表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/37

第2話

 俺が通う事になった私立竜泉(りゅうせん)学園高等学校は、10年ほど前にできた新しい高校だ。

 生徒の数は比較的多く、入試は難しいながら特別な入学形式も数多く用意し、才能を秘めた生徒を多く集める事で有名である。

 その結果、近隣から成績優秀者を特待生として集め、スポーツなどの一芸による入学も積極的に行われ、学業、スポーツ、芸術とあらゆるジャンルにおいて素晴らしい成績を残し、近隣に住む子ども、いや、主にご両親の方か。には、憧れのまととして見られている。


 俺はと言うと、勉強面で評価され特待生として入学した口だ。


 校門をくぐるとそのまま坂になっている。

 いや、意味が分からないと思うが、校舎なぞ見えず坂が続いているんだ。

 多分、斜面を登りきると校舎が見えてくるのだろう。つまり、この校門から先の小高い丘になっている部分全てが学校の私有地って事だ。でかすぎだろ。


 5分ほど桜並木の坂を登ると、やっと校舎が見えてきた。

 でかすぎて笑えない。これは毎年、校内で行方不明者が出ているに違いない。いや、さすがに無いか。


 受付を済ませ、入学式が行われるという第1体育館に向かう。

 因みに、体育館は第3まであった。パンフレットを見る限り、校庭に加え、野球場にブルペン、サッカーコート2面、体育館3つ、屋内プール、テニスコート6面、陸上トラックなどがあるらしい。なんだか恐怖を覚えるレベルで施設が充実している。


 入学式は滞りなく終わった。

 学園理事長からの有り難いお言葉に、新入生代表の宣誓、生徒会長からの歓迎の言葉等々だ。


 学園理事長は、詰まらない話をするかと思ったら意外とまともだった。要約すると、この 学園は様々な才能を持った子を集めている。夢を持つ者はその夢の実現の為に、持たない者は見つける為に、そして、勉学に部活に恋に、あらゆる物の為にこの学校の施設や教師を利用し尽くして欲しい。って感じだった。眠くなる話が延々と続くのを覚悟していた為、良い意味で期待を裏切られた気分だ。


 そして、新入生代表の挨拶。まあ、これは特に変わった点も無いので割愛。

 強いて言うなら、理事長と同じ苗字なメガネ男子って所か。あれは所謂鬼畜メガネって奴に違い無い。そんな顔をしていた。偏見かもしれんがな。


 生徒会長は物凄い美人さんだった。

 明るめの茶髪に二重の大きな瞳、何よりも目を惹いたのが、凶暴なその胸だ。何せ壇上に上がる時にユサユサと揺れていた。一体何を食べたらあんなに育つんだろう。肩こりとか凄そうだし決して自分は欲しいと思わないが、どうやって成長したのかは気になった。


