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平穏と冷や汗


──────異能を持つ者、持たぬ者。二分された世界。彼らは叫んだ、異能者に人権を。抱えた野望は、ついに叶った。


「まだ、見つからないの……?」


 数か月前に起こった大事件は、彼らの世界を大きく変えた。鋳星学園高等学校、新生徒会。2年C組、新生徒会長の入山鈴奈は、生徒会部室にて仲間に問うた。旧体制を打破した“正義”、されど桃色の長髪は物憂げに揺れている。これが学園最強とは誰も思うまい。


「先生方も捜索に協力して下さっていますが……どうにも」

「そんな……」


 新生徒会の庶務、森崎裕梨は切れ長の目を静かに細めた。表情には、ありありと不快が浮かんでいた。その様子を見た入山は、森崎に背を向けて小さくため息を吐いてしまう。

 発足してすぐにして、やることは山積み。認められた異能者の人権についての覚書や、戸籍についての整理。動乱のせいで散逸した資料も少なくない。

 しかして、日本史上類を見ない程の大規模な憲法改正。一つの種族、その人権が認められたのだ。それにしては、余りにもスムーズに手続きは進んでいる。その影には、一人の少女がいた。


 前生徒会会長にして副会長、書記、庶務、会計、学園風紀委員会委員長を兼務。多種多様な異能が凌ぎを削る学園にて、最強と呼ばれた少女。そして、事変を起こした元凶。名は、北河桐絵。


「先輩はね。みんなの戸籍手続きとか、色々と準備してくれてたんだよ?びっくりしちゃった」

「偶然に決まってる。いや、生徒を支配する為に用意していたんだ」

「ダメだよ、ゆーちゃん」


 困ったように笑う入山が目に入り、森崎はバツが悪そうにそのまま目線を逸らした。重心が揺れたせいか、古い木製の床がギイッと音を立てる。会話が切れた。


「北河先輩は、信じてたから」

「……そうですか」


 森崎もこれ以上否定するのは気まずいのか、目を逸らしたまま首を下げてしまう。それを見た入山は、俯く森崎の両手を外側から手で包み込んだ。


「先輩と、まだ話せてないことが一杯あるの」

「鈴奈……」

「だからね……見つけなきゃ、いけないの」


 森崎は気づいた、入山の手が小さく震えている。しかし、彼女には分からない。圧倒的な力で学園を統制の枠に押し込め、あまつさえ国家に反逆を起こした女。少なくない数の生徒が死に、得たものは権利。いい事なのは分かる。だが、普通に生きていられた生徒たちの死に顔が浮かぶ。そこまでして、得る必要があったのだろうか。だから、入山の話が入ってこない。

 だって、私たちは普通の学生じゃないか。森崎は、それを疑っていないのだ。


「生きてたら……違うや。見つけたらね。こら~!って怒ってやるの」

「……」

「だからお願いね、ゆーちゃん」

「あぁ。……いや待て、ゆーちゃん呼びはやめてくれ。さっきは見逃したが、もう許さんぞ!」

「え~、可愛いからいいでしょ~」

「ダメだ!」


 ふん!と肩をいからせる森崎。入山はふふふ~と笑っている。弄ばれ、顔を真っ赤にしながら部屋から出ていく森崎。バタン!と大きな音を立てて閉じた扉。ぼんやりと名残を眺める入山。思い出したかのように窓の方へと向かうと、外へと視線を投げた。校庭が見える。飛ぶ者、炎を出す者、歌う者?自由に過ごすそれらは、きっと彼女が守ったもので。


「先輩、私……」


 言葉を切り、一度目を瞑る入山。そして再び開かれた目には、確かな決意が宿っていた。


「絶対、貴女を見つけますから」


 入山にとって、二度目の春が訪れていた。



///////////////////////



「……もう大丈夫なのか?」

「あぁ、世話になった」


 学園に入学できなかった者たちや、軍や実験から逃げた者たちの溜まり場、異浪街。その一角に男と少女が立っていた。一方は白衣に煙草、闇医者にしか見えない男。もう一方は、左腕と右目の欠けた少女。いかにも訳アリですと言わんばかりの構成だ。事実、彼らはマトモな経歴ではない。


