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第16話

遅れました。済みませんでした!

 あの日、私が私として生きて行くと決めてから10年の時がたったとかそんな事は無くて、普通にGWゴールデンウィークが終わった。

 GWが終わったら何があるか。そう、球技大会だ。

 高校生にもなって球技大会とか本気出すのかよ。とか思ってたけど、優勝賞品として、年度末の3月まで有効な学食の日替わり定食が食べられる引換券が貰えるらしい。しかも、30枚綴りと言う破格のサービス。

 女子はともかく、男子が本気を出すのは仕方の無い事だなあと、納得できるものであった。


 そして、今日はこれから球技大会がある。と、思うじゃん?

 無いんだなこれが。今日は調理実習です。

 球技大会はどうしたって? 次の日曜日にあります。そのお陰で来週の月曜は振り替えで休みになりましたよ。


そら。今日は何作るんだっけ」


 現在は家庭科室に居る。

 希帆きほに、メニューを聞かれたけど困る。

 私が困ってるのは、作る物は特に決まっておらず、先生に好きな物を作れと言われたからだ。

 先生曰く、作れ! この世の全ての食材をここに用意した! との事。

 世はまさに大料理人時代! ってか? まあ、この世の全てとかは言い過ぎだし、用意されている食材も普通だ。

 まあ、カレーを作り、あとは適当に見繕った食材でサラダでもって感じかな。ご丁寧にルーまで用意されてるし。

 でも、用意された食材で無難な物を作るだけで良いのだろうか。

 もっとこう、頭を捻ると言うか奇を衒った感じにしなくて良いのかな。


「……カレー辺りが無難なんだけど、それじゃあ面白く無いよね」

「……空さん。調理実習で面白さを求める必要は無いと思いますよ」


 かえでちゃんに突っ込まれたでござる。希帆もうんうんと頷いている。

 おかしいな。この2人と一緒なら私が突っ込み側のはずなんだけどな。


「俺は、料理なんて殆どできないので片桐さんにお任せします!」


 鍋島なべしま君はそう言って私に丸投げですか。そうですか。


 この調理実習、4人1班で分けられて料理をする事になっている。

 この班のメンバーは、私と希帆、楓ちゃんと鍋島君だ。

 私達3人は仲が良いからって事で先生が纏めてくれた。先生にはグッジョブと言わずにはいられない。

 あと、なぜ大して仲良くも無い鍋島君が居るのかって言うと、先生曰く、お前等3人に宝蔵院か、館林を入れたら傍目からどう見えるか。と言われた。

 つまり、周りからしたらハーレム過ぎて不貞寝するレベルらしい。

 うん。確かに宝蔵院か館林が可愛い女子である希帆と楓ちゃんに囲まれて料理をしていたら、不貞寝するレベルかもしれない。

 と言うより、包丁があるのだから少し危険かもしれないね。

 そんな訳で、無難な所って理由で鍋島君が選ばれた訳だ。それを言われた時の彼は、喜ぶべきなのか怒るべきなのか判断に困った微妙な表情をしていた。


「じゃあ、無難にカレー作ろうか」

「賛成!」

「分かりました」

「頑張ります!」


 私が提案すると皆快く賛成してくれた。

 発言順はまあ、言わなくても分かるでしょう。


「そういえば、皆はどれくらい料理できるの?」


 すっかり忘れていたが、重要な事を聞くのを忘れてた。

 皆がどれくらいできるか分からないと、作業分担ができないもんね。


「私はお母さんの手伝いとかたまにするから少しは作れるよ!」

「私もたまにお料理しますし、難しい物で無ければ平気だと思います」

「母さんに頼まれて炊飯器でお米炊いた事くらいしかありません!」


 ……はい。作業の割り振り決定です。


「えーっとじゃあ、希帆と楓ちゃんには食材の切り分け。で、鍋島君にはお米炊いてもらおうかな?」

「了解しましたー!」

「分かりました」

「頑張ります!」


 とても返事が良くて気持ちいいですね。でも、お米炊くくらいでそんな気合入れなくてもいいと思うんだ。

 てか、私が指揮を執る形になっちゃってるけど良いのかね? 問題無いのかな?

