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第32話

遅れましてすみません。

すっごい長いです。


あと、第28話の劇中を描いていただきましたので、第28話の後書きにURLを貼っております。

それと、割烹の方にも頂いた絵を掲載しておりますので、そちらもご覧になってください。

そら? 空がクラスの店に出てるのって午後からだっけ?」

「ん? そう、午後からだよ」

「なら、その時間帯に顔出すわね」

「ん、分かった」


 今日は日曜日。

 そして、竜泉りゅうせん祭の本番である。


 昨日まで丸一日作業を続け、なんとか全ての準備を終える事ができた。今日は、8時くらいに学校へ着くようにして、スコーンの制作をする。

 教室内の飾り付けも、完璧な英国調と言うにはさすがに無理があるが、和紙とカラーセロハンを使った照明は、光を和らげたし、花のカーテンタッセルもいい感じだ。机も、全部で40脚あるわけだが、そのうちの3脚を会計と手芸部の作品展示に使用。そして、5脚ほどをポットを置くスペースや配膳するコーナーとして使用する事にし、残りを2脚1ペアという形で教室内に並べた。机には何種類か形の違うテーブルクロスが敷かれている。まず、2脚の真ん中を横に走るように敷かれたテーブルランナー。そして、逆に縦に敷かれたブリッジランナー。最後に、ランチマットだ。どの種類も可愛らしいし、なにより全て統一されているよりも、何種類かあった方が手作り感があって良い気がする。


りくはどうするの? 私達と一緒に行く?」

「あー……いや、姉ちゃんにもらった券の余りで友達誘ったし、ソイツらと一緒に行くよ」

「そ、分かったわ」


 そして現在、朝食の真っ最中でございます。

 母にクラスの店に出る時間を再確認され、あとは陸と母の会話を聞きながら食事を摂っている。

 竜泉祭のチケットは各自5枚もらえる。まあ、希望すればもっと貰えるのだけどね。で、私は5枚でも両親と陸に渡せば終わりなので、普通に余る。なので、余った2枚は陸に渡し、誰か友達でも誘えと言っておいたのだ。で、陸が一緒に行く人を友達の中から募ったらしいのだが、これがもう大変。俺が俺がと収拾がつかない状態になってしまったので、ジャンケン勝負で決めたらしい。

 陸曰く、一緒に行く友達は、私も話した事があるし、この前中学校の前まで陸を迎えに行った時にも会ったらしいのだが、正直な話、陸の友人関係の名前を覚えていないので、誰々だよと言われても意味が無いっていうね。陸の友達は、一固まりで陸の友達なのだ。個別認識は特にしてない。


「よし、じゃあそろそろ行くね」

「あら、もう? 早いわね」

「うん、まだ当日の準備もあるしね」

「そう、いってらっしゃい。また後でね」

「いってらー」

「車に気をつけてな」

「はーい、いってきます」


 朝食も済ませ、家族に挨拶をし、鞄と洋服キャリーバッグを持って家を出る。

 洋服キャリーバッグにはパンツスーツが入っており、鞄の中には小物類が入っている。靴とかね。

 革靴に関しては、執事の格好をする人ってか、男子には全員持ってくるように言ってある。無い人はローファーの靴底をしっかりと拭いて使用する感じになる。

 で、私が悩んだのが、どの靴を持っていくかだ。いちおう、男装と言う事になっているわけだし、明らかにレディースですって感じの靴はまずいのではと思ったのだが、冠婚葬祭などフォーマルな場に履いていける靴なぞ、持ってるのは全てヒールがあったり、こう、見るからにレディースですって感じのしか無かったのだ。で、仕方なくというか妥協して選んだのが、飾り気の殆ど無い黒いショートブーツだ。ヒールはあれど細いヒールではないし、ブーツカットのパンツスーツなので、足もとは隠せるし大丈夫だろうと判断した。


 で、学校で着替えるため、今日もいつも通り制服で登校。

 さすがに、今の時期は寒いので、ブレザーの下にカーディガンはいつも通り着て、靴下ではなく黒タイツを履き、コートではなく、ニットポンチョを着る。

 今の時期だと、いつもはPコートを着るんだけどね。見て回る時に執事っぽい格好の上から私が持ってるPコートの色が合うのかと言われたら微妙な気がしたのでニットポンチョにした。

 大きめのボタンを斜めにかけるタイプの、ケーブル編みで編まれたニットショートポンチョである。フリンジがまた良い感じなのだ。色はモカ。

 そういえば、私が着る服って、このショートポンチョもそうだけど、ドルマンタイプの服とか、身体のラインが出ないタイプのが多い気がする。デニムだってブーツカットのばっかりだしね。……なんでだろうか。まあ、可愛いから良いのだけども。

 自分のファッションスタイルを言うならば、カジュアルとガーリーの中間くらいだろうか。……うーむ、言葉にしようとすると難しいな。とりあえず、森ガールでは無い事はたしかである。森ガールはかえでちゃんが近い。


 まあ、いい。とにかくさっさと学校へ行ってしまおう。




 ----------




「おっはよー! 空ー!」

「空さん、おはようございます」

「うん、希帆きほと楓ちゃんもおはよう」


 さて、いつも通り最寄り駅で希帆達と待ち合わせです。

 もう数ヶ月もの間、ほぼ毎日一緒に登下校しているので、この希帆の挨拶タックルにも慣れたものである。

 最初のうちは慣れずにというか、受け止めきれずにダメージを受けていたのだが、それも最初のうちだけで、今ではしっかりと受け止める事ができている。若干腰を落として、しっかりと踏ん張り希帆のタックルへと備えるそれは、傍から見たら凄くシュールな光景なんだろうなと思うが、ほぼ毎日改札前で繰り広げられている光景なので、きっと他の駅利用者達も見慣れたんじゃないかなーなんて思う。まあ、見慣れたどうので片付けていいのかって話でもあるのだけども。


「今日は絶好の学祭日和だねー! 楽しみー!」

「ですね、3人で色々見て回りましょうね!」


 そう、希帆の言う通り今日は所謂秋晴れってやつだ。……いや、11月も半ばだから秋晴れとは少し違うか?

 まあ、とにかく冬の高く抜けるような青に雲一つない空で、素晴らしい天気だと言える。


「そうだね、何見て回るか迷うね」

「とりあえず、サッカー部のたこ焼きは外せないよね! あと、何部だか忘れたけどクレープも!」


 ……希帆は、食べ物関係の模擬店しか見ないつもりなのだろうか。まあ、希帆っぽいけども。


「サッカー部のたこ焼き屋と、囲碁部のクレープ屋は毎年凄い人気らしいですからね。是非、行きたいです。あ、あと、ワンゲル部のカレーも人気あるらしいですよ」


 サッカー部のたこ焼きとワンゲル部のカレーには特に突っ込み所は無い。むしろ、ワンゲル部でカレーとかもうテンプレだろう。だが、囲碁部よ。君らはクレープでいいのか。そこは囲碁人口を増やすために詰碁講座とか色々あるだろう。クレープでいいのか。


「……まあ、色々見て回ろうね」

「だね! 色々食べようね!」

「そうですね、どんな出し物があるのか楽しみです」


 1人だけ、というか希帆だけ若干噛み合ってないが、いつもの事なのでもうスルーでいいだろう。……そう、これも希帆の魅力だ。


 その後も、どの模擬店を周るかの話で盛り上がりながら学校へと向かった。

 まあ、希帆の行きたい店が、ことごとく食べ物関係だったのは言うまでも無いだろう。




 ----------




「さー! 空は先に着替えておいで!」


 いつも通り校門を通り、坂を登って学校へ。そして、教室に着いた所で希帆に言われた。

 因みに、坂の手前にある校門には、アーチが作られていて、竜泉祭の文字が書かれている。


「はいはい、じゃあ着替えてから行くから、準備よろしくね」

「まっかせてー!」

「すぐに始められるようにしておきますね」


 着いてすぐに着替えなくてもとも思うが、どうせギリギリまでスコーン作りをしているだろうから、ここは素直に言う事を聞いておく。

 希帆と楓ちゃん、それにまだ全員揃ってるわけでは無かったが、料理班のメンバーが家庭科室に向かうなか、私とあと午前中のシフトに入ってる女子数人で更衣室へと向かった。私は執事の格好をするためで、女子達がメイドの格好をするためだ。午前中のシフトリーダーをお願いした中東なかひがしさんも着替える組なので一緒だ。あとの2人はまだ来てないらしい。


 で、更衣室。

 男装執事って事なので、やっぱり胸は無い方がいいのかなって事で、バストホルダーをわざわざ買ってしまった。あ、バストホルダーっていうのは所謂さらしだ。

 チューブトップみたいなやつなので、ズレ防止のためにブラストラップと一緒に買った。コスプレなんて、今日しかする機会は無いのだろうし、無駄遣いになるだろうと思ったけど、やるからにはしっかりとという、私の無駄に真面目な部分が出てしまった感じだ。


「あらあら、黒とは随分とセクシーじゃありませんこと?」


 ……ん?

 バストホルダーをするために、キャミを着たままブラを外したら、横で着替えていた中東さんに絡まれた。別に普通の黒い総レースなんだが……そこまで言うほどか?

 あ、なんでブラ外したかっていうと、バストホルダーで締め付けてブラが痛む事があるらしいからだ。安いものでは無いし、それは避けたいので外した。あと、キャミを着ている理由は、直に着けた場合、肌が弱い人は荒れる可能性があるらしいのでね。それが理由です。


「どれどれー? ちょっと貸してくださいねー」

「あ、ちょ」


 外し終わって手に持っていたブラを貸してね、と言いながら取られた。なにをするかね君は。


「うーむ、セクシーですな。サイズはどうなかなー……って! ちょっと! 奥様方! この子ってば65のEですってよ!?」

「本当ですの!?」

「あらやだ! なにそれ喧嘩売ってるわね!」

「こうなったら皆で揉んであやかるしか無いわね!」

「うん、返せ。あと、揉ませるわけないだろ」

「「「ですよねー」」」


 私のブラのサイズを見て騒ぐ中東さんとそれに乗っかるクラスメイト。

 とりあえず、お前らはどこのおばちゃんかと! あと、揉ませるわけがないだろうがと!

 まあ、とりあえず返してもらったし、さっさと着替えて家庭科室に行こう。


「あ、中東さん。ちょっと後ろの部分を引っ張りあげてくれない?」

「あ、はいはーい。了解ですよ」


 チューブトップタイプのバストホルダーのファスナーを脇で閉めてグッと上に引っ張るが、後ろは自分じゃどうにもならないので中東さんにお願いする。引っ張り上げる際に、キャミも一緒に上がっちゃわないように気をつけないとね。ずり上がって固定されたキャミとか落ち着かない事この上ない。


「はい、これでいい?」

「うん、ありがとう」


 中東さんに後ろを引っ張り上げてもらい、お礼を言う。

 あとは、ブラとは逆の発想で、手を入れて胸をわけたり下げたりしてなだらかにしていくらしい。正直、一生懸命バストホルダーの付け方を調べてる時は、自分なにしてんだろうって気分になった。まあ、これっきりだろうけど役に立ったし別にいいんだけども。


 で、スーツだが当然ながら色は黒。で、母に借りてきたウイングカラーシャツに、父のお下がりの黒のクロスタイである。

 さすがに、レディースの燕尾服なんて持ってなかったし、父のを借りても大きすぎて着れない。なので、自前で持ってる普通のスーツになったわけだが、まあ、ワンボタンだしそれっぽくなるんじゃないかなーなんて思ってる。

 で、髪型は編み込みでショートっぽく見せるなんてできないので、高い位置で結ったポニーテール。


 ……でだ。これを着てみた結果、執事っぽくないっていうね。あれかな、ジャケットがむしろ不要かな。ジャケットが、このスーツ着てる上に腰エプロンしてますな空気にしている気がする。


 で、脱いでみたけども、やっぱりそうだった。普通に上はベストだけで良かったみたいだ。腕にアームバンドをつけて、執事とは言い切れないかもだけど、給仕っぽい雰囲気にはなったので良しとしよう。

 だって、店名だって「執事もど喫茶」だしね。むしろガチ執事が居た方が違和感があるんだよ! きっとそうだよ!


