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第13話

 雪花せっかを我が家に迎えて数日がたった。

 あれから毎日雪花と遊んでいる。遊んでるだけじゃなく、ブラッシングもちゃんとしてますがね。

 ブラッシングは毎日やらないと嫌がるようになってしまうので気を付けないといけないのだ。


 それから、雪花を迎えるにあたって変わった事がある。

 それは、俺が毎日の勉強をリビングでするようになった事だ。

 いや、自分の部屋でいいじゃんと思うかもしれないけどさ。膝の上で寝る雪花と共に勉強してみって。もう幸せすぎて蕩けるから!


そらー? 何見てんの?」


 ん? おお。

 声をかけられて顔を上げると目の前に希帆きほが居た。

 どうやら自分の世界に入り込んでいたようだ。いやー、いかんね。雪花の事考えると周りが見えなくなるね。


 顔を上げたついでに周りを見渡すと、赤面しつつ顔を逸らす男子達。……なんぞ? まあ、いいか。


「雪花の写真見てたんだよ」

「おー! セッちゃん! 見せて見せて!」


 見せてあげると、やっぱり可愛いねーと相好を崩す希帆。

 だろう? 可愛いだろう? 家の雪花は世界一可愛いんですよ。異論? 認める訳が無いだろう。


「希帆ちゃん。声をかけた目的を見失わないで下さい」

「ん? おお! そうだったそうだった!」


 かえでちゃんよ。家の猫が可愛い話より重要な用件が存在するとでも?

 いくら可愛い楓ちゃんと言えども、それは有り得ないでしょう。


「空! お昼休みに球技大会の練習しない?」


 球技大会の練習? 何、そんな真面目にやるもんだっけ球技大会って。


「やるからには勝ちたいじゃん! 他の3人も了解取ってるから練習しよ!」

「んー、まあ良いけど下手だよ?」

「空のそう言うのはもう信用しないんだ!」


 ……ひでえ。

 謙遜じゃなくて普通に下手なんだって! ゴールのすぐ下ですら入らないんだぞ!


「いや、本当に下手なんだって」

「分かった分かった。なら練習して上手くなろうね!」


 なんかテキトーにあしらわれた感じ。

 くそう。本当に下手なのになあ。まあ、遠ければゴール入るけどさ。近づくほど入らなくなるんだもんなあ。

 バレーよりマシって事でバスケにしたけど、希帆がこんなにやる気出すとはなあ。憂鬱だ。




 ----------




 昼休み。お昼を急いで食べた俺達は体育館へ来た。

 体育館に入ると、他のメンバーである女子3人と、なぜか宝蔵院ほうぞういん館林たてばやし、そしてシニアリーグ日本一と全中得点王が居た。あと知らない人が1人。


「おう。おせーぞ」


 俺達が入ってきたのを見て待ちかねたように言う館林。

 いや、そもそもなんで居るんですかね。そこから説明をお願いします。


「なんで貴方達が居るんですか?」

「あ? 鏑木かぶらぎについでだから一緒に練習しようって誘われたからだが?」


 希帆は何余計な事をしてくれやがりますかね。


「だって、5人だけじゃ試合形式とかちゃんと練習できないじゃん!」


 ……まあ、そうかもしれないけどさ。


「しっかしまあ。その格好はねーな」

「無いですね」

「……無いな」

「僕は嫌いじゃないけどねー」

「い、いや。別に良いと思いますよ!」

「……何が無いんですか」


 上から館林、宝蔵院、シニア、得点王、知らない人、俺の順だ。

 いきなり全否定されたが、俺の格好の何がいけないと言うのだ。


「何ってお前。そのジャージだよ。スカートの下にジャージはねーわ」

「無いですね」

「……無いな」

「僕は嫌いじゃないんだけどなあ」

「い、いや。似合ってると思いますよ!」


 またしても全否定である。

 しかし、名前も知らない人よ。それフォローになってないからね。

 ジャージ下に穿いてて似合ってるはあまり嬉しくないからね。


「着替える時間無いですし、穿いてないと見えちゃうから仕方ないじゃないですか」

「そんな短いの穿いてるからだろうが。見せても構わんくらいの気持ちでやれよ」

「その通りだと思います」

「……そこまでは思わんが」

「眼福だねえ」

「……」


 よーし、試合形式だったな。ぶっ倒してやる。主に館林と、鼻を押さえて後頭部をトントンしてる名前知らない奴を倒す!


