表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/2

2

ある日、図書館に招かれざる客があった。

私が広げた両手よりも大きな『猫』である。

大きいから、ヒョウとか、ライオンとかなのかもしれないけれど、どうしてもそれは『猫』だった。

どれも本物を見たことだってないのに、どうしてそう思ったのかは、自分でもわからなかった。



入口といえば、あの『窓』しかない。

けれど、あんな高い場所から?


『猫』は図書館のソファベッドの一つを占拠して、動かない。

いったいいつからそうしていたのかはわからないが、由々しき事態であった。

あのソファは私のお気に入りなのに。こぼした紅茶のシミだって、私の物の証左だ。



図書館に闖入者があったのは初めてのことである。

図書館のすべてを担う『ファミリア』達は周章狼狽、てんで頼りにならない。



恐慌の波に押し出されるように、私は『猫』の前に飛び出した。


大丈夫、怖くない。

図書館は『魔女』の領域。なんぴともそれを侵すべからず。


『猫』だって、『ファミリア』と変わらない。


「あの!」


思ったより大きな声が出た。自分でも少し驚く。

『猫』の反応を伺うが、気にする素振りもない。


「あの…」


少しずつ近寄ってみる。心臓がうるさいくらいに鳴る。静かにしてほしい。

『猫』の機微を聞き逃すかもしれない。…もっとうるさい何かが聞こえると思ったら、私の呼吸だった。

大きく、深呼吸。怖いものじゃないんだから。


いつの間にか、手が届くくらいの近く。『猫』が静かに『呼吸』をしていた。


「あの、こんにちは。そこ、私の場所なの。『猫』さん。」


わずかな『軋む音』と共に、猫が瞳を開く。

私を反射しそうなくらいぴかぴかの水晶体に、混じる僅かな濁った線。紅茶に垂らしたミルクみたい。

綺麗な瞳、と思った。



『猫』は、低く呟くように、なにか言った。

そのままするりとソファから滑り落ちると、音もさせずに壁を跳ね上がり、あっという間に『窓』の外へ見えなくなった。


『猫』がいなくなったあとは、あまりに現実感がなかった。

白昼夢でも、見ていたのかと思うくらい。


彼は、何と言ったんだろう。聞こえなかったわけじゃないけれど…

反芻してみても、意味がよくつかめない。

意味のない呻き声だったのかもしれない…と思った頃にふと気がつく。


『猫』のいない、残ったソファに、新しいシミが増えている。


…これは、『血』?






「外で怪我をして休んでいたのかも、しれませんな。」


『こうもり』は言う。


「使う言葉も、違うのやもしれません。外の世界には、我々が使う、以外にも、たくさんの言語、というものがありましたから。」


一度その方に会わせてください、外の様子も聞いてみたい…そう呟いて『こうもり』はまた眠りについた。

最近、『こうもり』は起きている時間が極端に短くなった。

私がそれを伝えると、彼は「潮時かもしれませんな」と笑った。


そんな事、あるはずがないのに。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