第20話
お待たせしてすみません。
今回は、サービスシーンっぽいものがあります。
現在、駅の改札前で人を待っている。
待ち人はもちろん、希帆と楓ちゃんだ。今日から登校も一緒にする事になったので、こうして2人が着くのを待っているわけだ。
いやあ、柄にもなく緊張してたのか、それとも楽しみにし過ぎたのか、今日は起きるのが早かった。なにせ、起きて時計を見たら4時だもの。いつもより、1時間以上早い。さすがに自分に呆れて笑ってしまった。
そして、二度寝をするのもあれなので、くるみレーズンパンを作った。
意味が分からないだろう? 私もだ。最早、暇なら料理をするのは習性になってると言えるのではなかろうか。いや、そんな事はないかな。言い過ぎたかもしれない。
で、パン作りはと言うと、まず生地を作り、醗酵させる。この間に昨日下拵えしていた具材を弁当箱に詰めるけど、パンがあるからおかずだけでいいね。ご飯を炊いていたのが無駄になってしまったけど、お昼と夜に使えばいいのさ。
で、その後ジョギングをしてシャワーを浴びている間に醗酵終了。そして、醗酵が終わった生地を等分して丸く形を作り、布巾をかけて15分ほど寝かせる。寝かせている間は、コーヒー豆を炒って、煎れる準備に使った。
生地を寝かせ終わったら、天板に間隔をあけて並べ、30分ほど二次醗酵をさせる。この間に朝の予習は済ませたよ。
で、焼く前に表面に十文字に切れ目を入れ、溶き卵を塗って15分程焼く。焼いている間にコーヒーを煎れるのも忘れない。
と、まあこんな感じの朝だったわけだ。
因みに、パンは12個焼いたのだが、朝に私と母が1つ、父が2つ、陸が4つ食べた。そして、お昼に私が2個と希帆と楓ちゃんにお裾分けする用で2個。うん、余らなかった。
と言うか、4つ食べた陸がまだ食べたそうにしていて、学校に持って行く用に避けておいたやつに手を出そうとしたので殴って止めた。姉ちゃんは2個も食べられる訳がない! とは、陸の主張であったが、そういう問題じゃない。
よし、いい加減話を戻そうか。
現在の時刻は8時10分前。さっき前の駅を出た所だとメールがあったから、そろそろ着くだろう。
周りは出勤するサラリーマンや、大学生らしき人が何人もいて、チラチラと私の方を見てくる。
まあ、さすがに平日の朝っぱらからナンパしてくるような猛者は居ないがな。もし来たら、大事なところを蹴り上げて、この人痴漢ですと、駅員に突き出してやろう。
しかし、さっきからチラチラ見てくる人の数が凄いな。彼氏でも待ってるのかと思われてたら凄く嫌なんだが。私が待ってるのは可愛い可愛い女の子2人ですよ。そんな、むっさい野郎なんて待ってないですよ。
「空ー!」
携帯が震え、着いたよー! と書かれたメールを見るのと同時に改札付近から声をかけられた。
見れば、希帆が改札の向こうからブンブン手を振っている。こちらも笑いながら手を振り返すと、ピョンピョン跳ねながら両手を振りだした。可愛いけど、周りに人がいるのでやめなさいね。
あ、ほら楓ちゃんに注意された。
「おっはよー! 空!」
「お、おはよう。希帆、元気だね」
小走りで改札を通り、そのままの勢いで抱きつかれました。う、嬉しいんだけど衝撃が……。
「もちろん!」
「おはようございます、空さん。ふふ、希帆ちゃんは昨日楽しみであんまり寝れなかったそうですよ」
「だって、これから空とも一緒に学校行けるんだよ! 嬉しいじゃん! ……ん?」
希帆ちゃんが、後からゆっくりこちらへ来てそう教えてくれる。そして、希帆は私に抱きついたまま、そう返す。
そして、そのまま何かに気付いたのか、鼻をこちらへ向け匂いを嗅ぎだす希帆。
へ、変な匂いはしないと思うんだけど、人に匂いを嗅がれるのは凄く恥ずかしい。
