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任務の達成と予期せぬお迎え

 私の声に合わせてもう一度放たれた眩い光が、渦を浄化していく。

 今度は押し合いになることもなく、一方的に、光は渦を消し去った。

 渦が完全に消えたのを見て気が抜けた私は、体から力が抜けてその場に倒れ込む。

 魔力不足で倒れたのは初めてかもしれない。そんなことを考えたのが最後、私は気を失った。


 「様……、ミ……様、……ミズキ様!」

 その声にハッとして私は目を覚ます。

 「ミズキ様!……あぁ、よかった。目を覚まされたのですね」

 私の顔を至近距離で覗き込みながら、アルノルトがホッとした表情でそう言った。

 「私は……」

 確か渦を浄化した後、倒れたはずだ。あれからどれくらい経ったのか、渦は完全に浄化できていたのか、周りの魔物はどうなったのか。それらを聞こうとして体を起こした私は、頭を抱える。

 うっ、クラクラする……。それになんか体が冷えてるような、血が回ってない感じがする。これが魔力不足……?

 初めての経験だ。魔法に関する新たな経験ができて嬉しい。思わず笑みが溢れる。

 頭を抱えながらニヤけた笑みを浮かべる私を、アルノルトや周りの騎士は怪しいものを見る目で見ていた。

 「……えっと、私が倒れてから、どれくらい……。渦はどうなりましたか……?魔物は……」

 喋るだけでもなかなかにきついが、どうしても確認しておきたかった。なんとか言葉を紡ぐ私に、アルノルトが落ち着いた声で答える。

 「ええ。一つずつお話し致します。ですから、ミズキ様はどうか無理をせず。今は安静にしていてください。それから、これを」

 そう言ってアルノルトは鮮やかなピンク色の液体の入った小瓶を渡して来た。魔力回復のポーションだろう。作ったことはあるが飲むのは初めてだ。

 うふふん、これもまた新しい経験……。

 私はまたニヤニヤと笑みを浮かべながらポーションを一気に飲み干し、そのあまりの不味さにむせた。


 「では、お話ししますね」

 アルノルトが笑顔を浮かべてそう言った。その笑みの中に、安静にしてろという圧を感じながら、私は黙って頷く。

 それにしても酷い味だった。まぁ使っている薬草から考えておいしくなるはずがないのだが。私が今まで作って、ギルドに納品していたポーションも、こんなものだったのだろう。

 いい経験だった。これからは魔力を使いすぎたりしない。あんな不味いの、もう飲みたくない。

 「まずは改めて、礼を言わせてください。私たちの作戦に協力して、渦を浄化してくれたこと、感謝します。騎士団からも後日、報酬が支払われると思います」

 それを聞いて、別にいらないと答えようとした私の顔の前に手を突きつけて、彼は話を続ける。

 「あなたのおかげで、渦は完全に浄化されました。発生していた渦は一つのみだったので、あとは残りの魔物を我々で殲滅し、騎士団の任務の無事に達成することができました。何から何まで、あなたのおかげですね」

 そう言った後、彼は申し訳なさそうな表情を浮かべる。

 「ですがその結果、あなたが倒れることになってしまった。付き添いとして派遣された治癒師に戦闘に協力するように要請し、魔力を限界まで使わせてしまった。我々はあなたを守りきれなかった。……騎士の名折れですね」

 そう言って力なく笑ったアルノルトに、私は返す。

 「そんなことないと思います」

 私の言葉に、彼は僅かに目を見開く。

 「だって、騎士の仕事は民の安全を守ることでしょう?そのためには渦をなんとかしなくてはならなかった。なら使える手を全て使って渦を浄化したのは、きっと讃えられるべき行動だったはずです。それに私もこうして同行している以上、例え自分が戦場に立ってでも任務の達成に貢献する覚悟はありますよ」

 アルノルトは私の話を聞いてしばらく驚いた表情を浮かべて呆然とした後、いつもの笑みを浮かべる。

 「そんなことを言う治癒師は、あなたぐらいですよ」

 「そうでしょうね。私が自分の身を守れるような魔法使いだからこそ言えることです」

 私も彼の言葉に、笑顔で返した。

 それにしても、だいぶ話せるようになってきた。さっき飲んだポーションのおかげだろう。

 「それで、私はどれくらい気を失っていたのでしょうか?」

 私はアルノルトにそう尋ねる。

 「三十分程だったと思いますよ。普通ならあれだけ魔力を使えば、数日寝込んでもおかしくないのですが」

 結構早い回復だったようだ。私は改めて、自分がなかなか優れた体質であることを実感する。

 「驚くべき魔力量ですよ。その前に使っていたヒールも、それなりの魔力を使うはずなんですけどねぇ。そんな高難度の魔法だからこそ、ヒーラー協会なんていう組織があるわけで……。あぁ、ところで」

