第33話
働いてたら12月になってました。意味がわかりません。
ええ、大変遅れまして申し訳ありません。お久しぶりです。そして、メリークリスマス。
今回の話の内容もクリスマスモードなので時期は合ってますね……遅れた言い訳にはなりませんが。
本当は昨日のうちに更新したかったのですが、無理でした……orz
「では、それの提出期限は1週間です。将来の事ですので、しっかり考えて書くように」
鹿のその言葉とともに、HRが終わる。
しっかしなあ。進路希望調査ねえ。どうしたもんか。
「空ー。帰ろ?」
「今日もどこか寄って行きませんか?」
「ん、そうだね」
希帆と楓ちゃんが来たので、思考を1回打ち切り、帰り支度を済ませる。
楓ちゃんからどこかに寄ろうと言ってくるのは珍しいので、これは希望を叶えてあげねばなるまい。
「うー……さっむいねえ」
外に出ると、ビュッと冷たい風が吹き、希帆からそんな言葉が漏れる。
12月に入り、既に3分の1が経過。あと10日ほどで冬休みとなるわけだが、ここ最近一気に寒くなってきたので希帆が身震いしながら言うのもよく分かる。
希帆も、フードにファーの付いたダッフルを着ているし、楓ちゃんも、ちょっとぶかぶかなたるんとしたシルエットで、フード部分がスヌードのような飾りになっている大きめの丸いボタンが可愛らしいデザインコートだ。私も、フードにファーの付いたメルトンポンチョコートを着ている。首元に付いた2つのトグルボタンが可愛らしいのだ。
だが、そんなのは関係なく寒い。タイツを履いてはいるのだが、スカートが寒すぎるのだ。なぜ、うちの学校は女子のパンツタイプの制服が無いのかと問い詰めたい。小一時間問い詰めたい。
「ホント寒いねえ。パンツタイプの制服があればいいのに」
「ねー。こういう時は男子の制服が羨ましいよ」
「急いで喫茶店でも行って暖まりましょう?」
私のぼやきに希帆が同意し、楓ちゃんが暖かい場所にさっさと行こうと提案する。
そうだね、それがいい。全面的に賛同するよ。急ぎましょう。あ、寄り道せずに帰れば家で暖まる事ができるって突っ込みは無しな。
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「しっかし、進路かー! なんで高1からそんなの考えないといけないのかなあ……」
行きつけとなっている喫茶店へ着き、一息いれた所で希帆が突っ伏しながらそうぼやく。
まあ、言わんとしてる事は分からないでもない。高校に入って1年もしてないうちから大学や就職などと言われても現実感に欠けるよね。
「まあ、来年から選択授業もあるしね。大学の事は少しでも考えておかないと」
「そうなんだけどねえ……将来の事なんてなんにも分かんないもん」
本音と建前は別って感じで、希帆にはそう言ったが、返ってきたのは弱音だけだった。
自分が何をしたいかなんて大学入っても分からない人のほうが大多数だけどねえ。実際、私も国立入ったはいいがそれで失敗したし。……あ、今度はちゃんと卒業したいなあ。前回は在学中に死んだっぽいからなあ。……自分が死んだ場面はまったく覚えてないんだけど、まあ変なトラウマを抱えるよりはマシなので良しとしよう。
「私も何がしたいかなんて分かりませんけど、今はとりあえず自分の学力と照らし合わせてどの程度の大学に進みたいかで書けばいいんじゃないですか?」
「……うーん、なるほど。ちなみに楓は?」
「私は私大ですかね。女子大なんていいかなーなんて思ってます。あ、どうせなら一緒の大学に行きません?」
「女子大かー。……うーん、私のとこ妹弟いっぱいいるからあまり高いとこ行けない……。竜泉は憧れだったからワガママ言って入らせてもらったけど」
たしかに、希帆の所はいっぱい妹弟いるもんな。竜泉だって決して安くないしこれでちょっと高めの私大となると厳しいのだろう。まあ、奨学金という手もあるのだけども。
「うーん、迷うねえ……。空はどうするの?」
「ん? 私はとりあえず国立かな。どこにするかは決めてないけど」
どうしてもやりたい事が見つかれば私大も考えるが、学費的にも国立の方がいいだろう。……なんだかんだ陸のサッカーでお金かかってるからなあ。私にかかる分は極力減らさなくてはなるまい。奨学金で行くって言っても両親は出すって言うだろうし。
「……とりあえずで国立って」
「……相変わらず凄いですよね」
私が軽く国立なんて言ったせいか、2人が呆れた顔をしている。いや、だって仕方ないでしょ。現状で前世の自分かそれより少し上の学力があるんだからさ。よっぽどやりたい事がない限り国立目指すでしょ。
「2人も頑張って国公立狙ってみれば?」
「……ほう? それは日本史がけっこうヤバげな私に対しての挑戦と受け取っていいのかね?」
「私も数学がちょっと厳しいですよ……」
まだ受験まで2年以上あるわけだし、頑張って国公立狙ってみればと言ってみれば、これである。
できたら一緒の大学に通いたかったんだけどなあ。まあ、仕方ないか。
勉強を教えて引き上げようにも、日本史は趣味がこうじて詳しくなり、それを穴埋めしていったようなもんだし、数学も公式覚えて解きまくったようなもんだ。教えようがない。
「ま、とりあえず第一希望は見栄張って国立で、実際のとこは私大文系って感じかなー、私は」
「私もそんな感じですかねえ」
なるほどねー。まあ、そんな感じだよね普通は。
希帆はなんとなく最後まで進路が決まらずに私大文系の英文科とか、特になにとか無いけど大学行きますなテンプレになりそうで少し怖いけど。
まあ、大学入ってからでもやりたい事は見つけられるので、私がとやかく言う事ではないだろう。
「よし! 進路の話はこれで終わり! 空の誕生日会をいつやるのか決めよう!」
「ですね! 楽しい事考えましょう!」
それでいいのかとも思わなくもないが、祝ってくれるのは素直に嬉しいのでここは何も言わずに話の切り替えを受け入れておこう。
「で、24日の誕生日当日はどうなの? 家の都合は大丈夫そう?」
「うん、大丈夫そうだよ。月曜だけど23の天皇誕生日が父さん休みだからね。家族のお祝いはそこでする予定」
今年は天皇誕生日が月曜にきたおかげで、久しぶりに2連休、運が良ければ3連休が取れそうだと父が喜んでいた。警察官なんて基本的には土日も年末年始も関係ない職業だからね。大変である。
「そかそか! じゃあ、24に皆で集まって空誕生日アンドクリスマスパーティーだね! 学校終わったあとでって……冬休みいつからだっけ?」
「……希帆ちゃん。冬休みは21日に終業式なので22日からですよ」
「あ、あはは、そうだったそうだった! じゃあ、丸1日遊べるね!」
希帆は冬休みがいつからか忘れていたらしい。学校スケジュールくらい把握しておこうよ……。
しかし、丸1日かー。……誕生日会やクリスマスパーティーって丸1日やるもんだっけか。
「そういえば、誰の家でやります? それともお店予約したりしましょうか」
「んー、お金かかるし誰かの家でいいんじゃないかな?」
「誰の家にする? ってなんで私の事見るの」
楓ちゃんが誰の家でやるか、それともお店予約するかと言い、希帆がそれに答えた所で、じゃあ誰の家にしようかと聞いたら2人にジッと見つめられた。……え、うち?
「いやー、空の家が一番広いし、人数集まれるかなーって思って」
「ご迷惑じゃなければなんですけどね」
「まあ、平気だと思うけど……。でも、広さって意味じゃ宝蔵院君の家の方が広いんじゃない? お手伝いさん居るとか言ってたし」
「空、一般人な私たちがお手伝いさんの居る家に行って楽しめると思う? 緊張してきっとそれどころじゃなくなるよ!」
広さって意味じゃ、たぶん宝蔵院家の方が上だろうと思い提案してみたが、たしかに希帆の言う通りかもしれない。
お手伝いさんなんて創作物の中でしか存在を知らないが、食べ物やら飲み物やら色々と持ってきてくれちゃったりするわけでしょう? うん、恐縮しちゃって楽しむどころじゃなさそうだ。
「んー……じゃあ、聞いてみて大丈夫そうだったらうちでやろうか」
「了解! 大丈夫なら空のケーキがまた食べられるねえ」
「……希帆ちゃん。空さんの誕生日会なのに空さんがケーキ作るって変じゃありません?」
「あ、たしかに!」
宝蔵院の家は気疲れがしそうなので却下という事で、聞いてみて大丈夫ならうちでやる事になった。
で、希帆が私の作ったケーキを食べたいと言ってくるが、楓ちゃんの言う通り自分のお祝いも兼ねたケーキを自分で作りたくはないよ。……なんか、寂しい人みたいで嫌じゃん。
「じゃ、そろそろ出ようか」
「うへえ……寒いから出たくないなあ」
「仕方ないですよ。電車乗る前に暖まれたんだから我慢しましょう?」
飲み物も飲み終わったことだし、そろそろ出ようと言うと、げんなりした顔で立ち上がる希帆。私もできる事ならこの暖かい空間に居たいけどね。ファミレスではなく普通の喫茶店だし、飲み終わったあとも居座するのは悪い気がするので適度な時間で出ましょう。
「じゃ! 空、また明日ねー!」
「空さん、また明日」
「うん、じゃあね」
改札でバイバーイと手を振る希帆と、お辞儀をする楓ちゃんを見送り、家路へとつく。
ビュッと時折吹く風が冷たく、まだ真冬と言うには少し早いというのに雪でも降りそうな気温が続いている。……雪あまり好きじゃないんだけどなあ。スキーとか行くなら別だけど、普通に暮らしてる分には降らないでほしい。
まあ、今住んでる場所はあまり積もらない地域だから、こういう事言っても賛同は得られないがね。希帆なんて積もったら雪合戦したいねー! なんて元気に前言ってたし。……私は雪合戦したくないよ。自分の部屋のおこたでのんびりしてたいよ。
あ、冬になると私の部屋ではおこたを出す。なんで私の部屋かと言うと、我が家には私の部屋にしかおこたが存在しないからである。
なにせ、リビングからなにからなにまで床暖房完備だしね。リビングの雰囲気的にもおこたはそぐわないって事で無かったのだ。祖父の家にはあったんだけどねえ。
で、やっぱりおこたは欲しいよねって事でお小遣いを貯めて自分で購入してしまったというわけ。なにげに、あれが2度目の人生で自分で買った物の中で一番高い買い物だったんじゃないかな。楕円の可愛いおこただし、シーズン以外は掛け布団をしまって普通の机として使っても違和感がないから気に入ってるけどね。本当に高かった。……数年越しでやっと手に入れたってどうでもいいね、ごめんね。
どうでもいい事言ってないで、さっさと家に帰りましょう。
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「母さん。24日にうちでクリスマスパーティーやっても平気?」
「ええ、構わないわよ?」
夕飯中、母にうちでクリスマスパーティーをやっても大丈夫かと聞いてみたが、問題はないらしい。よかったよかった。
希帆や楓ちゃんをうちにあげるのは問題ないが、宝蔵院たちをあげるのは何か気恥ずかしいものがあるけど……まあ、人様に見せて恥ずかしい汚屋敷ではないし、汚部屋でもないので心配は無用だろう。
あ、今日の夕飯はというと、母作であるサーモンとほうれん草のクリームシチューと、私作であるベーコンとカマンベールチーズのバケットサンドである。シチューのほうは、ハーブソテーにしたサーモンがいい感じ。バケットサンドもマスタードが効いてていい感じである。やっぱり、ベーコンとカマンベールチーズ、レタスの組み合わせは最強だと言わざるを得ない。まあ、クリームシチューにはパンよりもご飯派なんですけどね。
……あの、シチューをご飯にかけるのはお行儀悪い的な風潮はなんなんだろうか。私も外で食べる時は絶対にかけないけどさ。……美味しいと思うんだけどなあ。ビーフシチューだと別に変じゃないのになんでクリームシチューだけ変なんだと文句を言いたい。
ああ、あと残ったクリームシチューを次の日に茹でたパスタと絡めて食べるとすっごい美味しいよね。パンにもご飯にもパスタにも合う。うどんにだって合う。そう考えるとクリームシチューはカレー並の万能選手じゃないか。……やっぱりご飯にかけるの駄目って風潮は納得いかんわ。
「ちなみに、何人来る予定かしら?」
「えっと、希帆と楓ちゃんと宝蔵院君、館林君、鍋島君は確定かな? あとは、都合次第で2人ほど増えるかも」
「館林君はあの子ね。なるほどなるほど。宝蔵院君って子は、前にお出かけした子だったかしら? 宝蔵院君と鍋島君はどんな子たちなの?」
母に何人来るのかと聞かれたので、確定してる人物の名前と、あと増える最大数を言ったが、母のその館林に対する何か含みを感じる反応が凄く嫌です。
「宝蔵院君が、竜泉祭でメガネ執事の格好をしてた人で、鍋島君が女装メイドだった人だよ」
「ああ! あの子たちね! 鍋島君はまたメイドの格好してくれないかしらねえ。あ、仮装パーティーにすればいいんじゃない?」
「……ハロウィンじゃないんだから」
母でも理解しやすいだろうと思って竜泉祭の時の格好を説明したが、さらっと酷い事を言う母である。
ハロウィンじゃないんだし、仮装は無いでしょ。あと、たとえ仮装パーティーにしても鍋島君はメイドの格好してくれないと思うよ。
「……姉ちゃんに悪い虫が」
母とそんなやり取りをしていたら、陸がボソッと不穏な事を言い出した。悪い虫ってなんだ。ただの友達だからそういうのとは違うぞ?