「ただやるだけじゃ面白くないですし、賭けませんか?」


 軽くアップしたら始めましょうか。と言うと、宝蔵院がそう言ってきた。

 負けた方が勝った方に奢りなんてどうだと言っている。

 別にやっても良いが、女子な事を考えると不利過ぎないか?


「やっても良いですけど、私達が不利じゃないですか?」

「ええ。そう言うと思ったのでハンデとして10点あげます」

「……30点」

「15点で」

「……20」

「……いいでしょう。20点ハンデで負けた方が奢りですよ?」


 よーし、負けないぞ!

 ふふふ、野郎とどこか行くのは癪だが、高いの奢らせてやろうではないか!

 負けて奢るのはご免だ。ん? 勝っても負けても野郎とどこか行くのに変わりはないだと?

 は、謀ったな! メガネ!

 ま、いいさ。こうなったらぎゃふんと言わせてやる。

 ん? ならハンデ付けんなって? こまけーこたぁいいんだよ!


「と言う訳で、賭けバスケになりました」

「よーし! 絶対勝とうね!」

「ふふ、頑張って下さいね」


 うんうん。希帆ならそう言ってくれると思ったよ。

 楓ちゃんも応援しててね。勝ったら楓ちゃんの分も奢らせるからね。


「皆も頑張ろうね」


 後ろに控えていた3人にも声をかける。

 なぜか3人とも浮かない顔をしているが、どうしたのだろう?


「無理だと思いますが、頑張ります」

「全力は尽くします」

「仮に勝てても放課後はご一緒できませんが」


 3人とも最初から諦めてる感じですね。

 あと、放課後一緒できないのはなぜだろう。


 話を聞くと、バレー部の練習試合がある為、放課後はすぐにそちらへ向かわなくてはならないとか。

 んー、残念。でも、絶対に勝って後日お昼でもご馳走して貰えばいい。と言ったらやる気を出していた。

 所詮運動部。色気よりも食い気だろうと思い言ってみたら案の定である。

 因みにこの理論の元となった人物は、皆も分かっている通り弟のりくである。




 ----------




 試合が始まった。

 ジャンプボールは当然の如く男子チームに取られる。

 そして、ボールキープした宝蔵院がメガネをクイっとしたと思ったらリング目掛けてパスを投げ、それをシニアリーグ日本一がダンクで決めていた。

 いや、うん説明が下手だね。所謂あれだ。アリウープってやつを決めおった。

 いやー、おかしいよね。あれってバスケ部でもできる人って居るの? ってレベルな技だと聞いた事があったと思ったよ?


「さあ、切り替えていくよ!」


 あ、再開すんのか!

 希帆がドリブルをしながらゴールに向かうので、とりあえず俺も一緒に走る。

 バレー部3人も走ってゴール下へと入るが、俺は近くに寄ったって役に立たないので3ポイントライン付近でスタンバイ。

 誰かにパスをすると当然思っていたが、希帆は止まる事なくゴール下へと突っ込み、ダブルクラッチで得点王のブロックをかわしてゴールした。


 ……駄目だコイツ等。次元が違うぞ。

 これは昼休みの賭けバスケとか球技大会の練習でやっていいレベルの試合じゃない。


「同じ2点だピョン!」


 希帆がシニアリーグ日本一に向かって、そう言っていた。

 そっか。身長とか色々な意味であのゴールが悔しかったのね。

 しかし、その語尾は危険じゃないのかな。大丈夫かな。去年の語尾がベシだったらアウトかな。

 多分無いだろうから、セーフかな。でも、ピョンピョン言う希帆はあまり見たくないなあ。


「希帆。ナイスゴール」

「おー! 頑張ろうね!」


 希帆を労う為に近づいて話しかけると、にこーって笑って返してくれる。あ、なんかこの表現久しぶりな気がするね。

 しかしあれだ。なんで希帆はこんなに上手いんだろう? 元バスケ部だったとか?


「希帆はなんであんなに上手なの? 前はバスケやってたとか?」

「バスケ部とか入った事ないよ! 弟達の相手をしてたらできるようになったの!」

「弟さん居るの?」

「あれ? 言って無かったっけ。いっぱい居るよ!」


 いっぱいと言われて、ミニマムな希帆の群れが希帆ほんたいによじ登ったりしてるのを想像してしまった俺は悪くないと思う。うん、絶対に悪くない。


 その後も若干押され気味ではありながら一進一退の攻防が続いた。


「空!」


 お、希帆からパスが来たよ! なにげに初めてのパスだよ。希帆は1人で決めすぎだよ。

 よーし、パパ頑張っちゃうぞー。3ポイントなら決められるからね!