「よし。お待たせ、行こうか」

「了解!」


 着替えが終わり、待たせる形になってしまった中東さん達に声をかける。

 中東さんは、ビシッと敬礼するような感じで了解と言っているけど、メイド服なんだから、そこは丁寧にお辞儀しながらかしこまりましたではないのかなーなんて思った。

 まあ、別にいいんですけどね。元気系メイドってのもありだと思うし。でも、中東さんには身長的にも見た目的にもクール系でいってほしいのだけどな。




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「お待たせー」

「おお! 待ったよって胸が減ってる!」


 家庭科室に入ると、希帆が真っ先に反応するが、反応する箇所は似合うどうのではなくそこかい……。


「空! 胸が減ってるけど、どうやったの!?」

「ああ、男装に邪魔だから削ぎ落としたんだよ」

「削ぎ!?」

「……希帆ちゃん、そこは冗談だって気づきましょう?」


 私の格好が似合うどうのではなく、胸にしか注意がいかない事が少しだけ悔しかったので、冗談で嘘を言ったら本気で驚かれた。

 そして、それに呆れつつ突っ込みを入れる楓ちゃん。


「え? ああ、冗談? あ、だよね! 知ってたよ! で、で、実際どうしてんのそれ」


 楓ちゃんの突っ込みを受け、慌てて取り繕ってる感がありありなのだが、まあ触れずに教えてあげるとしますかね。


「普通にさらしみたいなのを着けてるだけだよ」

「あ、なるほど!」


 説明すれば、納得という顔をする希帆。てか、普通にその発想まで自力で行き着こうね。


「さて、いつまでも駄弁ってても仕方ないし、作業始めちゃおうか」

「おー!」

「あ、空さんちょっと見てほしいんですけど」


 うん?

 時間は有限なので、作業を始めようとすると、楓ちゃんに止められた。なんだろうか。


「いちおう、オーブンは事前に渡されてたレシピ通り、180度にしてあります。で、見てほしいのが生地なんですけど……これで大丈夫ですか?」


 どうやら、私達が着替えてる間にオーブンを予熱して、生地を作っていてくれていたらしい。準備が良い事でありがたい限りだ。

 あ、因みにだが、今回作るもの全てをレシピにしてお菓子班の全員に渡してある。どうせなら、レシピ覚えて作れるようになって帰ろうぜってね。


 で、見てほしいと言われた生地だが、若干粉っぽさが残ってるくらい混ぜられ、軽くまとめられている。うん、いい感じいい感じ。


「うん、いい感じだね。じゃ、型抜きしてどんどん焼いていこう」

「はい!」


 私が作った生地を褒めると、凄く嬉しそうににっこりと笑って返事をする楓ちゃん。うむ、可愛い。

 だが、愛でてる時間は無いのだ。口惜しいが、今はスコーン作りに集中せねばならない。


 スコーンだが、小麦粉、ベーキングパウダー、砂糖、塩と、1、2センチくらいに切ったバターををボールに入れ、指で捻るようにしながらバターを混ぜ込む。そして、バターが米粒以下になりサラサラになったら、溶き卵と牛乳を加え、しゃもじなどで練らないように混ぜる。で、手に粉がつかず、若干粉っぽさが残ってるくらいになったら手で軽くまとめて生地の完成。あとは、麺棒で2、3センチの厚さに伸ばし、型抜きをし、オーブンで10分から20分焼くだけ。焼き色を見て取り出せばいい。

 ちなみに、可能な限り練らないのがポイント。練ってしまうと生地がベタつき、サクッとといかない。あ、生地は休ませない派です。


「ねーねー、空。1個お味見していい?」

「……んー、1個を何人かで分けて味見しようか」

「やっほーい!」


 最初のが焼成されると、匂いにやられたのか、希帆がそう言ってきた。

 正直なところ迷ったが、味見をしないのもどうなのと思ったので許可。1個を4分の1にし、全員で味見をする事にした。


「んー! サクフワー!」

「プレーンで何もつけてないですけど、美味しいですね!」

「やっぱり、一家に一台片桐さんが必要です」


 表面はカリッとし、中はちゃんとフワフワなスコーンが出来上がってたので一安心。

 皆にも好評なようだ。中東さんの発言は意味が分からないのでスルーで。


「さ、味見もしたしどんどん作っていこ!」

「「「はーい!」」」


 皆が味見をし終わった所を見計らい、作業に戻るように言うと、元気な返事が返ってきた。うむ、良きかな良きかな。




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 で、現在は教室に居ます。

 スコーン作りも終え、なんとかある程度の数は用意できた。あとは、数が半分くらいまで減ったらお菓子班に連絡を入れ順次作り足す感じでいけばいいと思う。私はお菓子班から連絡が来たらヘルプに入ればいいし、どうせ夕方からはお菓子班に周る事になると思われる。

 あ、スコーンだが、冷めるとやっぱり微妙なので、教室にはレンジとトースターも1台づつ用意した。スコーンを10秒から20秒ほどレンジで温め、焼き目を見ながらトースターで2分ほど焼くと、もとのサクッとしたスコーンに戻る。なので、注文を受けたらそれをやる感じだ。


 黒板前には、電子ポットやら色々と並び教卓までも使ってるため、色々と狭いが我慢するしかない。

 黒板の下にはクーラーボックスまで置いてあるから余計に狭い。


 店のレイアウトとしては、教室の後ろの扉が、出入り口と会計。会計の横には、手芸部の特設コーナーを設けている。

 で、教室内に2個1ペアで机を並べ、客席とし、黒板側に給仕スペースといった感じだ。

 因みに、園芸部から頂いた飾り用の花だが、チョコレートコスモス以外にも、ピンク色のバラや、ルクリア、ブルーサルビアまで頂いた。ルクリアは机の上に飾るには少し微妙だったし、鉢植えだったので、会計コーナーに置くことにした。

 あとは、ありがたくグラスに生けてこれまたテーブルクロスのように机ごとに違う花を飾ってみた。あ、ルクリアの鉢植えは竜泉祭が終わったら返してほしいとの事。ちょっと欲しかったのは秘密だ。

 言い忘れてたけど、店内BGMはジャズにした。正直、クラシックと迷ったのだけどね。まあ、ジャズもクラシックも両方CDは持ってきたので時間帯によって変えるのもありだろう。

 ジャズだとA列車で行こうが一番好きで、クラシックだとショパンのバラ1が至高だと思ってる。もちろん、持ってきたCDはそれぞれ2つが収録されてるやつだ。あ、でもジャズに関してはLittle Peace in C for Uも捨てがたい。でも、この曲はスタンダードナンバーではなく、ある人の作曲した曲だからジャズならこの曲が好きっていうのに入れていいものか迷うけれどね。

 バラ1は大好きで、たまに練習しているのだが、未だにコーダが上手く弾けない。もう、3年くらい練習してるんだがなあ。……まあ、毎日練習してるわけじゃないし、仕方ないのかもしれない。

 ってそんな事はどうでもいいんだよ! そろそろ10時。竜泉祭が始まる時間だ。


「そろそろだねー! 楽しみー!」

「早く始まってほしいですね」

「ふふ、そうだね」


 希帆も楓ちゃんも待ちきれないといった感じでそわそわしていて、それが可愛らしく笑みがこぼれる。


「どうです? よかったら皆で見て回りませんか?」


 希帆と楓ちゃんと始まるのを待っていたら、宝蔵院ほうぞういんに話しかけられた。

 で、そちらへと向けば、ガチ執事が2人とメイドさんが1人立っている。言わずもがな、宝蔵院、館林たてばやし鍋島なべしま君の3人組だ。

 宝蔵院は自前で燕尾服を持っていたらしく、それに身を包み、館林は執事喫茶で着ていた格好と同じである。そして、鍋島君はメイド服に着て可愛らしく化粧をしている。チークまでしっかりと入っており、いかにクラスの女子に遊ばれたかが見て取れる。まあ、妙に似合ってるのが笑えるのだが。


 あ、男子に関しては全員がシフト外でも執事もどきな格好をしてもらっている。見て回る時にも店の宣伝をしてもらうためだ。

 で、宝蔵院と館林はガチな執事の格好なので、エプロンは無しにしてもらった。なんか、燕尾服に腰エプロンって違和感があったんだよね。

 女子はメイド服の数に限りがあるので、基本的にはシフトに入ってる人だけ着る感じ。鍋島君は、彼用のサイズのため他に着る人がいないから常時着てもらう事になったけども。


「そっすよ。一緒に見て回りましょうよ」

「んー、どうする?」


 鍋島君も同じように誘ってくるが、私の一存では決められないので、希帆達に聞いてみた。


「いいんじゃない? 鍋子ちゃん可愛いし!」

「ふふ、そうですね。鍋子さん可愛いし、近くで皆の反応を見てみたいです」

「ねえ、鍋子って俺の事っすか!?」


 どうやら、鍋島君の源氏名は希帆達の中で鍋子に決定したらしい。そして、一緒に回る事も賛成なようだ。


「ふふ、鍋子ちゃん可愛いから外部の人にナンパされたりして」

「いや、それはねーよ」

「やっぱ、これ似合わないっすよね! 脱いでいいっすかね!」

「いや、妙に似合ってて痛々しいのが笑えるからそのままでいろ」

「酷くね!?」


 楓ちゃんが、鍋島君……じゃなかった、鍋子ちゃんがナンパされたりしてと笑うが、男の娘ってほど擬態できてないし、それは無いと思う。

 あと、館林の言う通り妙に似合ってて面白いのでそのままがいいんじゃないかな。


『10時になりました。ただいまより、第12回竜泉学園高等学校学園祭、竜泉祭を開催いたします。繰り返します。10時になりました。ただいまより、第12回竜泉学園高等学校学園祭、竜泉祭を開催いたします』


 そんな下らないやり取りをしていたら、どうやら10時になったらしい。隣のクラスからは拍手の音が聞こえてきたので、私達も拍手をする。


「じゃ、片桐さん。始まりましたので、挨拶をお願いします」


 宝蔵院がにこやかに笑いながらそう言ってくるが、それは委員長である君の役目ではないのかね?


「空、挨拶よろしくー!」

「空さん、よろしくお願いします」

「片桐さん! お願いします!」

「いいぞいいぞー!」


 希帆、楓ちゃんをはじめ、次々と挨拶コールが飛ぶ。……どうやら、委員長の仕事じゃないのかと疑問を抱いたのは私だけらしい。

 ……まあ、それで士気が上がるなら別にいいか。


「よし。じゃあ、アンケート1位になるとかではなく、来てくれた方々に満足してもらえるよう一生懸命、楽しみつつ頑張りましょう!」

「「「「「おおー!」」」」


 私が挨拶をすると、全員が声をあげ、その後拍手が鳴り響く。……自分の号令にここまで反応が揃うとちょっと気持ちいいな。

 さて、私も目一杯楽しむとしますかね!




 ----------




 で、あんな挨拶をしたが、午前中は自由時間なので色々と見て回るのだ。


「さーて! まずはたこ焼きだ!」

「いきなり食べ物系に行くの?」

「えー? だって、スコーンいっぱい作っててお腹減ったよー?」


 さて、何を見て回ろうかという所で希帆がいきなり食べ物関係の模擬店に行こうと言い出したので、突っ込みを入れたらそんな返事が返ってきた。

 まあ、それは分からなくもないが、今から食べたら店に出てる時間お腹減ると思うよ?


