第17話
更新遅れました。済みません。
高熱+過去最長=遅れ って感じです。
さすがに平熱35度台の私が39度超えの熱を出したら、動く事すらままなりませんね。
「おはよう、空。今日は学校があるのよね?」
「うん、球技大会で行かなくちゃいけないんだ」
さて、皆さんおはようございます。
今日は日曜日だ。とうとうこの日がやってきてしまった。
なんて言う程大げさな物では無いけれど、球技大会の日がやってきた。
クラスの男子達と一部の女子は盛り上がっていたけれど、正直私はどうでもいいイベントだ。
だって、優勝特典の日替わり定食無料引換券だって、お弁当の私には関係の無い話だしね。
日曜日にわざわざ登校しなくてはならないと言う面倒さのが大きい。
「カメラ持って、空が頑張ってる姿とか撮影してもいいのかしら」
母が、顎に手をやってそんな事を呟く。
お母様、文化祭とかと違うのだからね。一般公開されてる催し物じゃ無いからね。
「……文化祭とかじゃ無いんだから。お母さんは素直に陸の試合を観に行って下さい」
「あら、残念」
今日は、陸のU-16代表デビューにもなる国際親善試合がある。
まあ、言ってもA代表の前に行われる前座的な物なんだけどさ。観に行きたいです。
弟の初の大舞台だよ? なんで病欠できないんだろうか!
「姉ちゃん。俺頑張ってくるから、姉ちゃんも頑張ってね!」
「うん、陸も頑張ってね」
任せとけ! なんて胸を張る陸。そんな陸を尻目に、観に行けない私は少し不機嫌。
そんな会話をしてると、登校しなくてはいけない時間になったので家を出る。
陸が、しっかりね! なんて言ってたけど、アイツは緊張とか無いのだろうか。我が弟ながら大物だなと思う。
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「おっはよー! 今日は頑張ろうね!」
「おはようございます」
学校へ着き、教室へ入ると私を見つけた希帆が、そう元気に挨拶をしてくる。
楓ちゃんは相変わらずニコニコ顔だ。
「おはよう、2人とも。にしても、希帆は元気だねえ」
苦笑いを浮かべながら、そう返してしまったのは仕方あるまい。
球技大会如きで、よくもまあここまでやる気が出るものだと感心するよ。
そんな事を考えてる私には気付かずに、それだけが取り柄だからね! と言っている。
そんな事ないよ。希帆の良い所は私がたくさん知ってるからね。
元気の良い所とか、元気な笑顔とか、人を明るい気分にさせてくれるその明るさとか。
……あ、あれ? 元気な部分ばっかり出てくるぞ? 元気だけが取り柄って強ち間違ってないのか?
……ま、まあ、元気なのは良い事だよね!
「でも、その取り柄のお陰で私達が元気を貰えるんですよね」
楓ちゃんナイスフォロー! そう、私もそれが言いたかった!
いやー、やっぱりあれだね。私達くらいの友情になると以心伝心と言うか、言いたい事がちゃんと伝わってくれるから楽だね!
……うん、済まない。調子乗ったね。
でも、たとえ希帆の長所が元気の良い所だけだとしても、それだけで究極的に魅力的な女の子になるくらい突き抜けた長所なんだから、問題無いんだ。きっとそうなんだ!