「んー? 空から、いつもの香水に混じって香ばしい匂いがする」
あ、そういう事か。本当に目聡いというか、鼻が効くというか。
「早く起きたからね。パン焼いてきたんだよ。希帆達の分もあるから一緒に食べようね」
「ホント!? わーい! 楽しみだねえ!」
「いつも、ありがとうございます」
そして、早く学校へ行って、パンを食べよう! と私の腕を掴んで歩き出す希帆。いや、落ち着けって。パンは逃げないからね。お昼で大丈夫だからね。
「そういえば、空さんの香水って良い匂いがしますが、どんなの使ってるんですか?」
楓ちゃんに、学校へ向かって歩いてると、そう聞かれた。
「エリザベスアーデンのグリーンティーだよ。花とお茶の香りが好きで、ずっと使ってるんだ」
「へえ、そうなんですか。匂いは強くないですけど、ほのかに香るのが良いですね」
「でしょ? 強過ぎるのは好きじゃないから、これ好きなんだよね」
そう言って、2人で笑いあう。希帆は、香水とかよく分かんないしーって言いながら、まだ腕にくっ付いている。ほのかにシャンプーの匂いが希帆から香ってきて、いい感じだ。なんで女の子って良い匂いがするんだろうね。素晴らしいね。
あ、私が使っている香水だが、香りは数時間で殆ど飛んでしまい、近づかないと香らなくなるので、匂いがキツイのが駄目って人にもお勧めだ。普通に身体につけて使う以外にも、タオルとかハンカチにつけて、ちょっと汗を拭う時や、手を拭く時などに香るのもいい使い方だと思う。
そんな事を話していたら、学校へ着いた。希帆は道中ずっと腕にくっ付いてたよ。うん、少し暑かったです。でも、可愛い女の子にくっ付かれて嬉しくない訳がないんです。だから、引き剥がす事もできませんでしたよ。
仕方ないね。私は淑女だから、可愛い女の子を無下には扱えないのですよ。ん? 淑女の前には何も付きませんよ?
「そうだ! 男子達に海の話を聞いてみないとね!」
やっぱり、早速聞くんだね。まあ、嫌いじゃないし、ナンパ避けには使えそうだしで、構いませんけどね。
あ、でも水着見られるのはちょっと恥ずかしいなあ。Tシャツ着てようかなあ。
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そんなこんなで、休み時間です。
朝のHR前は、海の話はできなかった。主にギリギリに来た、館林と、鍋島君のせいでね。
これから、希帆達がアイツ等を海に誘いに行くらしい。頑張ってこい、お姉さんはここで応援してるぞ!
「ほら! 空も一緒に行くよ!」
そして、手を引っ張られる私。ですよねー。うん、知ってたよこの展開。今日は、こんな役回りが多い気がするけど、気のせいだよね。きっと。
「てな訳で、夏休み一緒に海に行きませんか!」
前もって、話があると伝えていたので、集まってくれていた所で、希帆が開口一番にそう言う。
何がそういう訳なのか分からないし、話が全く伝わってないよ!
「片桐、通訳」
館林にそう言われた。まあ、仕方ないね。
「えっとですね。3人で夏休みに海へ行く事になったのですが、コテージを借りて、安く済ませる事にしたんです。で、人数が多い方が1人頭の金額が安くなるので、そこそこ仲の良い人達を誘おうってなって、あなた達を誘ってみました、な感じです」
私が説明しきると、ようやく得心がいったのか、成る程という顔をする面々。希帆のは明らかに説明不足だったものね。いきなり言われて、皆ポカンとしてたもの。
「……うーん。僕は厳しいかなあ。インターハイ目指してるし、どうせ大会後はすぐに練習漬けの合宿が待ってるしねえ」
今川君がそう言ってきた。そっか、うちは強豪だし練習も忙しいんだろうな。
て、事は真田君も厳しいのかな?
