プロローグ
「気を付けー…礼。」
「「さようならー」」
日直の号令の後に続いて、あたしを含めた生徒らの声が重なって教室に響く。
皆がバラバラと帰っていく様を見ながら、
あたしは教室の真ん中にかかった時計の針の動きを目で追う。
(…斗真、遅いなぁ…)
フルネーム、風桐 斗真。
この学校一の…
いや、もしかするとそれ以上かもしれないほどかなりのイケメン。
イタズラな瞳や、優しげな笑顔。無邪気な好奇心や、たくましさ。
その魅力を語りだせば、きっと女子たちの言葉が止まることはない。
以前街中で芸能プロダクションにモデルのスカウトを受けたけど、断ったこともあるんだとか。
そんなんだから彼は、今この学校では当然圧倒的にモテる。
それにたいして、特別ずば抜けた才能もなければ、スタイルや顔がいいというわけでもない平凡なあたし。
雲泥の差とも言える、高嶺の花。
しかし、そんな彼とあたしはー…
「はぁーっ提出かんりょー☆奏ーっ‼かーえろ」
「あ、斗真‼うん、ちょっと待ってて」
教室のドアから顔をのぞかせる斗真に一言返事して、中途半端にかけていたスクールバッグをかけなおして斗真に駆け寄る。
「奏。今日も制服デートしよ」
「えー、またー⁇昨日もデートしたじゃん」
「いいじゃん。何回だってー好きなんだしー付き合ってるしー
…それに今日は 俺たちの大事な日なんだから 」
(大事な日…? なんだっけ… 誕生日…は、違うか…)
斗真のいきなりのデートの誘いに笑いながら答えると、斗真が口をとがらせて言い返す。まるですねちゃった子供みたいだ。
「デートしたいよー…奏ー…」
いじいじと何回も小さく繰り返す。
(もうー…しかたないっ‼)
「…よーっし‼じゃあいこっか♪」
「おーうっ‼」
その途端に斗真がぱぁぁっと目を輝かせながら笑う。あたし自身、斗真との時間はとても楽しんでいた。特別ずば抜けた才能があるでも、美貌があるわけでもないあたし。そんなあたしが斗真みたいな素敵な彼と付き合えるなんて夢みたいだった。ふとぶつかった手を二人強く、握りあう。
あたしたちは、愛し合っている。
そして、これからもー…
でも そんな幸せは長くは続かなかったー…