表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/67

魔法、いざ実践!

 話がひと段落した頃、辺りはまだ明るかった。私の顔の火照りも落ち着いてきたところで、私はやって見たかったことをやってみようと思う。

 ついに魔法が使えるか、試す時が来たね!

 私は平常心、と心の中で呟いてから、フィデリスに話しかけた。

 「魔法が使えるか試してみたいから、三階のお部屋に行こうと思うの。えっと、ついてきてくれる?」

 彼がタメ口の方がいい、と言ったので私は敬語をやめることにした。私がそう言うと彼は頷いて、私についてきてくれる。

 階段を上がって魔法使いの部屋に入る。この部屋は何と呼ぶべきなのだろうか?魔法部屋?調合部屋?研究部屋?

 とりあえず一番しっくりきた研究部屋と呼ぶことにしようと思う。中に入ると、まずはここを簡単に片付ける必要があることに気づいた。まだこの部屋は片付けをしていない。

 散らかっている本や紙を拾って一つの場所にまとめる。私がそれらを拾っているのを見て、フィデリスも手伝ってくれた。

 「ありがとう」

 「ああ」

 些細なことにも礼を言うのは忘れない。ある程度綺麗になったところで、ついに、魔法を使ってみようと思う。

 だが、何から始めるべきだろうか。そう思って適当に積み上げて端に置いた本の背表紙をざっと見てみると、その中に「魔法入門」という本を見つけた。

 あっ、これじゃない?どれどれ〜?

 その場に座って本を開いてみると、前書きが書かれている。どうやらこの本は魔法を教える側向けの本のようだ。魔法使いが弟子たちに教える時に参考にしていたのかもしれない。

 目次の次のページを開くと、「魔法にはじめて触れる者に教えること」という項目が始まった。

 「えっと、どうやら魔石に魔力を流すところから始めるみたい。魔石ってどこにあるのかな?」

 私が言うと、隣に座っていたフィデリスは立ち上がって素材が入った棚を開ける。一発で魔石が入っている場所を当てた彼に、私は尋ねる。

 「来たことがあるの?」

 「ああ」

 私は彼の隣で引き出しに入った魔石を見つめる。一見ただの石ころに見えるが、そうではないのだろう。

 「勝手に使っていいかな?」

 「問題ないだろう。なくなったら補充すればいい」

 私はそこから適当に一つ選んで持ち出そうとした。そこで、フィデリスが止める。

 「待て。魔石に触れる時は手袋をしなくては」

 「え、そうなの?」

 私は言われるがままに手袋を探す。部屋に置いてあった机の上に少しボロボロになっている手袋を見つけ、「お借りします」と心の中で言いながら私はそれをはめた。

 そして今度こそ石を持ち出すと、手袋が置いてあった机の方に移動した。床でやるのは向いていないだろう。本も持ってこようと思っていると、フィデリスがかわりに運んできてくれた。

 すごい気がきく。私とは正反対。

 感心しながら私は再び本に目を通していく。

 ……そういえば、私ここの言葉分かるし、字も読めるのね。不思議。

 一体誰が授けた効果なのか、もしかして私があの魔法陣にそんな効果まで付与していたのだろうか。今度調べてみたいな、と思った。

 「魔石に魔力を流すってどうやるんだろう?体内の魔力を意識することって書いてあるけど、魔力ってどこにあるの?」

 私が本を読みながら尋ねると、フィデリスが答えてくれる。

 「基本どの種族でも魔臓に魔力は蓄えられているものだが……」

 彼がこちらを不安そうに見ているが、その心配はごもっともだ。私にそんな器官存在していない。どうやらこの世界の人たちとは体のつくりが違うようだ。

 「じゃあ……私魔法、使えないのかな?」

 「そんなことはないと思う」

 落ち込んで言う私に、フィデリスはそう言った。

 「先ほどの蛾を覚えているか?……まぁ、思い出したくはないと思うが」

 覚えている。突然死んだ気持ち悪い虫たちだ。

 「あれはおそらく其方が無意識に打ち出した魔力に当たって死んでいた。其方はこの世界のものとは違う形で、体内に魔力を有していると思われる」

 そう言われて私は目を瞬く。

 え?あの蛾、私が殺してたの?