「俺も無理だろうな。今川と同じだが、甲子園を目指しているし、終わったらすぐに合宿だろう。どこかに行けたとしても日帰りくらいが関の山だ」
真田君の返事も予想を裏切らないものだった。まあ、少しだけ粘ってみるか? 無駄だろうけど。
「でも、お盆辺りなら休みもあるんじゃないんですか?」
「自主練がしたいから無理だな」
「そうだねえ。海も行きたいけど、もっとサッカー上手くなりたいからね。自主練に当てるよ。1個下に凄い奴がいるからさ、負けたくないしね」
真田君は相変わらずの仏頂面で、今川君はニコニコしながらだけど少し苦笑いが混じった感じだ。
2人とも、遊びに行くよりも練習するとはね。まあ、それだけ本気なんだろう。
そこまで熱中できるものがあるって、少し羨ましい。私も色々やってるし、手は一切抜いてないつもりだけども、2人のとは何か違うよね。無い物強請りとはいえ、そういうのを持っている人は羨ましく感じるなあ。
あ、そう言えば今川君が言ってた1個下の凄い奴って誰だろう? 陸とか? いや、まさかねえ。
「……コテージを借りるって言ってたが、飯はどうすんだ?」
私が少し別の事に思考を奪われていると、館林から質問された。まあ、ごもっともな質問ですよね。
「作ったり、お店で食べたりですね」
「誰が作るんだ?」
「私と希帆と楓ちゃんかな? まあ、他の人にも手伝って欲しいですが」
「普通に宿借りた方が楽じゃないか? それに、たとえコテージを借りるにしても、わざわざ作る必要は無いんじゃねえの?」
甘い、甘いよ館林。所謂観光客向けと言われるようなお店が、どんだけ高いと思ってるの。しかも、私達が手の出る値段の料理なんて、素材だって大した事がないに決まってる。そして、味はそれなりだ。宿だって、凄く美味しい料理を出す所なんて、私達が簡単に泊まれるような値段設定をしていない。それなりの宿だったら、食事だってそれなりになるんだ。下手をすると不味い。
それに比べ、自分で作るのは、かなり選択肢の幅が広がる。私個人としての狙い目は、地元のスーパーだ。道の駅なんかもいいけど、スーパーは海山問わずお勧め。地産地消の珍しい食材や、こっちでは信じられないような値段で、そこそこ値が張る食材が売ってたりするのだ。
これを買って楽しまずして、観光して美味しい物を食べるなどと言えようか。いや、言えまい。
店で食事をする際にも、こちらで手に入る観光雑誌などに載っているような店ではなく、地元民に愛されているような店に行くのがいい。
なぜかと言うと、大抵そういう店は地元の卸から直接仕入れているため、食材が新鮮である。そして何よりも、味のわりに値段が安いと言う利点がある。地元の人間が行く店だ。高ければ客は入らないし、味が良くなければ店は流行らない。
それっぽい雰囲気の店で高くてそこそこの味でしかない料理を食べるなんて、観光気分で財布の紐が緩んでる観光客がするだけだ。
地元の人間はもっとシビアである。そして、その地元民に好かれている店に行くのがベストなのだ。
今の時代、そういう店を調べる方法なんて、いくらでもあるのだ。活用せずに観光するなど私が許さん。
まあ、観光雑誌などに載っている店の全てがそうとは言えないのだけどね。
でも、こと食事に関しては、その傾向が強いように思えてならない。
あれはあれで、観光スポットとかそういうのを調べる時には、楽だし凄く重宝するのだけど。
そんな事を説明したら、館林に、お、おう。と言った感じで少し引かれた。
いやー、ちょっと熱くなって語り過ぎたかもしれないね。ははは。
「……片桐さんは、財布の紐をしっかり管理する良い奥さんになりそうですね」
私の語りを聞いて、そんな事をほざく宝蔵院。
おいおい、何を言ってるんだね。私が野郎と結婚なんてするわけがないだ、いや、でもずっと独り身も嫌だなあ。