「陸? 彼らみたいなタイプは、害虫じゃなくて益虫っていうのよ? くっついてもいいの」
「え、益虫?」
「そ、益虫。馬鹿な害虫が空になにかしようとしたら全力で殺虫するけど、益虫は空のためにもなるからいいの」
「そ、そうなんだ」
……害虫とか益虫とか、私の友達が虫呼ばわりでござる。
てか、害虫なら殺虫とか怖い事を母が言ってるが、冗談だよね? ……なぜだろう。冗談なはずなのに、父が仕事で遅く今この場にいなくて少しよかったと思ってる自分がいる。なぜだろう。
「にしても、そうなると親がいるのは気遣って邪魔かしらねえ。恵子あたりと遊んで、夜はお父さんとデートしようかしら」
別に邪魔になるとは思わないけど、そうしたいなら好きにすればいいと思うよ。てか、母は父とデートがしたいだけって気がするんだけど、きっと気のせいじゃないよね。
あ、恵子さんっていうのは母の昔からの友人で、和服を着ている事が多いお金持ちそうな綺麗な人である。旦那さんは見た事ないけど、きっとお金持ちなんだろうなーって感じ。あ、でも凛としていて胆力の強そうな感じだから、極妻とかも似合いそう。姐さんとか呼ばれるの想像すると似合うもんな。
「いいんじゃない?」
「そうね、そうしようかしら。あ、ご飯はどうする?」
「んー、なんか祝ってもらう? のに自分で作るのってアレだよね。あ、ケンタで予約しようかな」
自分のお祝いも兼ねている会で自分が料理を全部作るってなんか違う気がするよね。ケーキなんて特に。
で、思いついたのがケンタで予約すること。男子が最大で5人も来ることを考えれば、大量に食べるだろうし、アレを予約しても食べきっちゃうと思うんだよね。軽く。
あ、ケンタっていうのはあれね。白い髭のおじさんがニコニコ笑ってるお店の略称。
「え、でも男も何人かいるんでしょ? セットのやつ買ってもすぐ無くなるんじゃない?」
「うん、だからアレ予約しようと思ってね。予約制のローストチキン」
「あー! あのでっかいのね」
陸が当然な疑問を口にしたので、説明する。ローストチキンを予約すると聞き、陸も納得したようだ。
何年か前のクリスマスで予約したもんね。で、あんなに大きいと思ってなかったから、他の料理もしっかり用意しちゃって食べきれなかったもんね。
本来、クリスマスは七面鳥だけど、鶏だっていいじゃない。まあ、七面鳥を自分で焼いたっていいのだけど、手間を考えるとやっぱりね。
メインはローストチキンで、あとは副菜やらを何品か作れば充分だろうと思う。
あ、そういえば陸はどうするんだろう。彼女……は無いな。友達と遊ぶのか、それとも家にいるのか。
「陸、アンタ24日はどうするの? 家にいる?」
「んにゃ、友達とカラオケー」
「そか。じゃあ、陸の分のご飯は要らないね?」
「うん、大丈夫。姉ちゃんがケーキ焼くならとっといてもらうんだけどねー」
陸は友達と遊び回る予定らしく、ご飯はいらないらしい。
まあ、姉の友人達の輪の中に入ってどうのよりも、友達と遊んだ方が楽しいしね。たとえ予定が無かったとしても友達誘ってどっか行ってたろう。
ケーキは陸の誕生日に焼いてあげるから、それまで我慢なさい。
あ、陸のクリスマスプレゼントまだ買ってないや。今度買いに行かないとな。今年は……いつも通りでいいかなあ。実用的だし陸も喜ぶし。
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で、母にうちでクリスマスパーティーをやる許可をもらった翌日、現在学校におります。
「あ、そういえば! ね! で、空の家でできそう?」
「うん、大丈夫だって」
「やたー!」
教室へ着くなり、思い出したように希帆が聞いてきたので、許可はもらえたと言うと、嬉しそうに万歳をする希帆。
「なんの話っすか?」
「ん? ああ、クリスマス会の場所がうちになったよって話」
鍋島君が話しかけてきて、後ろにはぞろぞろといつものメンツである、宝蔵院、館林、真田君、今川君がいる。
「それって俺らもお呼ばれしてるやつっすか?」
「うん、そうだよ」
「おー! 片桐さんちにお邪魔できるとは!」
場所も日程も決まってなかったが、5人は誘っておいたのだ。
そして、私の家に入れるという事に異様にテンションを上げる鍋島君。……そんな面白いものはないぞ。
「あ、そうだ! 真田君と今川君は予定大丈夫そう? 24日なんだけど」
「……ああ、俺は問題ない」
「うん、大丈夫だよー。デートする相手もいないし」
希帆が思い出したように2人に確認していたが、大丈夫みたいだ。
てか、今川君はそんな事を言うなら、愛ちゃん達とデートでもしてあげればいいのに。
「デートの相手がいないって、今川君には彼女たちがいるじゃないですか」
「いやいや、最近あの子たちが絡んでくることも減ったよ。今じゃ挨拶する程度だしねえ。まあ、誕生日プレゼントは貰ったけど」
楓ちゃんがからかうように今川君には相手がいるじゃないかと言ったが、そうか、絡みも減ってるのか。
いい女になりたいって言ってたし、それまでは積極的に絡みに行くのはやめてるのだろうな。……しかし、誕生日プレゼントを貰ったってどういうことだ? 今川君の誕生日っていつだ?
「え? 今川君の誕生日っていつなの?」
「僕? 11月1日だよ?」
「言ってくれないとお祝いできないじゃん! てか、私たちも聞かなきゃ駄目じゃん!」
「そんなの気にしなくていいよー」
希帆も私と同じことを思ったのか、今川君に誕生日を聞き、突っ込みとセルフ突っ込みで忙しそうにしている。
それを見た今川君はといえば、にこにこと笑いながら気にしなくていいと言うだけ。……誕生日プレゼントをもらったのに、なんのお返しもできなかった希帆は気にしなくていいと言われても気にすると思うのだがなあ。
「気にするよ! 来年はちゃんとあげるからね!」
「うん、楽しみにしてるねー」
希帆が悔しそうな顔をしながら来年はあげるからと言い、今川君はにこにこと笑っている。
希帆にそんなつもりは一切無いのだろうけど、正直、そんな顔をしながら誕生日プレゼントあげられなかった事を悔やんでいると男は勘違いしそうだ。てか、私が男だったら勘違いしてしまいそうだ。
私が男だったら希帆を嫁にして毎日美味しいご飯作ってあげって……なんか違うなあ?
「で、何時からやるんだ?」
「あ、そうだったね! 空、何時からやる?」
館林が今川君の誕生日の話題は終わりといった感じで話を変え、希帆が私に聞いてくる。
そうだ。何時にやるとか決めてなかったよ。どうしようね。希帆に任せたら朝から! とか言い出しそうなので、私が決めたほうがいいだろう。てか、私の家でやるのだから決定権は私にあるのか。
「うーん、どうしよう。夕方からでいいんじゃない? 準備もあるし」
「準備ってなにするんすか?」
「え、パーティーするんだから料理作らないといけないじゃない? それの準備」
準備と言ったらなんのと鍋島君に聞かれた。料理以外になにかする事があるとでも言うのだろうか。……あ、掃除はいちおうしとかないと駄目だな。あと、洗面所は誰かしら使うだろうから洗濯物は事前に畳まないと駄目か。うん、やっぱり夕方からにしてもらったほうがいいわ。
「料理? ケーキっすか!」
「いや、私はいちおう祝われる立場だし、皆が美味しいケーキを買ってきてくれるって信じてるよ」
「よよよよーし、任せてください!」
冗談混じりでケーキは皆で私が喜ぶの買ってきてねって感じで言ったら、鍋島君が任せろと言ってきた。……すっごいドモってたけど本当に大丈夫だろうか。
まあ、希帆や楓ちゃん含め、鍋島君以外にも居るから大丈夫だろう。……ドモってる鍋島君を見て皆苦笑いしてるが。
「じゃあ、何時くらいにするよ」
お前の都合のいい時間にしようと館林が言う。
「そうだなあ。……16時か15時ってとこ?」
「ん、了解。じゃあ……「15時!」……な」
私の返事を聞き、皆でどっちにしようか決めようとでもしたのだろう。だが、それは希帆の一声によって決められてしまった。
準備も終わってるであろう時間にしたわけだが、15時に集まってなにするんだろう。
家族以外でクリスマスパーティーなんてした事ないしなあ。家族とだったらいつもよりも豪華な食事をして終わりなんだが、それだけでは駄目だろうし。
前世ではクリスマスパーティー的なものの時なにしてたっけか。……んー、お酒飲んで麻雀してたような?
