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仮装と収穫祭

 ドンドン、とドアを叩く音が部屋に響く。

 音がいつもより乱暴で、しかも数が増えているように聞こえることに首を傾げながら、私は「はーい」と返事をした。

 すると私の返事を聞いた彼らは、私の部屋のドアを勢いよく開ける。

 「わぁ、今日はイグナルスも一緒だったんだね。おはよう、二人とも」

 部屋に入ってきたリンネとイグナルスに、私は朝の挨拶をする。

 「おはようございます、ご主人様!」

 「おはようミズキ!今日が何の日か、覚えてるよな!」

 私は二人の声にぼんやりと耳を傾けながら思い出す。

 ああ、そっか。今日は……。

 二人が朝早くからこんなに元気なのも納得だ。私は今日の予定を思い出して二人に答える。

 「覚えてるよ。収穫祭の日だね」

 「その通りです!さぁ、早く支度して、出発しましょう!」

 そう言ったリンネに軽く髪だけを整えてもらうと、二人に腕を引かれて、私は食堂へと向かった。


 すでに起きていたオリヴィエたちと、手早く朝食を済ませ、早速着替えを始める。

 といっても、私の着る服はいつもと大して変わらない。街に出かけるのに適した、魔法使いさんのお下がりのワンピースを着て、上からローブを羽織る。いつもと違うのは、そのローブのフードに猫耳がついているところだ。

 リンネに着せてもらったローブのフードを被って、リンネに尋ねる。

 「どう?」

 「はい!とってもかわいいです!」

 そう褒めてくれたリンネに、私は照れ笑いで「ありがとう」と礼を言う。

 「リンネも着替えておいで。私は先にロビーに行ってるね」

 私がそう言うと、彼女は「はい!」と返事をして、私の部屋を後にした。

 私は彼女に言った通り、先にロビーへと向かう。しばらくそこで一人待っていると、まず最初にオリヴィエがやってきた。

 「あ、ちゃんと着てくれたんだね。似合ってるよ」

 「まぁ、あなたの命令ですからね」

 そう言った彼は神父のコスプレだ。雰囲気も彼に合っていて、そもそも顔がいいので、とてもよく似合っていると思う。ただ、当の本人は不満そうだ。

 「この十字架、意味あるのでしょうか?」

 「雰囲気だよ〜」

 この世界にも一応教会は存在しているらしいが、コスプレとしては問題ないと、カレンに言ってもらったので大丈夫だ。ちなみに今回の衣装はさすがに彼女のところで買ったものではない。おそらく一回しか着ないような服に大金をかけられるほど、裕福なご身分ではないのだ。

 「イグナルスは?」

 私が尋ねると、オリヴィエはしかめっ面のまま答えた。

 「ノーラに着替えさせてもらっています。もうしばらくすれば来るでしょう」

 彼がそう言ってすぐ、廊下からドタバタと足音が聞こえてきた。

 「ミズキ〜!」

 そう言いながらロビーに突っ込んできて、くるくると周り出す彼は、悪魔の仮装だ。いつも悪戯っ子なイグナルスに、よく似合っていると思う。

 「あんまりそれ、振り回さないでね。危ないから」

 私は彼が手に持っている悪魔の定番のフォークのような武器、三叉槍を指さして私は言った。彼は私の注意に「はぁい」と口にしながら、ズボンについた尻尾を揺らした。

 そんな彼を後ろから追いかけるようにして、ノーラがやってくる。

 彼女はこの歳で仮装は恥ずかしいからと言って拒否したので、普通にお出かけ用のおしゃれなワンピースを着ている。ただ手にはどっさりとお菓子の入ったかぼちゃの形のバッグを持っているので、収穫祭の中にも溶け込めるだろう。

 ちなみにこの世界にトリックオアトリート文化はないようだ。代わりにノーラのような、気前のいい人たちが、無償で子供たちにお菓子を配ってくれるらしい。この世界の子供たちは、それを目当てに祭りに参加するそうだ。