子どもも欲しいしなあ。私の子どもだもん、可愛くない訳がないよね。自分で言うなよって感じだけど、事実なんだから仕方ないよね。うん、ドヤァっていうあの顔文字が似合いそうな台詞だな。自分で言ってて少し恥ずかしいや。
「空には、ガリ勉女の称号に加えて、旅行奉行の称号も与えるよ!」
「そ、希帆は旅行先でご飯作って貰えなくていいみたいだね」
「ごめんなさい! もう言いません!」
旅行奉行とか初めて聞く言葉だけど、凄く嫌な響きだった。
だから、訂正させるためにああ言ったけど、希帆の変わり身の早さに少し笑ってしまった。
「お、笑ったあ」
……ん? 私が笑うのがそんなに珍しいのか? 今川君は。
どちらかと言うと、よく笑う部類に入る人間だと思うのだけど。
「男子と一緒に話してて笑うのって初めてじゃない?」
「そう……だっけ?」
今川君はそう言うけれど、自分には自覚がないのでなんとも言えない。
「あー、そう言えば初めてかもね。私達と一緒の時はニコニコしてるのにね!」
「そうですね。一緒の時はいつも笑ってますが、男子が絡むと途端に無表情になりますからね」
「だよねえ。遠目から見てて笑ってる顔可愛いなあとは思ってたけど、近くで見るともっと可愛いねえ」
「調理実習の時に笑ってる顔を近くで見た俺は勝ち組って事ですね! 分かります!」
「……普段から、そんな顔をしていれば、物凄くもてるんじゃないか?」
「……別にもてたくないんですが……」
……笑顔1つでここまで言われる私って……。
「たまに飯を一緒に食うけど、そん時は笑ってるっていうか、鏑木達の食べてる様子を見てニヤニヤしてるよな」
「あー、ですね。あれは笑顔って言うよりは、ニヤニヤって言った方がいいかもしれません。という事は、僕達も片桐さんの笑顔を初めて見たって事になりますね」
……あ、あははは。食事中に、ニヤニヤしてるのを必死で抑えてるつもりが抑えられてなかった模様です。
これはキツイ。かなりキツイ。こういう時ってなんて言えばいいんだっけか。
あ、あれだ。もうやめて! 私のライフはもうゼロよ!! だ。
てか、私の笑顔とかどうでもいいんだよ! 参加するのかどうかだよ!
「で、参加するんですか?」
私がそう聞けば、誤魔化した。話を逸らした。などと言う面々。
別に逸らしてないから! むしろ話を戻したから!
「僕と真田君はさっき言った通り無理だねえ。行きたいけど仕方ないね。お土産よろしくー」
そう言って笑う今川君と、隣で頷いてる真田君。
「俺は行けるぞ。バイトも問題ないだろ」
「僕も大丈夫ですよ」
「俺も暇っす!」
館林、宝蔵院、鍋島君の順で参加表明がされる。全員共通して帰宅部だね。やっぱり部活やってると厳しいのだろうな。
「じゃあ、引率兼運転手してくれそうな人に心当たりないですか? 私達の親は全員厳しそうで」
「うちのお袋に聞くか? 暇人だしどうとでもなるだろ」
「おばさんはそんなに暇じゃないと思うが……」
「暇だろ。売れないフリーライターなんて」
「あの……無理にとは言わないですよ? なんなら電車でも良いわけですし」
私の質問に対して館林が反応し、そのまま宝蔵院と話し始めたので、止める。無理に引率を頼もうなんて思ってないし。
「まあ、昼休みに電話して聞いてみるわ。お袋なら内容話せば喜んで引率引き受けそうだけどな」
「……ああ、それは言えてるな。あの人変わってるというか、愉快な人だし」
なんだろう。本当に館林の親御さんに引率頼んで良いのだろうか。少し不安になってきたぞ。
その後、チャイムが鳴り、先生が入ってきた為、解散となった。
引率がどうなるか分かるのは昼休み以降に持ち越しだね。
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昼休みになった。相変わらず、私達は中庭のベンチで食事をしている。
