっこりと笑いながらそう言い、従兄弟も苦笑いしつつ答える。

 うむ、祖母に勝てる人はこの家に居ないようだ。


「空はどんな人を好きになるのかしらねえ」


 そして、祖母が将来を楽しみにするように私の事を言い出した。あれ、私に飛び火? 陸じゃないの?


「……許さん」


 祖父が小さな声で何か言った。よく聞こえなかったけど、どうしたんだ?


「親父、どうした?」


 父も祖父が何を言ったのか分からなかったらしい。


「許さんぞ。どこぞの馬の骨にうちの可愛い空をやるものか!」


 ……えっ?

 あれ、この人こんなキャラだったっけ?

 いや、確かに孫バカな人だとは思ってたけどさ。でも、こんなこと言う人だったっけ?

 父のほうを見れば、あまりに予想外な発言だったのか、ぽかんとした顔をしている。うわー、珍しい顔を見れたなー。


「お祖父さん? 少し黙りなさい」

「い、いや、しかしだな……ええい! 政次! お前もそうは思わんのか!」

「あまりにアレな男を連れてきたらさすがに反対するが……空に限ってそれは無いだろう? なら、我々は祝福してやるべきだと思うが」

「父親がああ言ってるのよ? お祖父さんの出る幕ではないでしょう。孫バカもいい加減にしてくださいね?」

「……ぬう」


 祖母の笑顔が怖いです。

 そして、父がそういう風に考えていたなんて知りませんでした。まあ、とても複雑そうな顔をしながらの発言ではあるのだけれども。


「空―、お節食べたらいつもの場所に付き合ってちょうだいね」

「ああ、うん。分かった」


 おぼんを持った母と伯母が戻ってきて、この話は自動的に終了した。

 そして、母に一緒に出掛けようと言われたが、毎年の初詣だと思うので了承する。

 父と陸は行かず、毎年私と母だけだ。なんでだろうと毎年思っているが、聞けてない。




 ----------




 お節も食べ、現在は毎年行く神社へと向かっている。

 家の近くにある小さな、この時期でも出店すら出ない神社だ。


 お節は今年も祖母と伯母が作ったやつ。

 お昼を抜いて、お腹を空かして行ったから余裕で食べられたけど、カロリーを考えるとやはり怖い。クリスマス辺りからの摂取カロリーが怖い。

 しっかしあれだ。やっぱり祖母の煮豆は美味しかった。どうやったらあの味が出るのかなーと思うのだけど、再現できる気がしない。

 祖母に作り方を聞いても、年季と言われるだけ。伯母も教わってるそうだが、未だに再現できないそうだ。まあ、何十年も作ってきたものを早々再現できるわけがないかねえ。


「そういえば、空。毎年2人だけで初詣に行くの不思議に思わなかった?」

「いや、思ってたけど教えてくれなかったじゃない」


 道すがら母からそう聞かれたが、不思議に思って聞いても、教えてくれなかったのはあなたですよ?


「そうだったわね。あの話もしたし、教えてあげましょうか」


 そう言って笑う母。……あの話? どの話だろう。


「空が産まれる前、流産した話はしたでしょう?」

「ああ、うん」


 ああ、あの話か。私が大泣きした、ちょっと恥ずかしい日の話だ。

 まあ、あの日のおかげで私は生きるのがって言い方は言い過ぎだが、色々と楽になった日である。


「で、お父さんに子どもの顔を見せてあげてくださいってお参りしたのが毎年行ってる神社なの」


 へえ、そうだったんだ。


「空を連れて行くのは、授けてくれた子がこんなに立派に育ちましたって毎年報告するため。あなたのおかげで私は幸せですってね」


 空には面倒かけてるし、迷惑な話かもしれないけどねと笑う母。


 いや、別に迷惑とは思わないけどさ。

 そんな理由があるなら、別に紹介されてあげても……いや、うん。顔が熱いぞ。照れてないぞ!


「それなら、父さんと陸も連れてって、家族全員紹介したらいいのに」


 照れ隠しに、そんな事を言ってしまう。いや、私は別に照れてない。


「ふふ、まあそうなんだけどね。私にとって特別な場所だからかしら。空以外とは一緒に行く気にならないのよね」

「……ふーん」


 まあ、そうまで言うなら仕方ない。しっかし、今日は冬だと言うのに暑いな! ストール失敗だったか? 顔が火照って仕方ない。


 で、まあ神社に着いてお参りするわけだが、今年は願い事の趣向を少し変えてみた。

 いつもだったら家内安全を願うだけだが、今年はそれに、この家族に産まれさせてくれてありがとうございます、と付け加えてみた。

 あと、私も中々子どもができなかったら、ここにお参りしてみようかなとも思った。まあ、それ以前に相手が居るのかとか、そういう風に思う人が見つかるのかとか、恋愛ができるのかとか、そういう行為をする勇気があるのかとか、色々と問題は山積しているのだけどね。

