8 兄と精霊と、夜のサンドイッチ
「……はは。メリルは怖がりだなあ。ミョルダの背中に隠れてても丸見えなんだけど」
メリルはミョルダにしがみついていたが、彼女はフンッと鼻を鳴らしてくつろぎ体制に入った。一人と一頭は声の主が誰か分かったからだ。
「な、なんだあ。ウィルかあ。怖がらせないでよ。わたしが怖がりって知ってるくせに」
「それなら普通に部屋で休めばいいのに」
「それはそうなんだけど、ミョルダは特別なんだもん」
「確かにそれはそうか」
きゅう舎の入口がたいまつのような火で明るくなったかと思うと、メリルの二卵双生児の兄ウィルフレッドがやってくる。
「なんだ、ってひどいなあ。アーバンが新作サンドイッチ作ったって聞いたから来たんだ。ちょうだい」
そう言って、壁のたいまつ置きによいしょっと背伸びしてたいまつを置いてくると、メリルの隣に座ってくる。
返事を待たずにひょいとウィルフレッドは、料理長アーバンとその弟子クインの作ったサンドイッチを、パクっと口にいれてモグモグした。
大変大食いのメリル用なのと、料理人二人がここぞとばかりに新作サンドイッチを作り上げたので、ウィルフレッド一人が加わったところでびくともしない量ではある。
メリルは何とも思わなかったけれど(食べ物を奪われたことじゃなくて)、ウィルフレッドの周りにはポヤポヤとたいまつの明かりのような光と丸っこい光がフワフワと浮いている。
彼の側に居たがる、火の精霊と光の精霊が付き従っているのだ。
光の精霊はちっちゃい人型で羽根が真珠色でとても綺麗だし、火の精霊はトカゲの形をしていて、飛ぶ、というより浮いてる。たまに後ろ足だけで立ってて、短い手がとても可愛い。
"ほんとメリルってば怖がりよね"
"怖がりの割には行動が破天荒だがな"
(むう。いつも思うけど、精霊ってわたしには容赦なくない?)
メリルはそう思ったが、嘘が言えない精霊だからこそ、的を得ている……と思うようにしている。
ウィルフレッドは家族の中でも特に変わっていた。
いつでも飄々としていて、いつでも人けのない場所にいたりする。居所がメリル以外掴めない。
必ず精霊がくっついてるのもあって、メリルにはすぐに居場所が分かるのだけれど、他の家族は見つけ出せないのだ。
メリルが両親に自分のスキルのことを【魔法スキル?】と伝えてあるように、ウィルフレッドもまた【精霊スキル?】と伝えてある。きちんと鑑定したわけじゃないので、疑問形なのは仕方ない。
「……モグモグ。アーバンが新作サンドイッチを作ってみたいって言ってたけど、このツナときゅうりのやつ、ドレッシングがすごい美味しい。トン(でもなく)ウマ(いね)」
「僕にはちょっとだけ甘酸っぱいかな。ツナマヨとか言ってた気がする」
「ンマー。あ!こっちのサーモンペーストとオリーブのサンドイッチもすごく美味しいよ」
「どれどれ……。サーモンペースト初だけどこれは……美味い」
「魚がたくさん獲れるようになって、美味しい加工品が増えたね」
「うんうん。北の海に漁に出る漁村に人が増えて、アイデア加工品が増えたんだって、料理長が言ってた」
「そうなのかあ。魚は流通がもっとしっかりしたら新鮮なお魚も食べられそうだよね」
しばらく二人はモグモグとサンドイッチを頬張る。ツナマヨにサーモンペースト、刻みキャベツ入りまでどれも絶品だ。料理長たちの本気が感じられる。
火と光の精霊がぽわんぽわんと光ってくれているおかげで、手元も明るくてサンドイッチが美味しく見えるのもポイントだ。
たまに火の精霊が、パン部分をちびこい手でちょいっと触って、ホットサンドイッチにしてくれるので、味変されてペロリといけちゃう。
ここ数年で漁村の漁獲量はうなぎのぼりだ。漁村の近くには町も出来た。おかげで魚の流通も増えて、その加工品も簡単に食べられるようになっている。ツナマヨはメリルの大好物になった。