もう、初夏と言ってもいい陽気ではあるが、ここは木陰になっているし、時折食堂の周りに広がる池の方から涼しい風が吹いてくるので、とても気持ちがいい。
「さて! 早速だけど、空の焼いたパンを私は所望しているよ!」
希帆は相変わらずこれである。しかし、お裾分けしようと何も考えずに持ってきたが、彼女等には普通に弁当があるわけだし、食べられるのだろうか。
「別にいいけど、食べられるの? 無理はしないでね?」
「空の作った物なら余裕だよ!」
「なんて言うか、空さんの作った物は別腹な感じですね。それが危険なのですけど」
私が心配して言ってみれば、そんな事を言われる。
嬉しいのだけど、嬉しいのだけど私の料理の評価が高すぎやしないか。
まあ、いい。とりあえず、パンを1個ずつ渡しておこう。
「ありがとー!」
「ありがとうございます」
「お食後かな、それとも最初かな。どっちにしよう!」
「私はお食後に食べようと思います」
「うーん……じゃあ、私もそうする!」
私がパンを渡すと、そんな事を2人で話している。パンから目線を全く逸らす事なく、会話を続ける希帆が、とても微笑ましい。
「じゃあ、食べますかね」
「だね! いただきます!」
「ですね。いただきます」
「いただきます」
今日の弁当は、正直さぼりだ。パンは焼いたけど、昨日まではそんなつもりは無かったので、かなり簡単に済ませてしまうつもりだった。そして、どう考えてもご飯のおかずであり、パンに合わせる物でもない。
だって、肉詰めピーマンと金平、出汁巻き卵にきゅうりの塩昆布和えだ。超和食。なんでパン焼いたんだよ私ってくらい和食。
まあ、おかずだけ先に食べて、ゆっくり最後にパンを食べますかね。
きゅうりと塩昆布の組み合わせは美味しいね。冷たいままだし、保冷ができるタイプの弁当箱でよかった。
おかずを片付けて、パンも1つ目を食べ切り、2つ目に差し掛かった。実はけっこうお腹いっぱいになってきたのだけど、まあ、もう1つなら平気かな。
因みに、希帆と楓ちゃんは余裕の表情でパンをモグモグしてる。美味しいらしく、幸せそうな顔だが、私からすると、その胃袋は驚愕だと言わざるを得ない。
「お、やっぱりここか」
ん? 後ろから声をかけられ、振り返ると、そこには館林と宝蔵院、鍋島君がいた。
館林のお母さんに昼休みの時に、引率の話を聞くと言っていたので、その報告だろうか。
とか考えてる間に、ベンチへどかっと座りだす男子ども。なんで座るんですか。報告だけしてさっさと戻りなさいよ。
「お、なんか美味そうなの食ってるな」
どうしたんだそれ。と聞かれたので、焼いたと答える。
「ほう、くれ」
「もう無いですよ」
「お前それ何個目だ?」
「2個目ですが……」
「多くねえか?」
「……まあ、少し多いです」
「手伝ってやるよ」
そう言ってまた手を出す館林。ぐぬぬ、なんて図々しい奴なのだ。
「空ー、手伝ってもらったらー?」
希帆がそう言ってるけど、なんで少しニヤニヤしてるのかな? この子は。
でもまあ、食べ切れない事はないけど、多いのも事実。
少しくらい手伝ってもらうかなあ。なんでだろう、凄く負けた気分だ。
「パネェ、館林君まじパネェ。俺には絶対無理な行為を平気でやってのける。そこに痺れる憧れる」
私がパンを半分に千切って館林に渡すと、鍋島君が小声でそんな事を言っていた。
いや、君はできなくていいよ。痺れもせず憧れもせず、常識を保ってくれたまえ。
「……うめえな、これ」
もらったパンに早速齧り付いた館林が、ぼそっと呟く。
ふふん、だろう? 私が不味い物を作るわけがないしな!
さっきの図々しさは気に食わないが、美味しそうに食べるのならまあ、許してやらんでもないぞ。
自分の作った料理を美味しそうに食べてもらえるのは嬉しいからね!
