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触れ合いと久々の食事

 「まずは何か食べた方がいいわ。お粥なら食べられるかしら?」

 ノーラにそう尋ねられて、私は頷く。

 「うん、ありがとう。お腹ぺこぺこだよ」

 私の答えを聞いてから、ノーラは部屋を出て行った。その後を、彼女を手伝うためにリンネがついていく。

 「ところで……なんで急に目を覚ましたんだ?」

 イグナルスが私を見ながら、首を傾げてそう言った。それに、フィデリスと私は目を逸らす。

 イグナルスは私の腕に取り付けられた謎の機械を見ながら続ける。

 「魔力が突然増えてる。一体何をしたらこうなるんだ?寝ながらポーションでも飲んだのか?」

 「……まぁ、そんな感じ」

 私が適当に答えると、イグナルスは「はぁ?」とでも言いたげな目で私を見た。

 「そんなのありえないだろ。フィデリスが無理矢理飲ませたとかなら話は別だが」

 そう言った後で、彼はフィデリスを見て顔を引き攣らせる。

 「……まさか、本当にやったのか?」

 「そ、そんなことはしていない!まぁ、ただ、その……」

 フィデリスは間髪入れずに否定したが、その後で目を泳がせて口籠る。

 そんな私とフィデリスの様子を見て、何かを察したジークがイグナルスに言った。

 「まぁ、目を覚ましたのじゃからそれでよいのではないか?」

 「けど、今後また誰かが同じようなことになった時に参考になるかも……」

 どうやら彼はまた同じようなことが起こった時のことを考えてくれていたらしい。周りを思いやれるようになったことに、私は感心した。

 「少なくとも本人たちは分かっているようじゃから、いざとなった時に聞くのでも遅くはないじゃろう。二人一緒に倒れるなんてことにはならんと思うしな」

 「……そうか?」

 ジークの言葉に納得はしたようだが、それでもまだイグナルスは不安そうだ。そんな彼の肩にポンと手を置いて、ジークは言う。

 「大丈夫じゃ。それより、儂はばあさんを手伝いに行こうかと思うが、一緒に来るか?」

 イグナルスはそれに曇っていた顔を少し上げて、頷く。

 「ああ。行く」

 ジークとイグナルスは、共に部屋を出て行った。

 残ったのは私とフィデリスとオリヴィエだ。

 「……じゃあ僕もこれで失礼しますね。フィデリス様が早く出て行けとおっしゃっていますので」

 鋭い目で睨んでくるフィデリスから目を逸らしながら、オリヴィエが言った。

 「ダメだよフィデリス、仲良くして。……今までもこんなだったのかな?」

 「気づいてなかったのですか?」

 ふと首を傾げた私に、オリヴィエが呆れる。

 「いや、今までもオリヴィエとかイグナルスに当たりが強いなぁとは思ってたけど、あれって……」

 いわゆる嫉妬だったのだろうか、と私はフィデリスの方を見る。

 彼は気まずそうに俯いていた。若干耳が赤い気がする。

 ……フィデリスでも嫉妬とかするんだね。かわいい〜。

 「それで、いつまでいるつもりなのだ?」

 「ああ、すみませんね。では〜。……あっ、また様子見に来るので、あんまり人に見られて困るようなことを延々とやるのはやめてくださいね」

 そう言い残して、オリヴィエは去っていった。

 「……聞いてた?延々とやったらダメだよ」

 ドアが閉まった後、私はフィデリスにそう言った。

 「……分かった。其方が元気であれば、人目につかない我の住処まで連れ込むのだがな」

 私はそう答えた彼を、目を見開いて見た。

 「……冗談だ」

 彼は私の視線を受けて、取ってつけたようにそう言った。

 絶対嘘だよね?と思っていると、フィデリスがぐいっと顔を近づけてきた。

 「さっきの続き、してもいいか?」

 熱がこもった青い瞳にじっと見つめられて、私は頷く。

 「……みんなが来るまでね」

 そう答えた私の唇に、彼の唇が重なる。

 自分の部屋で、誰かが来るまで、というシチュエーションに背徳感を感じながら、私はそっと目を瞑った。