「なら、午前中食べ続ければいいんだよ!」

「……いや、私の身体は希帆みたく燃焼効率よくないからね? 食べ過ぎた分ちゃんと蓄えちゃうからね? それは勘弁して」

「私もそれはちょっと……」

「……むー、でも今はたこ焼き!」


 希帆に店出てる時間お腹減るよと言えば、案の定な答えが返ってくるが、それだけは勘弁願いたい。私の身体は希帆のように効率よくできてないのだ。

 楓ちゃんも私と同意見らしく、希帆の返事に異を唱えている。


「まあ、今の鏑木かぶらぎに何言っても無駄だろ。たこ焼き食わせたら少しは大人しくなるんじゃねえか?」

「ですね、鏑木さんの事です。少しお腹が膨れれば融通も効くようになるでしょう」

「ま、鏑木さんの食べっぷりは見てて癒されますけどね。リスみたいっす」

「むー! 私、そんなに食い意地張ってないもん!」


 どうやら、男子3人組の中でも希帆は食いしん坊キャラとして定着していたらしい。

 そして、希帆は言い返しているが、私としては反論の余地が無いと思うぞ?


「じゃあ、鏑木さんを落ち着かせるためにもたこ焼き屋に急ぐとしますか」

「そうだね」

「そうですね」

「だな、騒ぐ前にさっさと行こう」

「たこ焼き楽しみっすねー」

「だから! 私はそんなに食い意地張ってないって! むー!」


 皆の言葉に希帆が反論しているが、相手にせずたこ焼き屋に向かって歩いていく。それを見て、むくれる希帆が可愛いが、むくれたって誰も希帆の擁護はしてくれないと思うよ。だって、今までが今までだしね。


「ほら、希帆も行こう?」

「……食い意地張ってないもん。食べるの好きなだけだもん」

「分かった分かった。ほら、たこ焼き食べに行こ?」

「……うん」


 むくれてた希帆に声をかけると、けっこう気にしていたらしく、少しヘコんだ顔でブツブツとまだ言っていた。

 それに対し、慰めるためにも頭を軽く撫でて、たこ焼き食べに行こうと誘うと、コクりと頷く希帆。

 やばいね、やっぱ可愛いわこの子。たこ焼き、お姉さんがご馳走してあげちゃおうかしら。




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 サッカー部の模擬店である、たこ焼き屋の前に着いた。

 まだ、始まったばかりだと言うのに、結構な人がいるのは、やはり人気があるからだろう。まあ、並んでるのはパッと見たところ、制服を着てる竜泉の生徒とその友達って感じだけどね。親御さんっぽい人達は見えないから、ゆっくりと色んな所を見て回ってるのだろう。

 まあ、いきなり食べ物に行くのなんて若い奴らだけだよね。


「あ、お前らは財布出さなくていいからな」


 皆で並んでると、館林がそんな事を言い出すが、意味が分からない。なんでだ?


「なんで?」

「こういう時は、男が出すもんだろ」


 なんでと聞けば、そんな答え。

 うん、その信念は私も理解できなくはない。だが、館林たちが言うと突っ込みどころが満載である。


「いや、夏祭りの時だって普通に自分で払ってたし、それにデートでも無いのに出してくれる必要はないよ?」

「つまり、デートの時は払ってもらうと? てか、誰かとデートする気があるんすね?」

「いや、デートする気は無いよ。まあ、たとえするはめになっても自分で払うけど」


 館林に反論というか説明をしていたら、妙な所で鍋島君……じゃなかった。鍋子ちゃんが食いついてきたので、デートなんかしないと否定する。するはめって……と鍋子ちゃんは呆れているが、私からすれば男とのデートなんてするはめとしか言い様がない。


「てか、突然どうしたのさ?」

「あー……いや、なんだ? なんかお前らに払わせんのどうなんだと突然思った」


 突然変な事を言い出して、なんなんだと聞けば、館林自身よく分かってないらしく、はっきりしない答えが返ってきた。

 ……なんなんだコイツは。カッコつけたいなら、むしろ旅行の時とか夏祭りの時からそういう動きをするべきだ。突然やられても違和感が凄い。

 あと、彼女でも無いし、その気が無い人にそういう動きをすると勘違いされるから止めたほうがいいと思う。まあ、私が勘違いするなんて有り得んのだけども。


「……まあ、そんなに女の子の財布になりたいなら、鍋子ちゃんに払ってあげれば?」

「あ? あー……奢ってやろうか?」

「やめて!? 俺、男だし! なんかこの場で奢ってもらったらアイデンティティとか色々と崩れそうだからやめて!?」


 鍋子ちゃんに奢ってあげればと言うと、苦笑いしながら館林が聞き、それを涙目になりながら鍋子ちゃんが拒絶した。


「皆さん、そろそろ順番が来ますよ?」


 先頭に立っていた宝蔵院の声で漫才も終了。

 なんだかんだ、並んでる間の暇つぶしにはなったみたいだ。


「たこ焼き美味しいといいね」

「……そだね」

「……ですね」


 後ろを振り返り、希帆達に話しかけると、妙に反応の悪い答えが返ってきた。

 ん? どうしたんだろうか。てか、なんでこの子達は私を呆れたような目で見てくるのだろうか。私は、そんな目で見られて喜ぶ趣味はないよ?


「どうしたの?」

「んー? なんでもー?」

「さあ、たこ焼き食べましょう?」


 どうしたのと聞けば、なんか訳知り顔でニヤニヤとしながらはぐらかしてくる2人。本当になんなんだ。

 ……まあ、いいか。別に良からぬ事を考えているわけでは無さそうだし。


「あ、空さん。普通のたこ焼きと明太子チーズがあるみたいですよ?」


 私達の順番が丁度来た事もあり、はぐらかしたまま私を抜かして先にメニューを見た楓ちゃんがそう教えてくれる。

 希帆は、無言でジッとたこ焼きを眺めている。たぶん、どちらにしようか迷ってるのだろう。


「空さんはどちらにするんですか?」

「んー、どうしよう」


 正直に言って、悩む。

 たこ焼きの値段は6個で100円と、素晴らしく安い値段設定になっているし、明太子チーズの方も同じ値段だ。

 てか、6個か。今いる人数が丁度6人だし、どちらも1個づつ買って分け合えばいいのではなかろうか。


「……6個入りだし、1個ずつ買って皆で分けない?」

「あ、いいですね! そうしますか?」

「僕はそれでいいですよ」

「俺も構わねえぞ」

「えー! 足りないよ!」

「足りないっすね!」


 分け合う事を提案してみたが、希帆と鍋島君……じゃなくて鍋子ちゃんが足りないと言ってきた。

 これから、色々な所を見て回るし、どうせまだ食べ歩くのだろうから、ここでしっかり食べるのは下策だと思うのだが……まあ、たしかに全部で2個じゃ足りないかもしれないなあ。


「じゃあ、2個づつ買う?」

「もう一声!」

「……3個?」

「うん!」


 2個にするかと聞けば、まるで値切り交渉をしてるかのような調子でもう一声と言う希帆。で、3個かと言えば、素晴らしい笑みで頷く。

 ……これで、食い意地張ってないと本人は主張するんだからなあ。


「……皆もそれでいい?」

「構いませんよ」

「好きにしろ」

「僕もそれでいいですよ」

「むしろ、もう1個あったって構わないっすよ」


 鍋子ちゃん以外、全員苦笑いといった感じだが、構わないそうだ。よかったね、希帆。


「じゃあ、普通のと明太子のを3個づつください」

「はい、毎度ですー! 600円になります!」


 600円と言われたので、財布を取り出し小銭をって……小銭が400円と端数しか無い件について。

 あと、お札で一番小さいのが樋口さんな件について。……あっれえ?


「どうした?」

「……200円ある?」


 私が財布を出して固まったのを不審に思ったのか、館林が声をかけてくるが、200円足りないのだ。全員から集めて払うと時間かかるし、私が払っておいて後で徴収しようと思ったらこれである。

 あ、余談ではあるのだが、コンビニとかで友達同士で買い物をする時、会計をまとめずに個別で払う奴らってなんとかなりませんかね。駄弁っててトロいし、並んでる身からすれば一緒に払って後で割り勘しろよと思うのだけど。

 って、今はどうでもいいね。


「てか、なんでお前が払おうとしてんだ。ここは俺が払っとくからお前はたこ焼き受け取っとけ」

「……ごめん」

「なんで謝る」


 私に対して、呆れた顔をしつつ野口さんを出して払う館林にとっさに謝ってしまったが、たしかになんで謝ったんだろうか。

 払わせてごめん? 煩わせてごめん? なんか、違うな。……たぶん、日本人あるある程度のもんだと思う。


「はい、1000円のお預かりで、400円のお返しでーす。ありがとうございます!」


 そんな、サッカー部の元気な接客と共に、たこ焼きの入った袋を渡されたので受け取る。

 サッカー部はイケメン率が高めなのだろうか。爽やかな感じの先輩が、ニコニコとしながら接客をしているのも、人気な理由の1つかもしれない。


「どうしたんすか?」


 列の邪魔にならないように少し離れていた他の皆の元へ戻ると、鍋子ちゃんからそう尋ねられた。たぶん、会計で少し手間取った事に関してだろう。


「いや、小銭が足りなくてね」

「あー、あるあるっすね」

「で、100円はどっちに払えばいい?」

「あ、そうだ。館林君にお願い。私の分も今払うね」

「……別にこの程度いいんだが、まあ貰っておくわ」


 鍋子ちゃんに理由を説明し、希帆の質問に答えて、自分も100円を払う。

 館林は100円程度別にいいのになんて言ってるが、100円を笑う者は100円に泣くのだよ。……正しくは、一銭を笑う者は一銭に泣くだけども。まあ、意味は変わらない。


「別にいいなら、僕の分はいいですね」

「いや、お前は払え」

「……僕の扱い酷くないですか?」

「昔からこんなもんだろ」

「……竜泉に入るための勉強教えてあげたのに」

「半年で抜いたがな」

「……ぐ」


 宝蔵院が館林に対してボケたら、そんな漫才が繰り広げられた。

 館林ってば、宝蔵院に勉強教えてもらって半年で抜き去ったのか。……凄いな、どんだけ勉強したんだろう。

 あ、そういえば、宝蔵院は新入生代表で挨拶をしていたけど、あれって入試トップがやるんじゃなかったっけか。そう考えると、代表挨拶は館林になったはずなんだけど、どうして宝蔵院なんだろう。


「ああ、特待生はそういうのから外されますからね、それでです。実質、お飾りで用意していたシステムだったのに、該当者が出てしまいましたからね。新入生代表をどうするのかって職員会議にまでなったと祖父から聞きましたよ。で、結局は次席だった僕が選ばれたわけです」


 疑問に思った事を聞いてみれば、そう返ってきた。なるほどねー、納得です。

 たしかに、用意したはいいけど、10年以上活用されなかったシステムがってなれば、会議もするわな。


「館林君って特待生だったんだねー」

「ああ、ウチは特待も普通入学も混ぜてクラス分けされっからな。普通に過ごしてるだけじゃ分かんねえよな」

「中東さんも特待ですしねえ」

「……えっ!?」

「あれ? そこそこ話すのに知らなかったんですか? 中東さんは中学の時に強化選手にも選ばれたらしいですよ?」

「……そうなんだ」


 館林が特待生という事実に驚くという私も通った道を希帆達が通っていたら、衝撃の新事実が飛び出した。

 ……中東さん、そんな凄い人だったんか。まあ、1年で全国常連の女子バレー部のベンチ入りできてる時点で凄いのだろうけど、まさかそこまでとは。

 あ、因みに男子バレーはまだ全国大会まで駒を進めた事は無いらしいですよ。強豪っちゃ強豪なんだけどね。なまじ女子バレーが強いだけあって、比較対象にされ、そして強い方にコートを使わせるのは当然であるため、かなり肩身の狭い思いをしてるとか。可哀想にね。