 終了後、新入生はHRホームルームの為に教室へ。保護者は説明会だそうな。


 自分は3組らしい。爽やか系では無いけど3組。うん、要らん事を言った。


 教室へ入ると黒板に席順が書かれた紙が貼ってある。

 俺は廊下側、前から3番目。できれば窓際がよかったんだけどな。まあ、席順が出席番号順みたいだから仕方あるまい。

 早めに席替えイベントでも発生して窓際を確保できる事を祈ろう。


 隣には、ショートカットの活発そうな子が座ってた。

 こちらの視線に気付いたのか、ニコニコしながら手を振ってくる。かわええ。

 こちらも笑顔で返し、席に座る。隣だしきっと仲良くなれるだろう。仲良くなれなかったら、毎晩枕を濡らすだけだ。問題ない。


 席に座って、周りを見渡すがそこでおかしい事に気付いた。

 このクラス。やたらと美人やイケメンが多いのである。

 普通な子もそりゃもちろんいる。しかし、それこそクラスにいや学年に1人2人レベルであろう人間がこのクラスだけで何人もいる。


 ふくよかでおっとりした印象を受ける胸の大きな美人さん。服の上からだから正確なサイズは分からないが、Fは堅い。


 背が小さくスレンダーだが、猫目が印象的な気の強そうな可愛い子。


 隣の子もそうだ。ショートカットに大きな瞳。笑顔が似合う太陽みたいな子。


 メガネのよく似合う爽やかだが、Sっ気のある顔をした男子。ってかコイツ新入生代表じゃんか。


 陽に焼けた小麦色の肌をした爽やか系男子。こう、サッカーとか凄く似合いそうな感じって言えば分かるかな。


 坊主頭だが、寡黙な雰囲気を漂わせる武士って言葉が似合いそうな奴。コイツは十中八九野球部だろう。


 そして、茶髪ピアス。どう見ても不良だが、機嫌が悪そうな鋭い目付きがまたもてそうである。


 因みに、群を抜いて美人、またはイケメンをあげただけでこれだ。

 平均より上ってなると、今あげた倍以上になるか。40人クラスのほとんどが平均より上である。

 もうこれはクラス分けに悪意を感じるレベルだよね。


 全員が席に着いたのを見計らって、担任の教師が教壇へ立つ。

 こう、なんて言えばいいのだろう。普通だ。凄く普通だ。この普通さが堪らなく良いの! ってコアなファンができそうなくらい普通な先生だ。


「えー、私の名前は山中鹿之助やまなか しかのすけって言います。皆さん入学おめでとう。そして、1年よろしく」


 訂正。名前がちょっと普通じゃ無かった。ただし、声もよくある感じの普通な声だった。


「山中鹿之助なんて名前ですが、ドMじゃありませんし、七難八苦を月に願ったりした事もありませんので、よろしく」


 そんな名前付けられたらそう弄るしか無いよね。うん、自分弄りからのボケも普通だ。


「じゃあ、そんな下らない戯言は置いておいて、今後のスケジュールの説明を始めます」


 スケジュールの説明なんてどこも代わり映えしないもんなのな。

 オリエンテーションに学力試験に身体測定に……改めて説明する必要の無い物ばかりだ。


「えーっとじゃあ簡単に最後に自己紹介でもして下さい。それで終わりにしましょう」


 自己紹介って苦手だ。

 何を紹介すればいいのだろう。名前に趣味くらいでいいのだろうか。

 それとも何か面白い事でも言って笑いを取りに行くべきなのだろうか。


「はい、どうもー。じゃあ次の人前に出てー」


 あ、もう俺の番か。

 出席番号順ってこういう時に困る。まあいい。大人しく腹を括って行くしかあるまい。


 俺が席を立ち、前に出るとざわっと俄かに騒がしくなる。特に男子からの視線が熱い。

 確かに頑張り過ぎて美人になったとは思うが、お前らなんかに攻略なんぞされてたまるかってんだ。


片桐空かたぎり そらです。趣味は料理です。よろしくお願いします」


 軽くお辞儀をして自己紹介終わり、我ながら当たり障りの無い無難な自己紹介ができた。


「はい、では片桐さんに質問ターイム」


 え? おい、こら鹿! さっきまでそんなん無かったじゃねーか!


 次々と挙がる手。鹿が余計な事を言うから!

 仕方ないので、適当に当てて答えて終えようと思ったら、なぜか鹿が質問者を当てやがりましたよ。なんの変哲も無い普通の顔のくせになんて野郎だ。


「趣味の料理ってどんなの作れるんですか?」

「家庭料理の範囲であればある程度は作れます」

「お菓子も作れるんですか?」

「一通りは作れます」

「好きな食べ物や飲み物はなんですか?」

「コーヒーです」

「他に趣味はありますか?」

「強いて言うなら読書とかでしょうか」

「彼氏は居ますか?」

「居ません」

「好きな人は居ますか?」

「居ません」

「僕を好きになって下さい!」

「申し訳ありません」

「お姉さまと呼んでも構いませんか!」

「他の呼び方でお願いします」


 ……こんなもんで良くね?