……頼りにならんなあ、私の前世。
んー……私の家で皆で遊べそうなものか。
……トランプ、陸の部屋にあるゲーム、あとプール、は冬だから有り得んとしてー……ぐらいか?
しかも陸の持ってるゲームはなにがあるか分からんし、持ってるの知ってるのってウイイレくらいしか分からんしなあ。皆でやるとなると微妙だな。となると、トランプくらいしかやることが無いぞ。うわあ、うちの家って遊ぶもの何も無いんだなあ。
「で、片桐。15時で問題ねえのかって、なに悩んでんだ?」
「……え? ああ、それでいいよ」
館林に最終確認をされたが、その時に私が上の空で考え事をしていたため、なに考えてんだと聞かれた。
「了解。で、なに悩んでたんだ?」
どうやら、なにを考えていたかはスルーされないらしい。
まあ、別に言ってもなにも問題の無い話だし、むしろ皆に相談したほうが解決しそうな話なんだけどさ。館林ってこんな突っ込んでくる奴だったけか。
「いやね、私の家に皆で遊べるものがトランプくらいしかないなーって思って」
「ああー、なるほどな」
「皆でトランプやればいいんじゃないですか?」
「大貧民やりたいね!」
「大貧民? 大富豪って言うんじゃないんすか?」
「私たちの中学では大貧民でしたね」
「僕の地元では大富豪だったと思うなー」
「……俺の田舎では大貧民だったと思う」
「輝、僕らの中学では半々くらいでしたよね? たしか」
「……どっちでもいいだろうが。そんなもん」
なぜか、大貧民と大富豪どちらで呼んでいたかで盛り上がる面々。そして、呆れる館林。
本当に、どっちでもいいわ。
まあでも、これでたとえトランプ程度しかなくても問題なく遊べそうだという事は分かったので、良しとしますかね。
これで、当日の予定は大体だが決まっただろうか。
15時に集まって、トランプして、適当な時間でご飯食べて、プレゼント交換かな? まあ、先にプレゼント交換してもいいし、そこら辺はその場の乗りだろうけども。
「あ、プレゼント交換の予算って1人2000円までっすよね?」
丁度、プレゼント交換の事を考えたところで鍋島君に予算の事を聞かれた。
「そうだよ。あまり高すぎてもアレだしね」
「了解っす。なんにすっかなあ」
どうやら、まだ鍋島君はプレゼントを決めてない模様。
まあ、まだ時間はあるし焦って決める事でもないでしょう。私は既に買って準備しているがね。今のペースなら、当日までには完成しそうなので一安心である。
「ね、空はプレゼントもう決めたの?」
「ん? うん、決めてるよ。希帆は?」
希帆が凄く楽しそうな笑顔でプレゼントを決めたか聞いてきたので、決めてると答え、希帆はどうなのか聞いてみた。
この子、凄く良い笑顔だけども、本当にこういうイベントが楽しみなんだろうなあ。
「それがねえ。空の誕生日プレゼントはすぐに決まったんだけど、交換用のがなかなか決まらなくてね」
笑いながらそう希帆は言うが、私のプレゼントなんて別にいいのに。
「私のプレゼントなんて別にいいのに」
「駄目だよ! プレゼント貰ったんだから、ちゃんとお返ししないと! やられたらやり返す! 倍返しだ! だよ!」
「……希帆ちゃん、それはなんか使い方が違う気がしますよ?」
楓ちゃんが呆れたように苦笑いしながら突っ込みを入れるが、私も楓ちゃんの言う通り使い方を間違えてると思うよ。
それに、倍返しするとしたら、ゴディバのアソートメントのお値段の倍返しって事になるんだろうかね。そうすると、結構なお値段になってしまうのだけど、希帆のお財布は大丈夫だろうか。まあ、さすがにそこまでキッチリ倍返ししないだろうし、ようは気持ちなんだけどね。
さて、そんな倍返しにはりきる希帆、そして楓ちゃん達をしっかりとおもてなししないとな。
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さて、日は変わり23日の祝日である。
今日は家族と共にクリスマスと誕生日を祝う日でございます。明日は皆とクリスマス兼誕生日会。
……うむ、2日間の摂取カロリーが凄い事になりそうだ。しかも、1週間後には父の実家である祖父母の家に行き、御節漬けが待っている。
……体重計に乗るのは三が日を過ぎてしばらくしてからにしようかな。いや、現実逃避はよくないよな……うん。
「では、空、1日早いが誕生日おめでとう」
「おめでとう、空」
「姉ちゃんおめでとー」
「うん、ありがとう」
家族からの祝いの言葉に礼を言い、皆で食卓を囲む。
友人同士の誕生日会だと、単にお祝いってだけであるが、家族のだと少し違ってくるよね。
個人的な価値観ではあるが、誕生日というのは産まれてここまで育ってくれてありがとうという家族からの祝いと、ここまで育ててくれてありがとうという、誕生日側からのお礼の2つの意味がある気がする。
てなわけで、毎年のように今年は私がディナーを作り、日々のお礼を! と意気込むのだが、当日というか、前日から母が台所に私を立たせてくれなくなるので作る事ができない。
なぜなんだと聞いても、家族の誕生日を祝う食事を作るのは私の役目だ! と頑なに譲ってくれない母である。
私以外の誕生日の場合はケーキを焼くために台所に立てるんだけどね。他の料理は一切作らせてもらえない。
では、母の誕生日なら作れるのかと思えば、お前が産まれる前から、母さんの誕生日のご飯は父さんが作ってたからと、譲らない人がいるので無理なのである。……ホント、仲の良い夫婦だ。良い事だけどね。
因みに、今日の夕飯は、陸が鶏よりも牛! と主張したためにステーキがメイン。
そして、ドリアにミネストローネ、カプレーゼに生ハムで野菜を巻きブーケ風に仕立てたサラダである。
正直に言って私には多いが、毎年の事だし、いつも食べ切れない分は陸の胃袋に消えるので問題はないだろう。
しかし、このブーケ風のサラダは可愛い。明日のクリスマス会にも真似して出そうかな……。
「空、父さんと母さんからのプレゼントだ」
「わ、ありがとう!」
食事もほぼ終わり、あとはケーキを残すのみとなったところで父から包み紙を渡される。
去年は、ラムウールのタータンチェック柄の大判ストールだったけど、今年はなんだろうか。
基本的に、私の誕生日とクリスマスが一緒に祝われてるせいか、お値段が若干高めなのが多くて申し訳ない気持ちになるが、嬉しいので考えないようにしている。
小さい頃は、両親からの誕生日兼クリスマスプレゼントと、サンタさんからのプレゼントだぞと2つ貰っていて、なんとも居た堪れない気持ちになったが、小学校中学年の辺りだろうか。その頃から1つになったのでよかった。本当によかった。
「あけていい?」
「ああ、いいぞ」
あけていいかと聞けば、父が微笑みながら返事をし、母もにこにことしながら頷いている。遠慮なくあけてしまおう。
可愛らしい包装に包まれたプレゼントを見るに、そんなに大きな物では無いように思われるが、いったいなんだろうか。
包装紙を破かないように丁寧にとり、箱をあけると、出てきたのは長財布であった。
「うわ、可愛い」
思わず声が出たが、本当に可愛かったので仕方ないのだ。
クラシックな額どりがされ、小さく花柄のワンポイントが両端にあしらわれてる、レトロな雰囲気のがま口長財布だった。色はベージュ。
てか、箱を見るにダコタの財布なんだが……これ、16歳の小娘が使ってもいいものなんだろうか。普通にお高くないんですかね。
まあ、嬉しいんだけどね!
「気に入った?」
「うん、ありがとう。可愛いね、これ」
「ふふ、よかった」
母に気に入ったかと聞かれたが、もちろんでございますとも。
たぶん、満面の笑みで返事をしたと思われる。だって、自覚できるほどに頬が緩んでるもの。
ふふふ、大事に使おう。
「じゃ、俺からはこれね!」
そういって、紙の束を渡してくる陸。
渡された紙の束をみれば、50枚綴りのなんでも券。
やって欲しい事を書き、陸に渡せばそれをやってくれるという夢のような券だ。
……そうか。今年もこれか。
「陸もありがとうね」
陸にもお礼を言う。いや、実際嬉しいしね。
だって、50枚全部が1枚1枚手書きで書かれていて、結構手が込んでるんだよこれ。有効期限付きで、して欲しい事を書く面の裏には、今年の12月24日から来年の12月23日まで有効と書かれている。50枚全部に書くのは大変だったろうと思う。気持ちがこもってるからこそ嬉しいのだ。
ただ、彼女ができてもこれをプレゼントするなよとは言いたい。たぶん、いや、ほぼ間違いなく喧嘩になるから。
なお、これを使った記憶はほとんどない。だって、陸ってばこれ使わなくてもちょっと手が離せなくてやってほしい事とかすぐやってくれるからね。ぶっちゃけ意味ないんじゃないかと思うんだ。
小さいころは拙い字で一生懸命書いたなんでも券もらって凄い嬉しかったんだけどね。なにこの弟可愛い! って感じで。
……もし、成人してもプレゼントこれだったらどうしようなんてちょっと最近不安になるんだ。この子の将来的な意味で。
「あと、お爺ちゃんとお祖母ちゃんからはこれね」
渡されたのは、桐のケース。もしかして、着物だろうか。
「開けてもいい?」
「いいわよ」
さすがに食事の席で、着物と思われるケースを開けるのは躊躇われたので、少し離れた所に座って開ける。
「……わっ! わっ!?」
ケースを開けて出てきたのは、綺麗な総絞りの振り袖だった。
わっ! 凄い! なにこれ凄い!
手に持って広げて見ると、白と黒のモノトーンで描かれた牡丹と流れるような波の模様が入った、シンプルだけどとても綺麗な振り袖だった。
うわ! 凄い! お祖母ちゃん凄い! 大好き! え、てか値段とかよく知らないけど、総絞りってすっごい高いんじゃなかったっけ? うわー! 凄い! どうしよう!
「お祖母ちゃんが独身の頃に曾祖母ちゃんから成人祝いに貰った振り袖を仕立て直してくれたんだって」
「えっ!? そんな大切な物いいの!?」
「ええ、娘ができたらあげようって思ってたらしいのだけどね。孫でその夢が叶ったって喜んでたわ」
うわー、そんな大切な物貰っちゃったよどうしよう!
なんてお礼言えばいいのかな。いくらお礼言っても足りない気がする。
「あと、お爺ちゃんからは、さすがに古くなりすぎてたからって、新しい帯と、その着物に合う小物とかね」
お爺ちゃんからのプレゼントを見ると、オレンジ色の大きな花があしらわれた色々な色が使われた明るい色の袋帯。
なるほど、黒い総絞りの着物に映えるように明るい色を持ってきたのか! お爺ちゃんナイスセンスだ!
