12 ぶっ飛ばすのはわたしがやる!
「ああ~ん? 失敗したくせになんだァ? その面はァ」
「やる気あんのかコラァ」
言葉使い悪いな。そうメリルが思った矢先、今度はなにかを蹴りつける音が聞こえた。
黒髪の、自分と同じくらいの年の男の子が、身体を丸めて小さくなっている。
その姿を見て、メリルの頭に血が上った。
大の大人が二人がかりで! 子供を殴ったり蹴ったりしてる!
「ちょっと! 止めなさいよ! 大の大人がたった一人の子供に何をしてるの!?」
ひゃあっ! つい叫んじゃった!
覆水盆に返らず。
だが後悔はない!
「「ああ~ん?」」
男たちがこっちを振り向く。
だめだ。この大人たち言葉が悪いだけじゃなくて顔も悪い。
「「なぁんだってぇええ!?」」
しまった。つい口に出してた!
メリルは少年に近づきながら、それにしてもいちいち言葉がハモってるなこの大人たち、と思った。
「「部外者は黙ってろやゴルァ。……へっ、なんだ子供じゃねえか」」
「おじょ~ちゃん、痛い目見たくなかったらくるっと方向転換して向こうに行くんだ」
「嫌! 見過ごせないもん!」
丁度ここでウィルフレッドが到着する。
「あ~あ。手遅れかあ。メリル、なんでこんな口も顔も悪い大人に絡んでるの」
「「ああ~ん?」」
「な、なんだお前らは」
メリルは殴られていた少年に向かって手を伸ばす。にかっと笑いながら。
「正義の味方が助けにきたよ!」
ついこの間読んだ本に出てきたセリフだ。一度言ってみたかったんだ。
少年は真っ黒い目を見開いてしばし固まると、メリルのあまりの大根役者ぶりにぷっと吹いたと思ったら、痛かったのだろう、顔をちょっとしかめた。
「あ、笑えるんだね。だったら大丈夫! ウィル手伝って!」
「分かった。この臭い大人二人に痛い目見せればいいのかな」
男たちの顔が怒りで耳まで真っ赤になった。
「「言わせておけばあ! 口も顔も悪くて臭いとか、大人の三大タブーを抉りやがって!」」
心なしか微妙に口調に哀愁が漂ってる。
「ぶっ飛ばすのはわたしがやる! 魔法で! だから手伝って!」
「えっ」
さすがにウィルフレッドはびっくりする。
メリルがしょぼしょぼ魔法って、自分で言ってたのつい最近じゃない!?
驚く自分の兄にはお構いなしに、メリルはレイファ兄さまが教えてくれた言霊のこと、ウィルが教えてくれた、火を付けるために必要な三つのものを思い出す。
ウィルフレッドは珍しく焦っていた。
いきなりここでぶっつけ本番なの? 訳が分からないよ。しかもしっかり手伝い要求してきてるし。
「いや無理だろ、今まで爆発にもならなかったじゃん……って、わかった。わかったよ、火起こし理論だね。やるなら精霊にもお願いするよ」
"やるならどんとこい!"
”さあ、手伝うわよ”
こんなに怒っちゃってる妹を見るのは初めてだった。でもさすが双子。しっかり何を手伝えばいいのか理解する。