10 街に行きたいんだけど【精霊スキル?】でお願いします
朝になった。まだちょっと暗いけれど、急がないと農家の朝は早い。ここ農家じゃないけど、領主館だけど。みんなが起きちゃう。メリルは焦っていた。
「ねえ、ウィル。街に行きたいんだけど」
「ああ、うん。気が合うね。僕もだ」
「【精霊スキル?】で何とかならない?」
「お願いしてみる」
この双子、性格は全く似ていないけれど考えることは以心伝心というか、そっくり瓜二つだった。
ウィルフレッドがぼそぼそしゃべると、二人の目の前に一陣の風が吹き抜ける。
細い竜巻みたいのが藁を巻き込んでびゅうっと吹くと、風が消えたあとに人間の大人くらいある背丈の、男の人かも女の人かもよく分からない中性的な人が現れた。
人ではない。羽根が生えている。メリルにもそれが精霊シルフィードだと分かった。この形を取れるのはかなりの高位精霊だということも。
「お願いがあるんだ、シルフィード。僕たちを街に連れて行って欲しいんだ。家族のみんなにはナイショでね」
"我らが王のイトシゴが願うなら叶えねばナルマイ"
イトシゴってなんだろ、タツノオトシゴの親戚? メリルは漠然と思った。もちろんそうじゃない。
「じゃあお願いするね」
"承知"
また一つちっちゃい竜巻が発生して、もう一体シルフィードが現れる。
精霊は優しくウィルフレッドとメリルをそれぞれ抱え上げると、外に向かう。扉はちっちゃい精霊たちが開けてくれている。
ミョルダが起き上がって、小さくンモーと鳴いた。
"気を付けて行っておいで"そう言ってる気がした。
「うん、ミョルダ行ってくるねー」
シルフィードに縦に抱え上げられたままぐんぐんと二人は上昇する。
陽が昇り始めていてちょっと眩しく感じると共に、アクアオッジ家の全景が目に入って来る。
動物管理長のブレナンがきゅう舎に置きっぱなしにしてきた空っぽのトレイとポットを手に、肩には毛布をかけて移動中なのがどんどん小さくなっていく。お礼言いそびれちゃった。
ウィルフレッドが片手で方向を指し示すと、二体のシルフィードはものすごいスピードで街を目指した。不思議と寒くはないし怖くもない。風を切る音が鋭く耳元に聞こえてはくるけれど、朝日に照らされた木々や、街道の石畳が光ってとてもキレイ。
真下に延びる真っ直ぐな街道。あれは、レイファ兄さまが流通改革の一環で整備した道だ。
『野菜も肉も、道がなければ腐ってしまう』と言って──あの頃の兄さまは、誰より忙しかった。
領主館からほど近い場所として、流通させるための立地も環境も全部徹底的に下調べを行った結果が、今から行く街なのだった。
街道上空を行くのは簡単だったけれど、だんだんと道を行く人の数が増えてくる。
こうなると万が一上を見上げた人に見つかっちゃう可能性はゼロじゃない。
そこでウィルフレッドは街の片隅にある旧倉庫街に下ろしてくれるようにシルフィードに頼んだ。