あとは、ご丁寧にフェザーショールや下駄とバッグなど。
本当に、なんてお礼を言ったらいいんだろうか。
「その振り袖着て、正月にうちに来てくれたら嬉しいって言ってたよ」
「絶対着てく! 着付けよろしくね!」
「はいはい、分かったわよ」
ふひひ、それでお礼になるなら絶対着てくぞ。
あ、そだそだ。希帆たちと一緒に初詣行くときも着て行こうそうしよう。そして、そのままお爺ちゃんたちの家に行けばいいんだ。
しかし、お祖母ちゃんが曾祖母ちゃんから貰った振り袖かー。……一生大事にしよう、うん。
「あと、隣の包みは伯父さんからね」
着物やら帯やらでニヨニヨしたまま隣に目をやると、綺麗にラッピングされた小さな包みが1つ。
さてさて、伯父さんは今年はなにをくれたのだろうか。
ラッピングされた包装紙を破かないように丁寧に開け、出てきたのは1枚のDVD。
……これは! ミケ様じゃないか! ミケ様のピアノソロDVDなんてあったのか!
「わっ! ミケ様だ!」
思わず叫んでしまったが、仕方のない事だろう。
だって、ミケ様だよ? ミケ様のDVDとかテンションも上がるさ! しかもショパンときたもんだ!
あ、ミケ様と言っても分からないか。ミケ様というのはですね。ミケランジェリというピアニストの事でございます。尊敬と崇拝と親愛を込めてミケ様と呼びましょう。
いやー、凄い人なんだよ? イケメンの天才で、完璧主義者。清潔感のある音と、完璧なんだけど機械的じゃない、独特の世界観が大好きなのだ。
色んな人のショパンを聴いたけど、彼の演奏を聴いてから、少なくともバラ1に関しては他の人のが聴けなくなった。いや、他にも好きなピアニストはいるんだけどね。シュピルマンとかさ。
ふひひ、ミケ様のCDは何枚か持ってるけど、これからは映像でも見る事ができるわけだ。ふひひ、楽しみだなあ。
「じゃ! プレゼント渡したし、ケーキ食べよ!」
祖父母と叔父のプレゼントにニヨニヨしたまま恍惚としていると、陸がそう言い出した。
まあ、このままずっとニヨニヨしてるのも悪くないけど、いい食休みにもなったしケーキ食べましょうかね。
「はいはい、ホント陸はよく食べるわね。空ももう準備しちゃっていい?」
「うん、大丈夫」
私が大丈夫と答えると、母が冷蔵庫へとケーキを取りに行った。
毎年、私の時のみ父が買ってきてくれるのだが、今年はどんなケーキだろうか。父のセンスに任せると言ってあるので、どんなのか全く分からないんだよね。楽しみだ。
「お待たせー。さ、切り分けるわよ」
母が戻ってきて箱をあけると、出てきたのは苺がびっちりと乗ったハート型のピンクと赤のケーキだった。可愛い。
砂糖で作られた大きなリボンがあしらわれていて、これまた可愛い雰囲気に仕上がっている。
「銀座にあるケーキ屋の人気商品らしいぞ」
へー、銀座ねえ。行った事ないけど、なんかお高そうなイメージですな。
「はい、切り分けたから空から好きなの取ってちょうだい」
母が切り分けているのをジーっと見つめていたら、終わったらしくそう言われた。
うちでは、祝われる人が最優先で選び、その後は子どもたちがという順番になっている。まあ、最初に選べるからといって、一番大きいの選んでも食べきれないおそれがあるから丁度良さそうなの選ぶんだけどね。
因みに、陸は迷わず一番大きいのを選び、次に父が選び、母が最後という感じだった。私と母が選んだやつが、陸と父に比べてけっこう小さい。まあ、これもいつも通りだし、母も意図してそう切ってる感じだけどね。
ケーキはと言うと、苺風味の生クリームとバニラムースに上に乗った苺の酸味がいい感じにマッチした、かなり美味しいクールドフレーズだった。
さすが父である。美味しいの選んできますわ。
あ、私からのクリスマスプレゼントだが、陸にはニューカッスルのレプリカユニフォームとレガースをあげ、両親には江戸切子のペアグラスをあげた。
江戸切子はそんな高いやつは買えなかったけどね。喜んでもらえたから嬉しい。
陸のユニフォームは私の趣味だ。陸はどこのファンとか無いみたいだからね。私の趣味で選んでる。
去年はたしかブレーメンで、一昨年がシュツットガルトだったかな。……うん? 私の趣味が変だとかそういう突っ込みは受け付けんですよ。うーむ、来年はアストン・ヴィラ辺りで行ってみるか。こう、超メジャーな所じゃなく、それでいてマイナーでもなく、隙間を縫う感じでいきたい。
あ、因みにですね。父の上司の方から今年も貰いました、図書カード。いつもありがたいですね。
でも、たまにお会いした時に、息子は結婚しちゃったからって孫の嫁にって言ってくるのやめてください。私、小学1年の子に欲情したりしないんで。あと、光源氏的な趣味も無いんで。
とまあ、こんな感じで家族とのクリスマスは終わり。
明日は希帆たちと皆でクリスマスパーティーだ! 楽しみだなあ。
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さて、翌日である。
今日は朝から忙しい。まず、洗濯機を回してる間に部屋のというか家の掃除をし、それが終わったら洗濯物を干す。
そして、食材の買い出し。新聞の折込チラシを眺めつつ、安い物に丸をつけて自転車でスーパーをはしごする。私はどこの主婦だと言いたくなるが、家計のためには必要な事なのだ。かご付き自転車のカゴに買い物袋を入れ、背中にはリュックを背負う女子高生の姿はシュールかもしれないが、そういうの気にしてたら安く買い物なんてできないのだ!
でも、こういう事してると原付とか欲しくなるなーなんて思う。てか、私は今日から16歳なわけだし、原付免許取りに行けるのか!
んー……今度取りに行こうかなー。あ、その前にいくら位かかるのか調べないと。で、自分の貯金で行けるようなら行こう。あ、でも免許取ってからバイクも買わないといけないのか。それに保険もある……。んー、免許は大学入ってバイトしてからかなあ。でも、それだと原付よりは車の免許取った方がいいよね。
よし! 今からしっかりと貯蓄していこう! そして、ベスパを買うのだ! ベスパ可愛いよベスパ。
ベスパを買う事を夢見ながら坂を登り切ると、我が家へと着いたのでベスパの妄想は終了。
重い荷物をかごに入れ、リュックに背負っているが、楽々と登れた。やはり電動自転車は便利である。……充電が途中で切れると地獄を見るが。
さて、それよりも今日の準備を済ませてしまおう。
まだ午前中とはいえ、時間かかる料理もあるからね。ちゃっちゃと作ってしまわねば!
まず、今日のメニューの予定だが、メインは予約しておいたローストチキンである。
あとは、ビーフシチューに、アボカドとサーモンのタルタルサラダ。さつまいものポタージュに、昨日から漬け込んでおいた牡蠣のオリーブオイル漬けだ。バケットも買ったし、これで十分だろう。
まず、昨日作っておいた牡蠣のオリーブオイル漬け。
牡蠣を片栗粉をまぶして流水でしっかりと洗い、油をひかずにフライパンで軽く焼き色がつくまで焼く。
そして、焼き色がついたところに、オイスターソースとラー油を入れて絡めながら焼いたら、牡蠣を取り出して冷ます。
あとは容器に移して鷹の爪を入れ、オリーブオイルをかぶるくらい入れて、一晩漬けるだけ。
こんなに簡単なのに、美味しいし、ちょっとオシャレだし、冷蔵庫に入れとけば1週間くらいは日持ちする、素晴らしい料理ですよ!
さて、それでは今日作る料理についていってみようか!
まず、一番時間のかかるものから取り掛かる。もちろん、ビーフシチューである。
牛すね肉を、適当な大きさの塊のまま、油を少しひいたフライパンで焼き色をつけ、その後圧力鍋に移し、ワインを投入。
水の代わりにワインを使うので、かなりの量のワインを使うが、このために箱ワインを用意したので何も問題はない!
で、肉を焼いたフライパンに油を少し足して、今度は玉ねぎをじっくりと炒める。飴色ではなく、軽く透明になる程度でいい。
あとは、玉ねぎを圧力鍋に移し、ローリエを入れ、始めは強火で煮込み、アクをしっかりと取り除く。で、アクが出なくなったら蓋をして20分ほど加圧。
加圧が終わり、串などで肉の柔らかさを確かめたら、火を止めてルウを溶かす。肉が崩れるので、底から混ぜないように気を付けるのを忘れないようにね。
ルウが溶けたら、とろ火で5分ほど。これで、トロトロとお肉がとろけるビーフシチューの完成だ! 皆に出す時は、ボイルドポテトでも添えて出そうと思う。
さてさて、ビーフシチューの説明を一気にしたが、煮込み時間の合間に作らないといけないものが何個もあるぞ。時間は無駄にできないからね。
次の料理はさつまいものポタージュだ。
メインが肉料理だし、しっかりとした味なので、さつまいもの甘さでホッとつけるようにと考えた感じ。
作り方はというと、粗熱とったりと少し時間はかかるのだけど、簡単である。
まず、皮をむいたさつまいもを1センチ程度の輪切りにし、水にさらした後にレンジで3分ほど温めて柔らかくしておく。
鍋にさつまいもとバターを入れて火にかけ、バターが絡んだら、水とコンソメを入れて中火で煮る。
さつまいもが柔らかくなり崩れるようになってきたら、そのまま粗熱を取り、ミキサーでガーッとし、鍋に戻して牛乳を加え、温めたら出来上がりである。ほーら簡単! 簡単で美味しくて、生クリームとパセリで仕上げればオシャレな感じに。最強ですね。
さあ、次はサラダだ。まあ、盛り付けとかは食べる時にするからぶっちゃけ材料切って混ぜるだけなんですけどね!
まず、アボカド、サーモン、トマト、きゅうりを角切りに。玉ねぎは微塵切りにする。あとは、それをボウルに入れて、オリーブオイルとクレイジーソルトで和えて、冷蔵庫で少し寝かしておく。これだけ!
もの凄く簡単で、時間もかからないが、盛り付ける時に小さな容器に詰めて、お皿の真ん中にひっくり返し、周りをベビーリーフで飾れば一気にオシャレになるのだ! 色合いもトマトとサーモンの赤に、アボカドときゅうりの緑でクリスマスっぽい感じだしね。
さて、これで私が作る予定だったものは終わったんだけど、なんかあと1個欲しい感じ。
かと言ってケーキ焼くのもアレだしなー……。んー……あ、シャンメリーとかそういう系がない!