 続いてロビーにやって来たのは、リンネだった。

 「お、お待たせしました!」

 そう言った彼女は黒基調のかわいらしいワンピースに身を包み、頭にとんがり帽子を被っている。そう、彼女の仮装は魔法使いだ。

 「変じゃないですかね?」

 そう尋ねられて、私はあえて答えずオリヴィエの方を見る。彼は私の目線を受けてはぁ、とため息を吐いた後、リンネに近づいて言った。

 「似合っていますよ」

 そう言われて、彼女は満面の笑みを浮かべる。

 「ありがとう!オリヴィエも、よく似合ってますよ!」

 今度はリンネがオリヴィエをそう褒め、彼は満更でもないような表情を浮かべる。私が褒めた時とは大違いだ。

 二人のやりとりを見守って和んだ後、私も彼女の仮装を褒める。

 「私もよく似合ってると思うよ、リンネ」

 「ありがとうございます、ご主人様!」

 彼女は私にも満面の笑みを返してくれた。オリヴィエもちょっとは彼女を見習えばいいと思う。

 リンネの仮装は魔女だが、それ以外に元からの猫耳と尻尾があるので、かわいい要素が盛り盛りだ。私のメイド、かわいすぎると思う。

 さて、残るはジークだけだ。そう思っていると、廊下からまたドタバタと走る音が聞こえてきた。

 私はその音のする方を見て、思わずギョッとする。

 「おや、遅れてすまん。儂が最後か」

 そう言ったジークに、私は突っ込む。

 「おじいちゃん、ホントにその格好で行くつもり!?」

 まるでシーツを上から被ったような格好の彼に、その場の全員が呆れていた。


 結局ジークはその格好で行くことを頑として譲らなかったため、そのまま連れていくことにした。この格好だと、顔が隠れていいらしい。ちなみに、これはお化けの仮装だそうだ。

 「じゃあイグナルス、よろしくね」

 私がそう言うと、彼は頷いて竜の姿になった。今日までの数日で何度か練習しているので、問題なくみんなを連れて街まで飛べるだろう。

 「わぁ!かっこいいですね!フィデリス様とはまた違った感じで」

 リンネが彼の竜体を見てそう言った。そういえば、私とオリヴィエは彼の練習に付き合っていたが、他のみんなはイグナルスの竜体を見るのはこれが初めてだ。

 紫色の竜の姿の彼の背に、いつもフィデリスの背に乗るようにして乗り込んでいく。私やリンネ、オリヴィエは慣れっ子だが、ジークとノーラは慣れていない。イグナルスはそんな二人に翼を差し伸べることで、乗りやすいようにうまくサポートしていた。