 てか、明らかに質問じゃないのが混ざってたよね!


「先生、もういいですか」

「ああ、もう充分でしょう」


 まったく余計な事をしくさってからに。

 次の人は、隣の太陽みたいな子か。どんな子なんだろうね。


「えーっと、鏑木希帆かぶらぎ きほって言います! 食べるのが大好きです! なので、隣の片桐さんにいっぱい作ってもらえるくらい仲良くなりたいと思います!」


 ……いや、自分で作ろうよ!

 自己紹介の掴みとしては有りかもしれないけどさ! 自分で作って!


 鏑木さんのお陰(せい)で、俺に「俺の分も作ってー」等と男子共が騒ぎ出した。

 だが、断る。断固、断る。誰が好き好んでむっさい野郎のめしなんぞ作らねばならんのか!

 可愛い女の子にお菓子を作って持ってくるのは別だが、野郎共てめー等は駄目だ。


 その後、鹿せんせいがざわつきを抑え、滞りなく自己紹介は進んだ。

 因みに、サッカーが似合いそうって言った爽やか男子は全中得点王で、武士って言葉が似合いそうな坊主頭は、リトルシニアで日本一になった投手らしい。

 天は二物を与えずって言葉は嘘だって事が証明された瞬間だったね。


「ねーねー、片桐さんだっけ。私は鏑木希帆! よろしくねー」


 自己紹介も終わり、さあ帰ろうかってなった時に隣の鏑木さんが話しかけてきた。

 もうね、よろしくって言った時にね。にこーって! にこーってしてくれたの。めっちゃかわええの。この子が笑ってたらたとえ雨が降っていたって快晴ですよ。うん、意味が分からない事を言ったね。落ち着こう。


「片桐空です。こちらこそよろしくね。鏑木さん」


 内面ではテンションめっちゃ高いんだけど、上手く出せない人です。口惜しいです。

 でも、頑張って微笑んでみました。にこーってやんのは無理。恥ずかしいから無理。


「希帆って呼んでね! その代わり空って呼びたいんだけど、駄目?」


 あああああ、もうかわええ! なんだこの可愛い生き物は!

 駄目? って! 小さく首傾げるのは反則だろうて!


「ううん、いいよ。よろしくね。希帆」


 いきなり名前で呼ぶとか恥ずかしいけど、頑張るよ。可愛い生き物の為ならなんだって頑張る!


「うぇっへっへ。よろしくねー空!」


 ……その笑い方は可愛く無いよ。


 その後、昇降口に向かう時にアドレス交換をして、丁度母が見えたのでお別れしました。


「早速、友達ができたみたいね」


 帰り道、母にそう尋ねられた。

 そうなんですよ。太陽みたいな笑顔をする可愛い子と仲良くなっちゃったんですよ。


「うん、1人だけだけどね」

「いや、充分でしょう。アナタって本当にコミュりょく高いわねえ。裏表激しいのに」

「失敬な。せめて外面が良いって言ってくれませんかね?」

「大差無いわよ」


 ……くそぅ。さすがに可愛い子を愛でたい欲求を前面に出して生活する訳にはいかないじゃないか。そうなると外面が体裁と整える為に良くなるのは仕方ないじゃないか。しかもこれ、前世からやってた事だし。


 まあ、いい。可愛い子を愛でるという意味では抜群のスタートを切った訳だ。

 あ、このまま可愛い子を囲って野郎共には渡さないっていうのも有りかもしれんぞ。

 そして、可愛い子を野郎の毒牙から守りつつ愛でまくるのだ。これは完璧かもしれん。

 この、身体になってから女性に恋愛感情を抱いた事は無いが、恋愛と愛でるのは別物だからな。


 そんな下らない事を考えながら俺は帰路へついた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