第22話
凄く長くなりました。
ゆっくり時間のある時に読んで頂けると幸いです。
さて、とうとうこの日がやってきた! 海です! 新潟です! 日本海です! 楽しみです!
と、まあ一通りテンション高いんですよアピールをした所で、本題へと移りましょうかね。
まず、参加者のおさらい。参加するのは、私と希帆と、楓ちゃん、宝蔵院、館林、鍋島君に、館林のお母さんの7名だ。
で、行く場所は新潟県である。貸し別荘は海まで車で30分ほどの所にあるのを借りた。いやあ、本当なら海の近くのを借りたかったんだけどね。海の近くはキャンプ場はあれど、貸し別荘があまりなかったんだ。あるのは高原ばっかりでね。で、近めで良さそうだったのが、車で30分の位置にある、この貸し別荘だったってわけです。
まあ、新潟を観光するなら、車で1時間とか平気で移動するわけだし、30分なら別にいいよね。
でだ。現在、朝の5時半でございます。
今日は4時半起きです。さすがに少し眠いです。なんでこんな早起きかって言うと、集合時間が6時だからなんだよね。
新潟まで車で大体4時間と少しかかるので、あちらにお昼前に着きたいって事で、こんな時間に集合する事になりました。
朝早いし、皆の朝ご飯も用意しようかなって思ったのだけど、容器とか荷物になるし諦めました。コンビニでパンとかおにぎり買えばいいよね、うん。
あ、そろそろ行かないとまずいね。待ち合わせの少し前には着いておくのが基本です。5分前行動ですよ。まあ、私は5分前に確実に着けるように余裕もって行動するので10分前に着くのが基本な人間なんですがね。
待ってる時間っていうのも、中々に楽しいので、それも待ち合わせる時の楽しみ方の1つなのですよ。
あ、今日の格好は。黒と白のボーダー柄で、ノースリーブのロングワンピースに、白いノースリーブのシフォンブラウスです。襟とボタンの所が黒いのがアクセント。靴は編み込みウェッジサンダル、あとはツバが広めのラフィアハットで夏っぽく仕上げてみましたよ。
ラフィアハットは、夏になるとほぼ必ず使ってるお気に入り。まあ、学校には被って行くのは無理だけどね。
どこかに行く時は必ずと言っていい程被るんじゃないかな。熱射病とか怖いしね。あと、日傘って好きじゃないから、帽子が重要なのよ。ラフィアハットは3つくらい持ってるから使い回してる。今回は海って事でツバが広めのやつにしたよ。
因みに靴だが、他にもビーチサンダルとスニーカーも持って行きます。
ビーチサンダルは海で必要だし、スニーカーも足が保護できるからね。サンダルだけじゃ不安です。
キャリーバックは母のお下がり。
チョコレート色のボストン型をしたキャリーバックだ。可愛いのでお気に入り。あとは、こちらも夏っぽくって事でラフィア素材のトートバック。いやあ、なんか夏なんだし涼しい感じで統一したくなるじゃん?
うん、まあどうでもいいね。よし、行こう。
「あら、空もう行くの?」
準備も終わり、行こうとしたら母が出てきた。
家を出る時間は伝えていたが、寝ていると思ったので少し驚いた。
「うん、行ってきます。お土産買ってくるね」
「はい、いってらっしゃい。事故とか気をつけてね。空が無事に元気に帰ってくるのが、1番のお土産なのよ?」
「ふふ、はーい。気をつけます」
ふふふ、うちって結構放任主義だけど、やっぱりああいう風に言ってくれるのって嬉しいよね。愛されてると実感できると言いますかね。しっかり気をつけてしっかり遊んで、お土産をちゃんと買ってこなくてはね。
もう1度、母に行ってきますと言って家を出る。
2泊3日だから、これから3日間家族とは会わない事になる。少し寂しいけど、初めてな訳でもないしね。精一杯楽しもう。
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駅に着くと、案の定まだ誰も居なかった。
まあ、5分前に確実に着くようにって、5分前に着く時間の5分前に出たわけだしね。現在待ち合わせ時刻の10分前です。
いつも通りいつも通り。これが私の平常運転なのだ。さすがにね、前世含めてずっとこれを続けちゃってるからね。もう一生直らないと思うよ、この癖。
まあ、暫くぼーっと待ちますかね。
さすがにこの時間だと人が少ないねえ。会社へ行く方々も7時から8時くらいがメインだろうしね。
夏休みで遊びに行く子達も、さすがにここまで早くない。
……んー、人通りが多くないから通行人観察も暇だなあ。
一応、トートバックに本は入れてあるからそれ読もうかなあ。
ん? 何を読んでるのかだって? 今は山岡荘八先生の織田信長だよ。まだこれしか読んだ事ないんだけどね。面白いよ。
いやうん、凄くどうでもいいね。私の本の好みとか物凄くどうでもいいね。
「あ、空もう来てる!」
私が、道路脇にしゃがんでぽけーっと道路を眺めていると、後ろから希帆の声がした。
腕時計を見てみれば、なんだかんだ5分ほど経っていたらしい。
「おはよ。希帆、楓ちゃん」
「おはよー! いやー、絶好の海日和だね!」
「おはようございます。晴れてよかったですね」
そう言って2人は笑う。凄く可愛い。私服久しぶりに見たけど、凄く良い。素晴らしい。
希帆は、デニム生地のサロペットスカートのミニに、ボーダー柄のパフカットソー。
楓ちゃんは、ロールアップデニムショートパンツに、キャミとニットソーだ。
楓ちゃんがパンツを穿くイメージってあまりなかったから新鮮。いつもだったら2人の格好が逆でもおかしくない感じだね。
まあ、パンツな楓ちゃんも可愛いから全然問題ないんだけどね!
