16 残った精霊と第三王子
へっ!? なんでウィンクなんか!?
「いや、まだ活躍出来てなくて鬱憤が溜まってる精霊がいるんだよ」
建物の角を男たちが曲がって姿が見えなくなったのも束の間、ドーン!!という爆音が男たちの逃げた方角から聞こえた。
足の速い憲兵が数人、メリルたちを追い越し建物の角を曲がると、しばらくゴッ! とかバシャーン! という音だけが聞こえてくる。
追いついた憲兵たちが男たちをズルズルと引き摺ってこちらに戻ってくる。完全に男たちは失神していた。
爆発によってあらゆる毛髪が吹き飛んでいた。
"よっしゃー! ライトニング!"
"ずっとライトニングが見張ってくれていたの"
"水は、煙が出てたからオマケ"
「ありがとみんな。よくやってくれたね」
ウィルフレッドがお礼を言うと、
"ふ、ふん。誰かが見張ってなくちゃと思ってだな"
と、ライトニングが小さい人型でありながらも、全身でもじもじしているのが分かる。
なるほど。雷の精霊はツンデレか。
メリルがフムフムと一人で納得していると、憲兵の中でも一番偉そうなおじさんが、身なりの良い上品そうな男の子に敬礼する。
「アンドリュー第三王子殿下! 男たちの身柄を拘束させて頂きます! 此度は通報ありがとう存じます」
ええっ? だ、第三王子殿下!?
ぎょっとして振り向くと、何故だかニヤリ……と腹に一物ありそうな深ーい笑顔が返ってくる。
わたしたち初対面ですよね!?
メリルはぞくりとした。
王子の笑顔には、今まで出会った人とは明らかに違う闇を感じたからだ。
この場にいる失神してる男たちと、殴られていた男の子以外の全員が跪いて礼を取る。
「ああ、憲兵隊長。ご苦労だった。皆も礼など良い。それよりもう一人そこにいるようだが」
ざっ、と立ち上がって体勢を整えた憲兵隊長さんが、殴られていた男の子のほうを見る。
「はっ! サリヴァン商会長殺人未遂の容疑で身柄を拘束する!」
え、サリヴァン商会長って……うちのアスパラを独占で買い取ってくれてる、あの優しいおじさんが!?
でもでも! そんなわけない!
メリルは目の前の男の子を凝視する。
(わたしとあんまり年も変わらないのに……まさか! あの血の契約書って──)
「なななななにかの間違いですっ!」
メリルはすかさず男の子の前に立ち、憲兵たちの視線を遮るように両手を広げた。
渡さないんだからっ! ダメ! ゼッタイ!
「こ、この子は……わたしの執事なのっ!」