ワインとかシャンパン! といきたい所だけど未成年だしねえ。仕方ないね。
でもなあ。私、正直な話、シャンメリーの味好きじゃないなんだよねえ。甘すぎというかなんというか、ね。
かと言って、このまま普通のジュースを買ってきて飲むのも微妙。遊んでる最中はそれでいいけど、食べてる時も市販の普通のジュースってなるとねー。なんか一捻り欲しいよね。
……さて、もう1回スーパーに行かねばならんのか。寒くて外出たくないなあ……。
なんか、今日曇ってるせいか凄く冷えるしさー。雪でも降りそうな天気ですよ……勘弁してください。
……ふう、だらだら言ってないで行きますかね。ホント、自作のマフラーが暖かくてよかったぜ。あ、そうそう言ってなかったけどマフラー編んだんだ。出来上がったのが数日前で、今年の通学で活躍する事はなかったんだけどね。……まあ、年が明けたら活躍してもらう予定さ! 白い毛糸で編んだ、透かし編みの可愛いマフラーなのだ! って事で、マフラー巻いて行ってきます。
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さて、寒い中頑張って買ってきましたよ。
なにを買ってきたかと言うと、ぶどうジュースにサイダー。そして、果物たちであります!
どうせ、シャンメリーみたいなシャンパンもどきを飲むなら、自分で作って美味しいの飲もうぜ! って事で、ノンアルコールなサングリア風のサイダーでございます。
まず、買ってきた果物、グレープフルーツ、オレンジの皮をむき、1房ずつ果肉を取り出していく。そして、キウイは皮をむいて輪切りに。
で、容器にぶどうジュースとシナモンスティック、切った果物を入れ軽く混ぜ、冷蔵庫で30分ほど馴染ませれば完成。飲む際は氷を入れて、好みの割合でサイダーで割ればOK。
これで、サングリア風サイダーの完成だ。色んな果物を使って試してみるのも面白いよね。
さて、そろそろ時間だから着替えて迎えに行かねば。
駅まで迎えに行って、予約したローストチキンを取りに行く感じかなー。
あ、因みに今日のお昼ごはんは料理の合間にパパッと用意した、豆腐と水菜とじゃこのサラダでした。ポン酢をかけていい感じ。
昨日、しっかり食べてるからね。それに、今日の夜もカロリーガッツリだからね。……こういう所で抑えていかないといけないのさ。
さあ! そんな事はいいから迎えに行こう!
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さて、着替え終わってそろそろ駅へと到着します。皆もう来てるかなー。
今日の格好は、クリスマスって事で可愛らしい感じでまとめてみた。まあ、コートにマフラーだから見えないんだけどね。
ボルドーのドルマンニットソーワンピースで、大きな黒いウエストリボンで腰の辺りをキュッとしめるタイプだ。下には黒の長袖カットソーで、黒のカラータイツを穿いた。可愛らしさに惚れて買ってみたはいいものの、今まで着る機会が無くてね。どういう場面で着るべきかなーなんて悩んでたんだけど、今日チョイスしてみたのさ。あと、寒いからトナカイ柄のジャガードデザインな手袋ね。
「あ、空ー! こっちー!」
駅を着いて、皆が居るか確認するためにキョロキョロと辺りを見ていたら、ぶんぶんと大きなモーションで手を振っている希帆が目に入った。
周りには楓ちゃん、宝蔵院、館林、鍋島君、今川君、真田君と全員勢揃いしている。どうやら私が最後だったようだ。
「おっはよー! メリークリスマスだね!」
私が皆の居る方へと近づくと、早速抱きついてくる希帆。んー、ぬくい。なんて言ってるが、私を湯たんぽ代わりにしないでほしい。
まあ、頬を寒さで林檎みたくした希帆は凄い可愛いけども。
「おはよう、メリークリスマスだね」
「空さん、こんにちは」
「おはようございます」
「うす」
「こんちはっす!」
「メーリークリスマスだねー」
「……おはよう」
挨拶を返せば、皆からも返ってくる。おはようなのかこんにちはなのか統一せんのかとも思うけども、まあいいでしょう。
時間的にはこんにちはで、今日初めて会った時の挨拶としてはおはようって感じなのだろう。
「よーし! じゃあ、早速空の家にゴー!」
全員揃ったからか、希帆が私の家の方向を指さして、はよ行こう! って感じで言う。
希帆は手袋してないけど寒くないのだろうか。いや、頬は林檎みたいだし、手も少し赤いから寒いのだろうな。
「その前にケンタに予約してたもの取りに行っていい?」
「ん? なに予約してたのー?」
「ローストチキンだよ」
「おー! 行こう!」
何を予約してたのか聞かれたので答えると、目を輝かせる希帆。本当に食べ物には目が無いよねえ。そこが可愛いのだけども。
「おし、じゃあ俺はケーキ持ってるから鍋がローストチキン持てな」
「なるほど! 美味しそうな匂いを放つ荷物を抱えて歩き続ける苦行ですね! 分かります!」
鍋島君の言ってる意味がちょっと分からない。
そういうプレイでもあるのだろうか。そして、彼は所謂Mと言われるジャンルの人だったのだろうか。まあ、今更か。
「しかし、今日は寒いねー」
「希帆は手袋してないけど平気なの?」
「ん? 寒いよ?」
希帆が寒いねーと言うので手袋してなくて平気かと聞けば、当然のように寒いと返ってきた。……そうか、寒いんか。
「手、繋ぐ?」
「お? うん! うぇっへっへー、繋ぐー」
私は手袋をしてるので、希帆の寒さが少しでも和らぐかなーと思って提案してみれば、この満面の笑みである。
「じゃあ、私は希帆ちゃんの反対の手を繋ぎますね」
そう言って、希帆の反対側の手を取る楓ちゃんの手には、熊さん手袋。ミトン手袋がデフォルメされた熊になってる可愛い手袋だ。私には絶対似合わない。
「なんか、お姉さんたちに甘える妹みたいだねえ」
「私がこの3人じゃ一番お姉さんなんだけど!?」
「見えないねえ」
「むー!」
今川君が、この光景を見て的確な突っ込みを入れるが、希帆には納得いかなかったもよう。
まあ、それでもこの子手を離そうとはしないんですけどね。……陸の小さい頃を思い出したなんて希帆には口が裂けても言えないなあ。
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さて、戻ってきました我が家です!
今川君と真田君は私の家は初見なので、見上げてぽかーんとしてたし、家の中に入ってからは、希帆と楓ちゃん、そして宝蔵院以外はぽかーんとしてた。
宝蔵院は自分の家の方が広いだろうからね。きっと見慣れてるのだろう。
「いやー、広いとは聞いてたけどここまでとはねえ」
「……玄関ホールというものを普通の家で初めて見たぞ」
「信の家も落ち着かねえが、ここも変わんねえな」
「こう、自然と正座になる感じっすね」
で、現在はリビング。
皆様落ち着かないようですが、くつろいでほしいな。まあ、時間が経てば落ち着くだろうけども。
「じゃー……最初に空の誕生日プレゼントを渡そう!」
「そうですね! そうしましょう」
男子たちとは打って変わって、ちゃんとくつろいでる希帆と楓ちゃん。
「ほらー! 男子もきょろきょろしてないでさっさと出せーい!」
希帆がそう言うと、やっと男子どもが動き出し、私の前に積まれるプレゼント。……おおう、こんなに多くプレゼント貰ったのなんて産まれて初めてだ。凄いな。
「皆、ありがとう。開けていい?」
お礼を言い、開けていいかと聞くと、皆が頷くので早速開けてみようと思う。
……んー、どれから開けるか。希帆の時は一番大きいの最後に残してたし、私はこの一番大きいのから開けるかな。たしかこれは宝蔵院のだ。
さて、なんだろかと包装を丁寧に外し箱を開けると、出てきたのはボールライトだった。
丸いライトに3本の細い足が付いている、なんかアメンボみたいな雰囲気。ライトの色はボールの色から察するに緑系だろうか。ボールが黄緑だし。あ、コードが無いと思ったら電池式なのね。へー、卓上ライトにも使えるし、部屋の隅の間接照明としてもいいかも。
へー、可愛いぞこれ。ありがたい。
「宝蔵院君、ありがとうね」
「気に入っていただけましたか」
「うん、可愛いねこれ」
早速部屋に飾ろうと思う。可愛いし。
で、次にいこうか。……んー、残りのは希帆以外ほとんど同じサイズなんだよなあ。
次は希帆のを開けるとして、その次からどうするか……。テキトーでいっか!
で、希帆のを開けると、出てきたのはキャスケット。コットンのこま編みキャスケットだ。色はブラウン。
ほほー、キャスケット持ってなかったから地味に嬉しいぞ。サイドに付いてる大きなボタンがまた可愛らしい感じ。
「希帆、ありがとう」
「気に入った? 空のお洋服に合わせやすそうなの頑張って選んだんだよ!」
「うん、合わせやすそう。嬉しいよ」
「あー、よかったー!」
希帆が言う通り合わせやすそうなのがいい。カジュアルな格好でも、ちょっとガーリーな感じでも合わせやすそうなのが良いよね。
さて、次からは特に選ばず手にとっていこう。
で、手にとって開けてみると、出てきたのは黒い……猫? の……あ! しおりかこれ!
なるほどなるほど。猫に付いてるクリップを本につけて尻尾の部分が紐しおりになってるわけだ! たしか、これをくれたのは真田君だったな。顔に似合わず可愛い感じのをプレゼントしてくれるじゃないか!
「真田君ありがとう。この猫可愛いね」
「……いちおう黒ひょうらしい。片桐のイメージで猫を探したんだけど無くてな。猫科って事でそれにした」
なるほど、これは黒猫じゃなく黒ひょうでしたか。それは失礼しました。
てか、私って猫っぽいのか? 猫大好きだし悪い気はしないけど猫っぽいのかな。
「私って猫っぽい?」
「そうだな、猫だな」
「猫っすねー」
「猫だねえ」
「猫っぽいかもしれませんね」
「空さん、仲良くなるまでの警戒心の高さとか猫っぽい感じですよね」
「世話焼きさんな所とかは犬っぽいけどね!」
……そっかー。
まあ、猫好きだしいいや! 若干犬っぽいらしいけども、少し変わった猫って事でいこう。うん、なにがとか言わない! 自分でもよく分かってないから!
さーて、次にいこう。
次は今川君のかな。なんだろかね。
開けてみると、出てきたのは銀色の白鳥の小さい置物。んー、シルバーっぽくは無いから銀細工では無いかな。
……てか、これはどう見てもあれだよね。リングホルダー。私、指輪持ってないんだけどなあ。まあ、可愛いから普通に飾る感じでも十分か。
「指輪持ってないけど、ありがとうね」
「あれ? 片桐さんなら持ってそうだと思ってそれにしたけど失敗だったかなあ」
「ううん、可愛いからそのまま飾れるし嬉しいよ」
「そう? ならいいんだけど」
今川君は失敗したかななんて言ってるけど、可愛いからいいのだ。
これを機にファッションリングでも買うかなーなんて思ったけど、普段行くような系統のお店で気に入るのって中々無いし、いいなと思ったのってちょっと手が出ないお値段なんだよねえ。しかも、こういうリングホルダーってたぶんペアリングとかを飾る用だよね。白鳥だしさ。
そう考えるとなあ。私がこれに指輪を飾る日は恐らく来ないのでは無いだろうか。そう、これは白鳥の置物なのだ。リングホルダーでは無いのだ。
よし! 次のプレゼントに行こう!