「向こうも暫くは天気が良いらしいからね。良かったよ」
「ふーははは! 晴れ女を舐めないで貰おうか!」
私が返せば、希帆が妙に演技かかった感じでそう言う。
そうか。希帆は晴れ女だったか。私もどっちかと言えばそうだと思うけど、なんか希帆の晴れ女っぷりって凄く強そう。なんか元気と勢いで雨雲をどっかに飛ばしそうだよね。
「まあ、希帆は見るからに晴れ女って感じだもんね」
「あ、確かにそうですね。言われてみれば、見るからに晴れ女です」
「どういう事!?」
希帆が反応するが、2人で、ねーっと言って笑いあう。
どういう事って言われても、そういう事だよとしか言いようがないからね。
一緒にいると人の事も元気にしてくれる希帆が、晴れ女じゃなくてなんなんだってのよ。
「あ、あの、おはようございます」
突然声を掛けられ、3人で振り返ってみれば、そこには黄色と花柄に包まれた鍋島君がいた。
厳密に言えば、ハイビスカス柄のハーフパンツに、マスタードカラーのポロシャツを着た鍋島君だ。
なんと言うか、海! って感じの格好である。いや、似合ってるんだけどね。それにしても、海! って感じである。
今からそんなテンションでもつのだろうか。
「お、鍋島君おっはよー! なんか、すっごい海! って感じだねえ」
どうやら希帆も同じ事を思ったらしい。隣で楓ちゃんもクスクス楽しそうに笑ってるので、楓ちゃんもだろう。
「鍋島君、おはよう」
「おはようございます」
「おはようございます。いやあ、なんか気付いたらこんな格好してたっす」
私達も挨拶を返すと、そう言って笑う鍋島君。
気付かない内にテンション上がり過ぎたんすかねえ、なんて言ってる。まあ、そういう事なんだろうね。テンション高すぎて、初日から飛ばして残りはダウンとかは絶対に勘弁して欲しいものだ。
まあ、彼は旅行中ずっとテンション高くて、帰ってきたらダウンってタイプに見えるのだけどね。
うん、ずっとテンション高いのもちょっと勘弁願いたいな。適度に行こうぜ。
鍋島君の来た所で時計を確認したら、あと少しで待ち合わせの時間になろうとしていた。
そろそろ残りも来るかな? 多分、残りは車でだろう。
そう思って道路を見渡すと、丁度こちらへ向かって速度を落とし、ハザードランプを点滅させているワンボックスがあった。うん、確実にあれだろうな。
「悪いな、待たせたか?」
車が目の前で停まり、助手席が開いて館林が出てきた。
別にそんなに待ってないし、時間通りなので問題ないですよ。
「いえ、時間通りなので大丈夫です。おはよう」
「おっはよー!」
「おはようございます」
「はよっす!」
「ああ、おはよーさん」
「皆さん、おはようございます」
最後に宝蔵院がスライドドアから出てきて、挨拶が終わる。
宝蔵院の格好が、制服からはと言うか、普段の雰囲気からは想像できないくらい砕けてたので驚いた。
なにせ、ダメージジーンズと薄いピンクのレトロカラーなポロシャツだ。こういう格好もするんだなあと驚いた。そして、こういう格好も似合う辺り憎らしいよね。
館林はと言うと、薄手のデニムシャツをロールアップして、下は白のTシャツ。胸元にはサングラスを引っ掛け、黒いボトムスを穿いている。なんて言うかあれだ。それは日本人の体格で似合う訳ないだろって感じ。そしてなのになんで似合うんだよ! って感じ。
足長いし、がたい結構良いし、それで似合うんだろうねえ。全く、日本人離れした体格ですよ。ん? お前が言うなって? うん、知ってる。
「あ、お袋紹介するわ」
そう言って館林が後ろを向けば、丁度車から降りてきた女性がいた。
「俺のお袋」
……随分とおざなりな紹介である。どう反応すればいいのさ。
「ちょと、もう少しまともな紹介の仕方はないの? 仕方ないわねえ。ただ今紹介にあずかりました、輝宗の母です。よろしくね!」
そう言って元気に挨拶する館林母。
なんかイメージしてたのと違った。こう言うと失礼かもしれないけど、イメージしてたのと違った。
私はスラーっとした綺麗系の人だと思ってたんだ。館林がそんな感じだからね。
でも、今目の前にいる人は、どちらかと言うと可愛い系の人。目がパッチリしてて、笑うと笑窪のできる、私よりも背の小さい可愛い人。てか、この人なんで高校生の息子いるの。私、この人が大学生って言っても信じる自信あるよ!
あ、いやまあいいや。とにかく挨拶しないとね。お世話になるんだからね。
「えっと、片桐空です。お世話になります」
私がそう言ってお辞儀をすると、次々に皆の挨拶が続く。
「鏑木希帆です! よろしくお願いします!」
「吾妻楓です。よろしくお願いします」
「鍋島直茂っす。お世話んなります!」
「うんうん、皆礼儀正しくていいわねえ。おばさん感心しちゃうわあ」
そう言って、館林母は笑うが、この人がおばさんと言っても違和感しかない。
だって、だってよ? どう見たって20半ばが限度な人がよ? 相当に頑張っても若く見える20後半な人がよ? おばさんって自分の事言うのどうよ。違和感しかないでしょ。
「じゃあ、行きましょうか。途中コンビニでも寄って朝ご飯や飲み物を買いましょう」
私が、館林母の容姿へ突っ込みを入れていると、宝蔵院がそう言ってまとめた。
いや、容姿に関して私が突っ込むなとか思うかもしれないけどさ。私は歳相応の見た目だよ? 将来の目標が30歳でも見た目年齢25歳! とかだったりするけどさ。
いや、まあもう見た目とか人の格好の話は要らないね。行きましょう、海だ海。
しかし、やっぱり朝が早いからか、皆も朝ご飯まだだったんだね。
これで私だけまだだったりしたら辛い所だったよ。
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はい、現在車内です。そして既に関越道です。
朝ご飯は、ICに入る前にコンビニで買いました。
ポッキーとか手が汚れにくいお菓子も何個か買ってあります。てか、希帆がルンルンと鼻歌を歌いながら買ってました。
私はおにぎりを2個とお茶を1本買っただけ。朝はパン派な私だけど、なんか車内で食べるご飯って、パンよりもおにぎりが食べたくなりません? あ、私だけかな。
買った具は、鮭バターとわかめ。鮭バターはちょっと熱めに暖めてもらったので、けっこう時間が経ってるけど暖かいです。美味しいです。
希帆と楓ちゃんも、おにぎりとお茶を買ってる。今、横で美味しそうに頬張ってます。まあ、希帆はおにぎりが3つだし、他にもお菓子があるので結構な量を朝からいってますがね。
男子達はさすがと言うべきか、おにぎり4つにパン1つにコーラとか平気でやってる。凄いよねえ、なんでそんな量が入るんだろうか。
でも、おにぎりに炭酸は合わないと思うの。そして、炭酸って温くなると不味いから、こういう長距離移動の飲み物としては不向きだと思うの。
「そういえばなんだけどさー」
私がそんなどうでもいい事を考えていると、館林母がこちらへと話しかけてきた。
「なんでしょう」
「このメンバーってさ。どういう流れで仲良くなったの?」
……ん? 言われてみればどういう流れだろう。
「そういえば、なんでだろうね?」
「私と希帆ちゃんは中学からで、高校入ってから、希帆ちゃん経由で空さんと仲良くなれたんですが、宝蔵院君達との流れがよく分かりませんね?」
希帆と楓ちゃんもよく分からないらしい。
「……なんでだっけか」
「どんな理由からだったっすかね……」
館林も鍋島君も分からないらしい。
こりゃ迷宮入りの可能性も出てきたぞ。
「あれですよ。きっかけは、僕が片桐さんに委員長を押し付けられた所からです」
……あー、あれが最初か。
「で、その後、水に流すって事でフロランタンでしたっけ? それをご馳走になった所から、何回かお昼をご一緒するようになりました」
そうだったそうだった。まあ、ご一緒するって言っても誘ったりした記憶は特にないんだけどね。
いつの間にか居たもんね。そして、いつの間にか特に気にならなくなってたからね。
いやはや、何がきっかけで仲良くなるか分からんものだね。
「……なあ、なんで俺はあの時一緒に菓子を貰ったんだっけか」
「なんか、空が助けてもらったお礼とか言ってなかったっけ?」
「そんな事言ってましたね。そういえば、空さんは何を助けてもらったんですか?」
楓ちゃんが私に話を振ってきたが、館林は覚えてないんかい……。まあ、ついでって感じだったしなあ。こりゃあの時別にお礼する必要なかったかな?