 まあ、そんな気概でもってシュートするんですけど外すんですよね。

 リングに触れさえしませんでしたよ。おっかしいなあ。なんでだろう。


「空! 女子がその距離でワンハンドスローするのは無理があるよ! 鍛えてるならまだしも!」


 お、おー! そういう事か。でも、なら中学の時はどうやってたんだろう?

 まあ、細かい事はいいか。


 その後、予鈴が鳴ったので試合終了。

 なんとか10点差で勝つ事ができましたよ。最初に言われたハンデだと同点だったわけだ。


 試合のMVPはなんと言っても希帆だろう。

 速さと低い身長を生かした高速ドリブルで相手を撹乱し、パスにシュートに大活躍だった。

 俺はと言うと、3ポイントをあれから8本決めた。最初にワンハンドで外してから1本も外さなかったよ! ただし、3ポイントはな!

 いやー、本当に3ポイント以外入らないの。驚きだよね。希帆にも驚かれたよ。

 まあいい。なんにせよ勝ったのだ。奢りは男子達で決定だ。


「と言う訳で、放課後はご馳走になります」

「ああ、分かった」

「因みにバレー部の子達は今日は無理なそうですので、後日お昼でもご馳走してあげて下さい」

「……ああ、分かった」


 館林も観念したのか静かなもんだな。

 あ、でも彼は母子家庭でお金無いって言ってたっけ。それなのに払わせるのは可哀想かな。

 宝蔵院が無理矢理始めたようなもんだしな。


「……やっぱり言い出しっぺの宝蔵院君が全員分払う事にする?」

「待ってください。それはさすがにキツイですよ」


 いやーでもさ。母子家庭で家計助ける為かは聞いてないけどバイトしてんだよ?

 なんか、奢られ辛いと言うかねえ。その点で言うと宝蔵院はいくらでも払わせても良心が痛む事が無さそうだしさ。

 なんだろうね。この扱いの差って。


「いや、俺も反対せずに賭けバスケをやったんだ。ちゃんと奢るさ」


 小さな声で、ほとんど自分の小遣いを稼いでるようなもんだから余計な気を回すな。と頭を小突かれた。……痛い。




 ----------




 何事もなく放課後です。

 何かある訳でもなくファミレスに居ます。

 俺が頼んだのはドリンクバーとサラダ。希帆はドリンクバーとパフェ。ニコニコしながらパフェを頬張る希帆は可愛い。可愛いは正義。

 楓ちゃんはドリンクバーのみだ。俺と一緒で、希帆を見て癒されてるのだろう。ニコニコしてて可愛い。


 そして、ハンバーグセットをライス大盛りでガツガツ食べる運動部2人。

 家に帰っても夕飯が無いのか。と尋ねると、あるけど? と不思議な顔をされた。

 これだから運動部の変態共は! 弟含め、作る側の身になれっての!


 そして宝蔵院と館林は静かにコーヒーを飲み、名前も知らない人はコーラを縮こまって飲んでいる。

 てか、この呼び方面倒だな! まあ、実際名前分からないから仕方ないけどさ!

 今からでも聞くか? いや、でも今更だしなあ。なんか凄く恥ずかしい行為な気がしてならない。


「おい。片桐」


 ん? 名前を聞くか悩んでたら館林に話しかけられましたよ。

 今、忙しいんで後にしてくれるとありがたいんですけどね。


「お前、この3人の名前分かるか?」


 ……お前空気読み過ぎて逆に読めてないわ!

 見ろよ。皆食事止めてこっち見てるじゃないか! ああ、またニヤニヤしおってからに!

 くっそー。嫌いだ!


「空。まだクラス全員の名前覚えてないの?」

「……うん」


 ……希帆の何気ない言葉が胸に突き刺さりますね。


「そいえば、ちゃんと自己紹介した事無かったもんねー。知ってるもんだと考えるのは自意識過剰ってやつだよな! 僕の名前は今川義政いまがわ よしまさ。よろしくねー」


 そう言って手を軽く振ってくる得点王。なんて言うか蹴鞠サッカーをやる為に付けられた名前って感じだな。

 そして、さり気ない気遣い痛み入ります。


「……真田信繁さなだ のぶしげだ。よろしく」


 無愛想にそう言って食事に戻る真田君。なるほど、真田日本一の兵ですか。

 本当に日本一になってるんだから凄いな。そして、幸村じゃない辺りにご両親の拘りが見えるね。


「あ、えーと。俺は鍋島直茂なべしま なおしげって言います。名前負けってよく言われます!」


 その自己紹介はどうなんだろう。あと、鍋島って化け猫騒動の鍋島だよね?