次はー……楓ちゃんからだったかな。なんだろうか。
楓ちゃんからのプレゼントはバレッタだった。ダイヤモンドっぽい感じのビジューが何個も付いた、キラキラしてる可愛らしいバレッタ。
うん、とても楓ちゃんのチョイスっぽい。普段着でこういう系に合う服ってあったかなあ。……あー、でも普段着じゃなくてもちょっと余所行きの時とかにワンポイントとして使うと華やいでいいかも……んー、いやビジューなのもあって高級感たっぷりってわけでもないから普段着でも全然いけるか。ちょっと大人っぽくいきたい時とかかなー。となると、ロングスカートか細身のデニムでー……って! 今ここで真面目にコーディネート考えなくていいんだよ! 楓ちゃんにお礼言わないと!
「楓ちゃん、可愛いのありがとう」
「……なんか、見たまま考えこんでましたけど、気に入りませんでしたか?」
私がお礼を言うと、気に入らなかったらごめんなさいといった感じで楓ちゃんがそう言ってきた。
おっと、私が真面目にコーディネートの検討をしてしまったせいで不安にさせてしまったみたいだ。安心させないと。
「そんな事ないよ。どういう感じにしたら合うかなって真面目に考えちゃったんだ。気に入ったよ、ありがとう」
「ふふ、なら良かったです」
さて、次は……と。
んー、大きさ的には鍋島君のが先かなー。若干大きいし。よし、鍋島君の方を開けてみよう!
で、出てきたのは宇宙飛行士の置物。……んー? あ、ああ! これスマフォスタンドか! うわー、シュールだ。宇宙飛行士がフル装備でスマフォいじってるよ。
でも、普通に充電コードをさして置いておくよりはこれに置いた方がいいね。シュールだけど可愛いし。
「鍋島君、ありがとうね。さっそく使わせてもらうよ」
「気に入ってもらえたならよかったっす。二宮金次郎版と頭抱えるくらい悩んだんすけど、こっちにして良かったですね」
「……ホント、こっちにしてくれてありがとう」
……二宮金次郎版なんてあるのか。
さすがにシュール過ぎて、そっちだったら素直に喜べなかったかもしれない。
さーて、ラストだ。
ラストを飾るは館林のプレゼント。なんだろかねー。落ちがつくといいな。
「……って、わっ!?」
開けて出てきたのは腕時計。思わず声が出てしまった。
うっわあ、これ凄い可愛い。こういうのってキャンディクォーツって言うんだっけ。それのアンティークっぽい感じのやつ。
うわー、凄い。文字盤も手作りっぽい雰囲気で可愛いし、ベルトも焦げ茶色で派手じゃないのも好みだ。……でも、これ高そう。
「館林君ありがとう。でも、これ高くないの?」
「大した値段じゃねえから気にすんな。お前の付けてる小物ってアンティークっぽいやつが多めだったからそれにしたが、大丈夫だったか?」
「……完璧」
「そか、それならよかった」
館林に好みかと聞かれたが、もう完璧である。好みのど真ん中だ。ふひひ、良い物貰ってしまったぜ!
「ありがとうね」
「おう」
「皆もありがとう」
館林にもう一度お礼を言い、皆にも改めて言い直す。皆、気にすんな的なコメントが返ってきたが、この礼には皆の誕生日には是非ケーキを焼いてお礼をしようと思う。それがいい。
あー、てかさっきから自覚できるレベルで頬が緩みっぱなしだ。ニヨニヨしまくってるに違いない。
「じゃ! プレゼント渡したし、遊びませんか!」
皆からのプレゼントが嬉しくてニヨニヨしてたら、鍋島君がそう言い出した。
あ、そうだね。いつまでもニヨニヨしてるわけにはいかないよね。……遊ぶって言っても本当にトランプくらいしか無いのだが、いいのだろうか。
「あ、その前にクリスマスのプレゼント交換しようよ!」
「あ、そっすね! 忘れてたっす」
「皆さんのプレゼントどんなのか楽しみですね」
希帆の提案に鍋島君と楓ちゃんが同意し、他の面々も頷く。プレゼント交換かー。私のプレゼントは誰に渡るのだろうか。希帆か楓ちゃんを想定して用意したので2人のどちらかに渡ってほしいなー。……男子たちが喜ぶかは微妙だし。いや、いちおう使えるんだけどね? ちょっとまあ、可愛らしい感じになってしまったのでね……。
「じゃあ、私プレゼント部屋から取ってくるね」
「うん、いってらー!」
皆にそう言って、リビングを出て部屋へと向かう。あ、昨日のうちに出しておいたトランプも一緒に持って行かなくちゃね。二度手間は勘弁ですのよ。
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さてさて、部屋からプレゼントとトランプを持って戻ってきた私です。
「さあ、どうやって交換する?」
「アミダとか妥当じゃねえか?」
「んー……でもそれ、クリスマスっぽくないよね!」
「じゃあ、お前考えろよ」
希帆の質問に館林が提案するも、それを希帆一蹴。面倒くせえと言わんばかりに希帆に丸投げする館林。
私も張り切ってる希帆に任せて静観するとしようか。
「んー……んー、あ! みんなでクリスマスの歌を歌いながら隣の人に渡し続けて、曲が終わって持ってたのが自分のとか!」
はい、地味に恥ずかしくてキッツイのきました。
しかし、希帆の任せると決めた手前、私には反論できません。従います。男子たちは、うわあ……って顔してるけどね。任せた以上諦めようぜ。
「じゃあ、何を歌います?」
「ん? 赤鼻のトナカイとか?」
「いや、ここはwe wish you a Mery Christmasでは?」
「無難にきよしこの夜じゃね?」
「僕は恋人たちのクリスマスとか好きだねー」
「……なんでもいいぞ」
「広○香美?」
案の定というか、バラバラである。
あと、鍋島君よ。曲じゃなく人名あげてどうする。クリスマスソングって意味じゃ合ってるのだろうが、私的にその人はスキー場で忙しくなるイメージの人だ。クリスマスって感じじゃない!
てか、それよりももっと重要な事があるのだが言っていいのだろうか。いや、言わねばなるまい。
「あのさ、今あげたやつちゃんと全部歌える?」
「……あっ」
私が言った言葉に、希帆が今気付いたという感じで声をあげ、他の面々も目を逸らす。だよね。歌詞覚えてないよね。歌詞カードなんて用意してないしね。
「……じゃあ、曲を流してそれが終わったらにしません?」
楓ちゃんの提案で、だいぶ難易度が下がった。あとは、何をかけるかだ。
「お前んち、そういう曲の入ったCDあるか?」
「え? あ、えっと……」
館林にいきなり聞かれて驚いたが、そっか。普通CDなんて持ってこないからうちにあるのを使う事になるよな。
……んー、なんかあったかなあ。両親の持ってるのなんて分からないし……。
ん、あ! あったぞ。しかもかなり有名なのが。……でも、これでいいのかなあ。
「えっとね……山○達郎なら」
「……1人きりじゃないんですがそれは」
鍋島君、うっさい。てか、他の皆も黙らないでほしい。私だってこの場に相応しい曲かと言われたらそっと目を逸らすけども! でも、これしか……って! ある! あるぞ! 他にもクリスマスソングが!
「そうだ! 久保○利伸のアルバムにクリスマスソング入ってたはず!」
取ってくると言って、もう一度自分の部屋に戻る。で、棚からCDを取り出してリビングへ。
いやー、よかったよかった。あの人のクリスマスソングが悪いかと言ったらむしろ逆だし、てか凄く良いし大好きな曲だけど、クリスマスパーティーでかける曲じゃないよね。持っててよかった久○田利伸。
「よし、じゃあこれかけてプレゼント交換しようね」
「おー!」
そう言って、BDレコーダーの電源を入れ、CDを再生する。
なんでわざわざBDレコーダーと思うかもしれないけど、リビングに他にCDを再生できる物が無かったから仕方ない。部屋にあるコンポとか持ってくるの重くて嫌だし……。
あ、かけてから気付いたけど、S&Gのアルバムにきよしこの夜が入ってたなあ。……いや、あれもバックで7時のニュースが流れててだいぶ風刺の効いた曲だから駄目か。凄く美しい歌声だし大好きな曲なんだけどねえ。さすがに、バックで殺人事件とかベトナム戦争のニュースが流れる曲をパーティーで流すのは駄目だろう。
今流れてる曲も、皆で楽しくって言うよりは甘々なラブソングって感じだけど、他のよりはだいぶパーティー向けだろうってあ、曲が終わった。今持ってるのが私のって事になるのか。……これ、誰のだっけ。
「よーし! 曲が終わったね! 今持ってるのが自分のプレゼントねー!」
希帆が嬉しそうな声でそう言う。曲は次のに移ったけどまあ、気にしないでおこう。
さーて、誰のだったか忘れたけど何が入ってるのかなー。……あ、そういえば私のはどこに行ったのだろう。
きょろきょろと皆の手の中の包みを見渡し……あった。んー、館林のになったか。……希帆か楓ちゃんを想定したから男だと少し可愛らしすぎる心配があるけど……まあ、色は男でも問題ない色にしたし使えない事もないかねえ。……あ、でも素直に使われると少し恥ずかしいってか誤解されるおそれがないか? ……いや、大丈夫だろう。説明を求められたら館林だってちゃんと言うに違いない。そもそも誰からのだとかわざわざ聞かないよね?