 ……試しにそれを言ってみたら、何を今更って顔をされましたよ。ええ、3人からね!




 ----------




 現在、皆で食材を切っている所です。鍋島君は一生懸命にお米研いでます。


「ねえねえ、空」


 なんだい希帆。将来もこうして2人の愛の巣で一緒に料理したいねって話? 歓迎ですよ?


「食材ってどのサイズで切ればいいかな?」


 ですよねー違いますよねー。てか、もう切り始めてるのに凄く今更だよね?


「好きなサイズで良いんじゃない? でも、火の通りがばらけるから大きさは統一しようね」

「空さんの好きな具材のサイズはどれくらいですか?」

「私? 私は少し小さい方が食べやすくて好きかな?」


 私の好きな大きさを聞いてどうすんだ? 皆の好みから決めようよ。


「なら、少し小さめに切ろうね!」

「そうですね」


 いや、なんでさ。大きめの方が好きならそれで良いんだよ?


「私は大きさは特に拘り無いですし問題ないですよ」

「私はカレーが好きだし、具の大きさなんて関係ないよ!」

「いやー、でもね? ほら、鍋島君は大きい具の方が好きかもしれないし」


 男の子だしね。それが関係あるのかは分からないけど、男の人はゴロゴロカレーが好きな人が多いイメージがある。まあ、判断基準は主に父と弟。そして前世の記憶なんですけどね。


「いや! 俺は片桐さんが好き……じゃなくて! じゃなくて! 片桐さんの好きな大きさで良いと思います!」


 あ、はい。どうもー。

 顔を真っ赤にして反応されちゃったよ。まあ、顔を真っ赤にしたのは主に失言のせいな気がしないでも無いけどね。まあ、あれはノーカンノーカン。

 まあ、特に厭らしい目で見られる事がある訳でもなく、て言うよりまともにこっちの顔見てこないしね。別に男だし特別仲良くしたいとは思わないけど、話すのも嫌ってレベルの奴じゃないしね。

 てか、この人は希帆と楓ちゃんに対しても顔を殆ど見ない。そんなに初心なのか、対人恐怖症なのかは分からないけど、ちゃんと顔を見て話をすべきと思うのですよ。


「よし。私は玉ねぎ炒め始めるから、トマトをサイの目に切ってくれる?」


 あらかたの食材を切り終えたので、調理に入る。

 因みに、家で作るみたいに時間がある訳では無いので、じゃが芋と人参は耐熱ボウルに水と一緒に入れて、ラップを貼ってレンジでチンだ。

 この方法だと茹で時間は減るし、じゃが芋の灰汁は煮込む前にかなり出るし、かなり楽になる。


「良いけど、トマト何に使うの?」

「え? カレーに入れるんだよ?」

「カレーにトマト入れるの?」

「うん。入れないの?」


 希帆と一緒にきょとんとした顔で見つめ合ってしまった。カレーにトマトってもしかして一般的じゃなかったりするのか?


「少なくともうちでは入れてなかったと思うよ」

「私の家でも入れてないと思います」

「俺はそういうのよく分かりません!」


 鍋島君はスルーで良いとして、そうなのか。あまり一般的では無いのか。美味しいのに。


「で、トマト入れると美味しくなるの?」


 希帆がそんな事を聞いてくる。てか、うちで食べたじゃないのさ。まあ、言ってなかった気がしないでもないけど。


「前にうちで食べたカレーに入ってたよ」

「そうなの!? あれは美味しかったもんねー。そっか、なら大賛成だよ!」

「あの時のカレーは美味しかったですね。また食べたいです」


 そんな話をしていたら鍋島君のお腹がぐーっと鳴った。

 はいはい。早く作りましょうね。


 カレーの作り方なんて今更だよね。説明をする必要すら無いだろうて。

 玉ねぎが透明になるまで炒めて、そこに豚肉と人参を加えて更に炒める。そしたら、そこにトマトを加えて軽く水分を飛ばす。その後、水を入れて暫く煮込んで、最後にカレールーを加えて味調整をしたら完成だ。

 これだけ! 簡単! 誰もできるよ!