「昇降口で、なんかチャラい人に絡まれてる所を助けてもらったんだよ」
「なるほど、それで助けてもらったお礼って言ってたんですね」
私が答えると、楓ちゃんが納得した表情をし、希帆も隣でほーっと言っている。何が、ほーなのか分からないけど、納得した顔をしているし別に触れないでおこう。可愛いしね。
「あー、そんな事あったっけな。その後大丈夫か?」
「大丈夫だよ。特に絡まれてないから」
「そか、ならよかったな」
私の言葉を聞いて、思い出したらしい館林がその後を聞いてきた。
まあ、あの後1度だけ絡まれたけど害はなかったし、特に何も問題はなかったね。
しかしあれだ。今川君といい、館林といい、天然のタラシか何かですかね。普通はそんなちょっと助けた人のその後なんて聞きませんよ。そんなんだから、髪の毛入りクッキー貰うんですよ。
まあ、私にはそんなタラシ攻撃なんて効かないんですがね! こういうのなんて言うんだっけか。あ、あれだ、干物女だ。そうだ思い出した。干物万歳!
「あ、あのー。俺がなんで皆と仲良くなれたのか思い当たらないんすが……」
私が干物に賛美を贈っていると、鍋島君がそーっと遠慮がちに手を挙げて、そんな事を言い出した。
そう言えば、宝蔵院も館林も一応は理由があった訳だけども、鍋島君ってなんでだっけ。
……気が付いたら、居た?
「あー、なんでだっけか。なんか気付いたら居たような」
「確かに。気付いたら居ましたね」
「んー……、館林君達の言う通り、気が付いたら居たって感じだよね!」
「はい、気が付いたら居ましたね」
「俺の扱いぇ……。まあ、知ってた。知ってたっす。そして自分でもそれ以外に思いつかないのが悲しいっす」
鍋島君が肩を落としているが、確かにそれ以外に思いつかないんだよね。でも、全くの理由なしに仲良くなってるなんて事は、まず無いと思うんだよなあ。
なんだっけなあ。なーんかきっかけになるような事があったような気がするんだけど。……あ!
「……球技大会だ」
「「「「「それだ!」」」」」
私が呟くと全員が反応する。当人である鍋島君まで反応したのはどうなのだろうかと思わなくもないが。
にしても、思い出せてよかった。こう、喉に引っ掛かった小骨が取れた感じ。すっきりした。
「なるほどねえ。それにしても空ちゃんはモテるのねえ」
館林母が、前を向いたまま視線は逸らさないが、ニヤニヤしてそう言う。
男に絡まれたってのからそう思ったのか? 別に私はモテたくないんだがなあ。
「そういえば空さん」
モテるどうのの話で楓ちゃんが私に話しかけてきた。なんだろう?
