素晴らしい食事
僕は彼女が好きだ。それは彼女の料理に秘密がある。
彼女は料理が上手い。料理は趣味だと言っているが、趣味で終わらせるには勿体ない位に彼女は上手い。
僕が初めて彼女の料理を食べたのは一ヶ月前位の頃。初めて食べたときはただ美味しいだけで何とも思う所は無かったのだが、しばらく経ってから無性に彼女の料理が食べたくなり、彼女に料理を食べさせてもらう日が多くなった。
週に一度が三日に一度に。
三日に一度が毎晩に。
毎晩が毎日となり、その料理の為に僕は彼女と同棲生活を始めてしまう程、僕は彼女の料理がとても好きなのだ。
そして今日も朝から彼女の料理である。毎日作ってもらうのでたまには僕も料理を手伝いたいのだが、彼女はそれを拒みに拒む。彼女曰く『隠し味を知られたくないから』と言う事だ。別にそんな事いいじゃないかとは思ったのだが、やはり料理を作る側にも色々な考えもあるのだろうと考え直し、僕はそれ以上追及しなかった。
しかし今となっては、そんな考えが愚かしいとまで思う。彼女の料理が毎日食べられる。それが一番幸せだと、そう思うのだ。
それに彼女の料理を食べる事は、僕にとってのストレス解消法でもあるのだ。
最近僕は目が疲れているようで、たまに長細いミミズのようなものが周りに見える事があるのだ。
目薬を差しても、睡眠時間を多くしても、それが一向に消える事が無くて大きなストレスになっているのだ。
それに、僕の会社の同僚達が蔭で僕の事を何か言っているようなのだ。俗に言う陰口である。それをわざわざ僕の聞こえるところで言ってくるのだ。
しかし、僕も子供ではないので突っかかりはしない。それに、もし問題でも起こして彼女のもとへ行けなくなったとしたら、その時はきっと筆舌に尽くしがたい絶望に襲われる事になるだろう。
あと、最近誰かに見られている気がするのだ。会社の帰りに後ろからつけられている気がしたり、会社の人間が僕をじっと観察している気がするのだ。
それに最近、なかなか仕事が手に着かない。いつも彼女の料理の事を考えてしまってなかなか集中できないのだ。そんな事もあり、最近は上司に叱られっぱなしである。
しかし、そんなストレスも彼女の料理さえあれば乗り越えられるのだ。もはや、彼女の料理が僕の人生そのものである。
しかし最近、妙なのだ。彼女の料理では物足りなくなってきたのだ。こう、もっと強い刺激が欲しいような感覚に見舞われてしまうのだ。
いっその事、血管に入れてしまえば――――――――――――。
「ご飯出来たよ」
僕ははっとして彼女を見た。異世界から引っ張られたような感覚だった。
ああ、僕は何を考えているんだ。料理を血管に入れるだなんて、おぞましい。それに、何より彼女に失礼だ。
きっと僕はもう、彼女がいないと生きていけないのだから。