 アルノルトがふと思い出したようにそう口にした。そして何だろうかと首を傾げる私の右手を指差して、彼が尋ねてくる。

 「その指輪、あなたが倒れてから意識を取り戻すまでずっと点滅していたのですが、何か意味が?」

 「え?」

 私はそれを聞いて、首を傾げたまま指輪を見る。今は至って普通の指輪だ。フィデリスに貸してもらった時と変わらない。第一、この指輪のどこが光るというのだろうか。

 「点滅……?」と呟きながら指輪を見つめていると、どこからか足音が聞こえて来た。

 魔物だろうか、と私は辺りを警戒する。どうやらこちらに近づいて来ているようだ。

 騎士たちも先程までの戦いで疲弊しているだろう。これ以上の戦いは避けたいところだ。せめて足手纏いにならないように、自分も戦える準備だけは……。

 そう身構えていた私は、現れた人影の正体を確認して、拍子抜けした。

 「え!?ど、どうしてここにいるの、フィデリス!」


 「ミズキ!」

 私の質問には答えず、彼は私の方へと駆け寄ってくる。

 おかしいな、言ったっけ?ここにいるって。

 フィデリスは私の側へとやってくると、状況を把握しきれずキョトンとしている私を抱きしめた。

 大きな体に優しく包み込まれた私は、さらに状況が飲み込めなくなり思考が停止する。

 辺りに流れた沈黙を破ったのはアルノルトだった。

 「あなたがその指輪の持ち主、白竜のフィデリス様ですか。一度お会いしたいと思っていたのですよ。ミズキ様の体に魔法をかけたのもあなたですね?私、あの魔法について詳しくお話を伺いたいのですが……」

 どこかキラキラした目でそう言ったアルノルトの声に、私はハッと我に返る。

 「ふぃ、フィデリス!えと、とりあえず、離してもらえるかな……。恥ずかしい……」

 「あぁ、すまなかった」

 フィデリスは私を抱きしめていた腕を離すと、代わりに私の手を取った。

 「大丈夫だったか。何があったんだ」

 心配するような眼差しを私に向ける彼に、私はん?と首を傾げる。

 「あれ?私今は一応元気に見えるよね?何でそんなこと聞くの?」

 「あの〜、私のことは無視ですか?」

 アルノルトがフィデリスの側に寄って来てそう言った。しかしフィデリスは彼のことなど眼中にないようで、私をまっすぐに見つめている。そして、こう言った。

 「その指輪には、はめた者の危機を察知する機能があってな。其方の身が危険に晒されると、持ち主である我にそのことが伝わるのだ。それから居場所を把握することもできて、故に其方の元へと辿り着くことができたのだ」

 彼はいつも通りの綺麗な顔で、美しい声でそう言った。

 ……だからって許されることではないよ?

 「……そのこと、私に説明してくれなかったよね?」

 私は笑みを浮かべながら、フィデリスに尋ねる。

 彼は私を見て僅かに顔をこわばらせながら、困ったように答える。

 「そ、それは……。説明すれば付けてくれないのではないかと思って……」

 「うん、そこが問題なの。私が嫌がるかなって思いながら、あえてそれを黙って私に付けさせたんだね?さすがの私でも、そんなことされたら怒るよ?」

 「その効果も魔法によるものなのですか!それともその指輪の石の効果なのでしょうか!もっと詳しくお話を伺いたいです!」

 外野のアルノルトがうるさい。なぜ仕事中の騎士の威厳は、仕事をしていない時には発揮できないのだろうか。フェンネルもそうだ。貴族というのはみんなそんなものなのだろうか。

 それにしても、さすがの私もちょっと引いた。まさかGPS機能のついた指輪をはめられていたなんて。

 「……言ってくれたら、納得して自分からつけたかもしれないのに」

 私は少し頬を膨らませながら、小さくそう呟いた。

 フィデリスはそれを聞いて目を見開いて私を見た。

 「そ、そうなのか?」

 「まぁ……。分かんないけど」

 けれど好きな人に居場所を把握されるのは、別にそこまで悪いことではないように思える。特別仲がいいわけでもない人や、全く知らない人や、嫌いな人なら嫌でしかないが。

 それにその理由はきっと、私を心配してくれてるからなんでしょ?だったら一日くらいなら、私だってつけたよ。でも、黙ってつけるのはどうかと思わない?