 個人的に、味調整はソースとかインスタントコーヒーよりも、醤油や塩がお勧め。

 トマトでコクは出るからね。ソースとか使うと一気に味が強くなったりするから、醤油や塩で細かく調整するのが良いんじゃないかな。


「美味しそうだねー。食べたいねー」


 鍋の中を覗き込み、そう言う希帆。食い意地が張ってるとは思うけど、こういう時の希帆は凄く可愛い顔をしている。

 なんて言うか、私が美味しい物いっぱい食べさせてあげるから! って思ってしまう顔をしている。

 因みに、お腹の音が鳴り響いてた鍋島君は全員分のお皿を用意してもらって待機です。


「もうちょっとね。そうだ、副菜どうしようか」


 やっぱりカレーだけだと寂しいよね。なんかあと1品は欲しい気がするんだ。


「あ、大丈夫ですよ。ポテトサラダですけど作っておきました!」


 まじか! 楓ちゃんまじグッジョブ!

 楓ちゃんに対してグッと親指を立てたら、楓ちゃんもドヤッて感じで親指を立て返した。

 楓ちゃんのドヤ顔とか初めて見たわ。可愛いわあ。分かるかなあ。清楚で大人しい感じの可愛い子が、ちょっとはにかみがらドヤ顔するこの可愛さ。分かって欲しいなあ。


 そんなやり取りもありつつ、そろそろ出来上がる頃合になってきた。


「味見したい人ー」

「「「はい!」」」


 最後の調整って事で味を見てもらおうと聞いてみたら、全員から手が挙がった。

 まあ、ですよねーって感じだけどね。


「じゃあ、まず私が味見して、その後は順番ね」

「早く! 早く!」


 私がそう言うと希帆が急かす。もう頭の中はカレーしか無いんだろうね。視線が鍋から外れない。

 味見をしてみれば、いつも通りの味がちゃんと出ていたので個人的には満足。

 後は、他の3人の意見を聞いて調整するだけかな。


「はい。じゃあ次は希帆ね」


 そう言って小皿に少しよそって渡す。私が使ったままだけど気にしないよね。

 希帆はそれを黙って受け取り、ゆっくり味わうように味見をする。

 しかしあれだね。自分では美味しいと思ったけど、人に味見されるのは少しばかり緊張するね。


「どう?」


 味見が終わった希帆に尋ねる。これで大した事ないとか言われたら多分立ち直れない。


「うぇっへっへっへ。うひひ。ひひひひ」


 満面の笑みで変な笑い声を出しながら肩を叩かれました。

 正直言って少し怖かったけど、大好評って受け取って良いのだろう。良いんだよね?