その後、鹿が教室に入ってきて、簡単なHR。
内容は、今日の球技大会の事と激励と、怪我に気をつけるようにって感じだった。
その後は更衣室で着替えて、球技大会スタートです。
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現在は着替えも終わり、校庭へと集まっている。
しかし、あれだ。このジャージを既に何回か着ているが、毎回このデザインはねーよ。と思ってしまう。
「しっかし、このジャージのデザインは無いよねえ。なんとかならなかったのかな」
「そう? カッコいいじゃん!」
「……私は少し恥ずかしいです」
希帆からは同意を得る事はできなかったが、楓ちゃんはやっぱり恥ずかしいらしい。
うんうん、私もそれには全面的に同意するよ。恥ずかしいよね。この竜の絵が入ったデザイン。
そう、信じられないかもしれないが、学校指定のジャージには竜のデザインが入っている。
背中の部分に、竜泉の文字と一緒に竜が描かれているのだ。
そして、女子のジャージは赤。男子のジャージは黒。
因みに、このデザインは学校指定のウインドブレイカー等にも採用されているらしく、これ着て他校に試合行けとか何の罰ゲームだとぼやいている生徒を見た事がある。
竜泉学園って名前だし、仕方無いかもとも思えなくもないが、学校なんだしもっとシンプルで良いだろうがと思うのは仕方のない事だろう。
きっと、このデザインを考えた人は、中学2年生特有の病気を拗らせたんだろうと思っておく。じゃないとやってられない。
あ、挨拶終わったね。どうでもいい事考えてたら終わってたよ。
とりあえず、体育館に向かいますかね。
「あ、私はすぐに試合なのでお別れです。2人とも頑張って下さいね」
「あ、そうなの? ……希帆。私達の試合っていつからだっけ」
「んーっと、あと1時間あるね。よし、楓の応援に行こっか!」
希帆に尋ねると、すぐに言いたい事を察してそう答えてくれる希帆。
まあ、今回なら誰でも分かってくれるよね。
「ありがとうございます。心強いです」
楓ちゃんもそう言って嬉しそうだ。
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体育館へ着くと、どうやらすぐに試合が始まるらしく、校内アナウンスが流れた。
「じゃあ、私は行って来ますね」
「うん、頑張ってね」
「頑張れー!」
コートの方へ向かう楓ちゃんを見送り、私達は観客席へと上がった。
試合が始まる。どうやら、うちのクラスではなく、相手からの攻撃のようだ。
楓ちゃんは、運動はさして得意な方ではないって言っていたけど大丈夫かな。
バレーのボールって結構痛いよね。突き指とか怖いしさ。無理しないといいんだけど。
「希帆、楓ちゃん大丈夫かな?」
心配のあまり、そんな事を尋ねてしまう。
私の可愛い楓ちゃんに怪我なんてさせたら、許さない。まあ、相手も女子だし、私が強く出れない事は火を見るより明らかな訳ですけども!
「心配無いよ! 楓はバレーの時はけっこう凄いんだから!」
まあ、攻撃面は全然なんだけどね! なんて希帆が返してきた。
どういう事? と首を傾げれば、見てれば分かるよ! と希帆。
まあ、そこまで言うなら大人しく見てるけどさ。
試合開始の笛が鳴り、相手がサーブを打つ。
そのサーブは偶然なのだろうが、陣の隅に吸い込まれるように飛んで行き、ああ、こりゃ決まったな。と思わせるには充分なコースだった。
しかし、それが決まらない。真ん中辺りで構えていたはずの楓ちゃんが飛び付き、なんとかセーブしたのだ。
思わず、おお! と声が漏れたのも仕方ないだろう。
その後も、相手の攻撃を悉く防ぎ、相手に点を許さない楓ちゃん。
まあ、トスやアタックになるとてんで駄目なのか、苦笑いをしてしまうプレーを連発していたが、それにしても、事守りと言う点に関しては物凄い動きをしていた。
「……楓ちゃん、凄いね」
「でしょ? でも、本人にどれだけ言っても認めないんだよね! ちょっと守れるだけだし、攻撃なんて全然できませんし、私なんて凄くないですよ。なんて言ってるんだよ!」
希帆が声真似をしながらそう言う。
確かに、攻撃面では全然かもしれないが、リベロと言うポジションもあるわけだし、ちゃんと練習をすればレギュラーになれる実力はあるんじゃないか? そう思ってしまう程に、楓ちゃんのディフェンス能力は高かった。
「なんて言うか……人に普通じゃないなんて言っておきながら、楓ちゃんもちょっと普通じゃないんだね」
「そうだねー。普通なのは私だけだね!」
いや、おい。それは無いよ。希帆もあまり普通じゃないと思うよ?
「希帆もあまり普通とは言えないと思うよ」
「……空に言われたら、なんかおしまいな気がするね」
いやいやいや、酷くない? それ!
私は普通だし。まあ、小さい頃から頑張ってきたし、その辺では普通じゃないと認めるけどさ。
そんなのは、やってた人間とやってない人間の差って話なだけだし、私は普通だよ!