「あ、でだ。お袋にさっき確認した。お前らの事も含めて説明したら、是非とも引率させてくれ、だとよ」
おー、よかった。これでなんの心配もなく行けるね。人数も決まったし、あとは予約を取るだけだ。
「車はうちのを使って下さい。ワゴンがありますので。先程、確認を取ったら輝のお母さんが使うなら問題はないと言ってくれました」
あれま、レンタカーをみんなで出し合って借りるつもりだったけど、足の心配もなくなったか。
保険とか、なんかあった時に別の人が運転してると面倒だし、レンタカーかなって思ったのだけど、幼馴染だそうだしそこら辺は信用してるのかな。
「つー訳で、日程とか色々決める為にも連絡先交換するぞ。お前のだけ知らねーんだよ」
そう言って、隣に座ってた館林が携帯を差し出す。
あれ? 私のだけ? 希帆と楓ちゃんのはなんで知ってるの。
「希帆と楓ちゃんのはいつ交換したんですか?」
「ちょっと前にな」
「……手が早いこって」
「誤解を招く言い方はやめろ」
いった! ちょっと軽い冗談だったのにデコピンされた!
……いったあ、赤くなったらどうしてくれるんだろうね。この館林は!
「後で、痛いの痛いの飛んでけしてやるから気にすんな。ほれ、交換するぞ」
「痛いの痛いのは要らないです。はい、赤外線でいいですよね?」
「ああ、大丈夫だ。あと、お前その敬語なんとかならんのか? 正直キモい」
「……キモ!?」
「鏑木と吾妻にはそんな事ないのに、男子には敬語だろ? なんか壁が作られてるみたいで気持ち悪い。俺らだけでも、その敬語なんとかならんのか?」
ああ、私の口調が気持ち悪い訳じゃあないのね。なんだ、よかった。
まあ、壁を作ってるのは事実だし男除けの意味もあるからなあ。対男子はこれが癖になってる感がある。
でも、この人達は私達の友達に分類される男子らしいしな。そういう意味じゃ、敬語は要らないのかもしれない。
男子で敬語じゃない相手って陸以外にいたっけか。……いないかもしれない。
これは偉大なる1歩なのだろうか。それとも攻略への1歩なのだろうか。
一応は友達認定をした人が主人公で、自分を攻略しようとしてくるとか、心がもつかなあ。凄くショックを受けそうだ。だから、男子の友達は作りたくなかったのだけどなあ。だから壁作ってたんだけどなあ。
まあ、野郎がむさ苦しいってのも普通に理由としてはあるんだけどね!
全部今更言っても仕方ないね。彼等はどうやら友達のようだ。友達に言葉遣いで壁を作るのはよくないよね。
「善処します」
「そうしてくれ」
学校での話はこんな感じでお終い。
後は、放課後に買い物へ行って1日終わり!
ん? 何を買いに行くのかだって? まあ、サイズが変わったっぽいからね。女の子には色々あるんだよ!
