第1話 星が消えた夜
その夜、
星が落ちた。
空に輝いていた光が、突然、ふっと消えたのだ。
まるで誰かが、
空から灯りを消したみたいに。
「……まただ」
丘の上で、ディオが呟いた。
隣でラナが空を見上げる。
「三日で、四つ目だよ」
夜空には無数の星がある。
だが、この星の人々は知っている。
あの光はただの星じゃない。
宇宙に存在する“世界の灯り”だ。
そして最近、その灯りが消えている。
理由は誰も知らない。
ラナがしゃがみこんだ。
「ディオ、これ見て」
ディオが視線を落とすと、足元の草が黒く枯れていた。
触れた瞬間、
さらさらと崩れて土に戻る。
「昨日までは普通だったのに……」
丘の下を見ると、同じように枯れた草が広がっていた。
川の水位が突然下がる。
森の木々が一晩で枯れる。
この星では、
最近おかしなことが続いていた。
ラナが小さく言う。
「ねえディオ」
「ん?」
「星……弱ってるのかな」
ディオは答えなかった。
そんなこと、考えたこともない。
この星はずっとここにあって、
ずっと続くものだと思っていたからだ。
少しの沈黙のあと、ラナが言った。
「……星の図書館」
ディオの表情がわずかに固まる。
星の図書館。
この星の中心に建つ巨大な塔。
宇宙のすべての星の記録が保管されていると言われている場所。
そこを管理しているのは
スクライブズと呼ばれる司書たちだ。
ラナが続ける。
「もしかしたら、あそこなら何かわかるかもしれない」
ディオはすぐに答えなかった。
代わりに、遠くに見える塔を見た。
雲を突き抜けるほど高い塔。
頂上の窓が、夜空の星のように光っている。
ラナが静かに言った。
「ディオのお母さん、昔あそこで働いてたんだよね」
ディオは小さくうなずいた。
「うん」
ラナもそのことを知っている。
二人は幼なじみだからだ。
「事故だったんだよね……」
数年前。
ディオの母は亡くなった。
星の図書館を辞めたあとに起きた事故だった。
少なくとも、
そう説明されている。
ディオは空を見上げた。
また一つ、星が消えた。
その瞬間――
ゴォン……
低い鐘の音が響いた。
ラナが顔を上げる。
「図書館の鐘……!」
星の図書館では、
何か重大な記録が行われた時、鐘が鳴る。
ディオの胸がざわついた。
ラナが言う。
「やっぱり何か起きてるよ」
「……」
「図書館は、もう知ってるんじゃないかな」
その言葉を聞いたときだった。
ディオのポケットの中で、
何かが震えた。
驚いて取り出す。
古い鍵。
黒い金属でできた、奇妙な形の鍵だ。
母が死ぬ前に残した唯一のもの。
「これは大事なものよ」
そう言って渡された。
理由は教えてくれなかった。
ラナが目を丸くする。
「その鍵……」
鍵が、かすかに光っていた。
まるで何かに反応するように。
ディオとラナは同時に顔を上げる。
遠くに見える塔。
星の図書館。
その頂上の窓が、
今まで見たことがないほど強く光っていた。
ラナが呟く。
「……ねえディオ」
「なに?」
ラナは、塔を見つめたまま言った。
「その鍵……」
「もしかして」
「図書館の鍵なんじゃない?」
ディオは答えられなかった。
ただ一つだけ、確かなことがあった。
母は死ぬ前に言った。
「いつか必要になる日が来るかもしれない」
その日が、
今なのかもしれない。
遠くで、また鐘が鳴った。
ディオはまだ知らない。
その図書館が
星の未来を決める場所だということを。
そして――
その未来を
自分が壊すことになるということも。