若干、目が輝いてるのが少し怖いのですけども。
「空さんって、高校で何人くらいに告白されたんですか? ちょくちょく呼び出されたりしてましたけど」
ああ、やっぱりそういう系の話ですか。
まあ、楓ちゃん好きだもんね、そういう話。私はあまり得意としてないのだけどなあ。
「……10人を超えた辺りから数えるのを止めたよ」
入学当初は酷かった。休み時間の度に呼ばれたりとかもあったからね。そりゃ荒れますわ。
で、最初は何人目の馬鹿とか数えてたんだけど、次第に面倒になって数えるのを止めた。
最近は落ち着いてきたのか、たまに告白しに来たり、数日に1回下駄箱にラブレターらしき物体があるだけだ。
ラブレターの処分って困るよね。真心を込めて勇気を出して書いた物だしさ。捨てるのも気が引けるし、だからと言って持って帰るのもなんか嫌だ。
まあ、毎回済みませんと思いながら捨ててる訳だけどもね。あの罪悪感はなんとかならんものでしょうか。あ、読む気は一切無いよ、小指の甘皮ほども無いよ。むしろ読む気がないから困るとも言えるね。
「……1度でいいからそんな事言ってみたいっす」
「告白されんのとか面倒なだけだぞ?」
「確かに、僕も好きでもない人に告白されるのはもう勘弁して欲しいですね。疲れます」
「んー、あまり知らない人に告白されるのって嫌ですよね。中身見てないみたいで」
「でもさあ、仲が良くて友達だと思ってた人に告白されるのも嫌だよね。私1回経験あるけど、落ち込んだもん」
「もうやめて! 俺のライフはゼロよ!」
鍋島君の泣きが入ったので、この話題は終了となりました。
ええ、まあ告白とかされたいって思う人はされてみれば分かると思います。面倒なだけです。
好きでもない人に告白されても面倒なだけです。断り方とか考えるの本当に面倒です。
別に、好意を持たれたという事実は嬉しくない訳ではないのですよ。ただ、面倒なだけで。
まあ、気持ちは伝えなくては伝わらない訳ですし、それは分かるんですけどね。
私には伝えなくていいんで。君等のその想いは私には届きませんので。君に届けとか思いながらサッカーボール蹴るような青春は、別に望んでませんので。
「皆モテるのねえ。じゃあ、そんなモテる女の子達におばさんからの助言を1つしましょう!」
話を聞いていて、ケラケラと笑う館林母。
しかしまあ、おばさんには違和感があるなあ。どう見ても、なあ。まあ、いいや。助言ってなんだろうか。
「おばさんみたく、変な男に引っ掛からない事! 他に女作って居なくなるような男は絶対駄目よ!」
……うっわ、笑えねえ。館林母は笑いながら言ってるけども、笑えないですよ。
とりあえず、私達には、はあと曖昧な返事を返す事しかできなかった。
その後は他愛のない会話を続けたり、音楽に乗って皆で歌ってみたりしながら、新潟へと向かった。
途中のSAで休憩したり、揚げたこ焼きを買ったりして楽しみながらね。
サービスエリアの食べ物って、高いしどちらかと言うと不味いけど、揚げたこ焼きとか屋台のやつってなんか買いたくなっちゃうから不思議。
これも普通のに比べたら全然大した味じゃないのにね。なんでだろうか。これも旅テンションで財布の紐が緩くなってる証拠なのかなあ。
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「んー! 着いたね!」
車を降りて、そう言いながら希帆が伸びをする。
さすがに4時間も乗ってたからね。疲れただろう。
しかし、さっきは凄かった。貸し別荘の鍵を貰う為に受け付けのある所に寄ってからここへ来た訳だけど、館林母を見て、姉弟とそのお友達ですか? だもんね。
母と息子の友達ですって答えた時のあの受け付けの顔ったらもうね。目が真ん丸になってた。まあ、分かるよ。凄くその気持ちは分かる。どう見ても高校生の子どもが居るように見えないもんね。
「じゃあ、早速荷物置いて海に行こう!」
「待って、その前にやる事あるからね?」
希帆が少し気の早過ぎる事を言うので止める。えーなんて言って口を尖らせてるけど、仕方ないんだよ。
今のうちにやっておくのが後々楽なんだからね。
因みに、今回の貸し別荘だが、5人から10人が泊まれるタイプのを借りたので、結構大きい。
白を基調とした落ち着いた外観の2階建てで、露天ではないが、24時間入れる温泉付きなのが特徴だ。
やっぱり温泉は欲しいよね。温泉って素敵だと思うんだ。できれば温泉付きって思って探してたけど、見つかって良かったよ。
「ねえ、空ー。やる事って何やんのー?」
中に入り、2階の和室へと荷物を運び入れた所で希帆がそう言った。
和室は3部屋あり、6畳が2つと8畳が1つだ。私達3人が6畳で、男子が8畳。館林母には1部屋を丸々使ってもらって、ゆっくり休んで頂きたいね。
て、そうじゃない。やる事の説明だ。
「まずは軽く掃除だね。あと食器類の確認と、一旦全部洗わないといけないから、それをやるよ」
「えー、そういうのって平気じゃないの?」
「一応だね。掃除なんかは大丈夫だと思うけど、食器は洗っておこうね」
「……海から帰ってきてからじゃ駄目?」
「海から帰ってきて、ご飯作る前に洗ったりする元気があるならそれでもいいよ」
「よし、今やろう!」
うんうん、素直な希帆は可愛いね。海から帰ってきてから部屋のチェックとか色々やるのは絶対疲れるもんね。
「なあ、俺等は何すればいいんだ?」
館林にそう言われたが、この人達が水回りの仕事とかをできるとはあまり思えないし、何をして貰おうかな。
んー……あ、重要な仕事があったね。あれをやらないと駄目だ。そして彼等でも問題なくできるであろう仕事だ。丁度良い、やってもらおう。
「じゃあ、布団やシーツの数がちゃんと人数分あるか確認してきて。万が一足りなかったら、行って借りてこないといけないし」
「了解。他にはあるか?」
「後は、どこに何があるかの確認かな? 私は予約する時に間取りを見て大体覚えてるけど、分からないでしょ?」
「了解」
一通りのやり取りが終わり、3人が2階へと上がっていく。
うん、ああやって自主的に動いて、やる事を聞いてくれる人達はいいね。仕事が楽だよ。まあ、そういう性格じゃないと私が仲良くなんてできっこないんだけどさ。
「空さん、私達は何をすればいいですか?」
「私達はキッチン回りの確認をしようね。食器が足りるか2人で見てくれる? 私は順次それを洗っていくから。あ、皆の余った飲み物とか持ってきた調味料も冷蔵庫に入れておかないとね」
「調味料なんて持ってきたの?」
楓ちゃんの質問に答えると、希帆から不思議そうな顔をしてそう言われた。
貸し別荘に調味料が備品として付いてくる訳がないから、当然なのですけども……。
希帆は貸し別荘に泊まるのは初めてなのかな。なら分からなくても仕方ないか。
「備品として調味料は置いてないからね。持ってきたよ」