 まあとにかく、私にも魔力があるっぽいことが分かった。気を取り直して、魔石に触れて魔力を流せるかやってみよう。

 そう思いながら私が魔石に触れると、体の中の何かがグンッと引っ張り出されるような感覚がした。びっくりしてつい手を引っ込める。先ほどフィデリスが魔石に触れる時は手袋をしなくてはならない、と言った理由が分かった。

 今のが魔力だろう。体の中を巡っているような感覚がした。その流れに私はある程度予測がつく。

 多分、私の体の魔力が流れている場所は、血液だ。魔石に触れても血液が出てくることはないが、おそらく血液中に含まれているのか、血が通っている場所と同じようなルートに魔力の流れを感じた。

 まずはこれに慣れるところからだね。

 「大丈夫か?」と心配して声をかけてきたフィデリスに頷いて返し、私はもう一度魔石に触れる。

 う〜ん、変な感覚。別に痛かったりはしないんだけど、ちょっと気持ち悪い。

 それでも私は我慢して、魔石に魔力を流し続けた。長いような短いような時間が経った頃、フィデリスが「止めた方がいい」と言った。

 「これ以上流すと、魔石が割れる」

 慌てて手を離し、魔石を見てみると、灰色のただの石ころだった魔石が、虹のようなカラフルな色に変わっていた。

 「わあ!すごい!」

 私は思わず声を上げる。フィデリスは魔石を見ながら、感心したように言った。

 「すごいな。どうやら其方は全属性持ちのようだ」

 「おお!どうして分かるの?」

 どうやら私はすごいらしい。全属性持ちだなんてとってもかっこいいが、何を見てそう判断したのか気になって、彼に尋ねる。

 「魔石の色だ」

 彼は虹色の魔石を指差して言った。

 「赤、青、黄、緑、白、紫の色があるのが見えるか?」

 そう言われて、魔石をじっと見てみると、確かにその六色だった。虹色とは少し違ったみたいだ。私はコクリと頷いて彼に続きを促す。

 「これがそれぞれ炎、水、地、風、光、闇の属性を表す色だ。それらがこの世界に存在しているすべての属性で、其方はこれら全てが扱えるということになる」

 説明を受けて、私は思わず「おおーっ!」と声を上げた。魔法の属性。とってもファンタジー!

 しかも全ての属性が使えるなんて。私は調子に乗ってフィデリスに尋ねる。

 「ねぇ、私、才能ある?」

 「ああ」

 素直にそう返されて、私は自分から聞いておきながら、ちょっと恥ずかしくなる。話題を変えたくなって、私はまたフィデリスに質問した。

 「フィデリスは何が使えるの?」

 そう聞くと、彼は淡々と答えた。

 「我も全属性だ」

 こうなると、全属性持ちが果たして珍しいのかどうか分からなくなってくる。さっきのもお世辞だったのかもしれない。

 彼は「丁度いいかも知れぬな」と言って手袋を取り、また棚の方に向かうと、魔石を一つ取って戻ってきた。

 彼は魔石に触れて魔力を流していく。慣れの問題かそれとも元々のポテンシャルなのか、彼が魔石の色を変えていく速度は私よりずっと速い。あっという間に魔石を完全に違う色に染め上げて、私の魔石と並べた。

 「違いが分かるか」

 そう言われると、私は自分が魔力を流した魔石とフィデリスが魔力を流した魔石では、それぞれの色の面積が違うことに気づいた。私の方はほぼ均等だが、若干緑の面積が広く、フィデリスの方は青と白の面積が広いように見える。