 てか、なんで宝蔵院はそんな事まで知ってるんだろうか。……もしかして、私が知らなすぎるだけなのかなあ。


「ま、とにかくいつまでここに居たって時間もったいねーし次行こうぜ」


 たこ焼き屋のすぐそばで食べながら喋ってたわけだが、たしかに時間がもったいないね。次行こう、次。



 その後、道中で女子大生っぽいお姉さま方に、鍋子ちゃんが可愛い可愛いと捕まえられ、写真を撮られたりして真っ赤になってるのを眺めたりしながら、色々見て回ったよ。

 ガチ執事2人組と女装メイドの威力は結構高かったらしく、どこのクラスか部活なのかと結構な人から聞かれた。やはり、宣伝効果は高かったようだ。

 あ、私も聞かれたりしたけど、やっぱりもどきな事もあって、男子3人組よりは頻度が低めだった。




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 さて、色々と回って、現在はカード愛好会という部活なのに愛好会と名乗ってる場所に来ている。なんでも、全てのカード、トランプから始まり、タロットやトレーディングカードゲームまで愛する、カードのカードによるカードのための愛好会なのだそうだ。


 で、さっきまでどんな所を回っていたのかと言うと、学校へ着く前にも話題に上がっていた、囲碁部のクレープやワンゲル部のカレーはもちろんの事、他にも焼きそばやじゃがバター、変わり種ではフォーなんかもあった。

 もちろん、私も全て食べるなんて事はできるわけがなく、希帆や男子達が食べてるのを眺めたり、一口貰ったりしつつ楽しんだ。

 あ、フォーは食べました。パクチーが好きなのでね。パクチーはあと乗せだったけど、やっぱり美味しいよね。……まあ、賛同者は多くないけどさ。希帆もパクチー食べた事ないって言ってたので、一口あげたら凄い微妙な顔してたし。

 クレープは、苺とバナナとチョコがあった。話題になるだけあってかなり美味しかったけど、私的には甘すぎたので、希帆達にもらった一口で満足でした。

 カレーは、所謂ゴロゴロカレーってやつ。私個人としては具が小さい方がいいのだけど、これはこれでワイルドでいいよね。個人的には茄子が入ってたのを評価したい。カレーの茄子って凄く美味しいと思うんだ。


 あとは、園芸部の直売だ。てか、私的にはこれが竜泉祭で見て回る箇所のメインだった。

 園芸部の直売所は、立地が悪かったが、私達が行った時には既にそこそこな人が居て、もう野菜は半分ちかくまで減ってたんじゃないかな。

 ああ、言わずもがな、学生なんて私達以外は部員くらいしか居なかったよ。お客さんのメインは保護者の方々。まあ、野菜を欲しがるのなんて、子どもではなく大人だよね。

 で、値段を見てびっくり。なんと、無人販売所みたいな感じで、オール100円っていうね!

 サツマイモに大根、ネギ、春菊まであったので買っておいた。因みに、荷物持ちは男子達。いや、持ってくれるって言うんだもん。仕方ないよね。

 あと、鉢植えも売っていたので、シーズンがシーズンだし、ポインセチアをひと株買っておいた。クリスマスになったら飾るのだ。


 ああ、もちろん手芸部にも顔を出した。

 色々あったので、目移りしてしまったが、シュシュとエプロンを購入。シュシュは、ブラウンとオフホワイトを合わせたサークルレースでできたやつ。エプロンは、チョコレート色の生地に肩紐がミルクティー色だ。後ろボタンで、ゆったり着れるのが良い。家事する時に着るようにしようと思う。


 で、ですね。なぜ、私達がカード愛好会なる部に来ているかというと、楓ちゃんが占いをしましょう! と言ってきたからなのだ。

 まあ、時間もかからないだろうし、最後にここで占ってもらってクラスに戻るのもいいかもねって事で見に来た感じです。


「じゃあ、空さん占ってもらいましょう?」


 楓ちゃんが占いを終え、なぜか私に振ってくる。いや、なんで私に振りますかね。いらんですよ。

 あ、楓ちゃんがどんな占い結果だったのかは秘密ね。個人情報ってやつだ。


「いや、私はいいよ」

「まあまあ、そう言わずに」


 ……なぜ、こういう時の楓ちゃんは物凄く押しが強くなるのだろうか。

 結局、押し切られて席に座る事になってしまった。てか、無理やり座らされた。


「いらっしゃいませ、何を占いましょうか」

「……いや、本当に思いつかないんですが」


 半ば無理やり座らされた私に、部員の方が何を占うか聞いてくるが、正直思いつかないので勘弁してほしい。

 ほら、思いつかないと言われた部員さんも困ったような顔で苦笑いしてるじゃないか。


「じゃあー……今後、空の事を好きになる人が現れるのか占ってください!」

「いや、片桐さんの事好きな人っていっぱいいるんじゃないっすか?」

「あ、そっか! じゃあ、本気で好きになる人で!」

「本気ってどの程度なんすかね?」

「そりゃあ、一生添い遂げたいってレベルじゃないかな?」


 私の占ってもらう内容を勝手に決める希帆と、それに乗る鍋子ちゃん。

 ……ああ、もう好きにしたらいいよ。さっさと占ってもらってクラスに戻ろう。


「えっと、構いませんか?」

「ええ、好きにしてください」

「では、始めます」


 そう言って、タロットカードがシャッフルされていく。


「では、この中から1枚引いてください」


 机の上で扇状にされたカードの中から1枚引くように指示されたので、引く。

 いちおう、その事について考えながら引かなくてはならないはずだったので、大変不本意ではあるのだが、私の事を本気で好きになる人が現れるのかと考えながら引いた。大変不本意ではあるのだがな。

 これを上下いじらずにめくればいいんだったな。


「ああ、出たのは女教皇の正位置ですね」


 うん、たしかに女王様っぽい感じの人が描かれているね。でも、私はタロットに関しては全くと言っていいほど詳しくないので、このカードが何を指しているのかとかは全然分からない。

 横で楓ちゃんは小さくはしゃいでるので、楓ちゃんはなにか分かるのだろうか。てか、楓ちゃんがはしゃいでる時点で少し嫌な予感がする。


「女教皇の正位置は、直感、知性、安心、満足などがあります。この場合ですと、あなたを本気で好きになってくれる人がそう遠くないうちに現れる暗示ですね。あなたは、多くの人に高嶺の花や、自分とは釣り合わないと思われてますが、そのままのあなたで釣り合う人が必ず現れるので、焦って自分を変える必要は無いのではないでしょうって感じですかね」

「ですって! 良かったですね、空さん!」

「え? ああ、うん?」


 楓ちゃんが嬉しそうな顔でそう言ってくるが……良かったの、かな?

 え、なに私攻略されるフラグですか? いや、そういうの要らないんですけども。

 ま、まあ、たとえ攻略されるフラグだとしてもへし折ればいいだけだし、それに占いなんてアテにならないものを信じるのも馬鹿らしい。そう、ようは気にしなければいいのだ!


「片桐さんにも春が来るのかもしれないんですか。寂しくなりそうですねえ」


 気にしなければいいのだ。


「つか、片桐の事を本気でって誰なんだろうな」


 ……き、気にしなければ。


「てか、いきなり一生添い遂げるレベルって重いっすね」


 気にしないの! 気にしないったら気にしないの!

 そりゃ、たしかにそこまで好きになってくれる人が本当にいるんだとしたら、少しもったいないなとか思ったりしないでもないけど、でも、そんなの有り得ないし、てか、そもそもソイツを私が好きになる事が無いだろうし! だから、気にしないの!


「さ、時間だから教室戻ろうか」

「はーい! で、空の事を本気で好きになる人って誰なんだろうね!」

「気にしないの」


 そろそろ時間だし、希帆と楓ちゃんが着替える時間を考えたら戻った方が良いので、ここらで切り上げる。

 希帆がまだ言っていたが、気にすんなと言っておいた。そう、気にしないんだ。




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「お疲れさまー」


 希帆と楓ちゃんの着替えも終わり、教室へと入る。

 今のところ、行列ができているわけでもなく、教室を見渡す限り、 満席では無いものの、ほぼ埋まってる事から、順調に進んでいるようだ。


 因みに、希帆のメイド服はちょっとぶかぶかだったが、小さい子が頑張ってメイドさんをやっている雰囲気が出ていてとても可愛らしい。楓ちゃんも、お嬢様な雰囲気の子がメイド服っていうギャップがまたいい感じである。ただ、姫カットな髪型のせいか、和服メイドの方が似合ったかもなーなんて思ったしまった。いや、充分に今の姿も可愛いのだけどね。


「あ、お疲れさまです!」

「どう? 調子は」


 私達が入ってきたのを見つけた中東さんがこちらを振り向いたので、調子を聞く。

 中東さんは、給仕のコーナーで楽しそうに切り盛りをしており、こちらを振り向いた時もニコニコ顔だ。お姉さんメイドの笑顔って素晴らしいね。


「そうですね、今のところ来ているのは身内の人が多めな感じです。あと、疲れて休憩って人が少ないので回転率もいい感じですよ」

「そかそか、お菓子の在庫はどう?」

「んー、今のところは問題ないですね。ただ、スコーンが凄い人気でもう半分くらいまで減ってしまったので、お菓子班に先ほど補充をお願いしました」


 10分ほど前にお願いしたので、20分もしないうちに焼きたてが届くかと。とは中東さん。


 そっか、スコーン人気かー。てか、結構な数を作ったのに、もう半分近くって相当だな。これ、スコーン以外ほとんど出てないんじゃないか?

 クロテッドクリームの事もあるし、1個で100円って設定にしてるんだけどなあ。決して学祭の値段設定から言うと安くないんだけどなあ。

 他にもフィナンシェとかマドレーヌとか用意してるんだけどなあ。


「じゃあ、他のは全然出てない感じ?」

「いえ、そんな事ないですよ。何人かで来たお客さんは、アソートメントとスコーンって感じで注文してます。あと、アソートメントはお持ち帰りで人気ですね」

「ああ、なるほど」


 アソートメントのお持ち帰りは想定してなかったけど、そこらへんはクッキー用の袋もあるし、そうして対応しているのだろう。


「分かった、ありがとう」

「はい。あ、あと、女性のお客さんは結構お喋りをしたがる人が多いので、そこらへん注意です。下手すると長く捕まりかねません」

「ん、了解」


 中東さんに、最後に注意を促される。

 まあ、たしかにもどきとは言えど、イケメン執事が多いのだ。女性客は話したりしたがるだろう。

 午後からは込むだろうし、エース2人とネタ枠投入だから、その傾向が顕著になるかもしれない。注意していかないとね。


「お、来た来た。じゃあ、皆来たっぽいから僕らはあがっていいかな?」


 中東さんとの引き継ぎを終えた所で、後ろから声をかけられたので振り向けば、今川いまがわ君がいた。

 若干、疲れた顔をしているが、まあ、午前中の顔だったし今言われた注意事項に振り回されたんだろうなあ。


「うん、お疲れさま」

「本当に疲れたよー。女の子ってお話するの好きだよねえ」


 労いの言葉をかければ、苦笑いしながらそう言う今川君。

 いや、お話するのが好きなんじゃなくて、イケメンである君と話すのが好きなんだと思うよ。そこらへん勘違いすると、話しかけてきた子達が可哀想だと思うの。


「じゃ、僕らは行くから頑張ってねー」

「うん、じゃあね」


 今川君達、午前中シフトの人達が退室し、私達が残る。

 さてさて、お昼時だし忙しくなるだろう。頑張っていきましょうかね!