「へー、そうなんだ! 置いてくれればいいのにね!」
私が答えればそう言って笑う希帆。いや、ね。賞味期限のあるものを備品として置ける訳がないからね。そんな事やってたらコストかかって仕方ないからね。
「空ちゃん。私は何をすればいいかな?」
さて、やりますかって事で準備に取りかかろうとしたら、館林母に話しかけられた。
あなたは何もしなくていいんですよ? 運転を引き受けてもらっただけでありがたいので、家事は忘れてゆっくりして頂きたいのです。
「運転で疲れてるでしょうし、ゆっくり寛いでてください。また海に行く時に運転してもらう事になりますし」
「いいの?」
「勿論です。旅行中は家事を忘れて寛いでください。……まあ、運転してもらうので疲れるのは変わらないでしょうけど」
「じゃあ、お言葉に甘えちゃうわね。いやあ、嬉しいなあ。家の中で何もしなくていいだなんて! 運転くらい任せなさいってもんよ!」
そう言って嬉しそうに顔を緩ませて、椅子に座って伸びる館林母。本当に、本当にこの人は高校生の息子がいるのだろうか。なんて言うか、館林母ってよりも館林姉って言った方が納得のいく可愛らしさだ。
うちの母もそろそろ40だと言うのに若く見えるタイプだが、それでも30代な見た目である。
この人は、たとえ館林を14で産んだのだとしても30だ。そして、30にはどう考えても見えない。あれか、これが合法なんちゃらってやつなのか。いや、なんか違う。うん、まあいいや。作業に入ろう。
キッチンは所謂対面式というやつだ。良いよね対面式。うちのキッチンも広くて使い易いんだけどさ、対面式ってなんか憧れる。
作ってる時に家族の顔が見えるってなんかいいじゃん? 寛いでる顔とか、まだかなあお腹減ったなあって顔とかさ。そういうの見ながら料理するのって凄く良さそうだよね。
そんな事を思いながら洗い物をして無事に終了。
食器類も布団も、さすがに10人まで泊まれる事を想定してるので充分余裕がありました。
まあ、分かってたけどね。でも、確認は大事なのです。
「じゃあ、海に行こう!」
一通りの確認作業が終わり、希帆がそう言って外に出ようとする。手には既にビーチバッグがある。まあ、さっきお預け喰らったからね。にしても準備良過ぎだろうと思うけども。
仕方ない。待たせるのも可哀相だから、私も早い所水着取ってきますかね。
「じゃあ、水着取ってくるね」
「えー、遅ーい」
私がそう言って上に上がろうとすると、遅いと文句を言われました。いや、希帆が早過ぎるんだからね。まだ、他の皆も水着取ってきてないからね。
私が持ってきたビーチバッグは、所謂ストロービーチバッグと言われるものだ。ビニールのやつを否定する気は一切ないのだけど、あまり好きになれないのでこれ。あと、麦わらって夏っぽくていいよねって理由もある。
因みに、これを取り出した時に思ったのだが、これさえあればトートバッグ要らなかったよね。
普通にこれ日常生活でも使えるやつだからさ。うん、トート要らんかった。まあ、過ぎた事は仕方ない。無駄かもしれないけど使い分けよう。
あとは、車に乗るので脱いだ、ラフィアハットを持って準備完了かな。よし、下に降りよう。
あ、そういえば今11時少し前だけど、お昼どうするかな。どっかで食べてから行くか? よし、それも降りて皆の意見を聞かないとね。
ほぼ同時に準備の終わった楓ちゃんと一緒に下へ降りると、もう全員揃っていた。みんな早いなあ。
希帆は遅いなんてぶーたれてるけど、そんな事はないはずだ。5分もかかってない訳だし。
「そういえばさ。お昼はどうする?」
私がさっき思った事を聞いてみると、皆が思い出したかのように、そういえば、と言う。……うん、皆考えてなかったんだね。きっとあれだね。皆の中でご飯係は私だったんだ。なんかそんな気がしてならないよ。
「海の家でよくないっすか?」
「確かにそれでいいな」
「ええ、どこかに寄ってと言うのも面倒ですしね」
「私も構わないと思います」
「てか、海の家で焼きそばを食べないと海水浴に来たって言わないよね!」
館林母は終始ニコニコしているだけ。きっと私達の判断に任せるのだろう。
しかし、希帆は妙な拘りがあるのだな。別に海水浴に来たからって海の家で何かを食べる必要は無いと思うし、それが焼きそば限定になるのも意味が分からない。
まあ、別にいいのだけどさ。希帆にどんな拘りがあろうとも。しかし海の家か。着替えるのに使うし、その流れで荷物置いたりして席も取るから丁度いいかな。
じゃあ、お昼の心配も無くなったし、いざ海へと参りますかね!
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海へ着いた。うん、道中なんてもう書く事ない。
そして既に着替え終わりました。どうやら私がラストだったようで、希帆が扉の向こうで待ってます。
「お待たせ」
「待ったよー。さ、早く行こう! 席は取っててくれてるってさ!」
希帆は、既に準備万端と言った体で、上から何かを羽織る訳でもなく、今すぐにでも海に行けます! って感じだった。
ん? 私はパレオ巻いてるし、上にはノースリーブパーカーを羽織ってますよ。無闇に肌を晒さないのです。
てな訳で、希帆に引っ張られて海の家の中へと向かいます。自分で歩けるので引っ張らないでと言いたいけど、こういう時の希帆に言ったって無駄なのはもう分かってる事なので抵抗しないのさー。
「おっ待たせー!」
海の家の中に入り、皆がいる所まで行く。楓ちゃんが、こちらへ気付いたのか手を振っていた。皆が陣取った場所は、海が一望できるとても良い場所だった。
海の家は、板の間に茣蓙を敷いて長机が置いてあるだけのよくあるタイプ。まあ、変にお洒落なのより、こういう昔からある感じの海の家の方が、なんか落ち着くよね。
「じゃあ、日焼け止め塗って行きましょう!」
館林母が、荷物は見てるから遊んでらっしゃいと言うので、お言葉に甘える事にし、とりあえずは日焼け止めを塗る事にした。
あ、日焼け止め塗るにはパレオ外してパーカーも脱がなきゃな。うーん、やっぱり知ってる男子の前で水着ってのは少し恥ずかしい。でも、どうせ海に入るなら脱がなきゃ駄目な訳だし、ここで躊躇してても仕方ないね! よし、腹を括ろう!
「あらあら、空ちゃんは随分と着痩せする子だったのねえ」
私がパレオを外してパーカーを脱ぐと、館林母が面白そうな顔をしてこちらを見ていた。
そんなにこちらを見ないで欲しいんですがね。いくら同性とは言え、ジロジロ見られるのは恥ずかしいのですよ。
「空は色々ずるいですよね!」
希帆が意味の分からない事を言い出した。
「うーん、確かにこのプロポーションはずるいわねえ」
「ずるいですよねえ。私もこんな感じになってみたいです」
いや、2人も同意しないでください!
あと、楓ちゃんは充分プロポーション良いと思いますよ! 細いし胸のサイズも大き過ぎずで丁度いいし!