 「失礼します、ご主人様!」

 ドアの向こうからリンネの元気な声が聞こえてきて、私は慌ててフィデリスから顔を離そうとする。

 「ん、んん!」

 なかなか離れようとしないフィデリスに、私は右手でドアの方を指差す。

 彼はそれに不満そうな顔をしながら、渋々顔を離した。

 「ぷはっ、ど、どうぞ!」

 大きく息を吸ってから、私はリンネに返事をする。

 私の返事に、リンネがドアを開けて中へと入ってくる。見られて困るようなことになっている物はないかと部屋を見渡しながら、とりあえずぐちゃっとなっていた布団を整えた。

 「お粥を持ってきました。えっと、あたしたちは食堂で食事をするので、ご主人様のことはフィデリス様にお願いしてもよろしいですか?」

 フィデリスはそれに、「構わない」と答えた。彼はどこか嬉しそうな顔をしている。

 私も別に構わないのだが、いつものリンネらしくないと不思議に思った。いつもの彼女なら自分が食事をするからという理由で、フィデリスに自分の仕事の一部を頼んだりなんてしないはずだ。

 「そうですか、よかったです。……オリヴィエがこうしろと言っていたのですが、迷惑ではないですか?」

 なるほど、オリヴィエの差し金!

 リンネはフィデリスにお粥が乗ったお盆を渡し、机の上にフィデリスの分の食事を置くと、部屋を出て行った。

 今頃オリヴィエの好感度メーターがぐんぐん上がっていっているであろうフィデリスは、柔らかい表情を浮かべながら、お粥をスプーンで掬う。

 ベッドの近くに置かれて椅子に座りながら、ベッドの上に座る私に、彼はスプーンを近づけてきた。

 「ミズキ」

 口元に、そのスプーンを近づけてくる。これは、「あ〜ん」しろということなのだろう。

 「じ、自分で食べられるよ?」

 「いや、今は少しでも安静にしていたほうがいいだろう」

 彼にそう言われて、私は言葉に詰まる。

 ……恥ずかしい!でも、悪い気はしないし……。

 私は少し悩んだ挙句、フィデリスの期待のこもった眼差しに負けて、口を開いた。

 「ん、おいしい。おばあちゃんの味だ」

 せいぜい数日食べていないくらいだろうが、ひどく懐かしい味に思えた。

 ……そういえば、私どれくらい寝てたんだろ?

 ふと聞いていなかったと思って、私は食べながらフィデリスに尋ねる。

 「そういえば、私ってどれくらい寝てたの?」

 フィデリスはスプーンでお粥を掬いながら、それに答えた。

 「一週間だ」

 「一週間!?」

 思っていたより長かった。私は驚く。

 「……そっか。心配かけたね、ごめん」

 俯いた私の口元に、フィデリスがまたスプーンを近づけてくる。

 「其方が謝ることではないだろう。悪いのは其方を傷つけた者だ」

 そう言われて、私はふと首を傾げる。

 そういえば、あれって結局誰だったんだろう?

 フィデリスもそれが気になったようで、私に尋ねてくる。

 「其方を刺したのは一体誰なのだ?」

 「……分からない」

 私の答えに、フィデリスはふむ、と考え込む。

 「見た目は覚えているか?」

 「全身真っ黒だったような……。たぶん、男の人だったと思う」

 「……それだけで絞り込むのは難しいな」

 彼の困ったような呟きに、私も項垂れる。役に立てず申し訳ない。

 あれ?でもそもそも、なんでその人に刺されたんだっけ?

 私は刺される前のことを思い出す。

 たしか、刺されたのは路地裏。何故私はそこに入ったのだっただろうか。

 ……そうだ、思い出した!

 「思い出した、フィデリス!あの人、リンネの変装して私を誘き寄せたんだよ!」

 「……変装?」

 フィデリスはその言葉に引っかかりを覚えたような反応で、私に聞き返す。

 「そう、変装。……まぁ、ホントに変装かは分からないんだけど」

 見えたのも後ろ姿だけだった。だが、あの男がリンネに変装できるとは思えない。身長にも違和感は感じなかったし、リンネにそっくりな人物が路地裏に入ってから私が刺されるまでにはそんなに時間は経っていない。着替える時間など、あっただろうか。