 「……すまなかった」

 しゅんと項垂れるフィデリスを見て、なんだか申し訳ない気持ちになって来た。私は頬を掻きながら、彼に言った。

 「まぁ、こうして心配して駆けつけて来てくれたのは嬉しかったから、チャラにしてあげる。次からはちゃんと説明して」

 私のその言葉を聞いて、フィデリスはパッと表情で顔を上げる。

 「……ありがとう!やはり、ミズキは優しいな」

 ホッとしたような表情で僅かに微笑んだ彼を見て、私は頬に両手を当てる。

 はぁ、もう……。そんな顔されちゃったらもう怒れないじゃん。顔の赤いの、隠せてるかな?

 「甘いですねぇ……、色々と」

 またしても口を挟んできたアルノルトを、私は横目で睨む。

 睨まれたアルノルトはケロッとしながら、周りの騎士たちに向けて声をかける。

 「さて、ミズキ様も回復したようですし、何より保護者が来ましたから。そろそろ帰りましょうか」

 彼の言葉に騎士たちは返事をして集まってくる。私は彼の言葉にムキになって反論した。

 「保護者じゃないから!」

 「ではどういった関係なのですか?」

 彼にそう返されて、私は言葉に詰まる。

 「か、“家族″だよ」

 少し遅れてそう返した私に、彼はやれやれというように肩をすくめた。そして私の側へやってくると、フィデリスには聞こえないような小さな声で囁いた。

 「早くそれ以上の関係になれるよう、応援していますよ」

 私は「むぅ〜」と声に出さないように堪えながら、恥ずかしさに顔を赤くする。しかし目の前のフィデリスを見て、顔の赤みは一気に引き、今度は青くなる。

 「フィデリス、大丈夫だから!別に変なこととかされてないからね!?だからそんな、殺気の籠った目でアルノルト様を見ないで!」

 対して睨まれたアルノルトは、フィデリスの視線に物怖じすることなく、あろうことか彼に近づいた。

 そして今度は彼の耳元で、何かを囁く。

 何を言われたのかは分からない。ただその後のフィデリスの表情は、少し影を落としていた。


 帰り、騎士たちは行きと同じように馬車に乗って帰ったが、私はフィデリスと共にそのまま屋敷に戻っていいとアルノルトに言われた。せっかく保護者がいるのだから、一緒にお家まで帰るといいと。

 馬車を見送って、私はふと思い出し、隣のフィデリスに声をかける。

 「そうだ。確認したいことがあるの。農村に寄ってもいい?」

 「構わないが……」

 フィデリスの答えを聞いて、私は歩き出す。

 記憶を頼りに農村を進み、私は村長の家に向かった。

 ドアをノックすると、中から返事が入って来て、少ししてから人が出てくる。

 「はい、何か忘れ物ですかね?……おや、これはこれは、あの時のお嬢さん。あなた様もここへいらしていたのですな」

 「ええ、お久しぶりです」

 覚えてくれていてよかった、とホッとしながら、私は彼に挨拶をした。

 上がってくれと言ってくれた彼を丁寧に断りながら、私は尋ねた。

 「お聞きしたいことがあるんです。私は前はマルコシアスの討伐のために、今回は騎士団の依頼に同行してここの森を訪れました。前回と今回、それ以外に、森で異変が起こったことはありましたか?」

 私の問いに、村長は首を傾げながら答えた。

 「いや、それ以外は特になかったと思いますがね。普通に素材採集のために森に入った冒険者もいましたし……」

 「……そうですか。ありがとうございます」

 聞きたいことは聞けた。私は彼に礼を言って、家を出る。

 村長の家から離れてしばらくした後、フィデリスが私に尋ねた。

 「何故、あのようなことを?」

 「……前のマルコシアスの件も、今回の渦の件も、おかしかった。今回のことについては、改めて今度話すけど……。とにかく、おかしかったの。それで、そのおかしなことはいずれも、私が森を訪れた時に起こってる」

 フィデリスは私の言葉を聞いて、顔を曇らせる。

 「……考えすぎだといいんだけどね」

 私は眉を下げながら笑みを浮かべる。

 考えすぎだと思いたい。自分という存在が、周りから注視されるような存在ではないと思いたい。けれど、一回ならまだしも二回となると、疑ってしまうものだ。

 ……三度目が起こったら確実かな。私が、誰かに狙われてるってこと。

 マルコシアスも渦も、私の動向を読んで仕掛けられたものなのではないかと、そんな不安が私の胸に広がっていった。

お仕事編が終わりました。

次からのお話は今回のと比べるとそこそこ長いです。たぶん。

あと、お話のストックが復活してきたので、しばらくお休みにはならなそうです。

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