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 さて、シフトに入ってから30分ほどたったが、けっこう忙しい。

 午前中いっぱい見て回った人が多いのか、店にいる時間が少し長めになり回転率も落ちてしまったように思う。まあ、純粋に来る人が増えたとも言えそうだけども。


 対応策として、椅子などを使わないクラスから椅子数脚と、机を一脚借り受け、教室の壁に沿うようにして廊下に配置した。

 で、机にはノートを用意し、予約という形で順に名前と人数を書いてもらい、空いたら順に呼ぶ形にしたよ。いやあ、使ってない清書用のノートがあってよかった。

 あ、私は板書や授業のメモはルーズリーフに書いて、後で清書する用として普通のノートも使っている。ルーズリーフだとガーッと書いたのを纏めておけるのが利点だが、ノートを貸す時にルーズリーフをバラで渡すのもアレだし、全部渡してしまうと他の教科のもあるため私が勉強できない。なので、ノートを科目毎に用意し、授業内容をそこに綺麗に清書していくというわけだ。今までは、ノートを貸したりなんて経験が無かったのでルーズリーフで何も問題は無かったのだけど、希帆や楓ちゃんに貸すようになってから問題点に気付いた感じだ。ってそんな事すっごいどうでもいいよね。失礼しました。


 で、お店だけども繁盛してますよ。

 宝蔵院と鍋子ちゃんは、ちょくちょくお客さんに捕まって話をしている場面が見受けられる。館林はさすがに慣れてるのか、そこらへんは上手く立ち回っているようだ。


「いってらっしゃいませ、お嬢様」


 おっと、そんな事を考えていたら、お客さんが1人お帰りになられたらしい。

 私も慌ててお辞儀をしつつ、同じ台詞を繰り返す。

 因みに、これは1人が言い、やまびこ形式で全員が繰り返す形にしている。1人や2人組のお客さんに対して、執事もどき全員とメイド全員が、いってらっしゃいませと言うのは、なんとも言えない良さがあるらしい。午前中に来店し、もう1回午後に来たお客さんがそう言ってた。


「お帰りなさいませ、お嬢様」


 席の片付けが終わり、次のお客さんが入ってきたので、お辞儀をし挨拶をする。

 持ち回り的に私の番だったのだ。

 因みに、若い未婚の女性に対してはお嬢様。既婚女性は奥方様。老年女性は大奥様である。男性に対しては、若様、旦那様、大旦那様である。


「おー! 男装執事!」

「すごい!」

「では、こちらへ」


 入ってきた女性2人組は、私を見てなにやら感動している。まあ、男装執事なんて居ると思ってなかったのだろう。

 やはり、こうやってマジマジと見られるのは恥ずかしいが、それを顔には出さずに席へと案内する。


「本日はいかがなさいますか?」

「……えー、どうしよう」

「なににしようね」


 席に案内し、座ったところでメニュー表を広げ、注文を聞く。

 メニュー表はお客さんに持たせたりはせず、私達執事が持ち、お客さんの見やすい位置まで持っていく。そして、絶対にご注文はなんて聞き方はしない。たとえ、メニュー表があり、横に値段が書いてあるとしても、注文と言われると一気に店っぽくなって駄目な気がしたんだ。なので、そこはマニュアルを作る際に徹底させてもらった。


「あのー……オススメはなんですか?」


 どれがいいか決められなかったのか、おずおずといった感じで私を見てくるお客さん。

 館林や宝蔵院、鍋子ちゃんに対してこういう事を言う人は、私達側に決めさせてキャイキャイしたい人がメインだが、男装執事である私に対しては今まで無かったので、この人たちも本当に決められないのだろう。


「どれも、メイドたちがお嬢様方に喜んでいただこうと、丹精込めて作ったのでオススメでございます。私も及ばずながらお手伝いさせていただきました。もし、お決まりになられないのでしたら、一緒に決めませんか?」

「あ、はい……その、お願いします」


 ニコっと笑いかけながらそう言うと、顔を赤らめて俯き気味になるお客さん。もう1人の人も少し顔が赤い。

 ぶっちゃけて言おう。美人なお姉さんや女子大生に対し、にこやかに笑いかけ、奉仕しつつ主導権を握りながら愛でる。すっごい楽しい。


 で、お客さん達と一緒に決めた結果、スコーンとアソートメントに決まった。アソートメントは食べきれるかどうか迷ってたみたいだが、残った分はお嬢様方のお出かけ先で食べられるよう包装させていただきますと言ったのが決め手だったようだ。


「あ、いたいた。空ー」


 お客さんへの配膳も終わり、接客の順番待ちというか、待機をしていると入口からそんな声が聞こえた。

 で、そちらを見れば声の主、私の両親がニコニコしながら立っている。まあ、ニコニコしてるのは母だけどね。父は軽く微笑んでる感じ。


「あ、父さんも母さんもいらっしゃい」

「うん、来たわよー。その格好も似合うわね」


 母の言葉に父も隣で微笑みながら頷くが、正直コスプレ? を両親に見られるとか恥ずかしい。……まあ、メイド服じゃなくて良かったけども。うん、メイド服だったら絶対来るな! って言ってただろうな。


「あ、空のお母さんとお父さんだ。こんにちわ!」

「こんにちわ、いつも空さんにお世話になってます」


 希帆と楓ちゃんも両親が来た事に気付いたのか、配膳カウンターの中から出てきて挨拶をする。

 楓ちゃんが言うほどお世話をしてはいないと思うけど、そう言ってもこの子は否定するだろうからスルーの方向で。

 因みに、両親が来てからチラチラと教室内から視線を感じるが、まあ学園祭だし、こうやって身内が来て雑談なんてよくある事だろうからね。気にするほどの事ではない。きっと、視線の方もチラっと見て、なんだ親か。みたいな感じだろう。


「あら、こんにちわ。希帆ちゃんも楓ちゃんも可愛いわねえ。空もこっち着ればよかったのにー」

「ああ、あの時の子達だね。こんにちわ、よく似合ってるね」


 母は不穏な事を言って挨拶を返し、父はにっこりと微笑みながらそう言う。

 因みに、父がこうも簡単に人前でにっこり笑うのはけっこう珍しい。家の中では微笑んだりするのに、家から出ると途端に無表情が多くなる。まあ、ずっと一緒にいるから無表情でも楽しそうな感じとかは分かるけどね。で、無表情になる理由はと言うと、不意に微笑んだ時の破壊力が凄まじかったらしく、婦警の方々にそれはもうモテてしまったようで、母が嫉妬で拗ねてしまったそうな。で、気を引き締めるためにも普段から家の外では笑わないように心がけているらしい。あ、これ全部祖母から聞いた話ですので、たぶん本当なんじゃないかなと思うよ。


「大丈夫! 空にもちゃんと後で着せますから!」


 私が、そんな父がにっこり微笑むの珍しいなーなんて考えていたら、希帆から意味の分からない言葉が出てきた。

 とりあえず、これは理由を正しておかねばならない。そして、私は着ない。


「え、なんで私が着るのさ」

「だって、空がミスコン選ばれないわけないじゃん! だから、その時の衣装としてコレ着ていくんだよ!」

「いや、別にこの格好のままでいいじゃん」

「駄目だよ、メイドの方がきっと受けがいいよ!」

「いや、受けとか別にいらないから」

「着ないとか許さないよ!」

「いや、だから……」

「許さないよ!」

「許しませんよ?」

「楓ちゃんまで!?」


 希帆とやりあってたら、楓ちゃんまで参戦してきた。

 ……うん、この流れ知ってるよ私。これ、私が最終的に諦めるパターンだ。


「空、諦めなさい」


 母が、私の肩をポンと叩き、そう言ってくる。

 うん、母が凄く良い笑顔をしてる。……楽しそうでなによりです。


 ……そうだね、どっちにしろ諦めるなら早いとこ諦めて疲れないようにすべきだよね。

 あとは、私がミスコンに選ばれない事を祈ろう。もう、それしか道は残ってない。


「……ああ、もういいや。とりあえず、席に案内するね」

「ん、よろしく頼むわね」


 母にそう言うと、良い笑顔のまま頷かれる。父は、微笑ましい光景を見るかのように小さく微笑んだままだ。

 ……本当に、どうしてこうなったんだろうか。



「あれ、片桐さんの両親っすか?」

「ん? そうだよ」


 注文をとり、配膳カウンターの方まで戻ると、鍋子ちゃんが捕まってたお客さんから脱出してきたのか、話しかけてきた。

 館林と宝蔵院は、まだまだお客さんに捕まってる。捕まえてる女性陣の目がハートになってる気がするが、きっと気のせいではないだろう。顔だけはいいからなアイツら。


「片桐さんのお母さん、俺の母ちゃんの半分くらいの横幅しか無いんですけど、どういう事なんですかね」


 いや、そんな事言われても、そんな不思議そうな顔されても知らんがな。出産後の体型維持はとても難しいらしいし、そういう事なんじゃないの?


「ね、片桐さんのお父さんって何してる人なの?」

「ん? 警察官だよ。所謂、キャリアってやつ?」


 配膳カウンターにいた松本さんに聞かれたので答えるが、なぜそんな事を知りたがるんだろうか。


「はー、なるほどね。片桐さんのチートっぷりは遺伝かー」

「そっすねえ。なんかあの両親見たら、片桐さんのチートっぷりも納得っす」


 松本さんと鍋子ちゃんがなるほどねって感じで頷いてるが、私としては意味が分からないし、いったいなんのことだと言いたい。


「ん? 待てよ。チートは遺伝って事は、お爺さんも凄い人だったりするのかな!?」


 チートが遺伝するのかは知らんし、さておき、祖父はそこまで飛びぬけた人かはよく知らないなあ。


「父方のお爺ちゃんは剣道の道場やってるよ。叔父さんはそこで師範やってる」


 剣道の場合は、範士っていうんだっけ? 剣道は全然詳しくないからよく分からないんだよね。

 そういえば、小さい頃、ちょっと興味があったので道場にお邪魔し、竹刀を構えてみた事があったが、それを見た叔父に、空は剣ではなく別の事を頑張りなさいと微笑ましい顔をしながら言われた事があったな。あれはなんだったんだろうか。


「へー、やっぱり凄い! お母さんのほうは?」

「……え?」

「だから、お母さんのほう」


 ……あれ?

 そういえば、母方の祖父母の話って聞いた事ないな。会った事もないし、勝手にいないものだと思ってたけど、話にまったく出てこないし、他界してるならしてるでお墓参りの1つも無いっておかしくないか?