 まあ、ぶっちゃけた話、そういう行為は1回しちゃえば抵抗なくなる気がするんだよね。でもまあ、ね。

 そんな軽いノリで失えるほど処女ってのは安くないしなーと。ま、繰り返すようだけど、そういう行為をしていい相手が見つかるかどうかから怪しいわけですが。

 おっと、神前でこんなシモい話は止めよう。さすがに失礼だ。


「じゃあ、お参りも終わったし帰りましょうか」

「うん」


 母の少し長めのお参りも終わり、祖父の家へと戻る。

 しっかしあれだなー。子どもができただけって言い方は変だけど、それでここまでとなると、孫ができた時はどんな顔をするんだろうか。

 んー……孫ができて喜ぶ母。見たいなあ。私も、もう少し恋愛とか前向きに考えた方がいいのかなー。前向きになった所で人を好きになるかどうかは完全に別問題なんだけどもね。難しいね。




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「正月くらい泊まっていけばいいのに」

「明日からまた仕事なんでな。あと、猫が居るんで家をそんなに空けられん」


 夜、夕飯を食べ帰り支度を済ませ、玄関でのお見送り。

 父は三ヶ日なんて都市伝説だったんだよと言わんばかりに、明日から仕事だ。

 そうじゃなければ泊まっていったし、猫の事もペットシッターや、ペットホテルに預けるなどして対応したんだけどね。


「空、陸。いつでも遊びに来ていいんだからな。電車できて泊まっていってもいいんだ」

「うん、また遊びに来るね」

「夏に来て川で泳ぐのとか楽しそうだよね」

「ああ、それはいい。友だちも連れて遊びに来なさい。山と川しか無いがね」


 陸が川泳ぎしたいと言ったが、それはいい。ちょっと上流に行けばニジマスやヤマメだって釣れる川だ。泳いでも問題ないだろう。

 希帆と楓ちゃん連れて行ったら、祖父母も喜びそうだし。

 山は……マムシとヤマカガシが怖いけど、それくらいだしなあ。山道を歩いてハイキングとかありかもしれないね。

 うむ、夏にどこか行こうとなったら提案してみよう。……盆地だから避暑にはならないけど。


「夏になったら友だち連れて遊びに来るかも。その時は連絡するね?」

「ああ、待ってるぞ」


 川に泳ぎにって言ったら、希帆なんか真っ先に行くー! って言いそうだ。ちょっと楽しみになってきたぞ。


「千砂さんも、政次の事が嫌になったらいつでも2人を連れて帰ってきていいのだからね? ここはあなたの家なのだから」

「ありがとうございます、お義母さん。でも、残念ながら一度も嫌にならないんですよね」


 ふふふ、と笑いながらそんな事を言い合う母と祖母。

 そっか、嫌になったらここに連れて来られるのか。……通学に2時間以上はキツいなあ。いや、まず有り得ないと思うけども。


「じゃあ、また」

「あ! 兄ちゃん今度こっちに遊びに来る時は、彼女紹介してね!」

「はは……分かったよ」


 父が先に出て、陸も続こうとした所で思い出したように言う。

 従兄弟も苦笑いというか、疲れた笑みを返すが、なんというか……お疲れ様です。でも、私が遊びに行く時にも紹介して欲しいです。


「私が来た時にもよろしくね?」

「……おう」


 うむ、どうやら追い打ちをかけたようだ。

 これ以上、従兄弟のライフを削る前に帰るとしよう。


 車へと乗り込み、窓を開けて皆に手を振る。

 祖父母も伯父伯母も従兄弟も、車が見えなくなるまで手を振ってくれた。私と陸もそれに返す。

 次来るのは夏かなー。ああ、秋にも来たいなー。山が一面紅葉でカラフルに染まるのはとても綺麗なんだ。希帆たちにも見せてあげたい。

 秋休みあればいいのに。シルバーウィークにってのはちょっと厳しいからねえ。

 一緒に行こうって言ったら、希帆たち喜ぶかなーなんて妄想しながら家へと帰った。




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 車を車庫に入れ、玄関の戸を開けると雪花が座って待ち構えていました。

 どうやら寂しかったもよう。いつもよりもゴロゴロ鳴らす音が大きい気がする。着物だけど、ちょっと抱っこしても大丈夫だよねと思い、抱っこ。嬉しそうなゴロゴロが更に激しくなった。うーん、この子やっぱり可愛いなあ。


「空、着物クリーニング出しておくから脱いで皺にならないようにね」

「ん、分かった」


 そうだそうだ。いつまでも雪花を抱っこしていたいが、大事な着物をいつまでも着てるわけにはいかない。

 ……って、私1人で着物脱げるのか? えっと……順序を思い出しながらやれば……うん、自信ない!


「陸、ちょっと雪花抱っこしてて」

「ん、了解」


 雪花を陸にパスし、母を追いかける。


「母さん! 着物脱ぐの手伝って!」


 1人で無理に脱いでグチャにするとか怖すぎるからやだ!

 寝室へと向かった母を追いかけて階段を登る。


「どうして雪花は俺の抱っこだと嫌がるんだよー!」


 階段の途中で、後ろからトテンという小さな音と共に、陸の叫び声が聞こえた。

最近思うこと。

陸は落ちをつけるために主人公の弟として産まれてきたのではないだろうか。

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