「だから、私は普通だって」
「無いね! 空が普通とか有り得ないし!」
……断言されたでござるよ。
百歩譲って私が普通じゃないとして、希帆も楓ちゃんも普通じゃない。
こういうのなんて言うんだっけか。……あ、あれだ。類は友を呼ぶってやつだ。
なんか妙にスッキリしたけど、少し凹むなあ。
私は少しばかり努力をしただけの普通の人間なはずなんだけどなあ。
試合終了の笛が鳴った。試合時間短縮の為にワンセットしかやらないらしい。
結果は私達、3組の勝利。楓ちゃんを中心に守備を頑張り、守り勝った印象だ。
楓ちゃんと言えば、仲間から、凄い凄い! と言われ続け、そんな事ないです。等と謙遜している。
うんうん、ああいう所は楓ちゃんの美徳だよね。でも、もう少し自信持ってもいいと思うんだ。
「空、降りて楓の所に行こう!」
「そうだね」
頑張った楓ちゃんを労わなくちゃね。
「お疲れさま。凄かったね」
「お疲れー!」
「あ、空さん希帆ちゃん! ありがとうございます」
下に降り、楓ちゃんに声をかけると、こちらへクルっと振り返り、満面の笑みを向けられた。
やばいよ。おねーさんクラっときたよ。
可愛いって罪だよね。なんでも許せる気がしてならない。
私は可愛い系ではないから、可愛い子って少し羨ましいよ。だって、可愛い系の顔を持ってたら、それを毎日拝めるんでしょう? そんなのたまらんですよ。もうね、私がそんな顔を手に入れたら、いくらでも可愛くなる為の努力をするね! そして、毎日眺めて恍惚とするね! 自分で言っていて気持ち悪いけど、だって仕方無いじゃん。
今の自分の顔、見慣れたんだから!
さあ、話が凄い勢いで変な方向へ飛んでいったけど、元に戻そう。
現在、私達は次に自分達の試合が行われる体育館へと向かっている。
楓ちゃんも、次の試合まではそこそこ間があるらしく、応援してくれるとの事。嬉しいね。
体育館へと着くと、中からは物凄い歓声と言う名の黄色い声が漏れていた。
一体何があったんだと考えて、すぐに合点がいく物に考えが至る。うちのクラスの男子バスケがこの時間帯だったはずだ、と。
「凄い歓声だねー」
「凄いですねえ」
「私達も応援してこっか!」
「それがいいですね」
「空ー、応援に行くぞー!」
ん? え、ああ。私がこの歓声はその男子達のせいだろうなー。と少し遠い目になりながら考えていたら、希帆に呼ばれた。どうやら応援に行くらしい。
別にいいよ応援なんて。アイツ等どう考えても普通に勝つもん。応援し甲斐も無い。
だが、そんな考えとは逆に手を引かれ、中に連れて行かれる私。可愛い女の子に手を引っ張られて抵抗できますか? できませんよね? 私もです。
てな訳で、私の考えてる事なんて関係なしに中へと連れて行かれましたとさ。
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中へ入ると、なんて言うかアイドルのライブ会場ですか? とか言いたくなるような雰囲気に体育館内が包まれていた。
観客の8割方が女子って事もあるのだろう。この人達が写真とか名前付きの団扇を持っていれば、まんまアイドルライブになりそうな感じである。
プレー中は静かなのだが、点が決まると黄色い悲鳴が体育館中から響くのだ。そりゃあもう、耳に優しくない事この上ない。
相手のクラスの男子の目は完全に死んでいた。それもそうだろう。同じクラスと思われる女子達が、うちのクラスの男子が点を決めると、遠慮がちではありつつも、キャッキャと喜んでいるのだから。
関係ないクラスの女子達は完全に3組の応援。唯一、本来なら応援してくれるはずの自分のクラスの女子達も相手側の応援。
そして、そんな女子達を敵に回したくないからなのか、男子達の半数も3組の応援と、私が対戦相手だったら逃げ出して、暫く不貞寝するレベルでアウェーな空間ができあがっていた。
「凄い声援だねー! しかも圧勝っぽいよ!」
「本当に凄いですね」
「……相手が可哀相になるくらいね」
観客席へと上がりスコアボードを見ると、既に20点差がついている。
応援も殆どされず、実力差はありありとしていて、そして対戦相手は超がつくイケメン達。さすがに相手に同情を禁じえない光景だ。
「ね! ね!」
「うん?」
こういう光景ってなんて言うんだっけ、と考えて、公開処刑と言う言葉に行き着いた所で希帆に話しかけられた。
「3人でさ、せーので頑張れって言おうよ!」
「いいですね、やりましょう」
「やだよ、恥ずかしい」
それにそんな事言わなくたって余裕で勝ちそうじゃん。
「そんな事言わずにさ! 同じクラスの人が頑張ってるんだし!」
「そうですよ。一緒に言いましょうよ」
……う、2人からそう言われると弱いんだよな。
この子達からお願いされると、なんでもしそうになるから駄目だ。可愛い子のお願いを聞き入れないなんて、私にできるわけがない。いや、でも今回は恥ずかしいし。
……結局、2人からトドメに、ね? と言われて渋々だが了解するしかなかった。
ああそうさ。結局今回も駄目だったよ。私は可愛い子に弱いからな。
「じゃあ、せーので一緒にね?」
「おう!」
「はい」
「私がせーのって言うね!」
「せーの」
「頑張れー!」
……プレーが再開する直前に言った為か、周りが静かで思いのほか響いた。
私の声だけが。
その瞬間と言ったらなかった。
まるで、体育館中が私に注目するように思えたくらいに視線をあちこちから感じたのだ。
顔から火が出るって表現はこういう時に使えばいいのか。って事を身を以て体験できたよ。知りたくなかったけどね!