「おー! ちっちゃい石鹸だー! 星形とかある! 可愛いねー」
「あ、それ私からのですね。喜んでもらえてよかったです」
私が自分のあげたプレゼントについて考えていると、希帆は既に開封したらしく嬉しそうな声をあげていた。
見た目から察するに所謂フレーバーソープってやつかな? 楓ちゃんらしい可愛らしいチョイスだね。……そして、男に渡らなくてよかったと言えるな。まあ、花の香りがする真田君とかも笑えそうだけど。
「……なんぞ……これ」
鍋島君が、プレゼントを開けて固まっている。
どうしたんだと思って手元を見れば、銀色の長方形に、ピンクのでかでかとした唇がついた物体。サイズはちょうどポケットティッシュくらい。……もしかして。
「ああ、それは俺からだ。狙い通りお前に行ってよかったわ」
「ねえ、なんすかこれ」
「ポケティケースだよ。見た瞬間、鍋が使ってたら笑えそうだと思ってな」
「うわ、マジか! え、この唇からティッシュ出てくるんすか!? うっわ、すげえシュール。あざっす!」
あー、やっぱりポケティケースだったか。ポケティケースって色々あって面白いよね。可愛いのからネタのまで。私が使ってるのは自分で編んだやつだけど、こういうネタっぽいのが1個あってもいい気がする。
「なんか順番で開けるみたいな感じになってるねえ。じゃ、次は僕が開けるねーって、お? ブックカバーだ」
今川君の言う通り、順番に開ける感じになってるけど、まあ1個1個に注目できていいんじゃないかな。
で、今川君が貰ったのは赤いブックカバー。赤いのに派手すぎないオシャレな感じ。たぶん、このチョイスは宝蔵院だろう。
「あ、凄いよこれ。和紙でできてる」
「なんか、新素材の和紙らしく、濡れないので安心ですよ。是非使ってください」
「そうなんだー。ありがとうね。本って漫画くらいしか読まないけど」
「じゃあ、これを機に是非」
「そうだねえ。じゃあ、今度お勧めの本教えてね」
そんな、今川君と宝蔵院のやりとりがあり、終了。やっぱり宝蔵院のチョイスだった。
そっか、和紙だから派手すぎない落ち着いた感じだったのね。なるほどな。
「……俺のはマグカップか」
「あ、それ私が選んだやつだよ! アヒル可愛いでしょ!」
「……そうだな、可愛いな。俺に似合うかは別にして」
真田君のは希帆が選んだマグカップだった。取っ手の部分が下を向いたアヒルになっている、可愛らしいアヒルのマグカップだ。
似合うかを真田君は気にしてるみたいだが、私的にはもの凄く似合うと思う。武士みたいな寡黙なイケメンがアヒル取っ手のマグカップ使うのイメージしてみ? たぶん、結構な女の子がギャップにやられると思うよ? 私は無いけどね。
まあ、普段の生活で使ってるマグカップを見せる場面なんて寮生活ではほぼ無いのではないかなと思うけども。
「さなやん意外と似合うと思うよー」
「……そうか?」
「私もありだと思います!」
「……そうか」
どうやら、真田君も今川君と楓ちゃんの説得に納得したもよう。よかったよかった。
「よし、次は僕が開けますね。お? 卓上カレンダーですか」
「……ああ、それは俺からのだ。カレンダーに直接書き込みができて、消したりもできるらしい」
「へえ、ありがとうございます。使わせてもらいます」
宝蔵院が貰ったのは、真田君からの卓上カレンダー。犬の写真が可愛らしい。
直接書いたり消したりできるのは便利そうでいいね。
「じゃあ、次は私が開けますね。……ジャパニーズスパって書いてありますね。入浴剤みたいです」
そろそろ開けようかなと思っていたら、楓ちゃんに先を越されてしまった。
で、楓ちゃんが貰ったのは入浴剤らしい。銀色の包みに貼られたシールにジャパニーズスパって書かれてる。あと、その下にはローマ字でヒノキと。ヒノキの入浴剤なのかな?
「あ、それは俺からっすね。ヒノキフレークを使った入浴剤っす。ヒノキフレークの入った袋をお湯に浮かべて入るみたいっすよ」
「へー、お父さんも喜びそうです。ありがとうございます」
鍋島君の説明からすると、入浴剤ってよりは入浴料になるのかな。ゆず湯とかバラ風呂みたいなイメージか。
さて、次は私だ。私が開ける。館林が取った私のが晒される前に私が開ける。
「次、私開けるね。……あ、紅茶セットだ」
先手必勝とばかりに先に開け、出てきたのは紅茶セット。紅茶の缶とティーハニー、そして造花のブーケだ。
缶の見た目はクリスマスっぽい雰囲気のパッケージだから分からないけど、こういう雰囲気なのはフレーバーティーかな?
「それは僕からのだねー。なんか、イチゴとバニラの香りの紅茶と、同じイチゴとバニラの香りのするハチミツなんだって」
ほうほうほう、甘い感じの香りなのね。てことは、ストレートで飲むより少し甘くした方が美味しいタイプだな。あ、だから同じ香りで更に引き立てるためのティーハニーか。なるほどねえ。
「ありがとう、大事に飲むね」
コーヒー派な私だけど、紅茶も勿論好きなので何も問題は無い。
お礼を言うと、にっこりと笑い返してくれた今川君だが、きっとあの子たちもこの笑顔にやられたんだろうなあ……。
「さて、最後になったが俺か。残ったのは片桐だけだからお前からのだな」
そう言って、ガサガサと包みを開けていく館林。皆も自分のが終わってるから注目している。……そんなに注目しないでほしい。
「お? マフラーじゃねえか。いいな」
そう、私があげたのはマフラーである。焦げ茶っぽい感じの色の透かし編みのマフラー。
「あれ? 輝、これ手編みじゃないですか?」
「ん? ああ、マジか? すげえな」
そして、手編みである。希帆か楓ちゃんが喜ぶかなーって思ってかなり気合い入れて作った手編みのマフラーである。……今、私が使ってるマフラーと同じデザインだったりもする。
私はいったい何を考えていたんだろうか……! 気合い入れて頑張って、良い出来だからって自分も同じデザインで作ろうとか! てか、そもそもプレゼント交換用に手編みマフラーって……!
……ああ、館林がアレ使うならもう自分のマフラーは使えないなあ。新しく編むかなあ……。
「ネックウォーマーしか持ってなかったからな、ありがたく使わせてもらうわ。サンキュな」
「少し可愛いデザインだから、どうかなとは思ったけど、気に入ってもらえたのならなによりです」
本当に気に入ってもらえたのならよかったよ……。私の分のマフラーも報われるってもんだ。あの白いマフラー良い出来だったし気に入ってたのになあ……
「空さん、自分の分に編んだマフラーもちゃんと使ってあげましょうね?」
そんな事を考えていたら、楓ちゃんにコソッと耳打ちされた。
驚いて、楓ちゃんの方を向けば、にっこりと微笑む楓ちゃん。……気付かれてたでござるよ。そして、こう言われてしまったら使わない訳にはいかないというか、使ってなければ毎回のように聞かれる気がしますよ。……ああ、うん、分かったよ。なんで、この子の笑顔ってたまに凄い迫力あるんだろう……。
「よーし! プレゼント交換も終わり! トランプやる?」
「だな、大貧民だっけか」
「7並べでもなんでもいいんじゃない?」
「……任せるぞ」
「ねえ、王様ゲームでもやんないっすか?」
プレゼント交換も終わり、希帆がトランプやるかと言ったが、ここで思ってもみなかった発言が鍋島君から飛び出た。
王様ゲームってあれ? あのリア充御用達ゲーム? 皆も唐突で驚いた顔してるよ。
「トランプやめて王様ゲームすんの?」
「いや、キングと数字使えば王様ゲームできるなーと思って」
ああ、たしかにね。割り箸とか用意してやるのが一般的だと思うけど、たしかにそれでもできるね。
「んー……やる?」
「……まあ、無茶な要求さえしなけりゃいいんじゃね?」
「ですね、僕もそれでいいですよ」
「僕もそれでいいよー」
「……任せる」
「私も大丈夫です」
ってことで、なぜか王様ゲームに決定。まあ、あまりに酷い要求だったり、無茶なのはしてこないだろう。このメンツだし。
「じゃあ、1から7とキング以外はしまうね」
そう言って、今言った数字を取り出し、残りは箱にしまう。マークはなんとなくハートにしてみた。クリスマスっぽいし?
「よーし! 引こう!」
希帆の掛け声とともに引いたカードは3。うーむ、王様にはなれなかったか。
「あ! 私が王様だ! ふっふっふ、ひれ伏せい!」
希帆が王様だったらしく、なぜかとても清々しいドヤ顔でひれ伏せなどと言うが、まあ王様なので言う事をきき、皆でひれ伏す。
「よし、鏑木の要求は終わったから次いくか」
数秒間ひれ伏した後で起き上がり、館林がそう言う。
そうだね。希帆のひれ伏せは可愛かったけど、不思議な要求をするものだ。あの子はあれで満足なんだろうか。
「え? 待って! 私命令してないよ!」
「あ? 言ったじゃねえか。ひれ伏せって」
「違うよー! あれは王様っぽい感じを出したかっただけだよ!」
「希帆ちゃん、次頑張りましょう?」
「え、ええー? ……次も私が引くからね!」
希帆が憮然としつつ、カードを戻す。次も引くとか言ってるが、本当に引きそうな気がするのは私だけではあるまい。
「よーし、引くぞ! ……ほらー! ドヤッ!」
混ぜた後に並べ、せーので引くと希帆がカードを見せながらドヤ顔。凄い引きですわ。
よし、王様は分かった事だし、命令を聞いてから数字を確認しようかな。
「じゃあねえ……んー、5番がー……次に自分が王様になってそれが終わるまで語尾ににゃをつける!」
さあ、希帆が地味に鬼畜な命令をしてきたが、私の番号はなんだろなーって……にゃん……だと。
自分の番号を確認したら、なんと5番であった。……なんてことだ。
「さあ! 5番は誰かな! 誰がきても美味しいぞ!」
希帆の問いかけに対し、そっと手を挙げる。
こんなにも喋りたくない日は初めてかもしれない。
「じゃあ、空は自分が王様になるまでそのままね!」
「……わかった」
「にゃ?」
「……にゃ」
くっそ、くっそ! これ恥ずかしいぞちくしょう。私の語尾がにゃになって誰が得するんだよって鍋島君と希帆はサムズアップしあってんじゃねえよちくしょうめ!
絶対、絶対早く王様になってこの状態から抜けだしてやる!
「あ、次は私です」
……王様になれなかったよ。
次の番号は私は7番。連続は勘弁してね楓ちゃん。
「じゃあ……2番の人は、私に好きと10回言ってください!」
……え? なにそれ。ひっかけ問題的なやつかな? 膝と10回とかはあるけど、好きって聞いたこと無いなあ。
「あ、俺っすね。よーし、吾妻さん照れさしちゃうぞ!」
「じゃあ、お願いします」
どうやら2番は鍋島君だったらしい。
そして、正座して鍋島君の目をジッと見つめて向かう楓ちゃん。……なんだこの図。
「うす! 好き好き好き好き好き、好き……好き」
鍋島君の顔が段々と赤くなってきた。どうやら思った以上に恥ずかしいらしい。
この後にひっかけ問題が待っていると鍋島君も考えていると思うのだが、それとこれとは別で恥ずかしいらしい。
「……好き、好き……好き! 10回っす!」
赤い顔のまま、言い切った鍋島君。傍目にはだいぶ消耗したように見えるが大丈夫か。
「ふふ、ありがとうございます」
鍋島君の好き攻撃に、にっこりと笑ってお礼を言うだけの楓ちゃん。そして、その笑顔と恥ずかしさとかそういうので、鍋島君は更に顔を赤くさせて轟沈。
いやー……今のなに? なに今の高等テク。好きと10回も言わせといて微笑んでお礼言うだけとかなにそのテクニック。
なに、これが本当の女子力ってやつなの? じゃあ、私は女子力皆無だわ。無理だよこんなん。楓ちゃん凄い。
「さあ、鍋島君は放っておいて次いこう!」
「……いや、俺も引くっすよ!」
復活を待ってあげるとかしない辺り、希帆も鬼である。
鍋島君は、まだ顔は赤いもののなんとか復活。仕返しを! とか考えてるかもしれないけど、同じ事をさせたら自爆しか待ってない事にちゃんと気付いているのだろうか。
「あ! 私が王様だ」
「にゃ?」
「……にゃ」
カードを引いたら私が王様だった。が、普通に喋ると希帆から修正が入る。……嬉しさ半減というか、なんで王様になってまで羞恥プレイをしなきゃならないのか。
そして、希帆の王様が終わるまでという周到な命令によって、語尾ににゃをつけて命令しなきゃならないこの屈辱……!