「会った事ないし、どんな人か知らないんだよね」

「え、あ、あ、そう。なんか、ごめんね?」


 素直に分からないと伝えると、複雑な事情があるんだろうと勘違いした松本さんが謝ってくるが、それに気にするなと言っておく。

 まあ、複雑な事情がありそうなのは母だし、それに今は幸せそうに笑ってるんだから、それでいいのではないだろうか。

 母が話してくれたら、その時はちゃんと聞けばいいのだ。




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 その後、無難に喫茶の方をこなし、次からはお菓子班の方へと移った。

 お菓子作りの方も、バタバタとする事はなく、暇ではなかったが余裕をもってしっかりと作る事ができたので、なんとかなり、無事に時間となり、営業を終える事ができた。


 因みに、両親の帰ったあと陸が来たが、これまたクラスメイトから色々と聞かれるはめになった。それも、両親の時よりも圧倒的に多く。紹介してくれというのが多かったが、なんとなくクラスメイトが将来義妹になる展開は避けたかったので、来年竜泉に入ってくる予定とだけ伝えておいた。

 もしかしたら、陸は入学早々に先輩方からアタックをくらい続けるかもしれない。そうなったらきっと私のせいだ。陸よ、すまんな。


「すみませーん。片桐さんと吾妻さんがこちらに居るって聞いたんですけど」


 調理器具の洗い物などの後片付けをしていると、家庭科室の扉から私と楓ちゃんを呼ぶ声がする。

 で、そちらへと目をやれば先輩と思しき女性が1人立っていた。何用だろうか。


「片桐は私ですけど、なにか?」

「私が吾妻ですが……」

「ああ、よかった! 教室に行ったらこっちに居るって言われてね! ミスコンで2人とも上位5名に入ったから、19時10分前までには第一体育館まで来てくださいね!」


 とりあえず、先輩のいる扉の所まで行き何用かと聞けば、自分の言いたい事だけを言って、バイバイと言いながら去って行ってしまった。

 ……ああ、なんかね。あんな拒否してたらフラグにもなるよなって気はしてたんだよね。でも、私は1年だしさ。先輩方に綺麗な人だって何人もいるわけだし、選ばれずに済むんじゃないかって期待してたんだ。……まあ、無駄だったけど。


「え? 私がミスコン? え、ええええ!?」


 楓ちゃんはと言えば、先輩が見えなくなってからようやくフリーズが溶けたのか、今更になってパニックになっている。


「ふっふー! やっぱ空は選ばれたね! まさか、楓まで選ばれるとは予想してなかったけど!」


 希帆の声がし、振り向けば、どうだ言った通りだろう! って顔で笑う希帆。


「まあ、でもメイド服は全員がまだ着てるっぽいし無理だね」

「んっふっふ、こんなこともあろうかと! 松ちゃん!」

「ほいさ!」


 メイド服は用意した分は全員が着てるだろうし、今の時間じゃ無理だろうねと言ったら、希帆が松本さんを呼び、そしてなぜか取り出されるメイド服1着。

 ……えええ、意味が分からないんですけど。


「空? 私たちが空にメイド服を着せられるかもしれないチャンスを逃すわけないでしょう!」

「そうだよ! 私だって、片桐さんに着てもらうために毎日寝不足になりながら一生懸命作ったんだから!」

「松本さん! よくやりました! 素晴らしい仕事です!」

「型紙が、部活で使ったヴィクトリアン調のものしか無かったのが悔やまれますが、ありがとうございます!」


 あ、駄目だ。希帆と松本さんが私のためにって言った時点で断りにくいのに、中東さんまで会話の中に入ってきた。これはもう諦めてメイド服着よう。むしろ、ここからスカート上げてミニにしようとか言い出す前にさっさとこれを着てしまおう。


「じゃ、準備してくるから後片付け手伝えなくてごめんね」

「気にしないでいいよ! 頑張ってねー!」

「あ、ちょっと空さん! 私まだ心の準備が!」


 抵抗する楓ちゃんの手を引っ張って、更衣室へと向かった。

 なんか、私が楓ちゃんと希帆に引っ張られるのではなく、引っ張るのって珍しいってかもしかしたら初めてかもしれない。

 そういう意味ではミスコンも悪くないのかな。うん、きっとそんなのは気のせいなんだけどもね。




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「……はー、スッキリ」


 更衣室へと入り、荷物を置いていたロッカーの前でスーツを脱ぎ、バストホルダーを外す。

 正直、しばらくして慣れたものの、けっこうキツかったので、なんとも言えない開放感が気持ちいい。

 ぶっちゃけた話、これを外してスッキリ気持ちいい状態なので、ブラなんてしたくない。このままノーブラでだらけていたいのが本音である。……まあ、それは叶わないのだけどね。家の中なら迷わずブラなんてせずに過ごしていただろう。


 で、さっそくメイド服といきたい所だが、まずバストホルダーの下に着込んでいたキャミが蒸れたのか汗をかいて気持ち悪いので脱ぐ。で、外していたブラを取り出し装着。そういえば、朝着替える時にセクシーだどうのと言われたな。黒の総レースなんて別に珍しくないと思うし、普通だと思うのだけど、それは転生もあいまって私の精神年齢が少し高めだからなんだろうか。

 ……うーん、16歳の女の子が黒い総レースのブラをと考えると……うん、下着の色はこれから少し気をつけるようにしよう。……うん。

 で、そこから予備として持ってきていたインナーを着てメイド服を着る。

 持っててよかった予備インナー。まあ、所謂ババシャツと呼ばれるそれなんだけどもね。デザインも可愛い感じのだし、別にいいと思うんだ!


「あ、楓ちゃん。後ろのボタン閉めてもらっていい?」

「あ、はい。分かりました」

「ありがと」


 更衣室内で待っていた楓ちゃんに後ろのボタンを閉めてもらい、完了。

 髪型はどうしようか。メイドっていうと……シニヨンとか? でも、そこまでしてる時間無いしなあ。あとは、ポニーテールとかツインテールだろうか。うん、私がツインテールとか似合うわけないからポニテにしよう。ヘアゴムはいつもいちおう持ってるしね。


「じゃ、行こうか」

「……はい、なんで私選ばれたんでしょう」


 髪も結って楓ちゃんに声をかけると、未だに納得ができないといった感じでボヤいている。


「まあまあ、それを言うなら私だってなんでって感じだし」

「……空さんは選ばれて当然だと思うんですが」


 そんな事はない。私より美人だっているに決まってるし、帰宅部な1年を知ってる人の方が少ないと思うんだ。まあ、それを言ったら楓ちゃんも条件は同じなんだけどもね。

 さてさて、そんなに時間があるわけではないから少し急ぎましょう。バックれられるならバッくれるんだけどねー。そんな事したら後々怖いもんなあ。




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 現在、第一体育館の舞台袖で待機をしている。

 ミスコンに呼ばれた人だが、私が知ってる人ばかりで驚いた。クラスメイトと、球技大会で対戦した人、そして学級委員で話す機会があった人だ。凄い偶然である。


『レディイイスエエエェンドジェントルメン! 竜泉祭もいよいよクライマックス! これより、第8回竜泉学園ミスコンテストを開催いたします! なお、司会進行はわたくし竜泉放送部のY・ひさしこと、ミスター・Tがおおくりいたします! よろしく!』


 舞台の方では、司会進行であるミスター・T先輩が喋り始めた。どうやら始まったようだ。

 因みに、ミスター・T先輩が喋り始めたところで、引っ込め田中ってヤジが聞こえたので田中先輩が正しい表現なのだろう。

 あと、Y・ひさしって事は下ネタが多めって事じゃんか。ふざけんな。


『さあ、まずは栄えある5名に登場していだきましょう! なお、紹介順は学年順になっております!』


 田中先輩の言葉に、はやくしろよ田中なんてヤジが聞こえるが、きっと彼は愛されてるんだろう。


『まずはこの人! ここまで2年連続ミス竜泉! 今年も制して3年連続となるのでしょうか! 元生徒会長、木下寧々(きのした ねね)!』


 寧々先輩が呼ばれ、私達へ手を振ったあとに舞台へと出て行く。

 体育館からは凄い歓声が聞こえるが、私達この歓声の中出て行かなきゃいけないのか。……やばい、これはバックれて後で怖い思いをした方が良かったかもしれない。

 あ、なんで私が寧々先輩と呼んだかと言うと、この人は気に入った人には名前で呼ばせないと気が済まない人らしいんだ。そして、私も委員会の集まりとかで顔を合わす機会があり、気に入られて名前で呼べとなったわけ。名前で呼ばないと反応すらしてくれないので困ったものである。因みに、入学式でユサユサと凶器を揺らしつつ挨拶をした生徒会長その人でもある。


『さて、お次はこの人! バレー部の元主将にして知的美人! 踏まれたい人多数だがそれは俺の仕事! 古舘ふるたてこずえ!』


 この人は、球技大会の決勝で戦った3年生にいた人だ。知的なメガネ美人である。なんか田中先輩が変な事言っていたが、もしかして付き合ってたりするんだろうか。随分とギャップのある組み合わせだが。


『さてさてー、次からはなんと2年を飛ばして1年生でございます! まずはこの人! アンケート内容には、ニコニコした笑顔と丁寧語で罵られたい。清楚なその姿を俺色に染め上げたいなどと欲望に塗れた内容がガッツリ! お巡りさん俺らです! 吾妻楓!』


 お前もかよっていう突っ込みは取り敢えず無しにて、楓ちゃんは紹介を聞いて顔が真っ赤である。可愛いけどもね。


「楓ちゃん、頑張ってね」

「は、はい……」


 返事をし、若干涙目になりながら、俯きがちで舞台へと小走りで出て行ったが、たぶん、ああいう姿が紹介のような事を思わせてしまうんだろうなあと、なんか納得した。

 因みに、メイド服だったため、歓声もまた大きくなって楓ちゃんがビクンってなってたよ。私が出た時もああなるんだろうか。嫌だなあ……。


『さてさて、お次はこの人! 驚異的な胸囲で相手を魅了! そして料理の腕は脅威すら感じます! それでもいいんだ! 僕らが食べさせてあげるから! 柊雪子ひいらぎ ゆきこ!』


 柊さんがこちらに軽く会釈して舞台へと出て行ったので、軽く手を振りそれを見送る。

 そっかあ、私が最後ですか。最後とか嫌だなあ。ああ、また歓声が凄い。まあ、巨乳なメイドさんが登場だもんな、仕方ないか。……料理が壊滅的なメイドさんって萌え要素に入るのかな。私的にはちゃんとできてほしいけども。


『さて、最後の1人です! 見事、上半期の踏まれたい人ランキングで1位を獲得! 告白したはいいが、その氷の眼差しで新たな扉を開けてしまった人多数! 俺の事も冷たい目で蔑んでください! 片桐空!』


 ……このミスター・Tこと田中先輩の紹介の仕方はなんとかならんものだろうか。

 あと、本当に踏まれたい人ランキングってなんなんだ。どこでそんなもんやってるんだ。

 ……はあ、さっさと出ないとまずいよなあ。行きたくないけど行かないと……。


 気が進まないまま舞台へと出て行くと、ドッと大きな歓声があがり拍手が鳴る。

 で、それに釣られて視線を向ければ人人人、大量の人。……これ、全校生徒が集まってるレベルじゃね? 朝礼とかの時と同じレベルで人がいるんですけど。


『さあ、今年のミス竜泉候補である上位5名が揃いました! 一言話を聞きたいところですが、それは順位発表のあとにしましょう! さあ、お前ら! この人達の歌声が聴きたいよな!』

「「「オー!」」」

『声が小さあい! 聴きたいよな!』

「「「「「オオオオォォォォォォ!」」」」」

『オーケー! そこまで言うなら紹介した順に歌ってもらっちゃいましょう! スタッフゥー! マイク渡して!』


 田中先輩と観客のやり取りがあった後、委員の人? が出てきて寧々先輩にマイクが渡される。

 え、これ絶対に歌わないといけない流れ? え、事前にそういうの一切無かったんだけど!? うわ、やばい。歌詞ちゃんと覚えてる曲あったかな……。


『さあ、マイクが渡りました! 木下ちゃんは何歌いますか!』

「んー……じゃあ、Under Pressureで!」

『渋い! ここでまさかのデヴィット・ボウイ! てか、俺らの年代で知ってる奴何人いるんだ! あ、なお、カラオケ機器はカラオケ部からの提供でございます。部員3名! 竜泉祭のためだけに存続していると言っても過言ではない! では、歌ってもらいましょう、Under Pressure!』


 寧々先輩が前に出て歌い始めるが、上手い。普通に上手い。てか、デヴィット・ボウイとか渋いなあ。私もけっこう好きだけど、分かる人本当に何人いるんだろうか。

 あと、カラオケ部なんてあったのね。知らんかった。カラオケ機器があるなら、歌詞を完璧に覚えてる曲じゃなくてもなんとかなりそうだ。さて、なににするかなあ。


『木下ちゃんありがとうございました! いやあ、良い曲ですね。初聴きだけども。さて、お次はこずえの番でございます! 何を歌いますか! できれば俺へのラブソングでおなしゃす!』

「……ばか。じゃあ、そうね……and I love youで」


 古舘先輩が、田中先輩の言葉で少し顔を赤くしてそう答える。やだ、この人可愛い。

 そして、しっかりラブソングを選ぶ辺りツンデレさんの可能性が!