「じゃあ、次は楓ちゃんね」

「はい。楽しみです」


 楓ちゃんに小皿を渡すと、そう言って受け取ってくれる。

 楓ちゃんは、にっこりと笑って凄く美味しいです。と言ってくれた。良かったよ。楓ちゃんまで変な笑い声を出し始めたらどうしようかと思ってたんだ。


「じゃあ、次は鍋島君ね」


 そう言って鍋島君に小皿を渡す。


「……間接……」


 ぼそっとだけど確かに聞こえた。ああ、そうだよね。確かにそういうの気にする人も居るよね。

 希帆と楓ちゃんが平気だったから失念してたよ。ごめんね。


「あ、ごめんね。そういうの気にする人だったか。すぐ洗うね」

「え? あ、いやいいんです! 大丈夫です! むしろ、ご褒美……あ」

「……」

「……」

「……洗おうね」

「……はい」


 小皿を洗った後にカレーをよそい渡す。

 鍋島君はがっくりと項垂れてたけど、嫌そうではなく、むしろ少し嬉しそうにされたら私達が嫌だよ。だから仕方ないね。


「で、味調整とか必要かな?」

「いや、このままで充分美味しいよ!」

「はい、凄く美味しいです」

「うちのカレーより数段美味いです!」


 全員の味見が終わった後に尋ねたが、このままで充分との事。好評なようでなによりです。

 あと、鍋島君は家に帰ったらお母さんに謝ろうね。


「じゃあ、ご飯も炊けたようだし、よそって食べようか」

「わーい! ごっはーん!」

「そうしましょう」

「お腹減りました!」


 私がそう言うと皆も賛成してくれました。

 まあ、既に何班かは良い匂いを漂わせて食事に入ろうとしてるしね。さすがにお腹も減ったよ。

 隣の班が、何か妙に甘い香りを漂わせてるのは気にしないでおこう。




 ----------




 カレーをよそって、席について、カレーを食べる。

 カレー美味しいです。我ながら美味しくできたもんだね。

 皆にも好評で、美味しい美味しいと言って食べてくれてる。やっぱり美味しそうに食べる人の顔を見るのって幸せだ。これがあるから料理が好きなんだよね。

 楓ちゃんが作ったポテトサラダも美味しいです。一部ちょっとだけ芯が残ってる感じがあるのもご愛嬌だろう。

 てか、そこら辺が可愛さを増させる要因でもある気がするよね。


 皆で美味しいねと話をしながら食べてるとふと横の班が目に入った。

 横の班は確か、宝蔵院と館林が居たはず。

 そして、現在はお通夜のように暗い空気が漂っている。何事だろうか。

 あの、甘い香りと何か関係があるのかな? いや、あるんだろうなあ。


「どうかしたの?」

「ん? ああ、片桐さんですか。いえね、カレーがあまりにもその……酷くて」


 私が隣に声をかけると、宝蔵院が憔悴し切った感じで応対してくれた。

 しかし、カレーが酷いって、そんなになるほど酷く作れる物でも無いだろうに。


「……食ってみるか?」


 館林がそう言って自分のをすくって私の前に持ってくる。

 ……なんでだろう。なんでカレーから甘い果物っぽい香りがするんだろう。


「……え」

「ほれ、物は試しだ。食ってみろって」


 そう言ってスプーンを差し出す館林の目は悪戯心と言うか、被害者を増やそうと言う魂胆がまる見えな目をしている。

 多分、これ食べたら酷い事になるんだろうなあ。

 でも、そこまで不味く作れたカレーってどんな物なのか気になるのも事実……。いや、でも。


「いや……でも……」

「ほれ、そんな事言わずにパクっといっとけって」


 そう言って、少し開いた私の口にカレーは捻じ込まれた。

 その瞬間はなんと表現したらいいのだろうか。

 私に理解できたのは、何かやばい物体が体内に入ったという感覚と、これを吐き出してしまったら、私はゲロ女の称号を手にするであろう。と、言う事だけだった。


 ゲロ女の称号は嫌なので、頑張って嚥下しようとするが、身体が拒否反応を起こしているのか、なかなかできない。

 しかも、その間は口の中に妙な物体が残り続けているので、嫌でもその風味や味は伝わってくるのだ。


 この味をなんて表現すればいいのだろうか。

 ああ、あれだ。凄く適切なのがあった。辛くて、臭くて、妙に甘い苺ミルクだ。


「空! お茶! お茶飲んで!」


 希帆がそう言って私にお茶を差し出してくれる。

 ナイスだ! 本当にナイスだ!