「なんで! なんで!」
横でしてやったりって顔をしている希帆の肩を掴んで揺さぶるのも仕方ないよね。
若干、半泣きになってる気がしないでもないけど、そんな事は気にしてられない。それよりも、どうしてこのような仕打ちを受けねばならなかったのか聞き出さなくてはなるまいて!
「いやー、1人で健気に応援する空はすっごい可愛かったなあ」
「本当に、凄く可愛かったです」
顔真っ赤にしてさ、ちょっと恥ずかしそうな感じでさ、なんて2人して話している。
もう、いいよね。2人の事、ちょっとグーで叩いていいよね? うん、いいんだ。そう、私が許す。
「……済みませんでした」
「……ごめんなさい」
2人ともちゃんと反省してくれました。
私の手が少しジンジンするけど、まあ良しとしよう。
しかし、なんでこんな事したのか聞いてみた所、思いつき、可愛いと思ったらいてもたっても、なんて言われた。もう少し悪意のある感じだったら素直に怒れるのにね!
そんな事をしていたら、試合が終わってしまった。
結局ろくに見れなかった気がするけど、別にいいかな、男子の試合だし。
試合内容は、希帆曰く、私が応援した所で、相手のクラスの男子達が、この世の全ての希望を失くした顔をして、一方的にやられたらしい。
いや、なんで相手クラスの連中がそんな顔をするんだよ。たかが私の応援如きで。
しかも、私だって3組なんだから自分のクラス応援するのが当然だろうよ。
そんな事を主張したら、空は男心が分かってないなって希帆に言われた。
いや、そんな事は有り得ないはずなんだけど。
「じゃ、下に降りよう!」
「そうしましょう」
そう言って、また2人に連れて行かれる私。
最近、ずっと私の役回りがこんな感じな気がするんだけど、きっと気のせいだよね?
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「おう、やっぱお前等来てたのか」
下に降りるとこちらに気付いたのか、館林が軽く手を挙げて声をかけてくる。
しかし、やっぱりってどういう事だ?
「プレー中にやたら可愛らしい声援が聞こえましたからね。それで気付きました」
私の疑問にそう言って答える宝蔵院。しかし、その口元が半笑いな気がするのは私の間違いではないはずだ。
こやつ、この後の試合に出れなくしたろうか。
「しかし、学園のアイドルに応援されるっていうのは気持ちがいいねー」
「元気100倍ってやつですね!」
「……確かに」
上から今川君、鍋島君、真田君の言である。
しかし、学園のアイドルって言い過ぎだろうよ。まあ、私のアイドルなら既に2人も居るけどさ。
……うん? 学園のアイドル? なんか嫌な予感しかしないんだけど?
「ああ、なんか片桐さんって、最近そう呼ばれ始めてるらしいよ。きっと、冬の竜泉祭では大変な事になるねー」
私がアイドルとかなんの嫌がらせですか。私はただ、可愛い女の子と楽しく平穏無事に暮らせればそれでいいのですよ。
そして、今川君やい。何が大変な事になるんですかね。
さっきからずっと、嫌な予感しかしないのだけど。
「楽しみだねー。竜泉祭のミスコン!」
ああ、それか。やっぱりそれか。やっぱりそういう系のイベントもあるのか。
「なんでも、お前はミスコンの優勝候補に既に上がってるらしいからな。頑張れよ」
……館林って人事だと凄く楽しそうな顔するよね。
人事だからなって返されるに決まってるから、絶対言わないけど。絶対言わないけどね!