 「よぉし、それじゃあ、しゅっぱ〜つ!」

 私がそう声を上げると、イグナルスがふわりと宙に浮かんで飛び始めた。フィデリスよりゆっくりなペースで、街まで飛んでいく。

 森の上空からフィデリスの洞窟がある辺りを眺めていた私に、ノーラが尋ねる。

 「よかったの?その格好、フィデリス様に見せなくて。とってもかわいらしいのに」

 尋ねてきたのがノーラだったため、私はつい子供っぽい反応を返してしまった。

 「ふん、別にいいの。行かないって言ったのは向こうだもん」

 「本当は、一緒に行きたかったのね?」

 彼女にそう言われて、私は認めたくないとムッとしながらも、頷いた。

 そんな私の反応を見て、ノーラは頭を撫でる。

 「来年は一緒に行きましょう。それに、収穫祭じゃなくても、街のお祭りは他にもあるわ」

 彼女に頭を撫でられて、私はもう一度頷いた。

 何かお土産でも、買って帰ってあげよっかな。

 私は心の中でそう思いながら、流れゆく景色を眺めていた。


 「そぉっとだよ、イグナルス」

 「分かってる!」

 小声でそう会話をしながら、イグナルスはいつもフィデリスと待ち合わせをする人気のない場所にゆっくりと降り立つ。

 私たちは急いでその背中から降り、イグナルスも人の姿に戻る。

 「到着〜!」

 私はそう言ってから、街の賑わっている方へと向かう。

 それにしても、ホントにすごい人。逸れないように気をつけなきゃ。

 いつも買い物をする、店の集まっているエリアの人だかりを見て、私はそう思った。

 「おじいちゃん、おばあちゃん。イグナルスと手を繋いでおいてくれるかな?逸れたら大変だから」

 私は二人にそう声をかけた。二人はそれに頷いて、イグナルスになにやら話をする。喧騒で少し離れたところにいた三人の会話は聞こえなかったが、イグナルスは満面の笑みで二人に手を差し出していた。

 やっぱりあの子はおじいちゃんとおばあちゃんが大好きだね。二人に任せておけば、彼のことは大丈夫そう。

 リンネとオリヴィエは心配しなくても平気だろう。リンネは以前はこの街で暮らしていたのだから、祭りにも慣れているだろうし、オリヴィエも大人だ。

 私は……たぶん平気でしょ。まぁ、できる限り逸れないようにしなきゃね。

 私は歩いていくうちにバラバラになりつつある“家族″たちを目で追いながら進んでいく。

 しかし、ふいに目に止まった露店に並ぶ収穫祭モチーフのかわいらしいチャームに引き寄せられ、お店を見てしばらくすると、あっという間にみんなを見失ってしまった。

 ……収穫祭、恐るべし……!

 こうなるなら連絡手段を用意しておくべきだった。だが念のため、逸れた場合一度正午にいつもの待ち合わせ場所に集合というルールを決めている。逸れてしまったなら仕方ない。一人で祭りを楽しもうと思う。

 でも、一人で街を歩くのは少し不安だな……。せめて誰か一人でもいてくれたらよかったんだけど……。

 そう思いながら、私はさっきの露店に戻ることにした。気に入ったチャームを、みんなへのお土産に買ってこうと思う。

 七つのチャームを購入して、私は次の場所へ向かう。

 他のみんなにもお金を持たせているので、それぞれ気に入ったものがあれば購入するだろう。オリヴィエは何も買わないかもしれないな〜などと考えながら歩いていると、今度は食べ物の屋台が立ち並ぶエリアに来た。

 リンネもこの辺をうろついていそうだ。運が良ければ合流できるかもしれない。

 そんなことを考えながら、どんなものがあるのかを見ていると、ふと声をかけられた。

 「お嬢ちゃん、おひとついかが?」

 振り返ると、腰の曲がったおばあさんが、手に持ったバッグの中から取り出したお菓子の一つを、私に差し出していた。

 パンプキンパイだろうか。私は嬉しい気分になりながら、それを受け取る。

 「ありがとうございます。いただきます」

 おばあさんは、私に笑顔を返すと、また別の人に声をかけに行った。

 どうやら他にも、そういう人たちが集まっているようだ。そのせいか、子供が多い。たくさんの子供が、お菓子を配っている大人たちの周りに集まっている。

 だがリンネはいないようだ。私は辺りをぐるりと見渡してからそう思った。

 それに、ちょっと酔ってきちゃった……。人混みにかな?人の少ないところで休みたい……。

 まだそんなに時間は経っていないはずなのだが、人混みに弱い自分が情けなくなる。

 どこか人気のない場所は……と屋台の集まるエリアから離れたところへ歩いていく。

 そこでふと、見覚えのあるピンクのツインテールが見えた。ふわりと髪を揺らしながら、路地裏へと入っていく。

 「あっ、リンネ〜!」

 思わずそう声をかけたが、届かなかったようだ。賑やかな場所が好きなはずの彼女が、路地裏なんかに一体何の用だろうか。少し疑問に思いながらも、私はその後を追いかける。

 リンネらしき人物が入っていった路地裏に、私も入っていく。

 「リンネ〜!」

 もう一度、そう声をかけた私の背中に、ヒヤリとした何かが当たった。

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