 お茶と一緒になんとか妙な物体を嚥下し、ゲロ女になる事は寸での所で避ける事ができた。

 あとで館林には拳骨くれてやろう。そうしよう。


 ……館林の頭に拳骨を放ったら、私の拳が痛くなった。しかも、館林にダメージは無いっぽい。くっそう。

 てか、一体誰がこんな妙な物を作ったんだ?


「……これ、誰が作ったんですか?」


 私がそう言うと、そっと手が挙がる。そして、そちらに目をやれば、えへへーって感じで苦笑いをするFカップちゃんが居た。

 覚えてるかな? 入学の時に言ったふくよかで胸の大きな美人さんだ。名前は柊雪子ひいらぎ ゆきこちゃんだったと思った。

 え? なんで私が人の名前覚えてるのかだって? この私が可愛い子の名前をチェックしてない訳がないでしょう。


「他の人は手伝わなかったんですか?」

「……この前、美味しいカレーの作り方をテレビで見たから任せてくれって言われたんです」


 だから他のサラダとかを用意してました。と、宝蔵院が項垂れながら言う。


「すみません。私が気を配っていればこんな事には……」


 そう言って申し訳なさそうにするのは、猫目のスレンダーな可愛い子。

 この子も入学の時に言った凄く可愛い子の1人じゃんか。名前は確か、棗梅子なつめ うめこちゃん。梅ちゃんって呼んだら怒るかな。怒るだろうなあ。でも、可愛いよね梅ちゃん。


 てかさ、棗さんがこんなに申し訳なさそうにしてるのに、柊さんはあまり気にして無いって言うか、ぽわぽわしてるけど、それでいいのか?


「で、柊さん。なんでこんな事に?」


 私がそう尋ねると、顎に人差し指を当てて話し始める。


「えっとですねえ。テレビでですね。カレーに牛乳を入れると美味しくなるって言ってたんです」


 そうだね。カレーに牛乳も入れたりするね。まろやかになるしね。


「それでですね。あと、果物とかを入れると美味しくなるって確か言ってたんです」


 果物じゃなくてジャムとかね。そこら辺間違えたらいかんと思いますよ。


「で、今日の材料の中に苺があったので、どうせなら苺ミルクでカレーを作ったら美味しいんじゃないかなーって思いまして」


 ……え? ごめん意味が分からない。なんでそこまで飛躍する必要があるの?

 いや、頭かきながら、やっちゃった。みたいな感じの顔をされてもさ。

 どうすんのよ。その作った劇物カレーは。誰が処分するのさ。

 ん? 処分? あ、鹿せんせいが……って何考えた私。今凄い危険な事考えたよね!

 さすがにそれだけはやったら駄目でしょうが!

 てか、そもそもの問題として苺ミルク作ってる時点で皆が止めるべきだと思うんだ!


「……いや、苺ミルクを作ってる時は辛いの駄目な奴も居るだろうし、甘い飲み物を用意してるんだろう。気がきくなと思ってたんだ。……いつの間にか苺ミルクが消えてた辺りから嫌な予感しかしなかったがな」


 なんで止めなかったのか聞くと、そう返ってきた。

 棗さんは、辛いの苦手で済みません。だから私が悪いのかもしれないです。と言っていた。

 気の強そうな顔をしてるわりには案外ネガティブなのかな。

 なんか、もう色々と可哀想になってきたよ。


「ねえ、うちの班のカレーを分けてあげようと思うんだけど、いい?」

「いいよ!」

「分けてあげるべきだと思います」

「問題ないです!」


 自分の班の皆に宝蔵院達の班にカレーを分けるのを提案すると二つ返事で了承してくれた。

 どう考えても、皆も同情したんだろうね。


「そんな訳で、たくさんある訳ではないですが、私達の班のカレーを食べます?」

「……済みません、ありがとうございます」

「……恩に着る」

「……ありがとうございます」

「ありがとうございます。でも、何が駄目だったんだろう?」


 まあ、言わなくても分かると思うけど、上から宝蔵院、館林、棗さん、柊さんだ。

 そして柊さんよ。何が駄目って、発想とか色々全部駄目だと思うんだ!

