つぼみ
2つ目の力が発現した事件から1週間がたった。その期間でわかったのはまずこの力は基本手で出来ることは出来るが目には見えない。俺の目にもだ。そして俺の腕とはあんまり関係ないってことだ。手を怪我しても透明な手に何かあるわけでもなく、逆に何か透明な手にあったとしても跳ねかけるわけではない。手の能力はこんなところだ。そしてドグマから研究結果が来た。しそう、遊園地の帰りに俺の手が彼女の呪いに負けたことだ。要因は2つあった。まず一つは彼女の呪いの進行だった。触れる前から進行はしていたが俺が進行した呪いの花を食べなかったことで適応出来なかったわけだ。そしてもう一つは俺の2つ目の能力が発現しようとしていたからだった。2つ目の能力のために体力を使っていたらしく捕食適応の力が少し弱くなった、というのが理由らしい。特に俺の戦力外通告ってわけでなくて安心した。だが前のことから風花には会っていない。見かけることはあっても都合が合わずほとんど会えない。話せそうな距離になっても避けられてしまう。
「以前より仲良くなったと思うんだけどな…」
流石にあの出来事だけじゃそこまでなのか…?結構好感度が上がっていると思っていたのだが俺の勘違いだったのだろうか…
考えているといつの間にか研究所に着いた。今日は進行した呪いの花の適応とドグマからの重要な話を聞くために来た。中に入ると珍しくドグマがすぐ出迎えてくれた。
「こっちに来い」
労いの言葉をかけるのが大人として普通だがこの男にはそんな期待は無駄だろう。言われたまま付いていったら一つの部屋に着いた。結構ここには通っているが初めての部屋だった。
「俺の部屋だ。その椅子に座れ」
驚くことに俺はドグマの部屋に招待された挙句椅子も用意してもらったらしい。今日は1000年に一度の雷雨が降るのか?疑問に思いつつも椅子に座る。座るといなやドグマが話しだす。
「これから話すことはそこら辺にある漫画の話ではない」
ドグマが言わなさそうなセリフを聞いて俺は驚いた。今日で何回驚けばいいんだよ。そんなことを考えてるとは知らずにドグマは話を続ける。
「この世の中には呪いについて知ってるやつなんて砂漠にあるオアシスくらい少ない。だがそのオアシスどもがわりといる」
どこか掴みどころのない話をされている気がする。なにか話すのを躊躇っているようにも感じた。ドグマは少しの間が空いたあと続けた。
「そいつらは呪いに苦しめられたやつが多い。そのせいか呪いを滅ぼそうと組織で動いてるやつらがいる」
呪いを滅ぼす…?なんだそれは…そしてそれをどうして俺に話すのだろうか。俺は思った疑問をそのままぶつける。
「呪いは滅ぼせるのか?」
滅ぼせるとしたら風花を救えるだろう。何故ドグマはやらないのか疑問に思った。
「実際私にもわからないが、やつらは滅ぼすのも目的だがそれは無理と悟ったのかベクトルを変えた」
「ベクトルを?」
滅ぼすのが目的なのにベクトルを変えるってのはどういうことだ?ドグマはその疑問に答えるように語る。
「呪いを授かった、いや呪われた子を監禁するように動いた」
「なんでそうなったんだ?」
話が飛びすぎていないか?監禁だって?呪いを閉じ込めてどうするんだ。目的がさらにわからなくなったな。
「呪いを閉じ込めて他の人間に行かないようにして実質被害を無くそうとしているらしい。呪われた子の意識も何もかも無くして、だ」
確かに合理的な考えだが少し矛盾してるようにも聞こえる。呪いからの被害を受けたやつらが呪いを無くすために被害者を傷つけるだなんて。
「本題だが、そいつらの対象は風花も当然入る。それだけならわざわざ伝えないのだが最近そいつらがこの町で目撃されてな。風花を本格的に匿わなければいけない。そこで頼みだ斎藤快人」
珍しく俺の名前を呼び深刻な顔を向けて頼んでくる。
「風花を守ってくれ」
どこか罪悪感に蝕まれているかのように、だが真剣に俺を頼る。そんなドグマを見るのは初めてだった。
「そんな話聞いて断れるかよ。俺がまた助ける。命に代えても守るよ」
「すまない、ありがとう」
ドグマとの会話を終えた後、いつもの部屋で風花と会った。
「よう。久しぶりってほどでもないな」
「え、えぇ。まあ久しぶりな感じはするわね」
どこかぎこちない会話をしている。やっぱり嫌われたのか?なにかまずいことでもしたのか?とりあえず謝るか?いや、それが一番まずいか。どうするものか…そんな考えを巡らせていると先に風花が口を開けた。
「手は、大丈夫…?」
やっぱりそれか。前の事件で風花に触れたというがそれは能力だ。俺自身が触れられるわけじゃない。だがそれは以前の問題だ。俺は深呼吸をした後、風花の手を握る。
「え、ちょっ」
「もう大丈夫だ。確かに前は俺が負けたがもう違う。もう二度とこの手を離さない。君を守るためにも」
真剣に俺は彼女を見て話す。だが彼女は目を合わせてくらないどころか顔も見せてくれない。
「もうわかったから手、離してくれない」
「あぁ、ごめん」
手を離すと彼女はソファから立ち上がって違う部屋に行ってしまった。また、何かやってしまった。流石に攻めすぎたか…。
色々とやりたいことはし、食事も済まし研究所を後にした。すると突然スーツを着ているサラリーマンのような男に話しかけられた。好印象を残すような爽やかな見た目に少し怪訝な顔を向ける。
「突然すみません。私はこういうものなのですが」
そう言って渡されたのは名刺だった。
「異能研究?」
名刺にな男の名前と異能研究という聞いたことのない名前だった。
「恐らく初めて聞く名前だとは思うのですが、ドグマの同僚と言えばわかるでしょうか」
少し違和感を覚えた。確かにドグマが所属しているところだと聞くと納得は出来る。だがドグマの研究方針的にも性格的にもどこかに属しているようには思えない。そんな疑問を他所に男は言葉を続ける。
「最近ドグマのもとでバイトをしていると聞いたのですがドグマの様子はどうですか?最近研究所にも来ないので心配で」
俺はできる限りドグマのことを話さないように答える。
「あんまり変わりはないように思いますね。病気も何もしていないので」
「では娘さんなどはどうです?」
間髪入れず質問を続ける男に不信感を覚える。
「娘、ですか?ドグマは基本一人で暮らして行動しているのでそのような存在がいるのかもわからないですね」
少し饒舌に喋りすぎたかもしれないが今の精一杯だった。
「そうですか…ご協力ありがとうごさいます。またお会い出来ればいいですね」
質問に答えた瞬間急ぐように男は俺の前から立ち去った。やはりドグマが話していた憎呪の組織に思える。しばらく風花と一緒にいるのは避けよう。見守りはするが関わると何が起きるかわからない。そう不安と共に一日がおわった。