「まぁ、それだけ残れば十分だろ。特戦軍と闘って、生き残った奴は初めて見た」

「ただ運がよかっただけだ、間違いなく」

「そうかよ……。本当に、街に戻るのか?」

「あぁ。最後まで、見届けたい」


 ふぅ~っと煙草の煙を吐き出す男に、優しい目を向ける少女。男はバツが悪そうに、頭を掻いた。


「院長、貴方に感謝を」

「柄じゃねぇ」

「それでも、伝えさせて欲しい」

「……これで、内乱首謀の大犯罪者か。北河、まぁ、なんだ」

「?」

「もう、自由にやってもいいんだぜ?責任から降りても、何も言われねぇよ」

「ふ……少し、考えながら生きてみるよ」

「真面目だなぁ」


 少し照れ臭そうに頬を掻く北河。院長と呼ばれた男は、吸い終わった煙草を足元に投げ、踏みつぶした。北河はそれを見て、苦笑している。柄が悪い。


「ま、気張らずやれ。お前はやり切ったんだ。偉業と呼ぶに相応しい」

「どうなんだろうか……余り、実感がないんだ」

「その内、嫌でも分かるさ」

「なら、気にしなくていいか。では院長、また会おう」

「……じゃあな、もう来るなよ」


 少しばかりの荷物を抱えて、北河は路地の先へと向かい始めた。院長は、何をする訳でもなくそれを眺めている。その目には優しさと、少しの哀しさが垣間見えた。

 影に包まれた裏路地から、光の射す表通りに出る北河。表情は、どうにもこれからどうしようかと迷っているかのように薄く絞られていた。


「眩しい……」


 裏路地から出た彼女は、開口一番そう呟いた。表通りも完全に日が射す訳では無いが、それでも光量には雲泥の差がある。


「そうだ、あの子に連絡しなくては」


 思い出したかのように語って、スマホを開く北河。電源を入れると、大量の通知がホーム画面に表れていた。メッセージアプリの通知は、999+。


「……とりあえずあの子に連絡して、他は後で考えよう」


 片腕だけでは持ちにくいのか、もたつきながらメッセージアプリを開く。メッセージ欄の中ごろに、入山のメッセージはあった。


『逃がしませんから。』


 ただ一言、そう遺されていた。送信日時は法案成立直後、全てが終わった瞬間だった。北河の背筋に、寒気が走る。


「おいおい……」


 少しだけ表情が怪訝になる北河。そして個人メッセージ欄によろつきながら入力していく。


『今、異浪街にいる。もし暇なら……少し話さないか?』


 送った瞬間、認識できない程の速さで既読がついた。もう一度、北河の背中に寒気が走る。


『すずいきたす』

「ふっ……」


 北河は大慌てで打ったであろう、誤字まみれのメッセージを見て、薄く笑った。その時。


「おい!このガキ!」

「離せよ!クソ!」

「財布スッといてそりゃねぇだろ!」

「返したじゃねぇか!」

「バレたからだろ!舐めんな!」


 北河の視界、その左側で騒動が起こっているのが見えた。子ども一人と大人二人、恐らく子どもが盗みを働いたのだろう。この街ではよくあることだ。


「チッ!喰らえ!」


 少年が強い風を起こし、大人たちが後ろに飛ばされる。少年は異能者なのが確定。反撃が無い事を見るに、大人たちは一般人であるのだろう。少なくとも北河にはそう見えた。


──────異能。ある世代以降の子どもたちに多く見られる、来歴不明の力であった。能力は様々であり、多くは属性か身体強化などのシンプルなものが多い。


「じゃあな!財布返してやったんだからいいだろ!」

「待てガキ!」


──────しかし稀に、目に見えない概念を操る者がいる。


「待つんだ、君」

「うおっ!」


 後ろから風を吹かせていたようで、北河の横を飛ぶように抜けていこうとした刹那。いきなり前に進めなくなる少年。彼の前の空間には、歪んでいるような揺らぎが見えた。


「何しやがる!」

「きちんと謝りたまえ」

「はぁ!?」


 そうやってバタバタしていると、男たちが追い付いてくる。息を切らせた彼らの表情は、明らかに怒っている。


「……おいガキ、よくもやってくれたな」

「ふざけてんじゃねぇぞ!コラ!」

「……な、なぁ。謝っても意味ねぇってこれ」

「それでも、君は謝らなければならない」


 あくまで譲らない北河の態度に、少年は諦めたように頭を下げた。一緒に北河も頭を下げる。


「すいませんでした……」

「どうだろう、許して貰えないだろうか」


 男たちは少年を見ていたが、やがて北河に目線を移す。そして北河の様相を見て、諦めたように溜息を吐いた。


「……今回は、そこの姉ちゃんに免じて許してやる。これで何かしたら、俺達の方が悪人じゃねぇか」

「だがよ、坊主。二度はねぇ」

「それによ……こんな人に、頭下げさせんな」

「あぁ……」


 どこか消化不良で、物憂げな雰囲気をしながら男たちは去っていった。二人だけが取り残される。どうにもバツが悪そうな少年と、無表情な北河。


「……でもよ、やらなきゃ生きていけねぇんだ」

「そうか」


 どう言葉を掛けていいのか分からないようで、右手を口元に当てて悩んでいる様子の北河。そうやってしばらく悩んでいると、背後から声がした。


「やらなくても、生きていけますよ」

「……ほんとに?」

「えぇ」


 そう言いながら、振り返った少年にチラシを1枚手渡しする少女。


『異能者扶助組合』


 チラシには大きくそう書かれていた。かっこ書きでふりがなも振ってある。子どもでも分かるように、下側には平易な語彙で概要と、大きく所在地と電話番号が書いてあった。


「みんなを連れて、ここにおいで」

「本気かよ」

「本気。一度だけ、信じて欲しい」


 優しいが、強く断言する彼女に説得される少年。やがて少年は、チラシをもって仲間を呼びに帰っていった。今度は少女二人が道端に取り残される。北河から、気まずそうな雰囲気が漂っている。


「私、頑張ってるんですよ?」

「見ての通りだな。やはり私には、向いてない」

「適材適所。先輩が、私に言ってくれたんです」


 その言葉に突き動かされたかのように振り向く北河。振り返った視線の先に立っていたのは。


「お久しぶりです、先輩」


 現生徒会長、入山鈴奈だった。……北河の背に、これまで無いほどの怖気が走る。まさに、嫌な予感である。



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