 料理できない人ほど、裏技的な物やアレンジを加えたがるって本当だよね。


 その後、みんなで美味しくカレーを食べる事ができました。

 まあ、宝蔵院達の班はアレの後だから食欲が無いのか、そんなに食べませんでしたけどね。

 とりあえず、宝蔵院と館林が「うめえ、うめえ」と言いながら食べてる姿は涙を誘った。


 今日学んだ事は、柊さんに1人で料理させたら駄目って事だね!


 あ、苺ミルクカレーは勿体無いけど捨てました。

 さすがにあれは誰も食べられません。




 ----------




「姉ちゃん!」


 酷い調理実習も終わり、家に帰りのんびり雪花せっかと遊んでいると、りくに呼ばれた。

 なんですかね? 私は今、雪花と一緒に遊ぶので物凄く忙しいのですよ。後にはできないのかな?


「なに?」

「俺、まだ姉ちゃんが買ってきた水着見てないよ? どんなの買ってきたの?」


 仕方なく応対してみれば、用件は凄くどうでもいい事でした。

 なんで水着を弟に見せねばならんのか! そして、どうせプールに水入れた後で見るんだから別にいいだろうが、と。


「そう言えば、私も見てないわね。空、ちょっと着て見せてちょうだいな」


 台所で話を聞いていたのか、母参戦。


「なんでよ。恥ずかしいし、やだよ」

「……娘の可愛い姿が見たい親心が分からないなんて」


 私が拒否すると、そんな事を言いながら目頭を抑え、よよよと言わんばかりに泣き真似をされる。

 くっそう。そう言われると拒否し辛いじゃないかー!

 こういう時だけ乗りが良いんだからーもー!


「……ちょっと待ってて」


 そう言って、自分の部屋に戻り水着に着替える。

 どうしてこうなったんだろう。プール入るわけでも無いのに家で水着になるとかさ。


 そんな事を思いながら着替えが終わる。

 黒地に白のペイズリーでパレオを腰に巻いて完成だが、地味にパレオを綺麗に巻くのが難しい。

 今回は、胸の辺りで巻いてみるけど、これは要練習かもしれないね。

 そう言う意味では、今回着る破目になって良かったかもしれない。


「こんな感じです」


 下に降りて陸と母に見せる。なんて言うかわざわざ見せるのは羞恥プレイな気がしてならない。

 思った以上に恥ずかしいですよこれ!


「おー! 似合う!」

「……良い水着ね。私もそれ着れるかしら」


 陸はパチパチと拍手をし、母はそんな事を言う。

 母じゃ胸が入らないと思いますので自重願います。


「……お母さんじゃ入らないでしょ」

「失礼ね。私だってまだまだいけるわよ」

「そうじゃなくて、胸とか入らないでしょ」

「……水着なんだから伸びるし、平気よ」

「水着の寿命が縮むので止めて下さい」


 サイズの合わない水着を無理につけると水着の寿命縮むからね。止めてね。


「ちぇー、仕方無いわねえ」


 仕方無いじゃないですよ。普通は娘の水着を着ようとなんてしませんですよ。

 

 そんなこんなで数分間のお披露目は終了し、部屋着に着替える事を許されました。

 ん? 父に見せないのかって? さすがに23時まで水着のままとか風邪ひくし、もう1回わざわざ着替えるとか嫌だよ。


 あの日から私は変わったのだろうけど、実際の所は大した変化は無く、毎日平和に暮らしてます。

 でも、攻略なんぞされたくないんだ。なんでかそれだけは嫌だ!

なんか、水着が好評だったようなので、蛇足的な感じで少しだけ水着書いてみました。

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