「つか、脚なげえな。おい、鍋島。ちょっと片桐の隣に立ってみろよ」
「やめたげてよぉ!」
館林がそんな事を言って鍋島君をからかうが、当の本人は涙目である。
まさか、鍋島君の方が背は大きい訳だし、いくらなんでも腰の位置が下とかそんな訳ないじゃんねえ。ちょっと過剰反応し過ぎだよ。……はて、果してどの程度の差があるんだろうか。
「片桐さん! 腰の位置に手を当てて目測で計るの止めてくれませんかね!?」
ちっ、ばれた。
くそう、いいじゃないか少しくらい。別に脚の長さ計ったって短くなったり長くなったりする訳じゃないんだしさ。
「じゃあ、空には私が日焼け止めを塗ってあげよう!」
私が鍋島君達とアホなやり取りをしていると、希帆が後ろから近づいてきた。片手には日焼け止めを持ち、もう片方の手は指をワキワキとさせ、顔は物凄くにやけている。うん、なんて言うか身の危険を感じる怖さだ。
塗って貰ったら、どこまで塗られるか分からないから断ろう。しかも、希帆が持ってるのは私が使ってるやつと違うしね。
「いや、気持ちだけで結構だよ。それに自分の日焼け止め以外はちょっと使いたくないしね」
「え、そうなの? なんで?」
私が断ると、きょとんとした顔をする希帆。手も降ろされているから、もう身の危険も回避できただろう。
「肌があまり強くないからね。日焼け止めでかぶれたりするんだよ。だから、自分が信用しているメーカー以外のは使いたくないんだ」
私が自分の日焼け止め以外を使いたくない理由は純粋にこれ。別にこのメーカー以外のは駄目! って拘りがある訳ではなく、かぶれないならどこでも構わないのだが、わざわざ新しいのを試すのも怖いので、ずっと同じのを使っている。湿布も同じ理由で低刺激のやつしか貼る事ができない。手首を捻挫した時に普通の湿布を貼り、捻挫で痛いし、かぶれて痒くなった時は本当に地獄だった。
洗顔料と化粧水に関しても、別メーカーを使ってどうのという経験はないが、念を入れて気に入ったのをずっと使っている。
「なるほどねー。空って肌白いもんねえ」
希帆が納得をした顔をしているが、肌が白いのは関係があるのだろうか。
あれか? 肌が白いってのは肌が弱そうに見えるとかそういう事なのか?
あと、私の肌が白いのは強度は関係なく、多分体質だ。シミになる可能性があるわけだし、焼くのは嫌なので気をつけてはいるが、そもそも赤くなるだけで黒くならない。なので、多分だけど、肌が白いのと肌が弱いのは関係ない。
「じゃあ、日焼け止め塗って海に行きましょうか」
「そうだね」
楓ちゃんに賛同し、日焼け止めを塗り始める。背中は手伝ってもらわないと無理かなあ。腰まわりと肩甲骨の辺りはできるから、塗れない事もないのだろうけど、ムラができてたなんて事になったら嫌すぎる。
「ねえ、空。背中塗るの手伝ってー」
お、希帆に呼ばれたのでお手伝いしますかね。背中だけでなく全身くまなく塗ってあげてもいいんですぜ? ……あ、これさっきの希帆と同じだわ。完全に同じだわ。よし、自重自重。
その後は、希帆と楓ちゃんの背中に日焼け止めを塗ってあげ、私も塗り漏らしがあると嫌なので塗ってもらった。
希帆は背中を塗る時に、あひゃあひゃと変な声で笑っていたけど、可愛いかったから別に気にしない。
てか、2人とも肌がスベスベで気持ち良かった。
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さて、準備運動も終わったので海に入りましょう。
男子どもは既に海へと走っていったので居ない。なんでも防波ブロックまで競争だとか。
やる事がガキだよねえ。いやまあ、歳相応なのかな。人様に迷惑かけなけりゃなんでもいいや。
で、私達が何をやるかと言うと、希帆が持ってきたビーチボールで遊ぶ模様です。
今現在、顔を真っ赤にさせて希帆が膨らましてます。一生懸命膨らませる希帆は可愛いです。頬っぺたがぷくーってなって可愛いです。あの頬っぺたを突きたいけど、やったら確実に怒られるので、我慢我慢。
「ふー、できたー!」
「ふふ、お疲れさまです」
「お疲れ」
希帆が一仕事やり終えたと感じの満足そうな顔でこちらへボールを見せるので、希帆を労った。
じゃあ、希帆が膨らまし終わった事ですし、遊びましょうかね。とりあえずはお昼までだからあまり時間は無いけどさ。
1時間ほどだろうか。腰の辺りまで海に入りビーチボールで遊んだ。いや、まさか1時間もずっとビーチボールで遊ぶとは思わなかったよ。まあ、男子は1時間ほぼずっと競争してたんだけどね……。
で、お昼も過ぎたし結構冷えたので、お昼ご飯に戻ってきたわけだ。
「おかえりー、凄かったわよー」
私達が戻ると、館林母がそう言うが、何が凄かったのだろう。
私達が何を言ってるか分からずに首を傾げていると、笑いながら凄かった理由を話してくれた。
「輝宗達はちょっと遠かったから分からなかったけどね。空ちゃん達は凄かったわよ。もう、そこらの男の人がみーんなこの子達の事見てたからね。中には子連れで見惚れてる人とか、彼女と一緒に歩いてるのに見惚れて引っ叩かれてる人も居たわねえ」
うわ、まじか。ビーチボールで遊ぶの結構楽しかったから、全然気が付かなかったよ。私の可愛い希帆と楓ちゃんを勝手に許可なく見おってからに。許しがたい奴等だ。
「きっと、空を見てたんだね!」
「ですね。空さんを見てたに違いありません」
その話を聞いて、希帆と楓ちゃんはそんな事を言うが、私はきっと2人を見てたんだと思うな! まあ、私の事も見られてはいたのだろうけど、きっと2人がメインだよ。
だって、ただでさえ可愛い2人が、水着を着て満面の笑みでビーチボールで遊んでるんだよ? 鼻血ものだよ?