「まあ、入学してそこまでたってないのに優勝候補ってのは、さすが『竜泉踏まれたい人ランキング』中間1位ってとこか?」
……ん? 何その妙なランキング。
私に踏まれたい人がいるの? 潰すけど平気なのかね? てか、随分と気持ち悪いランキングが存在するんだね。そのランキングの運営? は人様の名前使って何してんだって話だよね。よーし、館林。その妙なランキングの出所を教えなさい。私はそのランキング作成者達を抹殺しなくてはならない仕事ができた。
「何、そのランキング」
「知らね。鍋島から聞いた」
出所は鍋島君か。よーし鍋島君。教えなさい。抹殺をせねばならないから。
「済みません。俺はまだ竜泉に通っていたいのでお教えできません」
……凄く真面目な顔をして頭を下げられた。
いや、まあ、そこまで言うなら諦めるけどさ。なんかよく分からないけど、その出所平気なの? 凄く危険な所だったりしないのかな。
「んな事より、そろそろお前等の試合じゃねーのか」
ん? あ、やばい。行かなきゃね。
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なんだかんだ言って、私達は決勝まで来てしまった。対戦相手は3年1組の先輩方だ。
ん? 初戦とか色々どうしたって? 乙女には事情があんのよ。仕方ないの。
まあ簡単に纏めると、楓ちゃん達女子バレーは3回戦で負けた。まあ、相手が組み合わせの都合か3年生だったし仕方ないと思う。頑張ってたけどね。そして、男子バスケは危なげなしで優勝。3年生相手でも圧倒してたよ。さすが運動能力の塊が2人いるだけあったわ。野球とサッカーもそれぞれ、2位と優勝だったらしい。そして我等が女子バスケ。希帆の活躍と、私と前田さん、中東さん、後藤さんの頑張りでここまで勝ち上がってきた。
あ、前田さん、中東さん、後藤さんはバレー部3人娘の事ね。
で、実はですね。この勝負勝っても負けても2位は確定なので総合優勝はこの時点で確定。
後は消化試合って言う悲しい結末が待っています。つまり、全力でやる意味がない。
まあ、元々あれよあれよと言う間にここまで来ちゃっただけで、全力でとかそういう気は一切無かったんだけどね。
しかし、やってみたら案外楽しかったんで、最後くらいは思いっきりやってもいいかもしれない。なんて、思ってたんだけどねえ。
「……希帆、相手さ。大きくない?」
「……うん、大きいよね」
そう、相手に2人ほど凄く大きい人達がいる。
多分、あの2人180はあるよね。バレー部なんだろうか。あの2人に守られたら大変そうだ。
「前田! 中東! 後藤! 全力で来なさいよ!」
「「「は、はい!!」」」
眼鏡の知的そうな長身の人が3人娘に話かけたと思ったら、3人が脊髄反射のように返事をしていた。
「知り合い?」
「バ、バレー部のキャプテンとエースです」
因みにエースの方は、強化指定選手にも選ばれています。と、私が聞くと教えてくれた。
あと、運動部情報で教えてくれたが、あとの3人も、ラクロス部主将とテニス部副部長、陸上部のエースらしい。
……うん、運動能力高すぎじゃないですかね。対するこっちは帰宅部2人居ますよ。
まあ、希帆は帰宅部って言ってもバスケ凄い上手だけどさ。
勝ち目がある訳がないじゃないですか。本気出す以前の問題ですわ。
試合が始まった。
ジャンプボールは当然の如く、3年生チームの物。まあ、知ってたから悔しくはないさ。
ラクロス部主将がボール運びを担当し、両バレー部がゴール下へ入り、高さを生かしたポストプレーで得点を重ねるタイプだった。
もう、これが決まる決まる。何せ最高身長同士でも10センチ近くは差があるのだ。中々止められない。しっかりとパス回しをして確実に決めようとする、ディレイド・オフェンスも有効に働いているのだろう。
私達は逆に、ボール回しをする希帆のスピードに合わせた、所謂ランアンドガンだ。
まあ、今回は中を固められたら、確実に中から得点するのは無理になるので余計に速攻気味になってるけどね。希帆に負けると言う二文字は無いらしい。
一進一退の攻防が続き、点差は堅実に攻めて来る3年チームの方がリード。
私達も頑張ってはいるが、攻撃の時は確実に決めてくる為、点差が縮まらない。
しかも、しかもだ。正直、疲れた。試合時間が短いとは言え、ここまで何試合もこなしているのだ。相手さんピンピンしてるけど、私は疲れました。
この辺が、趣味でジョギングしてる人間と、ガチで運動している人間の差だろうね。
応援の方はと言うと、丁度半々って所か?