 猫が嫌いだったらどうしようか。きっと友達にはなれないだろうな。うん。


「空さん空さん」


 一通り自己紹介が終わった所で楓ちゃんに呼ばれました。

 なんだい楓ちゃん。2人で愛を語るには少し時間が早くないかね。ん? 違う? ですよね。


「空さんは、この中で好みな人って誰ですか?」


 ……好み? 好み。ソースはお好みで? お好み焼き?

 あ、お好み焼きって広島風と関西風があるじゃん。あれってどっちが正しいお好み焼きかなんて言い争ったりしてるの見た事あるけどさ。お好みなんだから好きな物入れろよって俺は思うのですよ。

 てか、どっちも美味しいんだからそれで良いじゃないってさ。

 ん? もんじゃ焼き? あれって嫌いじゃないけど食べた感じしないよね。


 で、何の話だっけ。あ、好みか。そうか好みねえ。……うーん。


「……イケメンとかそういうのは分かるんだけど、好みってなると分からないな」


 てかさ。今更ながら思ったけど、女性に恋愛感情を抱いた事が無くて、男にも勿論抱いた事が無い俺ってどうなんだろう。

 元男だから中身的に考えると女性と恋愛するのが正しいんだよね。

 そして、性別的に考えると男性と恋愛するのが正しいのか。

 ……男性と恋愛とかできんの? 無理な気がしてならない。

 でも女性は愛でる事はできても恋愛とかできる気がしないよ?

 このまま行くと一生俺は独り身って事になるのか? それは少し寂しい気がする。


 あ、いかん。先の事を考え過ぎて泣きそうになってる。

 でも、こうやって泣きそうになるのも現実逃避よな。しっかり考えなくちゃいけないんだよな。

 あーでも泣きそうになる。やばい、これは今この場で考えていい事じゃないな。

 よーし。希帆を見て癒されよう! そうすれば全ては丸く収まるのさ!


「……大丈夫ですか?」


 顔を上げると全員が心配そうな顔をして俺を見てました。

 どうやら深く考え込みすぎた模様です。これは誤魔化さなくてはいかんね!


「大丈夫、大丈夫! 変に真面目に考え過ぎたみたいだね」


 俺がそう言って誤魔化すと、そうですか? と渋々ながらと言った感じで納得してくれた。


「大丈夫! そんな真面目に考える事無いです。人間中身ですよ!」


 俺の言葉を聞いて、鍋島君がそんな事を言ってきた。

 俺が言った事をストレートに取ったのは彼だけっぽいけど、そんな馬鹿さに少し救われるね。


「ふふ、そうだね」


 少し笑ってしまったけど、失礼にはならないよね。

 鍋島君が顔真っ赤にしてたけど怒ってる感じはしなかったので問題無いはずだし。


 その後、適当に話をして帰りました。

 主にイケメンズがどれだけモテてきたかって言う武勇伝を聞きましたよ。

 全員が大した事ないって謙遜してたけど、大した事あったからね。よく人間不信にならない物だと感心したよ。本当に。




 ----------




 今は1人で家に向かっている。

 館林はまたも家の近くまで送ってくれた。アイツはきっと誰にでもこういう事をするタイプだ。

 まあ、だから話に聞いたようにお礼だって言って髪の毛入りのクッキー貰ったりするんだろうな。うん。


 しかしあれだ。

 恋愛や好みかー。全然分からんな。

 おかしいなあ。前世では人並には恋愛したはずなんだが。

 可愛い女の子は大好きだけど恋愛とは全然違うもんなーこれ。

 誰か先人に話を聞くのが良いのかな。となると誰だろう。

 母はなんだか気恥ずかしいし、弟とか恋愛経験無いだろうし。

 あ! 近くのお婆さんとか良いかもしれない!

 そうだそうだ。あの人の話を聞いてみるのはありだろうて!

 我ながら良い事思いついたぞ!

TSを真面目にやると暗くなりかねないって事が今回で分かりました。

まあ、それでもある程度はやるんですがね!

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