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過日、図書館では大地を揺るがす轟音が鳴り響き、天井にほど近い内壁が吹き飛び、小さな穴が開いた。

『ファミリア』達は資材不足と技術不足を嘆くように、数日は狼狽するばかりだったが、ややもすれば壁にはパッチワークが施されていた。


本と本棚と『ファミリア』たち。他に見るもののない世界に、小さなツギハギが増えた。

ツギハギからは、時折小さな光線が漏れ出た。

『ファミリア』は光線を嫌うようでもあったが、何度塞いでも如何ともしがたいらしく、やがて諦め、ツギハギは小さな『窓』になった。


『窓』。


人間やドラゴンと同じく、空想上の存在だったものが、私の前に現れたのだ。

私は毎日飽きることなく『窓』を眺めた。

増減する光量に胸を躍らせた。

差し込む光線の下でお気に入りの本を読んだ。光線をビンに捕まえようと、実験を繰り返した。(これは失敗して、本を焦がしかけたので『ファミリア』に禁止された。)

ただし、『窓』の外だけはどうしても見えなかった。


図書館の天井は高い。

天井までは、壁一面に蔵書棚が伸びている。

そういえば、『窓』のある場所にもきっと、棚はあったのだろう。

『窓』はどうして現れたのか、私は『こうもり』が目覚めたときに聞いてみることにした。

『こうもり』はひどく不明瞭な言葉を継ぎ足しながら「図書館で火災が起きたこと」と、「それはおそらく外界の災害が影響していること」を語って、また眠りについた。


『こうもり』は、私が幼い頃からずっとこうだった。

絵本にある「こうもり」そのままの姿で、ゆったりとした低い声で言葉を紡ぐ。

そして「幾分、もう年ですので」と自嘲して、ほとんど目覚めることがない。

僅かばかり起きたときには、自身と似た姿の『ファミリア』に手短に命令をすませてから、私に簡素な授業を行ったり、日々の出来事を聞いてくれたりする。


「私は、あなたのお母様の家来だったのですよ。」

と、『こうもり』は言う。

母は、既に亡い。

昔日を懐かしむように語ってくれた母の話は、私の宝物だ。

図書館の外の世界で亡くなったのだと、『こうもり』は教えてくれた。


外の世界。

図書館に開いた穴は、否が応でもそれを思い出させるものだった。

『こうもり』は、既に滅んだ世界だという。

『魔女』であった母が、私の生きる手段として、図書館を遺したのだと。

それを聞いた日、私は一人でワンワン泣いた。


ただ一人で、寂しくて泣いた。


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