着信
自室のベッドの上。
涙の膜が薄く張り、泣きはらしてまだ赤い目をぼんやりと天井に向けていると、自宅のチャイムが鳴り響く音がした。やがて少しもしないうちにパタパタと玄関へと急ぐスリッパの音がして、訪れた訪問者と母が交わす会話がまどろんだ意識の中に聞こえてくる。
「あら、奏のお友達。また来てくれたの、ありがとうね」
「何度もお邪魔してすみません。あの…奏、どうですか?」
「ええ。元気とはとても言えないけれど。でもやっぱり学校に行くのはまだ……。まだ部屋から出ることも一日にあるかどうかくらいで…」
「そう…、ですか。
あの日以来一度も来てないから私たち心配になってしまって…でもあたしたちはいつでも待ってるからって、奏に伝えておいてもらえますか?」
「わかったわ、いつも本当にありがとう」
そんな会話をして声の主たちは、帰っていった。
誰なのかはおおかた検討がついていた。さしずめ、クラスメイトか友人といったところだろう。
一週間。
斗真がいなくなったあの日から早くももう一週間もの月日が経っていた。
あの日から、巡る時間ばかりが過ぎていく。時計だけが、ひとりでに時を刻む。
世間が進んでいくなかで、あたしの時間は止まったままだった。
ずっと、ずっと、止まったままだった。ふと思い立って携帯を開くと、待ち受けを眺めた。
二人で撮った帰り道でのツーショットだった。
こんなものいつでも撮りなおせる。
そう思ってふざけて変顔を作った写真がやけに楽しそうだった。
斗真がいなくなった今、 あたしのもとに残ったのは消して戻ることはできない数か月間の思い出。
閉めっぱなしで、でもわずかなカーテンの隙間から赤色の夕日の光が差し込んであたしの手元の携帯の二人を照らす。
(やっと夕方かぁ… )
携帯電話から顔を上げると、楽しげなあたしたちを閉じて、そのまま後ろに倒れこみ、手を当てて眩しい夕焼けの光から目を隠す。
(こうやって眠っちゃったらまた 明日が来るんだなぁ…)
それがたとえ望まないでいても、どんなに望んで得たものだとしても。
PM2:32過ぎ。
♪La lalalala you~
(ん…メール…? あ 違うや 着信だ なんだか懐かしい…)
学校への誘いなら毎日電話が来るから聞きなれているはずなのに、どうしてかそのメロディを久しぶりに耳にした気がした。
夢と現実の間の意識をさまよいながら、着信画面の相手も見ずに電話をとる。
「はい…もしもし…?」
「………」
「どちら様ですか…?」
「………」
こちらが問いかけるも、相手側からは一向に返事がない。
なんだか、電話の向こうで息を潜めているようで気味悪い。それに、泣き疲れのせいか異常に睡魔が強く不審な電話の相手などしていたくなかった。
(……切っても、いいよね…?)
そう決心して、再び瞳を閉じながら手探りの感覚だけで、携帯の通話終了ボタンに指を伸ばす。