「やーねえ、3人とも見られてたに決まってるじゃないの。更衣室から出てきた子達が、うわすっげえ可愛い子達がいる! って言ってたからね。ナンパするか迷ってたみたいだけど、おばさんが止めちゃった」
そんな事もあったのか。しかしナンパ止めてくれたのは本当に助かりました。ナンパとか面倒なだけですし。
「でね。私が、うちの子達だからナンパは駄目よ。って言ったら、空ちゃん達のお姉さんですかって言われちゃったのよー! 息子の友達って答えた時のあの子達の顔と言ったら傑作だったわねえ」
ケラケラと笑いながら嬉しそうに喋る館林母。見た目は女子大生、中身と喋り方はおばさん。そんな感じの人なんだなと、まだ今日半日程度の付き合いだが、理解ができた。
「あー、コイツ等の容姿の問題なんかスッカリ忘れてたわ。多分、またナンパされるだろうな」
「でしょうね。僕等がなるべく離れないようにして、目の届く範囲に居てもらった方が良いかもしれません」
「だな。夏だから変なのも沸くだろう。そういうのに絡まれたらお前等だけじゃ対処も難しいだろうしな」
「俺は腕っ節は強くないですが、壁になるくらいはできるっす!」
「よく言った。なんかあった時は壁になってコイツ等逃がすんだぞ」
「ここは俺に任せて先に行けっすね。なあにすぐに追い付くさって言って、心配を和らげてあげればいいんすね! 分かります!」
……鍋島君、それフラグや。まあ、彼はこう言って笑いを取ろうとしてるのだろうし、なんだかんだ鍋島君がアホ発言をすると場が和むから、これは彼の重要な役目なんだろう。……弄られキャラでもあるけど。
しかし、ありがたい事だ。確かに腕っ節じゃどうやっても敵わないからね。助けて貰えるなら安心だね。
私が逃れようとするなら、蹴り上げて目を潰して、喉元にチョップ入れるくらいしか思いつかないし。それもちょっと場馴れしてる人なら簡単に避けちゃうだろうしね。
その後は、お昼に私はラーメンを食べて、皆で交互に休憩兼荷物番をしながら遊んだ。海で冷えたからか、味は大した事のないはずのラーメンも美味しく感じたよ。あと、交互に荷物を見てたので、館林母にもちゃんと海を満喫してもらえたと思う。
防波ブロックまでの競争は、館林の1人勝ちだったらしく、2人からお昼ご飯を奢ってもらってた。さり気なく賭けてたらしい。
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でだ、夕方になりました。帰り支度を済ませて、別荘へ帰ります。
途中で夕飯と明日の朝ご飯の食材を買わないといけないね。夕飯は何にしようかなあ、やっぱりお刺身とか魚かなあ。
朝ご飯はどうしよう。パンかお米か。あ、お米買わないといけないね。持ってきてないや。
「ねえねえ、空ー。今日は移動もあって疲れたしお店で食べない?」
私がメニューを考えていると、希帆がそう言ってきた。
んー、確かに私は別に作るくらいなら平気なのだけど、確かに皆疲れてるかもしれないなあ。これで手伝えって言うのも、少し気が引けるのも事実だ。
「確かにそうですね。僕等はあまり料理では役に立てませんし、疲れてるのに作ってもらうのも気が引けます。良いお店があるならそこに行きませんか?」
「空ならお店のピックアップは事前にしてるよね!」
皆も同意見らしい。まあ、作るのは多分私メインでやる事になるだろうし、気遣ってくれるのは嬉しいんだけどね。
それに、希帆の言う通り店に関しては、何件かピックアップ済みだ。そして、夕飯を食べるならって考えてピックアップした店は1軒ある。
「じゃあ、夕飯ならここかなって思ってた場所があるから、そこにする?」
私がそう聞くと、皆が頷くので夕飯はお店で食べる事が決定した。行く前に、明日の朝ご飯の材料を買っておかないとね、と言うとそれも反対は一切なし。まあ、当然っちゃ当然なのだが。
「そういえば、行くお店ってどんなとこなんすか?」
「ん? 居酒屋さんだよ」
鍋島君に店を聞かれたので答えたら、驚いた顔をされた。なぜだろうか。
「え、でも俺等未成年っすよ?」
ああ、そういう意味か。確かに居酒屋チェーンとかは入れないよね。でも、個人経営の居酒屋さんなんて、子連れの人も多いからね、未成年がどうのってあまり気にしないよ。子どもがご飯食べる用に、ちゃんとそういうメニューだってあるしね。小料理屋兼飲み屋みたいなお店はその傾向が一段と強いよね。
お酒だって頼みさえしなければ何も問題なく入れるよ。まあ、未成年だけなら無理だろうけどね。
私がそう説明したら、鍋島君は納得したらしく、へえと言っていた。
じゃあ、まずはスーパーに行って明日の朝ご飯を買って行きますかね! クーラーボックスもあるし心配ないでしょう。
念のために店員さんに頼んで保冷用の氷を貰えば、魚を買ったって何も心配なし!
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スーパーに行って明日の食材を買い、今は目的の居酒屋さんに着きました。
いやあ、スーパー凄い楽しかった。必要だったお米とかお味噌は勿論の事買ったけど、何が楽しかったって鮮魚の安さ!