「じゃあ……4番と7番は、次にどちらかが王様になるまで恋人繋ぎをしてるにゃ」
さて、4番と7番は誰だろうか。個人的には希帆と楓ちゃんになってくれると目の保養になっていいのだが。
「……お前、覚えてろよ?」
「これは酷いですね……」
館林と宝蔵院に恨みがましい目で見られる。なるほど、その2人ですか。
まあ、需要は一部にありそうだしいいんじゃないかな。あ、写真撮ったら一部の趣味の人に売れるかな。まあ、撮らないけども。
「じゃあ、どちらかが王様になるまでそのままでにゃ?」
そう言って、カードを戻す。よーし! これで語尾からはおさらばできたぞ!
あと、恋人繋ぎをしている2人を見て、楓ちゃんが少し嬉しそうにしてるのだけど、まさか……ね。もしそうだとしたら、この子、私と希帆がじゃれると嬉しそうな顔するし、幅が凄く広い事になる。……いやあ、まさかねえ。
その後は、真田君が希帆を膝抱っこする事になり、その絵が思った以上に微笑ましい光景になったり、鍋島君が、仕返し! と言わんばかりに楓ちゃんと同じ事を命令し、相手が今川君になって誰も得をしない盛大な自爆をしたりした。
因みに私はというと、その後は宝蔵院と10秒間見つめあえという今川君の命令をされただけだ。そして、照れるとか特になにもなく10秒が経ち、なんとも言えない感じになったとだけ言っておく。
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「おなか減ったねー。そろそろご飯にしない?」
王様ゲームでけっこう長いこと遊び、気づけば18時も過ぎていた。希帆がそう言い出すのも納得である。
「じゃあ、温めるから少し待ってね」
「うん! 楽しみー!」
シチューとスープを温めなおし、ローストチキンのためにオーブンを温めておく。
で、アボカドとサーモンのタルタルサラダは、山盛りにするのではなく、1人ずつ皿に用意する。小さめの容器にタルタルサラダを詰めて、皿の上に乗せる。そして、周りをオリーブオイル、バルサミコ酢、塩コショウで和えたベビーリーフを散らして飾ったら終了。
牡蠣のオリーブ漬けは、そんなに数を作ったわけでもないから、小鉢に盛り付けて終わり。
さつまいものポタージュは、パセリと生クリームで飾り、見た目も可愛く。
ビーフシチューは肉がメインなので、シチュー自体は少なめに盛り、ボイルドポテトを一口大にして添え、生クリームをたらして完成。
バゲットはスライスして、トースターで香ばしく。
飲み物は作っておいたサングリア風サイダー。好みの濃さで割れるようにそのまま持って行こう。
よし! 完成! ローストチキンはまだだけど、オーブンで温め直してるので、ある程度したら出して持ってこようね。
「わー! 美味しそうだねえ!」
「凄いですね!」
盛り付けも終わり、テーブルに並べていくと希帆と楓ちゃんから嬉しい言葉が聞けた。味も気に入るといいのだけども。
男子たちはと言うと、なにも言わずにシチューに釘付けになっている。うん、お腹減ったんだね。早く食べよう。
「うっわ! このお肉トロットロ!」
「このサラダも美味しいですよ!」
「……スープも甘くて美味しいよー」
「……やはり牡蠣はうまいな」
「すげえな、うまいわ」
「パンとシチューの組み合わせが凄くいいです」
「これ、おかわりありますか!」
「あるけど、ローストチキンもあるんだからね?」
作った料理は大好評なようだ。んー、やっぱり自分が作った料理を美味しく食べてもらえる瞬間っていいなあ。
皆とクリスマス祝えるのも楽しいし、誕生日祝ってもらえたのも嬉しいけど、やっぱりこの瞬間が一番かもしれない。ふふふ、幸せ。
ああ、私も皆の食べてる所を見てるんじゃなくて、食べなきゃな。
……うむ、ビーフシチューは完璧と言っていいんじゃなかろうか。今回、圧力釜でやったけど、次は普通の鍋で長時間ことこと煮込んで作ってみようかなー。
「このジュースの果物入ってて可愛いし美味しいね」
「サングリアって言ってね。赤ワインをサイダーやオレンジジュースで割って、果物を入れて飲むお酒をぶどうジュースで真似してみたんだよ」
「へー! 美味しいよこれ!」
それはよかった。
本当ならお酒をとか言いたい所なんだけどね。未成年なので我慢です。仕方ないね。
そういえば、この身体はお酒強いのかなあ。成人したら楽しみだけど少し怖いな。……酔っ払って外で醜態晒せないから、最初に飲むのは家にしよう、うん。その結果次第で外で飲むか決めるんだ。
その後、温めなおしたローストチキンを出して、テーブルへ。包丁で解体しつつ提供していったがさすがは育ち盛りの男子が5人。余裕で鶏1羽が消えました。凄いね。
そして、ローストチキンを食べた後にビーフシチューのおかわりを要求という、異次元っぷり。本当に凄い。
食後には、皆が買ってきてくれたケーキがあるんだがと言っても、余裕だからという返答が返ってくる。そんな量、どこに入るんだ。まじで。
私は、サラダと少なめに持ったビーフシチューと、チキンを少量にバゲットでした。これでも結構食べてる。この後はケーキが待ってるという事を考えると、体重計という現実から目を逸らしたくなるレベルで食べてる。……男子どもは私の倍以上食べてるっぽいけども。
で、ですね。ケーキは色んな種類のカットケーキを人数分買ってきたみたい。
まあ、私の好みとかなにがいいとか特に無かったからね。この中から好きなのを選べって事だろう。
私が選んだのはモンブラン。モンブラン美味しいよモンブラン。他にはショートケーキから始まり、レアチーズ、ティラミス、タルト、フランボワジェ、オペラ、シブーストがあった。どれも美味しそうではあったけどね。安定のモンブランでございます。
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「おし、そろそろ帰るか」
「そうですね。もういい時間だし」
ケーキも食べ終わり、まったりと一息ついた所で館林が切り出した。
時間を見ればもう20時半である。早いもので、もうこんな時間か。今日はたくさん料理したし、プレゼントもたくさん貰って楽しかったな。
「だね! 空、ごちそうさまでした!」
「空さん、ごちそうさまでした。なんか祝う立場だったはずなのに、おもてなしされちゃいましたね」
「ううん、楽しかったし。こちらこそありがとうね」
館林の言葉に、宝蔵院と希帆、楓ちゃんも続く。
楓ちゃんはおもてなしされちゃったと言うが、言葉通り楽しかったし、満足なのでいいのだ。
「やっぱり、片桐さんの旦那さんになる人は幸せだよねー。僕、立候補しようかなー」
「……うまかった。ごちそうさま」
「相変わらず美味しかったっす! ごちそうさまでした!」
帰り支度をしながら、今川君と真田君、鍋島君と挨拶を済ます。
今川君がまた妙な事を言い出しているが、そういう事を軽々と言うから女の子が勘違いしてああなるって事をそろそろ理解しようか。
「ごちそうさん。うまかったわ」
「ごちそうさまでした。……この調子で輝の胃袋を掴んでくださいね?」
「……は? なにそれ」
「さて、なんでしょうね」
館林と宝蔵院からもごちそうさまを頂くが、宝蔵院の言ってる意味が分からない。なぜ、私が館林の胃袋を掴まねばならぬのだ。
……なんの事かと聞けば、宝蔵院のやつ凄い楽しそうに笑ってるしさ。なんなんだこいつ。こいつの胃袋を物理的に掴んでやろうかこの野郎。
こう、右脇に向かってえぐり込むように打つべし! と、ってこれレバーだ。胃袋じゃないわ。
「じゃあ、駅まで送るね」
「いや、寒いから無理すんな」
「そう?」
「大丈夫だよ! ちゃんと帰れるよ!」
駅まで送ると言ったら館林に止められ、希帆からはちゃんと帰れると言われた。いや、そういう意味で言ったんじゃないんだけどね?
「じゃあ、家の前までは見送るよ」
さすがに招いた人間なのに見送りに出ないのは問題だろう。そう言って、玄関で靴を履き外に出る。
「さっむ……って雪降ってるじゃん」
先に外に出て、あまりの寒さに身体を縮こませるが、上を見上げればハラハラと舞うように降りてくる雪。降り始めてそんなに経ってないのか、積もってはいなかったが、結構な大きさの雪なのでそれなりに降りそうだ。
……雪かきの事を考えると憂鬱にはなるが、ホワイトクリスマスと思えば、これも悪くないんじゃないかな。
「わー! 雪だよ雪!」
「ホワイトクリスマスですね!」
「雪だるま作りたいっすね!」
「通りで寒いはずだわ……」
「雪か。スキー行きたいですね」
「雪ってテンション上がるよねえ」
「……実家の方は酷いんだろうな」
皆も外に出てきて、雪が降ってる事に三者三様の反応を示す。真田君の実家は雪が多い地域なのかな。憂鬱そうだ。
「じゃ! 空、今日はありがとうございました! 元旦一緒に初詣行こうね!」
「うん、分かった。皆も行ける?」
「勿論です! 行きましょう!」
「俺は大丈夫だ」
「僕も平気ですね」
「俺も大丈夫っす!」
「僕は年末年始は実家に帰るから駄目だねえ」
「……俺も実家だな」
希帆に初詣を一緒にと改めて誘われ、いちおう他の皆にも確認してみたが、今川君と真田君が無理らしい。まあ、帰省も大事だもんな。
「……むー、仕方ないね。じゃあ、空! 良いお年を!」
希帆が締め、その後皆が続くように良いお年をと言う。さっきまでクリスマスモードだったのに今はもう年末モード。変な感じだ。
私も良いお年をと返し、家の前まで出て、皆が見えなくなるまで見送る。
しかし、楽しかったな。来年もこのメンツでできたらいいな。きっとできるだろう。誰かに恋人ができても予定をずらせばいいんだしね。
さあ、皆も見えなくなったし家の中に戻ろう。寒い寒い。コート着て出りゃよかった。
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片付けを終え、まったり寛いでいると、両親と陸が帰ってきた。
母には、どんなプレゼントを貰ったのか見せろとせがまれ、誰々から貰ったと説明しながら見せるはめに。
館林の腕時計で凄くニヤニヤしてたんだけどなんなんだろうね。たしかに可愛い腕時計だと思うけど、ニヤニヤするほどじゃないと思うんだけど。
さて、こんな感じで私のクリスマスはおしまい。
私の部屋にはこの日だけで何個も小物やらが増えた。しばらくはこれを見てニヤニヤできそうだ。
さて、次回は初詣+空父の実家へ帰省という予定になっております。
どんな祖父母や叔父たちが登場するんでしょうね。