女子運動部の皆さんは先輩方の応援、男子の皆さんは勝ち上がってきた1年の応援って感じ。
野太い声援要らないから、私も黄色い声援が欲しいです。
その後も、ランアンドガンとディレイド・オフェンスの対極的な攻防は続く。
そして、次第に声援する人達も、声を潜め見守るようになっていった。
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試合時間の残り少なくなった。体育館内はバスケをする音だけが響いている。
そして、私の体力は既に限界である。いや、もう腕上がんないって。
明日、学校振り替えで本当に良かった。筋肉痛が酷い事になるんだろうなあ。
腕が上がらないと言いつつも、私は3ポイントを打つ機械のようになっている。
と言うより、3ポイントを打つ以外でまともに動きたくない。
あと少し、あと少しで試合が終わる。点差は2点。でも、どうでもいい。試合が終わったら帰って寝よう。うん、それがいい。素晴らしい。打ち上げとかあったとしても帰って寝る。
「空!」
ん? あ、希帆からパスが来た。また3ポイントを打つ作業が始まるね。でも、この作業が少し楽しいんだ。
「スリー!」
私がシュートを打つと誰かが叫んだ。そしてギャラリーも沸く。なんだって言うんだ。
静かにしろい。あの音が何度でも私を蘇らせ――ピィーーー! ん? 試合終わった?
ゴールを見ると、丁度私が打ったシュートがリングを通る所だった。
なんてこった。決め台詞が決まらなかったじゃないか! いや、どうでもいいんだけどさ。
で、ブザービーターってやつだっけ? で、点差2点だったよね? で、私が打ったのは3ポイント。……あれ? 勝った?
「やったー! さすが空! さすがミッチー2世!」
希帆がそう言って抱きついてくる。
いや、誰がミッチー2世か! 全中なんて出た事ないし、前歯だって無事だわ!
そんなじゃれ合いをしつつ、お互いに健闘を称え合い、簡単な表彰式が終わった。
表彰式では、食事券と種目優勝の賞状を貰った。優勝したのは正直言って嬉しいが、これは要らない。
「よーし! 優勝記念に皆でカラオケ行こうぜー!!」
よーし、帰るか!
誰が言い出したかは知らんが、この疲れてるのにカラオケなんてやってられっか。
「空ー? どーこーいーくーのー?」
「どこ行くんですか?」
帰ろうと踵を返した瞬間、後ろからガッチリ掴まれた。
振り返ると、希帆と楓ちゃんがニコニコ顔で私を捕まえている。
「……いや、疲れたし帰ろうかなって」
「打ち上げは?」
「いや、私は欠席でいいよ」
「用事があったりするの?」
「……特にこれと言って急ぎの用は無いけど」
「空も行こうねー」
問答無用で私を引きずる2人。鬼や。
私が聴く女性アーティストって、Evanescenceや鬼束、LovePsychedelicoとかだからカラオケには向かないんだよ!
そして、無理矢理カラオケに連れて行かれたのが悔しかったので、空気の読めない女としてやってやろうと思い、バラードを歌ったら何人かに感涙された。いや、そこまでじゃないだろ。
その後、男子がジャムプロで勝手に盛り上がってるのを眺めたりしながら、カラオケが終わった。
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「ただいまー」
やっと家に帰れた。疲れた。
「あ、姉ちゃん。おかえり! どうだった?」
リビングに入ると、弟が寛いでいてそう聞かれた。
どうだったとは球技大会の結果だろう。なので、ビッと親指を立てて返事をする。
「優勝」
その返事に、おー! と言いながら拍手をする陸。
てか、私なんかの結果よりもっと大事な物があるでしょうが!
「陸はどうだったの?」
「1得点2アシスト。マンオブザマッチ!」
……まじか。
デビュー戦で大活躍じゃないの。
あ、母がビデオで撮影してくれてたかな?
「母さん、陸の試合撮影してある?」
「あるわよー。ちゃんと撮れたかは少し自信ないけど」
「後で見る!」
母に聞くと、案の定撮影してあった。
まあ、大会とか子どものイベント事は可能な限り撮影する人だ。
今回も撮ってない訳がないよね。
因みに、陸はこれを聞いて、見なくていいよなんて恥ずかしがっている。
弟の晴れ姿を見ないなんて有り得ないでしょうが!
帰ってくるまでは凄く疲れてたのに、弟の活躍を聞いたら嬉しくて疲れが吹き飛んでしまった。
これは明日が辛いフラグだけど、まあ休みだしいいよね。
ああ、そうだそうだ。陸に大切な事言い忘れてた。
「陸、お疲れ様。頑張ったね!」
弟の、にしーって笑う顔に癒された。