だって、イナダが2匹で100円だよ? しかもこれ、夕方に行ったお陰か、半額の50円になってた。本当にあり得ん。あ、イナダはブリの幼魚の事ね。モジャコ、ワカシ、イナダ、ワラサ、ブリの順で名前が変わる、所謂出世魚と言うやつだ。あ、これ地方によって呼び名が変わるので注意。
あと、生の紅ズワイガニの小さい目のやつが150円で売ってたのには笑った。さすがに安過ぎだろうと。
もうね、この時点で明日の朝食のメニューは私の中で決定したよ。
イナダで照り焼きとなめろうと兜焼きを作って、紅ズワイガニでお味噌汁だ。あとは適当にお新香でいいだろう。うん、朝から超豪華! なのに1人当たりの金額は多分いって300円程度! これだよ。これが私が貸し別荘最強と言っている所以だよ。新鮮で美味しくて、好きな物を選んで食べられる自由度。そして、この安さ! 料理ができないといけないって前提条件はあるけど、それでもこの安さは魅力的だ。
あとは車海老が1笊で1000円だったり、大きい天然の岩牡蠣が1杯500円と言うね。天然岩牡蠣とか東京で食べたらいくらすると思ってるんだって感じ。多分、1500円近くするよ。それが500円! ええ、勿論買いましたとも。むしろ新潟に来たのは岩牡蠣の為だと言っても過言ではないくらいだ。
で、他にもサザエやホタテやイカなど、野菜も含めて色々買って行きました。明日の夜は海鮮バーベキューです。
ああ、スーパーの事でテンション上がり過ぎたね。居酒屋さん着いたのに、いつまでもスーパーの話をしてたらいかんね。
居酒屋さんの店内は、落ち着いた雰囲気で良い感じだった。席はカウンターと座敷の2種類みたい。と言っても、座敷は3つくらいしかないんだけどね。
完全に観光客向けって言うより地元の人が食べにくるお店って感じだ。
私達は7人という人数もあり、座敷に案内された。まあ、それが普通だよね。
「ねえねえ、空。この船盛り1000円からってなに?」
座敷に座り、メニューを見ていると、希帆が不思議そうな顔をして聞いてきた。
あれかな。からの意味が分からないのかな。結局いくらなんだよ的な感じですかね。
「それは、お店の人に船盛りを何円分って言って頼むんだよ。そしたら値段分の盛りつけをした船盛りを出してくれるの」
「へ、へえ。凄いね」
私が説明をすると顔を引き攣らせる希帆。何が凄いのか分からないけど、高級っぽいなあとか思ってるのだろうか。
この人数で割ったら、かなりの値段の船盛りを頼んでも、けっこう安く済むのだけども。
「じゃあ、船盛り頼む?」
「ああ、いいんじゃいか?」
「そうですね。まずはメインそれでいきますか」
「私船盛りって初めてです」
「俺も船盛り見てみたいっすね」
「皆に任せるわね」
「え、え? 大丈夫? 高くない? 平気なの?」
私が提案してみれば、希帆以外の全員が賛成し、希帆は値段を気にして焦り始めた。
「希帆。全員が3000円くらい出すとして、全員合わせたら21000円分も頼めるんだよ?」
「あっ……。おー、凄いね」
希帆はどうやら1人当たりの金額が凄い事になると心配していた模様。でも、こういうお店で個々に頼む訳がないし、皆で折半するに決まってるじゃないか。そして、全員の予算を足せば、かなりの物になる。お酒は飲めないので、この予算だったらかなり食べられると思うよ。てか、多分予算分も食べられないよ。
「じゃあ、注文するね」
私が一番座敷の出口に近いので、そう言ってお店の人を呼ぶ。
頼んだのは、ご飯を7人分と、刺身を適当に。そして船盛りを7000円分だ。あ、あと岩牡蠣追加。2杯で950円なら食べない訳にいかないよね。
「ねえねえ、空」
またも希帆に呼ばれた。今度は何だろうか。
「牡蠣ってさ、夏場は食べちゃ駄目って聞いた事あるんだけど。頼んじゃっていいの?」
それに、スーパーでも買ってたし。とは希帆である。
ああ、それか。牡蠣はRの付かない月には食べたらいけないって言うものね。よく知ってたな。
「真牡蠣は、夏場が産卵期で食べられなくなるけど、私が頼んだ岩牡蠣は夏が旬なんだよ。だから今の時期が美味しく食べられるの」
「へえ、そうなんだ! 私も食べてみようかな」
私が説明すると、知らなかったと言って、笑う希帆。可愛いねえ。癒されるねえ。
「じゃあ、1皿で2杯あるから半分こしようか」
そう提案してみれば、うん! とまた満面の笑み。可愛いのう。本当に可愛いのう。
「お客様、本日はご来店頂きありがとうございます。本日はよろしくお願いします」
うっわ。びっくりした。あ、店主さんが挨拶に来たのか。いきなり話し掛けられたからびっくりしたよもー。
まあ、十中八九いきなり船盛りを7000円も頼んだからだろうな。上客と思われたのだろう。
とりあえず、こちらは美味しいご飯を食べさせてもらう予定ですし、挨拶は返さないとね。
「こちらこそ、よろしくお願いします」
私がお辞儀をして挨拶を返すと、他の5人もぎこちなくお辞儀をする。館林母はニコニコしながらお辞儀をしていた。
「では、ただいまお料理をお持ちしますので、ごゆっくり」
店主さんはそう言って下がっていった。
「びっくりしたねえ」
「本当に、ああいう事ってあるんですね」
希帆と楓ちゃんが驚いているが、まあ当然だろうな。滅多に経験する事じゃないもんねえ。
でも、ちゃんとああいう事をして、しかも感じの良い店主さんだしね。きっと評判通りの味なのだろう。ま、味良し値段良し雰囲気良しと、三拍子揃ってなければ、個人経営で地元の人が寄り付くようなお店にはならないだろうしね。経営者って大変だ。
で、出てきた料理はとても美味しかった。ネタも新鮮だったしね。
船盛りは、さすが7000円と言った感じ。大きかったよ。桜鯛が丸々1匹と甘海老にイカ、その他色々と凄く豪華だったしね。
男子達はお刺身と煮付けでご飯を食べまくっていた。ご飯おかわり自由でよかったよ。3杯は食べてたからね。
私達は、お刺身に煮付けに天ぷらにと魚を中心に舌鼓を打った。まあ、希帆はご飯おかわりしてたわけだけでも。
因みにお値段は、これだけ食べても20000円には届かないくらいでした。
1人当たりは多分だけど2500円くらい? これだけ食べても、1泊10000円の宿に泊まるよりは、別荘代を含めて安く済んでるからね。凄い話だよ。
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その後、宿である別荘に帰ってきて、明日の食材を冷蔵庫に入れた後に、お風呂へ入った。
24時間入れる温泉である。しかも希帆達と一緒に入っても余裕のある広さ。素晴らしいね。
さすがに日差しが強かったせいか、日焼け止めを塗ってても、少しだけヒリヒリとしたが、お風呂に浸かってる内に気にならなくなった。
お風呂の中では、盛大に希帆に揉まれたりとトラブルはありはしたものの、概ね平和に入れたかなと言った感じ。
3人でお風呂に入って、キャイキャイするのは楽しかったです。楓ちゃんのを揉み過ぎて、ちょっといけない声が出かけたのもまあ、許容範囲でしょう。
お風呂から出たら、鍋島君が顔を真っ赤にしてリビングの椅子に座ってた。
何を聞き耳立ててんだっていうね。まあ、覗かないだけ良いけどさ。
館林からは、お前等ちょっとは静かに入れと怒られ、宝蔵院からは苦笑いされた。
……そんなに音漏れてましたかね。それは大変失礼いたしました。
館林母からは、明日は一緒に入る? と聞かれました。望むところですよ。
なんか海ってよりグルメ日記になってもた(´・ω・`)