 二人がかりの犯行だったのだろうか。それにしては、もう一人は最後まで姿を見せなかった。

 リンネは本当にあの路地裏に入った、つまり、あの後ろ姿は本物のリンネだった、という可能性もあるだろうか。だが、それならリンネが私に気づかないわけがない。

 「何か特別な方法を使って変装したのかも」

 「……そうだな」

 そう呟いた彼は、何やら顔を曇らせている。

 「何か心当たりとか、ある?」

 私がそう尋ねてみると、フィデリスは眉間の皺をさらに深く刻む。

 「……断言はできない。今後調べてみるつもりだ。……先に聞いておくのだが、ミズキにはその高度な変装を魔法で行うことはできるか?」

 彼に尋ねられて、私は屋敷にある本の中身を思い出しながら、首を振った。

 「ううん、できない。どの本にも、そんな魔法は載ってなかったと思うよ」

 「そうか。其方にも無理なら、大抵の人間には無理だろうな」

 彼はそう言った後、またお粥をスプーンで掬って私に近づける。

 「あーん」

 僅かに微笑みながらそう言った彼に、私は笑いを堪えながら口を開けた。


 「ごちそうさまでした」

 「足りたか?もし足りなかったのなら、ノーラに言っておかわりを持ってくるが」

 そう言ったフィデリスに、私は首を振る。

 「大丈夫。もうお腹いっぱいだから。それよりフィデリスは?ちゃんと食べた方がいいよ?」

 それを聞いてフィデリスは、机の上に乗る自分の分の食事を見て呟く。

 「ミズキが食べさせてくれるのなら、食べてもいい」

 「分かった」

 私がそう答えると、彼は驚いた顔で私を振り返る。

 「いいのか?」

 「まぁ……。あなたも私に食べさせてくれたし」

 私の答えを聞いて、フィデリスは嬉しそうにしたが、すぐにハッとして首を振った。

 「いや、やはり駄目だ。其方はまだ病人のようなものだからな。そんなことはさせられない」

 「そう?じゃあここで見ててあげるから、頑張って食べて」

 皿に乗ったパンを掴んで口に入れるフィデリスを、私はぼーっと見つめる。

 牙、あるんだなぁ。前に噛まれたことあったっけ。あれも嫉妬だったんだよね……。

 随分大胆な行動ではあったが。今思い返しても恥ずかしい。

 私たちって、付き合ったのかな?両思いだったことは分かったけど、付き合ってくださいとは言ってないし、言われてないし……。これってまだ恋人になったとは言えないのかな?

 ……デート、したいな。

 私は意を決して、パンを頬張る彼に声をかけた。

 「あのさ、フィデリス。……お出かけしない?」

 そう言われてフィデリスは、口の中のパンを飲み込んでからこう答えた。

 「今は無理だぞ。休んで、元気になってからだ」

 「そ、それは分かってるよ!」

 あまり彼の心に響いていない気がする。今までにも何度も一緒にお出かけしているからだろうか。特別感がないのかもしれない。

 ……そもそもそういう目で見られてないとか、ないよね?だってキスもしたし……。でも、もし竜のキスが人のとは意味合いが違ったりしたら?

 だんだん不安になってきた。つい眉間に皺を寄せた表情を浮かべてしまった私に、フィデリスが心配そうに声をかけてくる。

 「ミズキ、大丈夫か?どこか具合が悪いのか?」

 そう言いながら伸ばされた腕を掴んで、私は言った。

 「で、デート!なの……」

 これで笑われたり、意味が分からないという顔をされたり、はたまたなんの反応もなかったりしたら、きっと彼の好きは私のものとは違ったということだろう。

 もしそうだったらどうしようかと不安になった。

 だが、その心配はなかったようだ。

 「で、デート……」

 そう呟いた彼は、顔を赤くしていた。

 「そ、そうか。ああ、元気になったら、一緒に行こう。……二人きりで」

 「……うん」

 私は少し俯きながら、そう返事をした。

 そんな私のおでこに、フィデリスが口付けをする。

 「早く元気になってくれ。楽しみにしてるから」

 そう言った彼に、私は大きく頷いた。

昨日は投稿できず申し訳ありません。


また、話のストックがなくなってしまったので、しばらくお休みさせていただきます。しばらくしたらまた帰ってくると思います。本当に申し訳ございません。

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