 因みに、このやり取りで観客からは田中爆発しろという声がするが、田中先輩は全く気にしていないみたい。


『馬鹿と言いつつしっかりラブソングを選んでくれる君が素敵だ! じゃあ、歌ってもらいましょう、and I love you!』


 そして、歌い始める古舘先輩だが、クールな知的メガネな美人さんが甘々なラブソングを歌うというギャップが素晴らしく良い。


「……空さん空さん」


 ん? 古舘先輩が歌ってるのを聞いていたら、楓ちゃんに小さな声で話しかけられた。なんだろうか。


「……私、何を歌えばいいか思いつかないんですけど」


 どうしたらいいですか? と若干涙目になりながら聞いてくる楓ちゃん。涙目な楓ちゃん可愛いけど、この場合どうやって手助けすればいいだろうか。これ歌えばなんて言えないしなあ。まあ、無難にアドバイスするしか無いかな。


「流行りのアーティストとか、純粋に好きな曲歌えばいいんじゃない?」

「流行り……好きな、うーん……分かりました。ありがとうございます」


 私のアドバイスにもなってないアドバイスを聞き、少し考えた後に微笑みながらお礼を言う楓ちゃん。

 なにを歌うんだろうか。可愛い感じの曲似合いそうだしなー。


『さて、ありがとうございました! さすが俺の嫁! 歌も上手い! ではでは、お次は吾妻さんの番でございます。何を歌いますか!』

「あ、え、えっと、ヘビーローテーションでお願いします」


 古舘先輩が歌い終わり、楓ちゃんの番がやってくる。それにしても田中先輩、私情が絡みまくりである。こんなので大丈夫なのだろうか。てか、彼氏持ちがミスコンに出るって相当凄い事なんじゃと今更ながらに思う。

 で、楓ちゃんがどもりつつ選曲したのは、ヘビーローテション。たしか、48人のメンバーからなるアイドルグループの曲だったっけか。あんまり聴いた事ないんで、どんな曲かはよく分からないけども。


『オーケーオーケー! じゃあ、振り付きでお願いしますね!』

「え、ええ!? 無理です! 振りまで覚えてないですよ!」


 なぜか、楓ちゃんに対して田中先輩の弄りが入り、それに驚きわたわたしながら拒否する楓ちゃん。

 うむ、可愛い。田中先輩グッジョブと言いたい所だが、楓ちゃんを弄るのは私の仕事だ。


『まあ、できたらで! それでは歌ってもらいましょう! 権藤権藤雨権藤!』


 田中先輩のボケが分からなかったのか、一瞬ぽかんとした後に音楽が鳴り始め、焦って歌い始める楓ちゃん。うろ覚えで振りも頑張っており、顔が茹でダコみたいになりながら俯きがちで歌う姿が素晴らしく可愛い。これは、良い目の保養ですわ。


 楓ちゃんが頑張ってる姿を眺めながら、田中先輩に彼女の代わりに突っ込みを入れておこう。そのヘビーローテーションじゃねえから! と。あと、このネタ分かる人ってあんまり多くないから! と。


『さあさあ、ありがとうございました! わたくし、今とても微笑ましく心が洗われた気分でございます。では、このまま次にいきましょう! 柊さんは何を歌いますか!』


 歌い終わった楓ちゃんが、茹でダコのように真っ赤なまま、とてとてと小走りで私の横まで戻ってきた。うん、凄く可愛かった。

 可愛かったよ、と伝えると更に顔を赤くして止めてくださいと言われるが、そんな楓ちゃんも可愛い。


「じゃあ……天城越えで」

『……随分と渋い選曲ですね』


 そして、柊さんが何を歌うのかと思えば演歌である。思わず素が出た感じの田中先輩であるが、それも仕方あるまい。


「え? 兄弟船とか津軽海峡冬景色の方が良かったですか?」

『いや、そういう問題じゃねえから! なに、選択肢は演歌オンリーですか!?』

「えー……あとは、おふくろさんと川の流れのようにくらいしかレパートリーが無いんですが……」

『ねえ、それ素!? 素でやってんの!? なんなのこの子! じゃあ、歌ってもらいましょう! 天城越え!』


 柊さんとのやり取りに逃げるように曲を流すよう促す田中先輩。……うん、仕方ないね。

 にしても、柊さんって前に球技大会の打ち上げでカラオケ行った時もこんな感じだったっけか。……あ、人数多くて部屋分けたせいで柊さんと一緒じゃなかったんだ。他の部屋でこんな感じだったのかなあ。1曲なら盛り上がっただろうけど、ずっと続いたら盛り上がりにくい非常になんとも言えない空気になってたんだろうなあ。

 てか、拳きいててめっちゃ上手いんですけどなんなんですかねこの人。


『さて、ありがとうございました! そして、明らかに歌い慣れてます! 本当にありがとうございました! では、ラスト! 片桐さん何歌いますか!』


 さて、私の番である。歌う曲はちゃんと決めた。柊さんが演歌選んだ時は、私もネタに走るべきかとも少しだけ思ったが、純粋に好きな曲を歌う事にする。


「Your Songでお願いします」

『……デリコ?』


 曲名を言ったら、デリコかと聞かれたので頷く。あ、デリコとはLOVE PSYCHEDELICOの略称である。


『オーケー分かりました! そして、今回のメンバーの半数が渋めの選曲とはどういう事なんでしょうか! あと、今年出たアルバムから選ばない辺りこだわりがあるんでしょうか! では……』

「え、アルバム出てたんですか?」

『歌ってって……え、ええ。友人が買ってたから出てたはずです』


 アルバム出てたとは知らなかったので、思わず聞き返してしまった。田中先輩も聞き返されるとは思ってなかったのか、戸惑った顔をして返事をしている。


「買いに行っていいですか?」

『後にしてください! そして、お願いだから俺のペースで君たちを弄らせてください! では、歌ってもらいましょう、Your Song!』


 ち、買いに行っていいよと言ったら、この場から退避して即買いに行ったのに。

 まあ、今は歌いきる事に専念しよう。なにせ、好きだから選んだ曲だが、日本語と英語の歌詞の繋ぎ目部分とか色々と難易度の高い曲なのだ。頑張らねばならない。


 にしても、少し前に出て歌っているが、この光景は圧巻である。なにせ、全校生徒数千名と思しき人数が集まり、曲に合わせて手を振ったりしているのだ。皆のノリの良さも凄いが、なるほどライブというのはこういう光景なのかって感じ。


『さあ、ありがとうございました! 歌ってる時にマイクを持ってない手が動くのがなんとも可愛かったですね!』


 歌い終わり、ワッと拍手が鳴り、田中先輩がそんな事を言う。し、仕方ないじゃんか! 歌ってると無意識で動いちゃうんだから!


『さてさてさて、目の保養も耳の保養って表現いいのかな? も済んだところで順位発表! といきたい所ですが、先に模擬店のアンケート結果を発表いたしましょう!』


 田中先輩の言葉に対し、また、早くしろよ田中なんてヤジが聞こえる。

 てか、引っ張りますね。私たちはまだここに居なきゃならんですか。さっさと帰りたいんですけども。


『では! 部活部門とクラス部門の1位を発表したいと思います! なお、1位以外に特典はありませんので、他の順位はどうでもよかです!』


 そんなもん知ってるわと言わんばかりに、さっさとしろよ田中とヤジが飛ぶ。さっきからヤジを飛ばしてる声は同じ声っぽいので友達だろうが、田中先輩は凄まじいスルー力だな。


『では、さっきからヤジ飛ばしてる童貞がうぜえんで、ためは無しで発表いたします!』


 あ、スルー力凄いなと思ってたら、ヤジに反応した。観客からはその反応に笑い声が聞こえる。


『では、まず部活部門の第1位! 囲碁部! くれくれクレープ!』


 ほー、1位はクレープ屋さんか。私には甘すぎたけど、たしかに美味しかったもんなあ。


『感想は、お店で売ってるレベルです! や、いい加減囲碁部からクレープ部に変えろ! などがございますね。なお、1位の囲碁部には来年度の部費優遇特典がお贈りされます。7年連続で部費優遇とかどうなってんだっていうね! 少しは運動部に譲ってやれよっていうね! あと、お前ら8人しかいねえのにそんな部費必要ねえだろっていうね! また、来年も軽井沢囲碁合宿か! 羨ましいぞこのやろう!』


 囲碁部7年連続で1位なのか。凄いな。あと、軽井沢囲碁合宿ってなんだ。軽井沢行かなくていいだろ。


『ではでは、妬みはこれくらいにして、クラス部門の発表になります! クラス部門の第1位は、1年3組! 執事もど喫茶!』


 ……お、お、おおお?

 おー! 凄い、1位か! まさか1位になるとは!


「す、凄いですね! 私たち1位ですよ!」

「うん、ね!」


 楓ちゃんも驚いたのか、嬉しそうに声は抑え気味だが興奮してそう言ってくる。柊さんはよく分かんない。隣でほんわかしている。


『感想は、お菓子が美味しかった! や、イケメン執事ハァハァ! 男装執事にお姉さんがいけない事を教えたい! メガネ執事×不良執事の薄い本はまだですか! などがありました。俺自身もここに行ってみましたが、たしかにもう男でもいいかなって思うくらいにイケメン揃いでしたね。まあ、準備しているメイドさんたちに心奪われてたんですけども! では、1年3組の皆さんには、30枚綴りの日替わり定食券をプレゼントでございます! おめでとうございます!』


 田中先輩がそう言い、拍手が鳴り響く。

 感想が酷い事になっているような気もするが、きっと執事喫茶なんてこんなもんだろう。きっとそうだ。そうに決まってる。

 しかし、日替わり券かー。これで残ってる分と合わせて50食以上タダで食べられる事になったわけだが、どうしようね。このまま使わないでいるのは勿体無い気がするが、お弁当作り日課だしな。んー……まあ、いいか。使わなくて。


『では! お待たせいたしました! 今年のミス竜泉の順位発表をいたします!』


 やっとか。やっとこの場から退場できるのか。


『では、第5位から! 第5位! 吾妻楓! おめでとうございます!』


 5位が発表され、ワッと拍手が鳴り響く。

 楓ちゃんは横でホッとした顔をして息を吐いている。早い段階で名前が呼ばれたのと、この中では順位が下だった事で安心したのだろう。いいな、私も早く呼ばれないかな。


『お次は第4位! 古舘こずえ! さすが俺の嫁!』


 発表と同時にまたも鳴り響く拍手。

 さっきからのやり取りといい、俺の嫁発言といい、田中先輩と古舘先輩が付き合ってるのは確定だろう。彼氏がいる状態でミスコンン4位とか、居なかったら何位なんだろうね。下手したら1位、普通に考えたら2位辺りまで食い込みそうだ。そして、私の名前は呼ばれなかった。残念。


『では、どんどんいきますよー! 次は3位です! 3位は、柊雪子! でも、その胸囲は圧倒的1位!』


 柊さんが横で、おーなんて声をあげてるが、驚いてるのか喜んでるのかよく分からない。この子、ぽわぽわしすぎでしょう。

 そして、おかしいな。私の名前が呼ばれてないんだが。残ってるの1位と2位なんだが、これはなにかの不具合だろうか。


『ではではでは、残りは2名! 果たして木下ちゃんが3連覇するのか! それとも、新星が現れるのか! お次は第2位! ………………木下寧々! 惜しくも3連覇ならず! そして、3年間不動かと思われたグランプリの座を奪ったのは、片桐空!』


 今までのとは比じゃないレベルの拍手や歓声が沸き起こるが、私のテンションはそれに反比例するかのごとくダダ下がりである。

 ……なんですか、ミスコングランプリとか。そういうの本当に要らないんですけど。

 だって、これあれでしょ? 希帆の言う通りなら、この後のキャンプファイヤーで告白イベントでしょ? で、無駄に1位になった私は告白されまくる流れでしょ? 最悪じゃん。


『では、最後にですね。この5人のほうから! この後にあるキャンプファイヤーで一緒に過ごす人を決めてもらいたいと思います! まずは……ええい! 1位から行ってしまおう! 片桐さん、誰と過ごしますか!』


 ……は? え、ええ!? え、誰と過ごすって、え? 私から誰かを選べって事? え、男を? ええ!?