 私が頷くと、フィデリスはその違いについて説明してくれる。

 「これは魔力全体の中の属性ごとの量による違いだ。多く含まれている属性ほど、扱いに長ける傾向にある。其方の場合は風のようだが、どれも対して差はないな。どの属性でも上手く扱えるだろう」

 それを聞いてまた嬉しくなる。どうやらいろんな魔法が試せそうだ。

 「魔石に魔力を流す」をクリアしたので、次に移ろうと思う。私は再び本に目を通す。ページをめくっていき、次のテーマを読み上げる。

 「基礎的な魔法を使ってみる……。えっと、ここに載ってるのは蝋燭に火をつける魔法みたい。炎属性が使えない人は別のを試すみたいだけど、私は平気だよね。蝋燭はあるかな?」

 私がフィデリスを見ると、彼は黙って棚の方に行き、蝋燭を取ってきた。なんだか彼をパシリに使っているみたいで申し訳ない気分になったので、私は言った。

 「あの、教えてくれたら自分で行くよ?」

 「気にするな。其方は魔法を学ぶ方に専念すればいい」

 そう言いながら彼は机に蝋燭を立てる。私はそれに手をかざしながら本に書かれた呪文を口にする。

 「ファイア!」

 ちょっと気合を入れすぎたのが良くなかったのかもしれない。私はまだ力の加減ができず、魔法で出した炎は蝋燭に灯るだけでは止まらず、爆発して蝋燭を粉々に破壊した。

 パン!という音にびっくりしながら、粉々になった蝋燭を見る。フィデリスも目を見開いてそれを見ていた。

 嘘……。そんなことある?ごめんなさい、蝋燭さん。

 もしや才能がないのだろうか。とりあえず炎が向いていなかっただけだということにして、次の魔法に移る。

 「水で物を洗う魔法……。フィデリスがやってたやつだよね?私にできるかな?」

 「っ、あ、ああ……」

 ぼーっとしていた彼に声をかけると、彼はびっくりしてから慌てて返した。あんなのを見せられたら誰だって驚くだろう。失望されてないといいな、と思う。

 机に置いてあった使い道の分からない器を使ってやることにする。洗えなくても水で包めればいい。そう思いながら力まないように気をつけつつ、私は口にする。

 「ウォーター」

 しかし、水で包んだだけのはずの器は、さっきの蝋燭のように、包んだ水の中で粉々になった。

 ……なんで!?何が悪いの!?

 これには私も頭を抱えたくなる。もう炎が向いていないとかいう問題ではない気がしてきた。

 「うぅ、フィデリス……」

 私は彼に縋るような目を向けたが、彼もまた粉々になった器を凝視していた。

 器さん、ごめんなさい……。魔法使いさんも。

 どうしようかと俯いていると、フィデリスが声をかけてきた。

 「と、とりあえず、他のも試してみたらどうだ?」

 そう言われて、また少し気を取り直して本をめくる。それから地、風、光に関する基礎的な魔法を実践し、その全てが失敗に終わった。

 

 「向いてないのかな?」

 私は机に突っ伏しながら言った。

 植物を育てる地属性の基礎的な魔法は、なぜか芽を出し成長するだけに留まらず枯れるところまでいってしまった。物を持ち上げる風属性の魔法は、持ち上げるところまではよかったものの、そのあとは制御不能になって部屋を飛び回ってしまった。辺りを明るく照らす光を出せる光属性の魔法は、出した光が眩しすぎて私とフィデリスの目を痛めた。

 ちなみに、闇属性に関する魔法は載っていなかった。闇属性は危険な属性で、魔物などが使う魔法らしい。扱えるのはごく僅かな人たちだけで、基本は使わないのだという。

 ともかく、試した全ての魔法が失敗に終わった私に、もう立ち直る気力はなかった。その頃を見計らい、私のお腹はぐぅと音を立てて空腹を訴えた。

 「一度食事をしよう。何か腹に入れるべきだ」

 「うん」

 フィデリスにそう言われ、私は研究部屋を後にして食堂へ向かった。

過去編はあと一話で終わりです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