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放課後、希帆達と駅で別れて駅前のデパートへ行く。
目的の場所は下着売り場だ。ブラがきつくなったからね。今のでも入るのだけど、やっぱり形が崩れるのも嫌だし、何よりもサイズが合ってないのを着けてると体型まで崩れたりと、良い事は何もない。
下着売り場へと着き、手の空いてそうな店員さんをさがす。あ、丁度すぐそばに居るね。あの人に聞こう。
「すみません、ブラを買いたいのですが」
「あ、はい。いらっしゃいませ。サイズはお幾つですか?」
私が話しかけると、こちらへと向き、にっこり接客スマイルをする店員さん。
うーむ、可愛い。20半ばといったところだろうか。派手過ぎない清潔感のある化粧をした、綺麗な店員さんだ。
「えっと、65のDなんですが、少しきつくなってきたみたいで」
「畏まりました。では、簡単にお洋服の上からサイズを計らせて頂きますね」
エプロンから巻尺を取り出し、サイズを計りだす店員さん。
私はそのまま立っているが、何度経験してもこの人前でサイズを計られるのは少し恥ずかしい。
まあ、男性はこの場には居ないから別にいいんだけどさ。何度やってもこれは慣れないや。
「はい、ありがとうございます。ブラをしているので仰るサイズで大丈夫そうでしたが、きつくなったそうなので、1つ上のサイズをお持ちしますね。お好みの色や形などはございますか?」
ふーむ、今日はブラだけで下は買わないつもりだし、なるべく下着に合わせやすい色の方がいいかな。
「白か薄いピンク、または黒でお願いします。柄は派手過ぎないので」
「畏まりました。少々お待ち下さい」
店員さんはそう言って下がって行った。
待ってる間は何をしようかな。てきとうに見て待ってるかね。
しかしあれだ。普通のに混じって、シースルーになってたり、殆ど紐だったりするのが存在するけど、こういうのってどんな人が買うんだろう。凄いよねえ、私には一生縁が無さそうだ。
「お待たせ致しました。何点がお持ちしましたのでお確かめ下さい」
「あ、はい」
いつの間にか店員さんが戻ってきてた。
もしかしたら、凄い下着を見ている所を見られたかもしれない。ちょっと恥ずかしい。
店員さんが持ってきてくれたのは、真っ白でシンプルな総レースのやつと、薄いピンクにジョーゼットレースが付いたやつ、そして黒地で白いレースの付いたやつだ。
どれもシンプルで下着に合わせやすそうだし良いかもしれない。
丁度、色も1個ずつだし、着回せるだろう。カップ付きキャミもあるし、3つあればしばらくはいいはずだ。
てか、1度に何枚も買えるほどのお金は持って来てないしね。徐々に買い足せばいいよね。
「じゃあ、この3つでお願いします」
「ご試着なさいますか?」
「はい、お願いします」
万が一合わなかったら嫌なので試着大事です。
店員さんに案内され、フィッティングルームへと入る。
自分で試着した感じだと丁度よさげ。やっぱりサイズ大きくなってたんだねえ。また邪魔な物のサイズが増した。
いや、人の乳を揉むのは好きだけど、自分のって邪魔なだけだよね。希帆みたく無かったら、そうは言わないのかもしれないけど、大きいのって邪魔なだけだ。
「サイズはいかがですか?」
店員さんが外から声を掛けてくる。さて、ここからが本当の地獄もとい、羞恥プレイだ。
店員さんが、失礼しますと言いながらフィッティングルームへと入ってきて、ブラのサイズを見る。
そして、肩紐の長さを調節してくれたりするわけだが、ブラの中に手を突っ込まれたりするのですよ。そして、脇肉を寄せたり、アレだ。まあ胸に付いてるアレの位置を調整されたりする。
これが恥ずかしい。相手は専門家? だし、同性だから他意はないのだけども恥ずかしい。
そして、私には無駄な脇肉などないから引っ張らないで下さい!
位置を直す為に仕方ないとは言え、あまり触らないで下さい。くすぐったいから!
「アンダーも丁度良さそうですし、問題なさそうですね。きつかったりしますか?」
「……いえ、大丈夫です」
そう言って、チェックが終わる頃には結構疲れてしまった。
これ、慣れる人っているのだろうか。凄く恥ずかしいし、凄く疲れるよ。
「では、こちらの3点でよろしいですか? それともまだ見ていかれますか?」
「いえ、これで。この3つ下さい」
3つが同メーカーでよかったよ。これを3回とか死んじゃう。
「畏まりました。では、失礼します」
その後は、普通に会計を済ませ家に帰った。
しかし、Eか。大きくなるもんだな。中学入った頃はAだったと思ったけど、成長するもんだ。
これ以上は邪魔だから要らないけど、希帆にはカップ数は秘密にしたほうがいいかもしれない。泣かれるおそれがあるしね。
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家に帰ったら、母にどんなのを買ってきたのか、嬉々としてチェックされた。
確かに買う為にお小遣い貰ったけど、娘の下着をチェックする必要はないと思うんだ!
そして、どうせ洗濯する時に見るじゃんかよ!
サービスシーン(笑)
自然な感じになってればいいのですが。