『あ、身内は認めませんが、女性でも可です。ただ、女性を選んだ場合、ガチレズ認定されるだけでございます』


 一瞬、頭に希帆がよぎった所で、念を押すように田中先輩が言ってきた。

 別に、ガチレズ認定される事が嫌かって言われたら、ぶっちゃけ大したダメージは無い。だが、ここで希帆を選び、そういう趣味はちょっと……などと引かれた場合、私はもう立ち直る事ができない所か、竜泉に今後通う事ができなくなるだろう。と、なると男を選んだ方が無難である。……無難ではあるのだけども。


 身内が駄目だから、陸と父は駄目。てか、まずこの場には竜泉生しか居なそうなので、たぶん居ない。

 となると、候補としては館林、宝蔵院、鍋島君、真田君、今川君、の誰かという事になる。

 まず、今川君はこの場で選んだら愛ちゃん達が泣くと思うので却下。真田君も、将来港に入ってもらうんだし、ここで迷惑をかけたくは無い。なので、却下。

 残ったのは、いつもの3人。で、なーんで思い浮かぶのがコイツなんだろうなあ……。コイツが真っ先に思い浮かんでしまうのは、いつも送ってもらったり頭叩かれてる憎しみのせいではないのだろうか。うん、そんな気がする。

 まあ、嫌いではないし、コイツならこの場で呼んでも恋愛には直結しないだろう。


『では、グランプリと一緒にすごす栄誉にあずかるいけ好かない野郎は誰でしょうか! 発表どうぞ!』

「え、えーと、では館林君で」


 私が館林の名前を出すと、観客からはおーっという声があがり、横では楓ちゃんが目をキラキラさせている。……楓ちゃんそういう意味でコイツの名前出したんじゃないからね。コイツなら勘違いしないでくれると思ったから、出したんだからね。


『と、いう訳でグランプリのお相手は館林某という人物に決定! おめでとうございます! あとで屋上な!』


 田中先輩は、いちいちリア充やら女子に対して反応しているが、古舘先輩は本当にこの人が彼氏でいいんだろうか……。


『では、お次は木下ちゃんいってみよう!』

「秀長くんで」


 順番にって事で2位の寧々先輩の番になり、田中先輩の問いに対しノータイムで答える。

 秀長君……ああ、木下副会長か。……あれ? 木下副会長って寧々先輩の双子の弟だったような? あれ? 身内禁止じゃないの?


『……いや、だからね木下ちゃん。身内は駄目って……』

「秀長くんで」

『……いや、だから』

「秀長くん」

『…………。もうやだこの会長! お前らもさ、もうちょっと頑張れよ! 木下ちゃん好きな人できないから弟の名前出しちゃうじゃん! お前らもっと甲斐性見せろよ! 見せてよ!』


 田中先輩の泣きが入ったので寧々先輩の勝ちだろう。……これ、もしかしてゴリ押せば陸の名前あげても通ったんじゃなかろうか。あ、後夜祭は生徒しか出れなかったはずだから無理か。


『もう、次いってみよう! もう絶対身内は認めねえからな! 絶対だかんな! では、柊さん誰を指名しますか!』

「んー……棗梅子なつめ うめこちゃん!」


 柊さんが顎に人差し指をあて、少し考えたあとに指名したのは棗さんだった。……あれ? ガチレズ認定はいいの? それともガチなの?


『え、それってもしかしなくても女の子です……よね?』

「そうですよー。仲の良い友達なんです」

『……あの、ガチレズ認定されるとかそういうのは……』

「え? 仲が良い友達と一緒にすごすのが目的なんですよね?」

『…………もう、それでいいです』


 ……あれ、これって希帆の名前出してゴリ押せば……。


『……では! 気を取り直して次いってみよう! こずえは田中を指名しますか!』

「しないって言ったらどうなるの?」

『泣く!』

「……じゃあ、あなたでいいわ」

『ありがとーございます! 今後ともよろしくお願いします!』


 そんなやり取りを経て田中先輩を指名する古舘先輩。チラリと見れば、頬がほんのり赤く染まっている辺り、この人はツンデレ……いや、クーデレってやつかもしれない。メガネ美人のクーデレさんが彼女か。よーし、田中先輩表へ出ろ。


『では、最後に吾妻さん! 誰を指名しますか!』

「あ、え、えーと、あの……鍋島君でお願いします」


 楓ちゃんが、わたわたしながら顔を赤くして指名したのは鍋島君だった。うーん、今までの人達がアレだったからか、この反応が初々しくて可愛い。

 しかし、田中先輩が黙ってるが、どうしたんだろうか。


『……渋々ながらといった感じで指名するグランプリ。弟以外は譲らない2位。ぽわーっとした顔で女の子指名する3位。……やっと、やっと俺の見たかった反応が見れました! 超! 初々しいです! これが正しい反応だ。見習えお前ら! そして、そんな子に指名された鍋島とかいう奴を俺は絶対に許さない! 表へ出ろこの野郎! って事でおめでとう!』


 私らの時とはだいぶテンションが違うな、田中先輩。まあ、楓ちゃん可愛かったし仕方ないか。あと、見習えとか言うけど、私が楓ちゃんみたいな反応や言動をしても気持ち悪いだけだと思うんだ。たぶん、この反応は楓ちゃんだから可愛いんだよ。


『てなわけで! 第12回竜泉学園高等学校学園祭、竜泉祭! これにて閉会! お疲れ様でした! この後は皆でキャンプファイヤーだ!』


 ワーッと拍手と歓声が鳴り響き、竜泉祭が終わった。

 長かったけど、楽しかったな。でもあれだな。もう、喫茶店はいいや。執事とかメイドはこれでもう充分です。次はもっと普通な模擬店がやりたいなあ。




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 さて、今私は少し離れた所でキャンプファイヤーを眺めている。

 遠目から、火に当たりながら座ってる人たちや、踊ってる人たちがいるのを眺めてるわけだが、会話が無い。

 不本意ながら館林を指名し、こうして一緒にいる事になったわけだが、2人してぽけーっと火を眺めてるだけで、会話が無い。

 まあ、別に気まずいとかは無かったんだけどね。こうして会話が無い事に気付き、何か喋った方がいいのでは、と思った瞬間からなんとなく気まずい気がしてくるのが不思議である。


「………だな」


 ん? 館林が何かボソッと呟いた気がする。字が? 自覚? そんな感じの事を言ってたように聞こえた気がするが。


「どうしたの?」

「ん? ああ、いや……そのなんだ。月が綺麗だなって思ってよ」


 私がどうしたのかと聞けば、少し苦笑いしながらそう言う館林。

 言葉に釣られ上を見れば、綺麗な満月が浮かんでいる。雲も無いのか、遮られる事もなく綺麗に浮かぶ月はいつもよりも大きく見える気がする。たしかに綺麗だな。


「そういえば、そんな言葉の告白があったね」

「ああ? ああ、夏目漱石だっけか。……柄じゃねえなあ」


 月が綺麗で思い出した事があったので、少しからかってやろうと思っていったら、案の定苦笑いされた。


「ま、だよね」


 コイツがそんな気のきいた告白なんてしてくると思えんし、そもそも告白そのものが有り得んだろう。


「あー、いたいた! そんな所にいないでもっと火のそばまで来ようよー!」


 希帆が私たちを見つけ、こちらへと駆け寄ってくる。

 少し離れた所にはいつものメンバーがいて、こちらへと向かって手を振っていた。


「ん、行こうか」

「だな」


 立ち上がり、希帆の方へと向かう。

 希帆はいつも通り、にしーって笑っており可愛い。2人ですごすどうのとか言われたけど、仲が良い皆で集まってすごした方が楽しいだろうしね。いいよね。


「で、告白したの? されたの?」


 希帆の所まで行き、皆が待ってる所まで向かうが、希帆が随分とストレートに聞いてきた。

 希帆のこういう所は美点なのかどうなのか迷う所だ。まあ、私は嫌いじゃないけども。


「しないし、されないよ。館林君を選んだのだって、そういう誤解をしないであろう人だってのが理由だし」

「だろうな。そんなこったろうと思ったわ」

「ぶー、つまんないの!」


 希帆は答えを聞いてむくれるが、私と館林にそんな展開を期待するだけ無駄だと思うんだ。

 で、まあまあと宥め? つつ、歩いていたら皆が待ってる場所まで着いた。


「片桐さんと輝を2人きりにしてあげようかとも思いましたが、2人じゃ今の時点じゃどう考えても面白い展開にならないと思ったのでお誘いしました」


 うん、そうだね。宝蔵院の言う通りだと思う。皆で居た方が楽しめるだろうしね。館林も苦笑いしてる辺り、同じ感じだろう。


「空さん空さん」


 ん? 楓ちゃんに少し離れた所から呼ばれた。今日は楓ちゃんによく呼ばれる日な気がするなあ。


「空さんは告白したりされたりしたんですか?」

「しないよ。有り得ないよ」


 なんぞやと近づいてみれば、またこれですか。

 てか、そういう楓ちゃんはどうだったんだろう。告白したりされたりしたんだろうか。


「しませんよ。……それに、もしするつもりがあったとしても、メイドさんの格好のままの人に告白はちょっと……」


 ……ああ。たしかに、未だに鍋島君はメイド服のままである。てか、顔を見る限り、メイド服である事を欠片も気にしていないように見える。……丸1日着て慣れたか?

 もしかしたら、鍋島君は特大のフラグをへし折ってしまったのかもしれないね。楓ちゃんが実際どう思ってたのかは分からないけども。


「ねえ、なんで俺の事そんな残念そうな目をして2人して見てるんすか!? ねえ、俺なんかした!?」


 なんかしたっていうか、なんもしてないからっていうか、ねえ?


「いや、鍋島君は馬鹿だなと思って」

「随分と辛辣っすね!? たしかに俺バカだけども!」


 私が素直に言うと若干涙目になって馬鹿を認める鍋島君。あ、馬鹿認めちゃっていいんだ。


「ああ、なるほど。そういう事ですか。たしかに馬鹿ですね」

「……ああ、なるほどな。馬鹿だな」

「ホント、馬鹿だよね!」

「なんなんすか!? イジメ!? これイジメ!?」


 希帆はたぶん聞いてたのだろうが、宝蔵院と館林も楓ちゃんを見て、その後鍋島君をというか、主に服装を見て、得心がいったという感じで馬鹿だと言う。

 イジメというか、ただの感想だよね。あと、若干の罵倒。


 で、結局はヘコんでしまった鍋島君をフォローして慰める楓ちゃんを横目で眺めつつ、キャンプファイヤーの前でまったりしたのでしたとさ。


「そうだ! 最後に写真撮ろうよ!」


 希帆の言葉で、他の人に頼んで写真を撮ってもらったが、メイド服どうのと文句を言ってたわりに、結局の所は結構楽しかったらしく、珍しくにしーって笑いながら写真を撮ってもらう事ができた。

 メイド服はもう嫌だけど、皆で何かをやるのはまたやりたいね。楽しかった。




 余談ではあるが、帰宅したら母に私の執事姿の写真とメイド姿の写真を携帯から見せられた。

 なんでも、希帆にメールでもらったのだとか。ねえ、いつの間に希帆とアドレス交換してたの!? あと、あの子いつの間に写真撮ってたの!?

 あ、PCに保存してプリントとか止めなさい! 止めてください! ホントお願いしますから! 父もカードケースに入れるとか言わない! 陸は大変だねえなんて笑ってないで、お姉ちゃんを助けなさい!

田中先輩の小設定

放送部所属。よく女の子をナンパするような言動をするが、実際は彼女命。

将来の夢はスポーツアナになって、彼女であるこずえの出てる日本代表のバレーの実況をすること。

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